横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

Bentall手術中の出血に対する予防と対処

2022-03-30 17:37:50 | 心臓病の治療
 Bentall手術は、大動脈基部再建術の一つで、万が一術中に出血した場合は、冠動脈の再建部、大動脈基部の再建部など止血が非常に困難な場所を操作するため止血が非常に困難な手術でもあります。筆者が研修医の時、30年近く前になりますが、初めて手術に入れてもらったBentall手術を行なった二十代男性の手術は残念ながら止血が困難で手術当日に亡くなりました。
 基部からの出血はそれ以来遭遇したことはありませんが、出血の予防としてプレジェット付の糸で全周マットレス縫合とした上に3-0PPPの連続縫合を追加しています。実際に筆者が執刀したり指導した手術ではこれで出血を起こしたことはありません。もし感染している組織に縫着した場合は例外で、出血せずとも、術後に仮性瘤を形成する危険性があり、工夫が必要と考えられます。
 他の注意点はやはり、冠動脈ボタンの部位からの出血です。特に急性大動脈解離に対してBentall手術やDavid手術を行なう場合は、冠動脈ボタンの組織が解離していたり、冠動脈の内部にまで解離が及んでいる可能性があり、ここは脆弱になっている可能性があるためしっかり吻合する必要があります。吻合完成後に筆者は、出血しそうな部位をあらかじめプレジェット付のPPP糸を追加して止血を確実にすることで出血を予防しており、それによってここ数年、ここからの出血を経験していません。しかしながら止血指導に入った手術で、この冠動脈ボタンから出血を起こしたため、再度大動脈遮断し、バルサルバグラフトの遠位側の人工血管を離断し、左冠動脈ボタンの緩んだ縫合糸を締め直しながらうまく止血できた症例を経験しました。バルサルバグラフトを離断することで、良好な視野を確保でき確実な止血手技が可能となります。もし、大動脈基部側からの出血がある場合は、躊躇せずに再度遮断して人工血管を離断し確認する勇気を持つことが肝要と考えます。
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EVの戦車ってないの?

2022-03-30 17:08:50 | 心臓病の治療
 せっかく世界各国で地球温暖化対策として電気自動車を推進する雰囲気になっているのに、ロシア軍が大量の戦車や装甲車など軍用車両を投入し、侵略戦争を仕掛けているのは、地球温暖化防止の観点からも逆行していて世界に対する暴挙といえます。
 戦車って建物を押しつぶしたり、他の乗用車なんかを踏みつぶしながら進めるようにもの凄いパワーが出せるように、その排気量は20000CCだったり、50000CCだったり、ダンプカーの何台分ものスケールだったりします。これ、燃費めちゃくちゃ悪いんじゃないでしょうか?戦車がリッター何キロ走るとかは知りませんが、戦争ってめちゃくちゃ地球環境に対しても悪ってことになります。
 せめて、電動化すれば・・・っていっても無理ですよね。
 戦争のない世界を作らないことには、地球温暖化対策も成功しないでしょう。
 ところで、日本の自衛隊が開発中の水陸両用車両ではおそらく世界初、フルEVの車両のものがあるそうです。平和を愛する日本国民としては世界に誇るべき平和と環境に配慮した軍用車両と言えるかも知れません。


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腹部大動脈瘤破裂に対する大動脈閉塞用バルーンの適応と注意点

2022-03-28 16:55:12 | 心臓病の治療
 基本的にAAA破裂のときのバルーン遮断は左肘から透視下に下行に落とすのが一般的で最も確実性が高く、大腿からのアクセスでは多くの場合は失敗するので、時間の無駄です。学会発表でも、時々大腿からアクセスして失敗しているのを見ますが、演者が失敗と認識してないのも見かけます。逆行性で唯一有効な可能性があるのは開腹して瘤からその上流に挿入する場合で、これは安達秀雄先生の教科書にも書いてます。
 もし、バルーンで遮断するにしても、腹部分枝閉塞のリスクがあるので、速やかに遮断鉗子にスイッチする必要があるので、やはり、開腹してからのバルーン遮断が理想とおもいますその意味で、バルーンを、開かずに留置だけしておき、血圧低下したらバルーンを膨らませて遮断する報告もありますが、開腹まで時間がかかる場合はやはり開腹の準備が優先されます。腹部大動脈瘤破裂に対する基本の手術手技が出来ている外科医によっては、やはり正々堂々と正面勝負が基本でしょうか。その前に心停止したら、救命をあきらめざるを得ないこともあります。
 EVAR(ステントグラフト挿入術)ファーストの施設も増えてきていますが、これは腹部大動脈瘤破裂に対する新しいスタンダードとしては有用と思いますが、デバイス、スタッフなど揃わないと時間的にオープンよりも時間がかかる可能性があるとおもいます。EVARの場合はバルーン遮断などせずにガイドワイヤーが通ったらデバイスのデプロイが優先になるので、やはり特殊な場合を除いてバルーン遮断はしないのではないかとおもいます。特殊な場合とは、血圧不安定でもう少しで輸血が到着する、輸血をある程度入れ込んでからメインボディをあげるなどの短時間の遮断の場合ではないかとおもいます。
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さくらヒラヒラ

2022-03-28 05:22:39 | 心臓病の治療
さくら一気に一日で満開になりました!横須賀市立うわまち病院の入り口のところのさくらです。徹夜で緊急手術の帰りに撮影しました
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MICS-MVPに関する脱血と僧帽弁視野

2022-03-23 16:12:15 | 心臓病の治療
 側方小開胸アプローチによる低侵襲僧帽弁手術においては、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では三次元内視鏡を利用した鏡視下手術を実施していますが、上下大静脈脱血にするにあたり、別個に2本の脱血管を入れる方法と、大腿静脈経由で2ステージの脱血孔がついた脱血管を上大静脈まで挿入し、上大静脈と下大静脈の両方で脱血出来るものを利用する二つの方法があります。
 後者の場合の利点は脱血管が1本で済むので、簡便で手術操作が少なくて済むことですが、右房内を太いシャフトの脱血管が横切って上大静脈に留置されるため、右側左房切開の天井部分を邪魔して左房内の展開が悪くなります。
 完全鏡視下手術では、内視鏡で見えれば問題ないという考えもありますが、視野不良下での手術はクオリティの低下や手術時間の延長リスクがあります。やはり、良好な視野での手術を最優先とすることが手術成功の鍵であり、手術のクオリティを維持する大前提となると思われます。
 横須賀市立うわまち病院では、2016年にMICSを始めたころには、基本的に直視下手術で2ステージの脱血管を採用していましたが、視野の悪さから別個に上大静脈に脱血管を入れる方式に変更しています。その後、三次元内視鏡を導入し僧帽弁操作部分を完全に鏡視下操作とするようになり、2ステージの脱血管でも操作が十分可能というエキスパートサージャンのすすめもあり、リバイバルしましたが、やはり視野の悪さは変わらない印象のため、上下の脱血管は分けて挿入する方が安全確実な方法であると確信しています。
 手術の鉄則はやはり、良好な視野、に勝るものはありません。
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ECMOにおける右腋窩動脈送血はCentral ECMOと同等か?

2022-03-23 08:44:08 | 心臓病の治療
 Central ECMOはECMO(PCPS)の送血路を大腿動脈ではなく、上行大動脈とすることで、冠動脈や脳に酸素化された血液を直接送血出来るというメリットがあり、肺水腫などで酸素化がうまくいかない動脈血を自己心の拍出によって心筋や脳に送血するデメリットをなくし、心機能の早期改善、脳保護が期待できる送血方法です。しかしこれには開胸して上行大動脈に人工血管を縫着するなどの過大な侵襲を伴うことになります。開胸手術と同時に行なうことでその侵襲は最小限となりますが、離脱する場合はやはり再度開胸する必要があり、その都度、縦隔炎などの危険を伴うことになります。
 もしこの送血路を右腋窩動脈とすることで同じ結果が得られるならば、より低侵襲なCentral ECMOが実現可能と思っていましたが、VADなどを専門としているドクター数名に効きましたが経験がなくわからない、やはり上行大動脈送血の必要がある、などの返答であまり積極的な解答が得られていません。今回の心臓血管外科学会総会でも同様の質問をしてみましたが同様でした。
 今回の胸部外科学会関東甲信越地方会で、当院から演題発表した際の座長の一人からは、右腋窩動脈送血の有用性についてのコメントを頂きましたが、もう一人の座長の先生からは、それは否定的なコメントも頂いたので、認知されるにはエビデンスの構築が必要ではないかと思われました。
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心室中隔穿孔のアプローチ

2022-03-21 16:18:36 | 心臓病の治療
最近の学会発表を見ると心室中隔穿孔=VSPに対する手術アプローチについては右室アプローチが一般的になりつつあるのでしょうか?基本的には梗塞心筋を切っても左室機能には悪影響を及ぼさないことから左室アプローチは利にかなっています。左室切開線の縫合部からの出血を恐れるあまり、最近は右室アプローチがメリットあるって話なのでしょうけど、梗塞を起こしていない右室を切開していいのか、また右室から距離がある左室の梗塞部位に針糸をかけて大丈夫なのか、という難点もあります。筆者の経験では左室アプローチでは出血に困ったことはなく、逆に右室アプローチで左室側からの止血に難渋した経験があります。結果がよければなんでもよいと思いますが、国内の中隔穿孔の手術成績は不良で手術死亡率50%から改善が診られていないのが現状です。筆者の個人の手術成績は死亡率10%程ですが、右室からのアプローチをする症例はかなり限られると思っています。
高位に穿孔部位がある場合は右房からのアプローチも一案です。右房からであれば心機能や出血の不安無く手術出来るので良好な成績が期待できます。しかし右房アプローチ可能なら症例は症例の1割以下しかないので、常にその目で患者さんを診て右房アプローチ可能な症例を見逃さないことが大切です。今回の胸部外科学会の地方会でもVSPの症例報告で画像からは右房アプローチ可能と思われる症例があり、もったいないっ!!って思ってしまいました。チャンスはそうそう回ってこないので、そうした少ないチャンスを逃さないことって外科医にとっては重要なことです。

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タルフェット

2022-03-21 16:05:15 | 心臓病の治療
オープンステントを挿入して弓部大動脈置換をその中枢側を行う術式が、一般的に行われるようになってきましたが、海外ではオープンステントというよりも、フローズンエレファントトランク=Frozen Elephant Trunkと言われているため、弓部置換のTotal Arch Replacement=TARと組み合わせてTAR FETと記載し、タルフェットって呼ばせようと言う動きがあるようです。ちょっと違和感がありますが、TAR+OSと今まで記載してきましたが、先日の心臓血管外科学会ではOSGと記載して苦言を呈されている人もいましたので、名称の記載や発言には注意が必要です。
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医師国家試験合格率100%

2022-03-17 01:48:50 | 心臓病の治療
 ○第116回医師国家試験結果について

  去る2月5日~6日の2日間にわたり実施された第116回医師国家試験に、
 本学からは125名が受験し、3月16日に合格者の発表がありました。
  母校の自治医科大学は、125名全員が合格(合格率100.0%)し、10年連続全国第1位の
 成績を収めました。
  合格した125名は、4月よりそれぞれの出身都道府県において、地域医療に
 従事することとなります。


 <受験状況>

  区分   受験者数  合格者数  不合格者数  合格率   全 国
                              合格率

  新卒       125名       125名        0名  100.0%     95.0%
  既卒   -           -            -          -         54.0%
  合計       125名       125名        0名   100.0%     91.7%


 <学校別合格率順位> 

  全国順位 1 位 

  1位 自治医科大学       100.0%
  2位 筑波大学医学群       99.3%
  3位 横浜市立大学医学部      98.7%
  4位 東京慈恵会医科大学   97.4%
  5位 東京医科歯科大学医学部     97.3%
コメント (3)
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The other side? Another side?

2022-03-01 01:39:47 | 心臓病の治療
 血管吻合においてsideの反対側のサイドは、another sideではなく、the other sideです。この辺、日本の英語教育では自分は教えてもらえませんでしたが、another sideというと別の血管の吻合部の横っちょ(サイド)という意味になり、the other sideというとこの吻合における反対側のサイドという意味になります。同じように、右手の反対側の左手(同じ人)はthe other handとなり、another handと言うと、他の人の手の意味になるそうです。最近になりようやくわかったことですが、みなさん、知ってました?
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