邦人奪還という小説、人気らしく、横須賀図書館に貸し出しを申し込んだところ予約待ちがたくさんいるらしく、借りるまで一か月以上かかりました。これは、日本の特殊部隊創設にかかわった元自衛官の伊藤祐靖氏が書いた小説ですが、二部構成となっていて、第一部は尖閣諸島に上陸した中国兵を制圧する話、第2部は北朝鮮のミサイル基地に拉致された日本人6名を特殊部隊が急襲して奪還する話となっています。
特殊部隊がどんなことができるのか、ということを紹介する内容となっているとネットの記事では本の紹介がされていたので借りました。たしかに、部隊の運用の仕方など、自衛隊の内部にいた人しかわからないようこともたくさんちりばめられていて興味深い内容で、素人でも楽しめる内容にはなっています。筆者は別にミリオタではありませんが、まあまあ楽しめる内容で一日で読み終わり、すぐに待っている次の貸し出し者のために図書館に返却しました。今は、児童図書館が工事で閉館しているため、わざわざ坂を上って市立中央図書館まで行く必要があります。
しかしながら、政治的な背景など、ちょっと飛躍しすぎていてシナリオとして内容的に稚拙でした。たしかに落下傘部隊は降りた現場の状況にあわせてどんな対応もできるように訓練されている。同じように特殊部隊も単独になってもあらゆる事態に対応できるように訓練されている、ということを紹介したい意図は伝わってきますが、だからといって何の確実な情報もないままに、他国に群を潜入させることは、できません。その行為自体が宣戦布告と判断されて、すぐにミサイルが飛んでくるかもしれませんし、全面戦争の引き金になってしまいます。隊員が勇敢で有能だ、ということを書きたかったのかもしれませんが、政治的な背景やこうした作戦の口火を切ることが戦争を引き起こすということをもし、自衛隊員が知らないとでもいうのでしょうか?せっかく臨場感があふれる内容が記載されているので、作戦を行うに至るまでの情報の内容などもう少し詳しく記載するべきでした。
小説でもドラマでもシナリオは非常に大切です。またその背景にあるものも、しっかりのその時代や論理に合致したものでなくてはいけません。そうでなくては、現実に生きる読者を、その虚構の中に引き込むことはできません。その意味で日本の特殊部隊のイメージを悪くしてしまうシナリオでした。
小説の最後のほうに、硫黄島にいる隊員には、「自衛隊金融」で多額の借金を抱えてしまった隊員が左遷勤務させられている、という記載があります。「自衛隊金融」は自衛隊とは無関係の、横須賀市若松町に実際にある消費者金融で、自衛隊員がたくさん酒を飲んだり遊ぶためのお金を貸してくれるところだ、と、秋田県田沢湖町に筆者が勤務していたころ、その病院で働くの元海上自衛隊員が言っていました。そのスタッフの元同僚の多くが、自衛隊金融でお金を借りて首が回らなくなっていて勤務にも影響だ出ていた、とよく飲みながら横須賀での思い出話を語っていました。