横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

血管外科学会総会2020 腸管虚血を合併する急性大動脈解離に対するCentral Operationの妥当性

2020-11-30 03:56:37 | 大動脈疾患
腸管虚血を合併する急性大動脈解離に対するCentral Operationの妥当性について発表しています。

この発表について
CentralOperationを行ったにもかかわらず、腸管虚血が残存し、下肢血流も不十分な症例に遭遇したことがあります。そのような症例の場合、先生であれば腸管の血管にバイパスをする際、インフローはどこから持ってくるのが良いとお考えでしょうか?
というご質問に対しての回答:

 Central Operationを行っても下行大動脈以下の真腔狭窄が解除されない場合に下肢と腸管虚血が残存するということは、上行大動脈置換もしくは部分弓部置換術を術式として選択し、下行大動脈のリエントリーから偽腔に血流が多く流入してしまうことで起こりえます。下行大動脈の真腔を拡大させる弓部置換+オープンステントでは通常起こりません。この時にとる対処としてSMA,CeAへのバイパス追加よりも優先して行うべきは真腔の拡大であり、これには
①下行大動脈にステントを留置して真腔拡大(+リエントリー閉鎖)
②上行大動脈置換した人工血管から両側大腿、もしくは外腸骨動脈へバイパスを作成
③開腹して腹部大動脈に開窓術を追加する(経カテーテル的な開窓も可)
のいずれかを行う必要があります。
上記①②③を行って真腔狭窄が解除されても腸管虚血が残存する場合は、分枝内での真腔狭窄残存や内膜断裂などが起こっている可能性が高く、この場合はバイパス追加が必要となります。この時のソースとしては通常外腸骨動脈または総腸骨動脈が妥当で、そのためにも上記①②③により真腔の拡大措置を優先する必要があります。開窓術を行った後に解離のある腹部大動脈に大伏在静脈を吻合してバイパスを追加した経験がありますが、手技的な不安が大きく、おすすめできません。また、経験はありませんが②の下肢の血行再建した人工血管をソースにすることも可能と考えます。
 いずれにせよ、術前CTで下行大動脈の真腔狭窄がある症例は弓部置換+オープンステントを行うべきであり、最初の術式選択で真腔狭窄を残さないようにすることが重要と考えます。その意味でも今回の発表での、腸管虚血がある症例にCentral Operationを優先することが妥当、という結論が正しいと信じて日常診療を行っております。

と、返答しました。

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胸部外科学会関東甲信越地方会 複雑な心奇形の手術歴のある患者に発症した急性A型大動脈解離

2020-11-28 17:20:17 | 大動脈疾患
胸部外科学会関東甲信越地方会が東京の都市センター会館で行われました。横須賀市立うわまち病院からは、先天奇形に対する手術歴がある患者さんに発症した急性大動脈解離に対して、マルパーフュージョンから救うために緊急手術を行った症例報告を行いました。非常に難しい手術でしたが、やはりその難しい手術に対してどういうアプローチをするかということが、成功への秘訣です。
まずは、過去に手術歴があると心嚢内は癒着していて破裂して出血しても心タンポナーデにはならないので、じっくり考える余裕があること、アプローチを左開胸にして、癒着した心臓を極力さわらないということも重要です。
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心房中隔欠損症に対する閉鎖術に関する標準術式は右小開胸アプローチ

2020-11-25 23:21:49 | 心臓病の治療
 心房中隔欠損症は先天性心疾患の中でも最も多い先天奇形の一つになりますが、この心房間短絡によって右心系の容量負荷がおこり、将来的に心不全や肺高血圧症を起こす病態です。
 根治術はこの短絡孔を閉鎖することです。穴をふさぐだけなので手技としては比較的簡単といってもいいと思いますが、心臓を止めて治す手術ですから生命に直結する手技であり、注意点はいくつかあります。一つは穴をふさぐのに直接閉鎖かパッチ閉鎖か。直接閉鎖の場合は、組織に緊張がかかって断裂し、新たな欠損孔を作ってしまう可能性があるので、その危険がある場合はパッチ閉鎖にして組織に緊張がかからないようにすること。特にパッチ閉鎖の場合、または閉鎖にプレジェットなど異物を使用した場合は術後に血栓を作る可能性があるので、極力左房側には異物はおかず、もし使用するにしても右房側におく必要があります。左房側にできた血栓は脳梗塞など重要な合併症を引き起こす可能性があり、また右房側であれば血栓は肺でトラップされるので、軽症ですむ確率が高くなります。続いて、他の手術でも同様ですが、左心系に空気を極力入れないようにして空気塞栓の危険を減らす努力をすることです。これは左房左室ベントを留置したり、遮断解除前に十分にエア抜きをする、術野に炭酸ガスをかけながら手技を行うなど通常行っている空気塞栓予防で対応できますが、昔は左房左室ベントを留置しないで手術していた時代は空気塞栓をかなり気にしながら手術する必要がありました。現在はベントを入れる手間をおしまないで、安全に手術するようになっていると思います。
 こうして安全、簡単に手技を完遂できる心房中隔欠損症ですが、現在はより小さい右小開胸アプローチで行うことが一般化しつつあり、ここ数年間、横須賀市立うわまち病院で行った手術もほぼ右小開胸アプローチを採用しています。これにより患者さんの回復もはやく、傷も小さくて済むようになっていますが、手術手技は難易度が上がったので若手ドクターの執刀チャンスが減ってしまうという現象が起きています。
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黒むつのアラ煮

2020-11-24 17:07:29 | 心臓病の治療
黒むつのアラ煮を姿作りをお刺身で食べた後に作りましたが、なかなか美味でした。黒ムツ自体がスーパーで並ぶことは非常に珍しいと思いますが、これも新型コロナウィルスのパンデミックの影響です。
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塩麹の力 クマのブルギニオンに効果抜群

2020-11-24 17:05:47 | 心臓病の治療


塩麹は肉を軟らかくする効果があるそうで、酵素の力だそうです。
ツキノワグマの赤ワイン煮込みに使ってみたら効果抜群で、もの凄く柔らかく煮込むことが出来ました。他に牛肉、豚肉、鶏肉でもなんでも特に柔らかくしたいものにはお勧めです!
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MICS-AVRの導入と手技

2020-11-24 17:04:10 | 心臓病の治療


MICS-AVRの導入と手技についてオンラインでレクチャーしました。動画がぎこちなかったので、最新のパソコンを買ったらスピードもあがってスムースでした。やはり新しいパソコンはそういった動画の配信などで威力を発揮しますね。これからはオンラインで会議や学会がますます増えると思います。
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心不全患者が透析開始することにより心不全が良くなる

2020-11-09 06:28:14 | 心臓病の治療
 心不全患者さんが腎機能障害を伴っている、ということは、高齢者が心不全患者のMajorityとなっている昨今はしばしば遭遇します。心不全が原因で腎血流量が低下していて腎機能障害が起こっている場合は手術などで心不全を治すことで腎機能が回復する可能性もありますが、こうしたケースは稀です。
 腎不全に対して透析治療を開始すると、それまでの心不全治療薬=主に利尿薬よりも体内に貯留する水分を強制的に除水できるので、うっ血が有効に解除され心不全管理が改善することが良くあります。心不全のために胸水や浮腫がある患者さんが、透析をすることでそうしたうっ血症状が無くなり、自覚症状が良くなります。

 とはいえ、心臓の根本治療をしている訳ではありませんので、心臓の病態はその後も進行して、透析だけでは水分管理できなくなった場合は、より重症化してリスクが高くなった状態で手術をせざるを得ないため、手術時期を遅らせていいということにはなりません。常にそのタイミングを検討しておく必要があります。
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心拡大症例に対するTrans-Abdominal MIDCAB

2020-11-09 06:10:40 | 心臓病の治療
  Trans-Abdominal MIDCABとは、右胃大網動脈(RGEA =Right Gastro-Epiploc Artery =胃の大弯側を走行する動脈)を上腹部の開腹によって剥離・採取し、その末梢側を、同じ視野から横隔膜にあけた穴から心臓下面にある右冠動脈領域(主に後下行枝=#4PD =Posterior Descending artery)に心拍動下に吻合する低侵襲冠動脈バイパス術の一つです。右冠動脈領域の還流域が大きく、右冠動脈の#1~3の閉塞もしくは、非常に厳しい狭窄病変のある症例においてはベストな手術術式です。最大のメリットは胸骨正中切開をしないので術後の回復が速く、骨髄炎や縦隔炎のリスクがないことです。

 通常は心臓の下面の中心を走行する4PDに末梢側吻合しますが、この4PDの位置は、心不全が進行して心臓が拡大すると、走行位置が左方に偏移するため、通常の上腹部切開では見えなくなってしまう可能性があります。この場合の治療方針の選択肢としては、皮膚切開を延長して胸骨正中切開を行う、通常の心拍動下冠動脈バイパス術に変更するか、皮膚切開を左上に延長して肋骨弓を切離して左開胸につなげ、これによって視野を確保する方法があります。他に再建すべきターゲットがある場合は、胸骨正中切開に延長して完全血行再建する方法もありますが、糖尿病やステロイド使用患者などは胸骨正中切開のリスクが相当あるので、左開胸に延長する方法がベターです。

 筆者はTrans-Abdominal MIDCABを試みて、実際には実施できなかった症例で、やはり心拡大によって4PDの位置が大きく左に偏移していた症例や、RGEAそのものが細くて使用できない緊急手術症例で胸骨正中切開を行った経験があります。
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三尖弁の感染性心内膜炎に対する弁形成術

2020-11-09 05:36:22 | 弁膜症
 心臓の弁膜に細菌がつく感染性心内膜炎は、心臓病の中でも重篤な疾患です。敗血症といって全身に細菌がばらまかれて広がり、多臓器不全を起こす、細菌塊が塞栓症を起こす、細菌塊が塞栓先で仮性動脈瘤を形成し破裂させる、弁膜の破壊によって弁逆流がおき、心不全になる、発熱・炎症の持続により体力が消耗するなど様々な病態と起こします。
 一般には大動脈弁や僧帽弁、いわゆる左心系に発症することの多い感染性心内膜炎です。これは、左心系のほうが圧が高く、血流ジェットによる弁膜の表面の損傷が起こりやすくそこに細菌が付着して発症するメカニズムが考えられています。
 一方、右心系の感染性心内膜炎は稀です。海外では麻薬の不衛生な静注によって細菌が混入して三尖弁の感染性心内膜炎が起こる、と教科書には書いていますが、麻薬の違法使用が少ない日本においては麻薬に関連した感染性心内膜炎を見ることはほとんどありません。全身に菌が散布される敗血症の状態ではどこに菌塊が付着してもおかしくないので大動脈弁や僧帽弁の感染が最初に起きて複数の弁に感染が波及することはありますが、三尖弁のみの感染性心内膜炎は日本では稀です。
 三尖弁の感染性心内膜炎でも、左心系の弁に起こった場合と治療は同じです。適切な抗菌薬を使用して感染を制御し、塞栓症、心不全、感染の持続の場合は手術を検討することになります。三尖弁逆流のみでは、通常は肺高血圧にはなりません。肺動脈に送る血液が少なくなってしまうのは三尖弁逆流の病態ですので、肺高血圧がないのに左室に還流する血液が少なく心拍出量が低下するという特殊な病態で、その循環への影響を推察することが困難なことがしばしばあります。もし三尖弁のみの感染性心内膜炎に肺高血圧を伴っているとなると、既に肺塞栓を起こしている可能性が高くなります。もしくは左心系の弁や心機能に問題がある、またはもともと肺動脈に病気(肺動脈性肺高血圧症)があるということを念頭におく必要があります。また、術前にスワンガンツカテーテルを入れることは、三尖弁に付着した疣贅(最近は疣腫ということが多いようです)をつついて肺塞栓の原因となる危険性があるので、禁忌となります。肺高血圧の推定は心エコーの三尖弁逆流の血流速度から行うことになります。

 手術においては三尖弁のみの感染性心内膜炎では、右小開胸アプローチ(MICS)からの治療が可能です。基本的には重症の三尖弁逆流を起こしている症例が適応になりますので、生体弁による弁置換術が基本になります。三尖弁は右心系のいわゆる低圧系なので、若年者に移植しても長期間もつ可能性が高いと言われています。生体弁であれば、術後の右室にペーシングリードを挿入することも可能です(機械弁では、通常の右室ペーシングは出来ません)。

 一方、三尖弁の感染性心内膜炎に対する弁形成術は、三尖弁後尖に感染が起こっている症例においてはかなりの確率で可能となります。これは後尖においては後尖そのものをすべて切除してもこの部分の弁輪縫縮を行うKay法によって再建できるためです。人工弁などの異物を入れることを極力避けることが感染の持続、再燃を抑制することになります。前尖や中隔尖を切除した場合は、弁膜そのものの再建が必要になる為、弁形成術は困難です。
 三尖弁の弁形成術は、特にMICSアプローチにおいて、肺動脈を遮断することができないので、右室に生理食塩水を入れて圧をかけて行う逆流テストが無効で、逆流制御がうまくできているか術中に確認することができません。見た目にうまく形成できても、その出来栄えが右心系の圧がかかっても逆流をさせずに持ちこたえるかどうかは不明です。右房を閉鎖して人工心肺を停止してみないとわかりませんが、三尖弁逆流が軽度から中等度までであれば、その後右心不全を起こすことは少ないので、これで完成としてよいことが多いと思います。少し逆流が残っても人工弁が入るよりは利があります。
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ベッドサイドマナー:Bedside Manner

2020-11-04 04:22:18 | その他
 Bedside Manner = ベッドサイドマナーという言葉、日本ではあまり耳慣れない言葉ですが、アメリカでは非常に重要視されているものだそうです。翻訳を見ると、そのまま、患者に対する医師の態度、ということです。筆者が医学部で教育を受けたのはもう25年以上も前になるので、現在は変わっているかもしれませんが、そうした教育は日本ではありませんでした。アメリカの医学教育の中では、必ず時間をとって教育されているものだそうです。ただ共通していることとして、その当時から患者のプライバシーの侵害という内容については話題にされており、少しずつ患者の権利という言葉も浸透して、現在ではどの病院も患者の権利を病院の方針の中に記載されるようになってきたので、他の分野と同じように日本の医療文化的な面でもアメリカに20年遅れで追従しているものと思います。
 日本でも、患者の情報を他人に、たとえ家族にでも口外しない、患者さんのプライバシーの侵害になるような行為を極力行わない、他人に患者さんの名前などを呼ぶことによって、名前が特定されないようにする必要がある、など浸透してきていますが、横須賀市立うわまち病院も含めて多くの病院、クリニックでは、プライバシーを守れるスペースや方法を確保できていないため、いまだに大声で他人に聞こえるような対応をせざるを得ない現状もあります。
 時代が追いついていない、というだけではなく、日本とアメリカとの大きな違いは、訴訟の多さと医療費負担額の大きさが明らかに影響しています。
 実際に訴訟社会であるアメリカではベッドサイドマナーが確立されていない時代には多くの患者の権利やプライバシーを侵害されて訴訟が起き、それで法制化して発達してきた歴史があり、日本でもいずれ法制化するなり、ガイドラインが出るなどしてくるものと思います。
 アメリカでは医療費が日本の数倍かかるので、当然その分サービスもよく、医療関係者の給料も高くなり、スペースも確保できるという点で当然の対応なのかもしれませんし、日本では医療費が非常に安価でだれでもいつでも病院にかかれるために、患者の数が多く、薄利多売の医療が展開され、その分、サービス面までいきわたらないという現状があると思います。
 いずれ日本でも患者さんに選ばれる病院になるための努力はどの病院でも重視されており、ベッドサイドマナーも重要な要素であることは間違いありません。その意味で30年前に比較して、たばこを吸いながら外来をする医者もいなくなったし、患者に対して怒鳴る医者もいなくなったし、スタッフ間のパワハラなども圧倒的に減ってきているとおもいます。
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