横須賀うわまち病院心臓血管外科

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MICSにおけるトラブル対策④ ペーシングが効かない!

2024-05-26 05:39:37 | 心臓病の治療
 MICSアプローチでは正中アプローチとちがい、簡単に心外膜ペーシングができない。このため確実な心外膜ペーシングを遮断解除前に設置しておくことが肝要である。遮断解除してからペーシングが効かないことが判明した場合は、心外膜リードの追加設置が必要になることがあるが、人工心肺中であれば血管内ボリュームを脱血して心臓を虚脱させることで可能になる場合がある。このため、人工心肺離脱までにペーシングが有効であること、特にその閾値を確認しておくことは極めて重要である。
 人工心肺離脱後にペーシングが想定外のタイミングで効かなくなることは稀に経験する。側方開胸アプローチでの心臓マッサージは有効にはできない可能性があり、悪夢の時間が到来する。筆者は心嚢ドレーン設置した際に、ペーシングリードが引っかかって抜けてしまった瞬間に心停止となった経験がある。この時は、カウンターショック用に設置してあったパッドから体外ペーシングすることで循環維持が可能で、この間に経静脈から右室に一時ペーシングを透視下に設置することで解決した。
 体外ペーシングが確実に出来る位置にバッドを貼っておくことは安全なMICSにおいてきわめて重要である。
 ある施設では、二つの対外パッドを患者背部に貼付して心臓を挟む位置にしていないことがある。この施設において手術終了時に突然発生した完全房室ブロックにより心停止となった経験がある。この時に辛うじて心外膜ペーシングが不安定ではあるが効果があるうちに、大腿静脈から透視下に経静脈的一時ペーシングカテーテルを挿入して難を逃れたことがあった。
 筆者の施設では、ペーシング付きスワンガンツカテーテルを留置して心外膜ペーシングとともにあらかじめ閾値などをチェックしているため、確実な二重の安全策を設置している。それと確実な体外ペーシングの位置にパッドを装着して三重の安全策を設置している。
 強調したいのは正中アプローチと比較して体外ペーシングの位置は非常に重要で、必ず心臓を挟む位置に設置しておくことである。筆者の施設では右は肩甲骨、左は左のニップルの尾側である。
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MICSにおけるトラブル対策③ 送血圧上昇

2024-05-26 05:31:30 | 心臓病の治療
 MICSの多くは大腿動脈送血が選択され、一部は腋窩動脈送血とするのが一般的である。これら抹消動脈からの送血ではしばしば送血圧が上昇してしまうことを経験する。送血圧上昇は人工心肺回路出口で通常測定するため、回路そのものの抵抗で実際の動脈圧と数値が解離していることが多いのを知っておく必要があるが、それでもカニューレの先当たり、角度の問題などで上昇したのを放置して手術を続行することは、大動脈解離や溶血、組織低灌流などのリスクがある。
 一般には送血路の追加によって圧を低下させることが第一選択である。大腿動脈送血追加が一般的である。そのため、送血路を二本に分けられるような速やかな手技が必要であるし、回路のそれに対応したものとしておくことが望ましい。
たとえば術前から腸骨動脈に狭窄がないことなどを造影CTで確認しておくことが必要であり、安全な手術のためには術前の造影CTは必須と考える。
 MICSアプローチから上行大動脈送血を実施している施設があるが、この手技に習熟していない施設の場合はリスクを伴うため、場合によっては正中アプローチへの変更も躊躇すべきではないと考える。
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MICSのトラブル対策② アプローチする肋間が思ったより低かった

2024-05-26 05:23:26 | 心臓病の治療
 多くのCT撮影では、両上肢を挙上した姿勢で撮影しているため、MICSにおいて右上肢を挙上して手術している施設は大きな差はないかもしれないが、右上肢を挙上せず、背側に進展する位置で固定し手術している施設に関しては、CTの予測とは違う視野となる可能性がある。僧帽弁手術においてはそれほど差がないが、大動脈弁手術における腋窩アプローチ第4肋間においては、思ったより尾側でのアプローチになる可能性があり、筆者も第3肋間に変更した経験がある。特に皮膚切開がより正中側になると、肋間の位置が尾側になるため、第4肋間での大動脈弁手術は、より腋窩側を皮膚切開することで、頭側よりのアプローチとなることを知っておくべきである。
 思ったよりも尾側にあって上行大動脈が遠くなってしまった場合は、皮膚切開の延長による創拡大、第3肋間への変更、肋軟骨付着部から肋骨を外すことによる肋間開大幅の増大などで対応可能で、術後の疼痛に関してはこれらの追加処置をしても影響ないことを経験している。
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MICSの術中トラブル対策① Signet遮断鉗子

2024-05-26 05:16:08 | 心臓病の治療
 MICS(側方小開胸アプローチによる心臓手術)が広まる中、安全な心筋保護が注目されている。僧帽弁手術では、ルートカニューラからの間歇的な心筋保護液注入において、エアーの混入、大動脈弁逆流による注入量不足、注入間隔不適切等が指摘されている。MICS特有の注意点を熟知することが安全な手術には必要である。
 加えて、遮断不十分だと漏れた血液が冠動脈に灌流してしまい、心静止が得られない、またはすぐに心臓が動き出すという事象が発生する。ソフトクランプは組織に優しい反面、遮断不十分が発生しやすい。
 臨床現場で頻用されているSignet遮断鉗子では不十分な大動脈遮断となりやすく、その対応について考察する。
 経験した症例① 僧帽弁形成術において右肺動脈頭側でSignet鉗子で遮断後、ルートカニューラから心筋保護液注入し十分な注入圧にも関わらず、心静止がえられないため、注入を中止し、ルートカニューラの接続を開放すると血液逆流が持続し遮断不十分と判明。遮断鉗子の頭側に別のフレキシブル鉗子で二重に遮断したところルートカニューラからの逆流が消失。再度心筋保護液注入し心静止得られ手術可能となった。
 経験した症例② 上記と同様の事象が起き、遮断部位を右肺動脈頭側から心膜横洞に架け替えて心静止が得られた。
 経験した症例③ 同様の事象に対して遮断鉗子の噛みを強くすることで逆流が停止した。
 経験した症例④ 心拍動のまま遮断する施設において、遮断鉗子をかけても動脈圧が消失せず遮断不十分であることが判明した。大動脈周囲をさらに剥離し、遮断鉗子の挿入角度を変更して再度遮断したところ、動脈圧が消失し遮断が確実にできたことが判明した。
 
 遮断不十分な事象は新しくMICSは初めて間もない施設で発生しやすい印象がある。特に大動脈切開しない僧帽弁MICSにおいてその認識と重大事故につながる。遮断不十分を検出するにはルートカニューラからの逆流以外に経食道エコーで検出される可能性もある。特にSignet鉗子は遮断力が弱いため発生しやすいことを念頭におく必要がある。また、周囲組織を巻き込んだり、大動脈に直角に遮断されないことで発生しやすくなる。正中切開とは異なる、遮断に関する注意点があることを熟知して臨む必要がある。
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