大動脈弁逆流は大動脈から左心室に血液が逆流して心不全を起こす病気です。心臓外科医はこれを人工弁置換したり、場合によっては自己弁や自己心膜で形成して逆流を止める手術を行いますが、その際に、外科医が忘れがちなことがあります。また、そうした教育を受けていない外科医も多いということを最近になって改めて実感したので、教育する側の責任も重要です。
大動脈弁逆流の治療は、結果として逆流が止まっていればその後の心不全を予防できたり改善したりできますが、手術の際にも逆流はまだあるなかで治療をするので、たとえば麻酔をかけて心室細動になってしまう、人工心肺を開始したとたんに心室細動になって心臓が非常に張ってしまって手術操作ができなくなってしまう、ということがあり得ます。筆者の場合もお1000例以上の経験の中で2回ほど人工心肺開始と同時に心臓が張ってしまいすぐに心室細動になってしまってすぐに大動脈遮断が必要になった経験があります。大動脈弁逆流の症例はすぐに遮断しなければならない症例がある、ということを改めて外科医は肝に銘じておく必要があります。
また大動脈解離の手術で心尖部送血を行っているときに同様の事態に陥ったことがあります。ある程度の逆流であれば、左房左室ベントから血液を吸引して逆流の影響を減らせますが、それでも足りない場合は肺動脈ベントが有効場場合があります。循環停止できる温度まで冷却できるまで我慢しなければならない状況は外科医としては苦しいので、最近は心尖部送血は他の手段がない場合の限られた症例でのみ行っています。他の部位からの送血であれば大動脈遮断することで対処できます。
最近自分では経験していませんが、大動脈弁逆流の手術におけるトラブル症例について耳にしたので、あらためて再認識しました。