横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

受動喫煙により一年で15000人も殺害されてる?

2019-06-29 07:36:50 | 心臓病の治療


受動喫煙とは、他人が喫煙したことで発生する煙を吸い込んでしまったことですが、それが原因で年間15000人も亡くなっているとしたら、これは、はっきり言って大量殺戮といっていいのではないでしょうか?これは昨今の安全装置で減少している交通事故の死亡者の倍以上になるのではないでしょうか?

喫煙者のマナーの悪さはここ、横須賀でも非常に目立ちます。駅周辺は歩きタバコ禁止の区域になっているのに、全くの無視という人が多すぎます。マナーがいい人ははじめから喫煙などしないのかもしれません。駅の構内や電車の中など、喫煙できないスペースは増えてきていますが、大気に繋がりオープンスペースではすべて禁止にしてほしいものです。

一番かわいそうなのは、家庭内に喫煙者をかかえる家族の方です。家族が病気になる以上に一家の大黒柱が喫煙のせいで亡くなったり働けなくなったりして一家が不幸になる光景を今までたくさん見てきました。

校則という個別のルールで縛る以外に、喫煙者を減らすような教育を国として全く行ってこなかったことにも問題がありますが、これからは、小学校、中学校の教育にも取り入れてほしいですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Central ECMO

2019-06-28 16:30:53 | 心臓病の治療
Central ECMOとは、いわゆる静脈脱血して人工肺で酸素化した血液を動脈系に送血する循環回路において、通常は大腿静脈経由の下大静脈~右房脱血、大腿動脈送血しているのに対して、開胸して右房脱血し、上行大動脈送血する循環補助の方式をいいます。
 右房脱血することで、脱血が非常に良くなり、流量が通常の2倍以上出て、より循環補助が強力に行われることになり、また、大腿送血の場合はMixing Pointといって、酸素化された血液と、肺で酸素化が不十分なまま送血される血液が合流するポイントが、心機能が良ければ下行大動脈などになり、冠動脈や脳には酸素化不十分な血液が灌流されることになってしまう灌流不均衡の現象が起きてしまうのが、上行大動脈送血することによって冠動脈も脳も十分に酸素化された血液が灌流されるので、多臓器不全や心不全がより強力に治療されることになります。

 人工心肺とまったく同じ方式の、このCentral ECMOは開胸しての送脱血操作が必要になり、開心術後は比較的移行しやすいとはいっても、出血や感染のリスクがつきまといます。また開心術後ではない場合は新たに開胸の侵襲が加わることになります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

膿胸術後のMID-CAB・癒着が予想される症例の左開胸低侵襲冠動脈バイパス術

2019-06-28 06:00:50 | 虚血性心疾患
 膿胸の術後といえば、石灰化した胸膜を持つ結核性胸膜炎の次に最も胸膜が肺に癒着していることが予想される状態です。これに対して、再開胸してMID-CAB(左小開胸低侵襲冠動脈バイパス術)が可能かどうか。
 実は、MID-CABは、左第5肋間で開胸し、その直下が心臓であるため、最初に肺とコンタクトするのは、心膜表面を少し剥離してからということになります。心膜をあけるだけであれば、肺が癒着していても左開胸で十分到達可能です。あとは左内胸動脈の剥離ができるかどうかです。左内胸動脈は胸郭の前面に走行しているため、その走行に沿った前面が肺と胸膜の癒着がはがせれば、採取可能です。
 経験した症例は、膿胸に対して3回の手術歴があり、肋骨も一部切除されていて、肋骨弓が離断されたままの状態となっていたため、開胸器をかけることができない症例でした。このため、通常のMedtronicの開胸器が使用できず、工夫として、胸壁にたくさんの1号絹糸をかけて、この糸を前方に牽引することで胸壁全体を釣り上げて視野を確保、不足分は腹部大動脈瘤の手術時に使用しているKondorのリトラクターを駆使して視野を確保しました。Kondor以外の、Omnitractなどのリトラクターでもいいと思います。スタビライザーにも装着部位に工夫が必要でした。
 しかし、そうした工夫が奏功すれば十分可能な手術と実感しました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓血管外科医に対するヘッドハンティング

2019-06-27 22:48:51 | その他
 心臓血管外科医に対するヘッドハンティング、オファーを頂いても現実的にすぐに移動するということは実際には難しいです。なぜならば、心臓血管外科はチーム医療であり、外科医、麻酔科医、ICU医、循環器内科医、救急医、臨床工学技士、看護師、リハビリ担当技師、検査科、放射線技師など他職種と一緒に臨床を形成するため、一人だけ引き抜かれて新しい施設に移動しても、それまで気心の知れたスタッフが一緒でないため、新たな人間関係、チーム関係を構築するのに時間がかかってしまうということになり、移動してすぐにハッピーというわけにはいかならいからです。
 これは、チームとしてうまく機能している施設で働く心臓血管外科医ほど顕著であり、突然の転職のオファーになびくということは、現在のチームがうまくいっていない、または施設に不満がある外科医ともいえます。そうした外科医は次の施設にいってもチーム医療がうまくいかない、施設に不満を持つ、などうまく機能しない可能性が高い外科医ともいえると思います。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科としては非常にチームとして機能的にうまくいっている環境にあり、転職の話を頂いても、現状以上のチーム医療ができる環境はなかなか存在しないのが事実です。しかしながら、今後いろいろな荒波が発生して、チームの中に居づらくなったりした場合などの為に、避難場所を確保しておくことも、安定したチーム診療を継続するために必要なことと考えます。
 なかなかチームごと、もしくは病院ごと引き受けることができるところもないのは事実です。

 しかしながら、ヘッドハンティングという英語は、日本語で今回のような場合に使用するのではなく、刺客が敵のドンを殺すこと、や軍事用語ではスナイパーが一撃で敵の頭を撃ち抜くこと、それが転じて敵の大将を殺害することなどをいうそうで、トップを引き抜いて転職させることはScoutでいいそうです。いわゆるスカウト、です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

MICS-CABGにおけるフローコイルの有用性

2019-06-26 21:16:39 | 虚血性心疾患



 オフポンプ冠動脈バイパス術において、視野の確保、吻合中の心筋への血流維持を目的に内シャントチューブを使用することが多いのですが、当医局の方針として、前下行枝の吻合の際は内シャントチューブを挿入して前壁領域の血流確保しながら吻合し、その他の吻合の際は、リトラクトテープなどで、牽引することで血流を遮断したまま吻合することとしています。
 しかし、最近、横須賀市立うわまち病院でも増加している左小開胸での複数の冠動脈バイパス術(MICS-CABG)においては、下壁や側壁においての吻合の際、より出血による視野不良を防ぐために内シャントチューブを挿入して吻合することがほとんどです。
 最近は内シャントチューブを使用しないで吻合する施設が多いと聞いています。そのためか、当院で採用しているフローコイルという商品名の内シャントチューブ(ゲティンゲ社)は全国で5番以内にはいる使用量の多さだということでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心不全の最新治療=Impella

2019-06-24 19:58:54 | 心臓病の治療


 重症心不全に対する新しい治療として、Impellaという補助循環装置があります。これは末梢動脈から大動脈に挿入したカテーテルの先端に軸流ポンプが内挿されており、形態はピッグテイル型。先端を左心室内に留置し、この軸流ポンプを作動すると毎分2.5リットルの血液を左室から大動脈内にくみ出すことができる、心臓に対する輔助ポンプ装置です。大きなタイプでは5リットルの流量が出るカテーテルもあります。従来使用されていたPCPS(経皮的心肺補助装置)に比較して、左室の後負荷がないので、左室を休ませる効果が高いと考えられます。
 より重症の左心不全でPCPSだけでは回復が困難と考えられる重症の左心不全に対しては、救命の可能性が高まると考えられます。横須賀市立うわまち病院でも導入を検討中で、これには施設基準がありますが、うわまち病院では、体外式補助人工心臓治療の実施施設であり、植え込み型補助人工心臓実施医が常勤で在籍し、またPCPS治療が過去3年間で20例以上と、施設基準を満たしているため、装置購入のための初期コストの問題が解決すれば導入可能です。神奈川県では近隣では、横浜市立大学が実施しせつになったので、初期の外科治療を終えて、心不全が遷延する場合は、現時点では医療連携して治療をお願いすることになります。
 初期の導入コストが、発売当初にメーカーに打診したときと比較してこの一年で三分の一になったときうことで導入が現実的になってきました。

 心不全パンデミック対策を重視している横須賀地区としては一日も早く導入したいしたいです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この4.0倍のルーペ、ちょ~かっこよくないすか?

2019-06-24 19:46:51 | その他




百貨店で食器などを見ているときに、偶然見つけたルーペ。筆者が手術中に使用している、カールツァイスのルーペと同じく4.0倍の倍率。しかも写真のラグジュアリーバージョン「雲錦」はルーペのシリンダーが24k金箔、フレームは本漆塗りという、しかも加賀の蒔絵師の吉田華正が描いた逸品。これをつけてOPEしたら、最高にかっこよくないすか?

残念ながらカールツァイスの焦点距離45cmと違って、この4.0倍は焦点距離15m以上という冠動脈を縫うにはちょっと難しくしてしまう可能性があります。


職場の同僚がこのスペシャルなルーペを購入して、ライブに参戦したところ、シリンダーが揺れて非常に不具合を感じたそうです。やはり、文字通り、オペラや歌舞伎など座って優雅に干渉する芸術には適しているのでしょうけど、ももクロには不向きのようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僧帽弁後尖のオーグメンテーション

2019-06-24 05:21:54 | 弁膜症


オーグメンテーションとは、増強する、とか、増やすというような意味がありますが、僧帽弁手術におけるオーグメンテーション(Augumentation)とは、自己心膜を使用して、僧帽弁の弁尖の面積を増やすことによって前尖と後尖の接合をしやすくして、僧帽弁逆流を停止させる手術手技です。弁尖には異常がなく、左室拡大によって発生するTetheringの症例で、特に弁輪縫縮だけでは、後尖の左室方向に牽引される角度がより大きくなってしまい逆流が制御できない症例に特に適用されます。

このオーグメンテーション、一般には後尖の高さが低い症例に、その高さを増強するというコンセプトで実施されますが、そもそも僧帽弁後尖とは必要なのか、という議論があり、大きな前尖があれば僧帽弁の後尖は不要という考えもあります。すなわち、後尖にオーグメンテーションするよりも、前尖にオーグメンテーションするようが、確実にTetherinによる僧帽弁逆流は制御しやすいらしいです。学会でのレクチャーや書物には後尖のオーグメンテーションばかり紹介されている印象があり、まだ前尖のオーグメンテーションに関しては、認知度は低いと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心筋梗塞後のDouble Rupture

2019-06-22 12:31:20 | 心臓病の治療
急性心筋梗塞における三大機械的合併症として
①心室中隔穿孔
②乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症
③左室破裂

 これらは緊急手術が必要になる病態がほとんどで、多くの場合はそのまま経過を看ていると急速に循環動態が悪化することが多い。病態が悪化する前に手術した方が術後の回復が速いことが多く、循環が破たんしてからの手術では術後の多臓器不全に苦しむことになることが多い。
 未だ、これらの心筋梗塞後機械的合併症の救命率は50%前後と全国の統計で言われています。

 なかでもDouble Ruptureといわれている病態があり、これは上記の機械的合併症が同時に二つ以上存在する場合を指し、より重症度が高いものと考えられます。①と③、または②と③の合併がほとんどで、①と②が同時に発生する、もしくは①②③がすべて起こるというものは見たことがありませんが、より重症度が高くなると思われます。
 このDouble Ruptureは、今まで数十例の機械的合併症を診てきましたが、今まで2例でしか見たことがないので、比較的まれな病態ではないかと思います。
 それぞれの合併症に対して適切に外科的処置を行い、術後管理を行う以外に治療法はありません。

一般に心筋梗塞の死亡原因は、昔は心室細動などの不整脈が多かったのが循環器の専門施設で、特にCCU(Coronary Care Unit)でモニター管理をするようになって不整脈死は激減し、現在は心不全死がほとんどといわれています。これら機械的合併症の術後の心不全も救命が困難な場合は多々あり、また、こうした機械的合併症がない状態でも心機能が著しく低下する広範囲な心筋梗塞の場合は、未だに救命が困難な症例も存在するのは確かです。

こうした重症の症例には、IABP PCPSなどの機械的補助を積極的に導入して急性期を乗り切り、慢性期まで持っていければ救命の望みも見えてくるため、それまで「頑張る」ことが重要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タバコの好ましい効果

2019-06-22 07:57:25 | その他
チェコ共和国が喫煙者による医療費の増加に歯止めをかけるためにタバコにたいする増税を検討しているのに対抗して、フィリップモリスがその国のタバコによる国家予算への影響を調査したところ、喫煙者は早死にするので、医療費や年金などの老後の社会保障費の支出が減少することになり、年間150億円もの支出が抑制できるので、結果的に国家財政に貢献しているという試算を発表したことがあるそうです。

だからタバコへの増税はする必要がない、という主旨を言いたいのでしょうけど、国民に早死にしてもらいたい、とういようなことは、誰もが受け入れられず相当な批判が起こり、その後、謝罪撤回したそうです。

現実としてタバコが多くの病気を作り出しているのは事実ですから、医療費の抑制に繋がるのは本当だと思うので、日本も他の先進国並みの値段になるまで増税して買える本数を少なくすることは社会に貢献できると思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓外科医の手術器具を持つ角度

2019-06-22 07:47:26 | 心臓病の治療



昨今の心臓外科手術においては、より小さい創から長い特殊な器具を使用して操作することも多いため、こうした手術の手技には写真のように器具をほぼ平行に持って操作する必要があります。狭いところに、限局されたワーキングスペースのなかで、三次元的な動きで操作する、しかも、動きが加わることも多く、まさに、四次元の手術とも言えます。

最近の若手ドクターは、そうした術野をシミュレーションしたようなフィールドを作ってバーチャルに練習していることもおおく、そうした一定時間以上のoffTHEjobトレーニングも専門医取得に必要になっています。

大事なのは脇を閉めて手を左右に出来るだけ開かずに構える。まさに、武道に通じる構えです。構えを見ればどのくらいの猛者かわかる、これは、外科医にも共通するところだと思います。いわゆる、持針器の持ち方をみれば、出来る外科医かどうかわかるものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

MICS-CABG:左小開胸心拍動下冠動脈バイパス術のクラフト採取

2019-06-21 17:57:40 | 虚血性心疾患


左小開胸の冠動脈バイパス術=MICS-CABGは、写真のように左の小開胸から特殊な長い手術器具を使って内胸動脈を剥離し、それを冠動脈にフンゴウする特殊な手術で、特に左内胸動脈を前下行枝を繋ぐものをMID-CABと呼び、複数のバイパスするものをMICS-CABGと使い分ける場合もあります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

左室や左房の拡大のない重症僧帽弁閉鎖不全症 = Acute MR

2019-06-21 05:49:34 | 弁膜症
 突然発症した重症の僧帽弁閉鎖不全症は、しばしばAcute MR(急性僧帽弁閉鎖不全症)ともいわれ、突然発症して重症化する心不全を呈することが多く、緊急手術の対象となる病態です。
 この場合、緩徐に発症、進行する僧帽弁閉鎖不全症と違って、代償して変化する左室や左房の拡大を認めず、左房、左室は小さいままであることが一つの特徴です。それ以上に、重症の心不全を呈し、しばしば呼吸不全から気管内挿管を必要としたり、循環不全に対してIABP(大動脈内バルーンポンプ)やPCPS(経皮的心肺補助装置)などの機械的循環補助装置を必要とします。
 こうした病態を呈する疾患の代表格は、急性心筋梗塞後に発症する乳頭筋断裂や乳頭筋機能不全により突然発症する僧帽弁閉鎖不全症です。特に乳頭筋が断裂すると、多くの腱索および、それに伴う広範囲の僧帽弁の弁葉の領域が逸脱して重症の僧帽弁逆流が発生するため、心原性ショックを呈することが多い病態です。
 それ以外に、腱索断裂で、突然広範囲の僧帽弁逸脱が発症した場合も同じような病態になりえます。

 急性心不全を呈する僧帽弁閉鎖分症の患者さんが搬送されてきた場合、特に左室、左房が拡大していない場合は、このAcute MRの可能性を考慮し、緊急手術が必要か、もしくは準緊急、または入院中比較的早期の僧帽弁形成術や僧帽弁置換術を考慮する必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

TAVIとSurgical AVR(SAVR)の比較 = 効率としてはTAVIはSAVRの1/3

2019-06-20 06:20:35 | 心臓病の治療
 開胸して心停止下に行う従来の大動脈弁置換術(Surgical AVR = SAVR)に対して、最近症例数が増加している経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI = Transcatheter Aortic Valve Implantation)は、低侵襲で、通常の弁置換術がリスクが高くて困難な患者さんにも適応できる画期的な方法です。特にヨーロッパに関しては、患者さんの嗜好によってTAVIが選択されることが増加し、最初はハイリスク症例に限って行われたTAVIも、現在は中程度のリスク、また低リスクの症例にも実施されるようになり、最近は低リスクの症例に行ったTAVIにおいても従来の弁置換術と成績は変わらない、との論文もメジャーな医学雑誌に掲載されるまでになっています。
 
 日本においては心臓血管外科と循環器内科、その他の職種も加わったハートチームで適応を協議し、従来の弁置換術を行うには危険性が高い症例に限って行われているはずですが、最近は患者さんの嗜好なども加わって、歯止めがかからずにどんどんTAVIの症例が増加しているようで、とうとう2018年はTAVIの件数が、単弁の大動脈弁置換術の件数を超えたそうです。
 しかしながら、ハイリスク患者においてもTAVIとSVARの成績(死亡率や合併症の発生率)は変わらないとも言われています。

 今後、ますます低リスクの症例に適応されていく傾向になると思われますが、通常の弁置換術の入院・手術の費用が約400万円であるのに対し、TAVIは挿入するデバイスの値段だけで480万ほどもかかり、入院・治療費は弁置換術の1.5倍の約600万円かかります。しかも、人工弁置換した場合は最近は20年くらいはもつと言われているのに対し、TAVIは何年もつのかというと、同じような生体弁にもかかわらず、10年以下ではないか、と一般に言われており、1.5番のお金をかけて、弁置換の半分の期間しか持たない、ということになります。要するにTAVIはコストパフォーマンスから考えると従来の弁置換術の3分の一しかない治療といえます。

 これを考えると、入院費が弁置換の四分の一である150万円ほどになって初めて同等と言えるのであり、それにはTAVIのデバイスの値段が現在の10分の一くらい妥当といえます。もちろん、TAVIを実施するには高額なハイブリッド手術室などの設備投資や、ハートチームなどの多くの人件費がかかっており、治療費の8割がTAVIのデバイス代に持っていかれて経営的にはマイナス部分が多いのも事実と思われますが、医療は自動車の修理の際の工賃とは違って、その質の維持に十分な評価が与えられるべきと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

MICS:右小開胸による大動脈弁+僧帽弁手術の適応とコツ

2019-06-20 00:18:49 | 弁膜症
 低侵襲手術=MICS(Minmally Invasive Cardiac Surgery)として、昨年から弁膜症における右小開胸手術の保険加算が認められるようになってから、各施設に今後普及していくと考えらますが、未だ大動脈弁の僧帽弁の同時手術が応用編といってもいいと思います。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科ではこの一年間で3例の大動脈弁+僧帽弁の右小開胸アプローチによる同時手術を経験しました。この手術のキーは、僧帽弁の手術をいかに確実に一発で決めるかどうかにかかっています。確実の僧帽弁形成を完遂できると判断した症例を適応にする、ということが重要です。3例中2例は弁輪拡大に対するCG Future人工弁輪による弁輪縫縮で、1例は後尖(P3)の部分的な逸脱に対するResection & Suture+MEMO3D人工弁輪による弁輪縫縮で確実に逆流停止が得られました。正中切開のアプローチ同様に水テストによる逆流試験を行うために最初に大動脈弁を閉鎖しておりますが、確実に弁縫縮だけでいい症例は、この大動脈弁閉鎖の手技と逆流テストを省略しています。それよりも手技の合間に行う選択的冠動脈注入による心筋保護を確実に行うことを重視しています。三尖弁を操作しない二弁手術の場合は、右房切開による逆行性心筋保護は行わず、選択的注入のみの方が、術野がBusyにならず、手術時間も短縮できるようです。僧帽弁捜査中に1回、心筋保護を注入する際は、僧帽弁視野確保に使用したRetractorを一度はずす必要がある為、弁輪の糸かけが終わったタイミングにしています。そのあと、人工弁輪を縫着し、左房切開を閉鎖するのに約20分かかりますので、左房閉鎖後、大動脈弁の操作にうつったときに、次の心筋保護のタイミングとなります。大動脈弁の操作時は、糸かけが終わるかその途中に一回、人工弁に糸かけをして降ろす前に一回、弁の縫着が終わり大動脈切開閉鎖前に一回、とだいたいペースが決まっています。この決まったペースで確実に手技が終わる症例に対して、この小開胸手術を適応している、という点が重要と思います。
 また、大動脈切開の閉鎖も決して出血しないように閉鎖する確実な手技が求められます。
 3例のうち一例は透析患者さんでしたが、高齢のため生体弁を選択しました。僧帽弁を形成で確実に終わり、大動脈弁は抗石灰化処理が施されたより長期の使用が可能と推測される生体弁(Inspiris 23mm)を縫着しました。将来、透析患者さんにも経カテーテル的大動脈弁位人工弁留置術(TAVI)が適応になれば、こうした生体弁使用した透析患者さんが人工弁機能不全となっても次の手が残される、ということになります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする