横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

ハーモニックSynergy製造中止による衝撃

2024-04-30 11:16:04 | 心臓病の治療
 これまで日本における冠動脈バイパス術の内胸動脈採取はここ20年以上、ハーモニックスカルペルのフック型を使用するのが定番で、筆者も最初からこのハーモニックスカルペルの使用で習い実践してきました。それ以前の電気メスで採取する方法は一度も経験ありません。
 今回、ハーモニックスカルペルのフック型先端を有するSynergyの製造中止が決まり、筆者の施設もあと残り数本です。その後はロングシャフトのフック型を使用することになります。または施設によっては電気メスを使用する方法が復活します。
 いずれにしろ、今後数年はその採取方法の変更が大きな話題になると思います。ロングシャフトの器具を使うのがより普及するのに比例してMICS-CABGが普及していくこと人るのかもしれません。
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骨膜に張り付いた内胸動脈のハーモニックスカルペルによる剥離

2024-04-30 11:10:30 | 心臓病の治療
 内胸動脈採取のうえで一つのポイントになるのが、骨に張り付いた内胸動脈の剥離です。少しずつ骨からの距離を作りながら、間にある血管や組織を処理することになるのですが、難しい場合は骨膜ごとはがすような手技が必要になります。
 この場合のハーモニックスカルペルの使用方法のコツは、攝子をハーモニックスカルペルと内胸動脈の間に入れて、それによってプロテクトしながら骨膜ごとはがす、ちょっと勇気の必要な手技です。万が一、枝の処理が不十分でも攝子でプロテクトされた距離が残っているので、出血してもクリップをかける距離が保存されています。これはMICSアプローチでも同様で、ロングシャフトのハーモニックスカルペルでも使用するワザです。


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弁膜症外来

2024-04-13 19:27:30 | 心臓病の治療
 横須賀市立うわまち病院では新規に弁膜症外来を立ち上げます。心雑音を指摘された患者さんの精密検査などを行い、異常が見つかった場合の定期的検査などを行います。
 弁膜症は年単位でゆっくり進行したり、加齢に伴って進行するものが多いため、そうした面からライフタイムマネジメントを行う予定です。手術が必要になる場合でも、その最適なタイミングなどを外来通院観察を通じて相談します。
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BNP外来

2024-04-13 19:15:46 | 心臓病の治療
 横須賀市立うわまち病院では新規にBNP外来を開始する予定です。BNPはBrain Natriuretic Peptide=脳性ナトリウムペプチドの略で心臓の主に心室心筋から分泌されるホルモンです。利尿効果など心不全治療効果があり、また心不全で主に分泌量が上昇するため、採血検査で血中濃度を測定すれば心不全の指標になります。
 BNPの上昇をきっかけに心不全と診断されたり、弁膜症が見つかったりすることがあるので、現在は聴診器以上に心不全発見に有用な可能性があります。BNPは相対指標なので一回の検査で上昇しているからと言ってそれだけでは心機能の状態を評価は困難であり、経過観察の指標の一つです。
 BNP外来では、心機能のチェックのためにレントゲン、CT、心エコー、場合によっては心臓カテーテル検査などを行って病気の治療や悪化防止の指導などを行う予定です。
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P-MEG

2024-04-07 02:47:30 | 心臓病の治療
 P-MEG:Physician Modified Endograftというのだそうですが、ステントグラフトに大動脈分枝の位置に合わせて開窓し、Deploy後に、この開窓した穴から分枝に向かってカバードステントを留置することです。これにより大動脈分枝にも対応したステントグラフト手術をすることを可能にした治療が可能になります。
 横須賀うわまちでも数例実施しており、この正確な開窓をするために、3Dプリンターで実際に大動脈の模型を作成して分枝用の穴をあける方法、それに加えて当院ではVRで計測する方法も取り入れています。VRのシステムは関東地方の心臓血管外科では唯一、横須賀うわまちが採用しており、先進的な治療をリードする一つの武器になるのではと思っています。
 3Dプリンターでの大動脈模型作成
VRゴーグルをかけての大動脈の正確な解析
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AFMRの弁形成術にKay Stitchは有効か

2024-04-07 02:37:35 | 心臓病の治療
 かなりニッチな内容ですが、前回の胸部外科学会関東甲信越地方会で当施設から発表した心房性機能性僧帽弁逆流(Atrial Functional Mitral Regurgitation)の弁形成術においてディスカッションになった内容について、会場では十分な説明ができなかったので、ここで改めて考察します。

①前尖のハムストリングについて、ご質問いただきましたが、この点に関しては、筆者も入れるべきか悩んだ点です。ハムストリングの所見は、収縮期に主に後尖弁輪が外側に回転してクリアゾーンの弁輪よりが左房側に突出する現象が見られるエコー所見と理解していますが、高度になると前尖にも同様の現象が見られることがあると聞いています。本症例の場合は、後尖には、この所見が見られないにも関わらず前尖の一部のクリアゾーン弁輪よりにだけ見られており、この所見を発表内容に入れました。しかしながら、エコーは自分で検査したわけでも、検査時に同席していたわけでもないので、正確な理解ではないかもしれません。PCの隙間からの逆流ジェットによる異常な変形が左房側に突出している部分があり、そこにひっぱられてそのように見えた可能性があります。

② AFMRの弁輪縫縮においてKay Stitchは不要で人工弁輪による縫縮だけでいいのではないか、との意見もいただきましたが、この症例はもっと長期間の逆利持続による成れの果ての症例で、クレフト開大部分が硬く変形して固まっており、クレフトの外科的閉鎖が必要な症例である上に、私は以前からクレフト部分からの逆流にはKay Stitchが有用で、基本的にこれを行うことで弁形成の出来映えが良くなると思って続けております。本症例も人工弁輪による後尖弁輪の均等な縫縮よりもクレフト部分の弁輪を局所的に縫縮してクレフトを弁輪ごと閉鎖しておき、その上で人工弁輪で縫縮した方が確実に逆流制御できる技を使っており、本症例もその方法で形成しました。

 こんな内容の議論を行いたかったのですが、 発表している後輩医師が頑張って質問に応対しているので、割って入ることが出来ませんでした。このため、質問者には後日上記内容でメールにてディスカッションの続きをやり取りさせてもらいました。
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今年は宇都宮の一年=同じ会場で4回の学会!まさに宇都宮グランドスラム!

2024-04-07 02:14:22 | 心臓病の治療
 心臓血管外科医にとってこれほど宇都宮に行く機会の多い一年はありません。まずは3月の第194回日本胸部外科学会関東甲信越地方会は獨協医科大学の主催で行われました。横須賀うわまちからは、3演題を発表し、餃子とイチゴアイスを食べて帰ってきました。
 次の第195回も宇都宮ライトキューブ、同じ会場です。横須賀うわまちからは研修医発表2演題を含め4演題を発表予定です。17年ぶりくらいに筆者も地方会で発表させていただきます。
 最後に11月の臨床外科学会も同じ宇都宮ライトキューブだそうです。臨床外科学会に参加する心臓血管外科医は必ずしも多くなく、筆者も指定演者の依頼があるときしか今まで参加してきませんでした。参加する年のみ入会して、翌年は大会していました。今回もシンポジウムでの指定演者を二つ(1.へき地での外科医の修練とモチベーション維持、2.MICS)依頼されているので、三回目の宇都宮になります。
 その後、人工臓器学会の演題募集の案内がきましたが、こちらもなんと、宇都宮の同じ会場でした。まさに宇都宮グランドスラム!さすがに人工臓器学会に演題を応募するとこのへんは毎週学会出張が続いてしまうので、今回は遠慮することにしました。
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MICSにおける心筋保護の注意点

2024-04-07 01:41:56 | 心臓病の治療
 MICS=側方小開胸アプローチでは、特有のリスクがありますが、心筋保護についても注意しなくてはならない点があります。これはMICSに限ったことではありませんが、この心筋保護が不十分だったせいで術後のLOSになる可能性について議論になったことから、筆者なりの考察をまとめてみました。

①MICS、とくにMICS-MVPにおいては、大動脈遮断が必ずしも理想的な位置を選べない可能性があり、遮断鉗子の先端を術者の手で位置確認できずブラインドになっている状態で遮断することになります。これによって遮断が不十分になる可能性があり、この場合、ルートカニューラから心筋保護液を注入しても遮断から漏れた血液と混合されて不十分な心筋保護となる可能性があります。この現象は何度か経験し、遮断鉗子を追加したり遮断位置を変更することで解決できました。これを各地することは、なかなか心筋保護が聞かず、心電図上の心静止が得られない、一度心静止しても直ぐに心電図波形が出てしまうなどの現象で築きますが、それ以前に遮断鉗子をかけた心筋保護液を注入する前に、ルートカニューラの側枝から逆流がないかを確認することが重要です。側枝のないシングルルーメンのルートカニューラを採用してる施設では一度連結をはずして、逆流がないかを確認する必要があり、やはり側枝のあるカニューレを採用すべきと思いました。大動脈弁閉鎖不全症など、大動脈切開を最初から行う手術では、遮断不十分に関してはすぐに判明しますが、その場合でもできれば遮断が十分か確認してから大動脈切開したいものです。遮断不十分に関しては、経食道エコーで判明する可能性もありますがちょうど見えにく位置にあるため必ず同定できるものではありません。慣れた麻酔科医なら言わずとも指摘してくれることがあります。

②大動脈弁逆流があると、冠動脈に十分に心筋保護液が行かずに左室内に逃げてしまう。特に左房左室ベントを引きすぎるとこの大動脈弁逆流が増加しやすいのでベント流量を下げるなどの対応が必要です。術前に大動脈弁逆流が指摘されていなくとも遮断するとバルサルバ洞が変形して逆流が起こることもあります。これに関しては経食道エコーでも観察可能です。当院ではMICSにおいては初回は通常量の2倍の心筋保護液を注入することで確実な心筋保護を行っています。

③僧帽弁手術の場合、リトラクターをかけて僧帽弁視野を確保したまま心筋保護液を注入すると、バルサルバ洞が変形していて大動脈弁逆流が増加し、十分な心筋保護液が冠動脈に注入されないリスクがあります。毎回リトラクターをゆるめるなどの工夫が必要です。また、僧帽弁の手技に時間がかかり、毎回の注入間隔を適切に行えないと、これもまたLOSの原因となるリスクがあります。注入間隔の管理はME(CE)さんが担当していることが多いと思いますが、外科医とME(CE)さんとのコミュニケーションがうまくいっていない施設ではトラブルが起こりやすい印象があります。

④特に僧帽弁手術では、水テストを行う際にエアーがバルサルバ洞にたまり、そのエアーが注入されて冠動脈内にエアーブロックが起きて十分な心筋保護液が注入されない、不均等な灌流となる可能性があります。特に右冠動脈口周辺のバルサルバ洞にエアーがたまりやすいので注入のたびにエアー抜きを十分行う必要がありますが、側枝のないルートカニューラを採用している施設では、エアー抜きが出来ない可能性があり注意が必要です。

⑤冠静脈洞から逆行性心筋保護を併用してする場合では、逆行性心筋保護を過信しないことが重要です。冠静脈洞から注入される心筋保護液の血流分布はかならずしも均等ではなく、亜型が多く一定の割合で左室領域には灌流できない症例があると言われています。かならず一定の間隔で順行性を併用すべきです。多くの施設に手術のお手伝いに伺う機会がありますが、なかなかこの逆行性だけで手術を乗り切ろうとする施設が時々遭遇し、このことをお伝えしても改善しない施設があり、術後のLOSの原因と思われるのに想起できない外科医も少なくないことを経験しています。

⑥特に、PLSVC(左上大静脈遺残)がある症例では、逆行性心筋保護は無効です。必ず術前のCTでPLSVCがないことを確認する必要があります。正中開胸では、このPLSVCを遮断して逆行性心筋保護注入を行うことがありますが、遮断してもその遮断部位から冠静脈洞合流部までの間の部分がリザーバーのように拡張して十分な心筋保護液が灌流されないリスクもあり、ましてや右小開胸アプローチからはPLSVC遮断は不可能です。

⑦こうした心筋保護のトラブルが発生した場合の対処としては、麻酔科、ME(CE),外科医のコミュニケーションが重要です。ナースも含めた手術チーム全体のコミュニケーションが普段から良好な関係を作っていないと適切な対処が困難です。昔気質の怒鳴る外科医は最近は減っているようですが、このような外科医のチームではそれだけでリスクを抱えている、と考えられます。

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