Bentall手術は、大動脈基部再建術の一つで、万が一術中に出血した場合は、冠動脈の再建部、大動脈基部の再建部など止血が非常に困難な場所を操作するため止血が非常に困難な手術でもあります。筆者が研修医の時、30年近く前になりますが、初めて手術に入れてもらったBentall手術を行なった二十代男性の手術は残念ながら止血が困難で手術当日に亡くなりました。
基部からの出血はそれ以来遭遇したことはありませんが、出血の予防としてプレジェット付の糸で全周マットレス縫合とした上に3-0PPPの連続縫合を追加しています。実際に筆者が執刀したり指導した手術ではこれで出血を起こしたことはありません。もし感染している組織に縫着した場合は例外で、出血せずとも、術後に仮性瘤を形成する危険性があり、工夫が必要と考えられます。
他の注意点はやはり、冠動脈ボタンの部位からの出血です。特に急性大動脈解離に対してBentall手術やDavid手術を行なう場合は、冠動脈ボタンの組織が解離していたり、冠動脈の内部にまで解離が及んでいる可能性があり、ここは脆弱になっている可能性があるためしっかり吻合する必要があります。吻合完成後に筆者は、出血しそうな部位をあらかじめプレジェット付のPPP糸を追加して止血を確実にすることで出血を予防しており、それによってここ数年、ここからの出血を経験していません。しかしながら止血指導に入った手術で、この冠動脈ボタンから出血を起こしたため、再度大動脈遮断し、バルサルバグラフトの遠位側の人工血管を離断し、左冠動脈ボタンの緩んだ縫合糸を締め直しながらうまく止血できた症例を経験しました。バルサルバグラフトを離断することで、良好な視野を確保でき確実な止血手技が可能となります。もし、大動脈基部側からの出血がある場合は、躊躇せずに再度遮断して人工血管を離断し確認する勇気を持つことが肝要と考えます。