横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心臓胸部大血管手術後の乳び胸

2019-03-31 21:19:00 | 心臓病の治療
 心臓胸部大血管手術で稀ではありますが、乳び胸が術後に発生することがあります。
 乳び胸は胸腔内に乳び=消化管から吸収された脂肪リッチなリンパ液が漏出する現象です。脂肪を含む食事をとると、乳びは白濁するので、通常のドレーンの排液とは違う、黄色くまたは牛乳を混じらせたように濁った排液がみられます。
 これは、消化管から吸収した脂肪分を腸管のリンパ管を通じて乳び漕から胸管を通じて、左静脈角に流入するルートで体循環に吸収する流れがあり、このルートのどこかで損傷をうけると、脂肪吸収した乳び液が胸腔内などに漏出する現象です。実際にはほとんどの場合は、左開胸の下行大動脈置換や胸腹部大動脈置換術の際に、大動脈の操作や周辺の剥離操作の際に、気づかずに胸管を損傷することで発生します。
 胸管の損傷の仕方も、完全断裂から、不完全の断裂、分枝の損傷などさまざまで、その漏出量によって、治癒するまでの期間も、排液量も差があります。排出量が胸水の吸収量を超えると、いつまでも胸水貯留が残存するということになります。
 まれに胸骨正中切開の症例でも乳び胸が発生することがあります。これは胸腺と胸管をつなぐリンパ管が損傷され、十分に結紮処理されていないときに発生します。

 乳び胸の治療は
① 脂肪制限食にして自然に停止するのを待つ
② 再開胸して外科的に損傷部位を結紮するなりして漏出部を閉鎖する(牛乳などを飲ませると、白濁したリンパ液が漏出するので、その漏出部を処理する)
③ リンパ管造影から損傷部位を同定し、胸管塞栓術を行う

①②は古典的な方法ですが、最近は放射線科の専門医による胸管塞栓術③の症例報告も少なくありません。胸管塞栓術のほうが低侵襲ですぐに効果がみられるので、有効な方法です。
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ルンバのトラッシュボックスの掃除

2019-03-29 16:42:41 | 心臓病の治療
 ロボット掃除機のルンバですが、最近はスマートフォンからの遠隔操作で留守中に掃除したり、出勤するときにスイッチを押して出ると、不在中に掃除が終わって非常に便利です。スマートフォンで実際に掃除をした床のマップを提示できるので、ほぼ床の全面をちゃんと掃除してくれる優秀なロボットと思います。この掃除ロボットの最大のメリットは不在中に掃除をしてくれることと思います。

 しかしながら、便利なロボットも掃除して回収したゴミがたまったトラッシュボックスは人間の手でごみを除去し掃除もしなければなりません。けっこう、細かい塵まで掃除するために簡単にゴミ箱に捨てられるわけではありません。このトラッシュボックス、フィルターなどをきれいにするのに、ダイソンの掃除機を使用しています。掃除機の掃除を掃除機で行う、なんか矛盾しているようにも見えますが、これがまた有効でもあり、おかしな行為でもあります。

 病院内の清掃もそのうちロボットで行うことが一般的になると思います。こうして人の仕事がどんどん少なくなってしまうのかもしれませんが、その掃除機のゴミ捨てや掃除、メンテナンスなどには人の手が必要であることは変わりません。人手が必要な仕事、内容はかわっていっても、今後も減らないと思います。
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第3回 心不全パンデミック講演会 小開胸大動脈弁置換術講演要旨

2019-03-29 05:48:25 | 心臓病の治療
第3回 心不全パンデミック講演会
 2019年3月6日 横須賀セントラルホテル

小開胸大動脈弁置換術の臨床経験

 高齢化社会が進む中、心不全患者数が激増することが予想されています。まるで爆発的に患者数が増加するような感染症の大流行の様相を呈することを表現して心不全パンデミックともいわれています。高齢化が進むことで増加する心不全の原因の中には大動脈弁狭窄症も大きなウェイトを占めると考えられます。特に65歳を越えると急速に大動脈弁の硬化が進み、患者数が増加すると言われており、心不全を繰り返して末期に至る病態や突然死など社会的影響の大きい疾患です。重症と診断された患者の予後は短く、5年生存率は約20%、2年生存率も約50%以下ともいわれ、肺癌やすい臓がん、食道がんのステージIIIb以上の進行した状態に匹敵する生命を脅かす状態ともいわれています。
 大動脈弁狭窄症がそうした末期癌と完全に違うのは、心臓の出口を阻む障壁さえ取り除いてしまえば、心機能が改善し、生命の危機を完全に回避できるという点です。手術する段階にもよりますが、完全に心機能が正常化し、何の内服薬も不要になることも不可能ではありません。しかしながら、病状が進行して左室機能が低下したり、高度の左室肥大を伴うまでに至った症例では、せっかく手術しても左室の機能障害が残存して心不全が遷延する、または手術自体のリスクが著しく増大する可能性もあります。よって、手術適応までに至った大動脈弁狭窄症はそうした末期状態に至る前に治療を受けるべきです。
 大動脈弁狭窄症の治療は根本的には人工弁と置換することです。従来の方法では胸部の正中に20cm前後の皮膚切開をおき、胸骨を離断して開胸操作を行うのが一般的です。最新の低侵襲な大動脈弁置換術の方法として、右小開胸でおこなう方法が試みられるようになってきました。胸骨を切らないことで、胸骨骨髄炎やそれに続発する縦隔炎が発生しない、胸骨を離断することで起こる術後の呼吸不全やリハビリテーションの遅延が起こらない、という点から低侵襲で早期回復を期待できる術式として学会でも注目を浴びています。2018年4月より小開胸による低侵襲の内視鏡補助下弁膜症手術に対して新たに保険診療上の加算が認められるようになり、今後、こうした小開胸手術が発展していくものと考えられます。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、2009年の開設以来、小開胸の低侵襲心臓手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)を県内でもいち早く導入し、2018年の心臓胸部大血管手術110件中、41例(37%)において、MICSを実施し、県内で最も高い頻度で適用しています。特に大動脈弁置換術や冠動脈バイパス術に対するMICSは現時点ではおそらく県内で唯一の標準術式として採用する実施施設です。
 大動脈弁置換の適応は、通過速度4m/秒以上の有症状の大動脈弁狭窄症や、左室拡大を伴う大動脈弁閉鎖不全症ですが、特に80歳以上の患者さんに対しては、より加齢によってリスクの高くなる前に、重症化する前に、早期に手術を行うこともあります。高齢の患者さんが増加しているため、9割以上の患者さんに対して生体弁を移植していますが、日本のガイドラインでは65歳以上は生体弁が推奨されています。最新のアメリカのガイドラインでは70歳以上は生体弁、50~70歳は患者さんの希望も考慮して選択することを推奨しており、生体弁の選択の幅が今後ますます大きくなると考えられます。これは患者さんの高齢化ということに加えて、生体弁の耐久性が向上し、20年近く再移植が必要ない可能性が高くなっているからとも言われています。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科で採用するMICSによる大動脈弁置換術の方法はStonehenge法という慶応大学の山崎講師が考案した方法で、腋窩の小開胸から心膜を右胸腔に引き寄せることで、大動脈弁を心臓ごと胸壁に近寄せ、手の届く範囲で大動脈弁置換をおこなう方法です。この方法では、MICS専用の長いシャフトの鑷子や持針器などの手術器具が不要で、縫合糸の結紮もすべて術者の手だけで可能です。このため手術の導入にあたって特殊な器具をそろえる必要がありません。Stonehenge法を適応できる症例は、心機能良好、上行大動脈径45mm以下で性状が良好、肺の癒着がない症例で、また、適応から除外するのは、左室駆出率50%以下の低左心機能、高度の肺障害(分離肺換気不能)、肺の癒着が予想される症例、間質性肺炎、上行大動脈の拡大や性状不良、胸壁から大動脈弁が15cm以上ある症例です。うわまち病院で2018年に実施した大動脈弁置換術20例のうち、8例(40%)でこのStonehenge法を採用し、全例合併症なく経過良好で退院しました。特に80歳以上の高齢者においては、術後の回復が速いことが特に実感できます。また右小開胸の適応が困難な症例に対しては、胸骨部分切開により従来の手術層の半分以下のサイズで正中からアプローチする方法を採用しており、こちらもまた早期回復が見込める術式です。
 心不全パンデミックと言われ、心疾患の患者数が激増する時代、心臓血管外科領域においては、より低侵襲な手術方法が今後も進化し、合併症が少なく早期回復を可能とすることで、在院日数の縮小、適正な医療資源の配分がなされていくものと考えられます。


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高齢者の誤嚥・起きて当たり前

2019-03-28 22:47:07 | 心臓病の治療
 高齢者が誤嚥、窒息して亡くなるという事故のニュースは後をたちません。毎年正月には餅を喉に詰まらせて亡くなるお年寄りがたくさんいらっしゃるようで、ニュースでも報道されます。最近は高齢者施設でドーナツを誤嚥して窒息して亡くなった事例に対して、介護職員の業務上過失致死の有罪判決から罰金二十万円というニュースを聞き、衝撃を受けました。もちろん、誤嚥するかもしれない食物を与えたことがきっかけかもしれませんが、他の食物ならいいのか、許可された食物なら誤嚥してもいいのか、など数多くの疑問が残る判決となりました。そもそも、裁判所とは医療における事例においては公正さというよりも、弱者目線での救済的な感情で判決することが多いようで、必ずしも正義・正しい判決がされないことがしばしばあります。

 さて、、この誤嚥ですが、高齢者なら非常におこりやすい。心臓血管外科で手術を受ける患者さんも、ご高齢の方が非常に多いので、誤嚥や痰詰まりなどは日常的に起こりうる、周術期の最も恐ろしい事故といえます。手術のせいで誤嚥や痰詰まりを起こす・・・この因果関係が証明されることはありませんが、一度発生してしまうと、周術期管理がゼロになってしまいます。

 このことを踏まえて、発生しないような細心の注意と、安全と判断するまでICU管理を継続することにしています。手術後に人工呼吸器から離脱した後には、飲水のテストを行ってから水分、食事の摂取を開始しますが、危険のある患者さんには耳鼻科医、言語療法士に診察してもらい、食事の選択の指示などをうけながら経口摂取をゆっくり進めていくこととしています。過剰な周術期管理、ICU滞在期間の長期化と言われても、患者さんの安全を最優先にすることが重要と考えています。
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腹部大動脈瘤術後の腸管虚血

2019-03-28 22:11:27 | 心臓病の治療
 心臓血管外科手術後に発生する腸管虚血、多くはNOMIと言われる非閉塞性の腸管の血流障害で、血管のスパスム(血管攣縮)が原因と考えられています。高齢者、腎機能障害、人工心肺の手術後に発生しやすく、必ずしも心臓手術後でなくとも、自然に発生する場合もあります。

 腹部大動脈瘤術後に発生する頻度は0.3%ほどと考えられますが、過去に発生した症例を検討した結果、特に優位さをもって発症頻度が高いのが、80歳以上の高齢者と緊急手術症例でした。

 腹部大動脈瘤術後(もしくは術中)に腸管虚血が発症するメカニズムとしては、

①最も多いのは、主にS状結腸領域の、術中の低還流による腸管粘膜の虚血による下血です。S状結腸壊死に陥れば腸管切除術の追加、人工肛門増設がひつようになります。S状結腸は腸管の中でも最も虚血頻度の高い部位であり、術中、術後の血流低下、積極的な試験開腹などで対処可能なことが多いです。

②NOMI 非閉塞性腸管虚血(Non-Obstructive Mesenteric Intestinitis)で、動脈硬化の強い、高齢者に対して発症を監視します。

③遮断部位からの血栓塞栓(逆行性)
 などが考えらえます。
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腹部大動脈瘤手術における腎動脈再建

2019-03-27 23:13:33 | 大動脈疾患
腹部大動脈瘤手術においては腎動脈との位置関係が重要で、腎動脈にかかる腹部大動脈瘤の場合は難易度もあがり、またその手術戦略の検討は重要になります。

まずは腎動脈の上で遮断するかどうか、腎動脈の血流を一時的に遮断するかどうか、という問題があります。

一時的に遮断を腎動脈上でおいて、腎動脈下で人工血管と吻合する場合は、遮断中の時間が腎虚血の時間であり、可能であれば冷却した生理食塩水か乳酸加リンゲルなどを還流することで腎保護をはかるというのが一般的です。

しかしながら、腎動脈を再建する場合は、人工血管の中枢側吻合をおき、そのあと、腎動脈の血流再建を行う必要があり、単なる冷却水の還流だけでは不十分です。その間の約1時間前後の間、腎臓の保護を目的とした腎還流が必要になります。

腎血流の維持目的の還流の方法は
①腋窩動脈に人工血管を縫着し、その血流を導いて腎動脈に直接還流する方法。自己の血流を使うため、ポンプなどの装置不要という意味で低コスト。人工血管を縫着せずとも、送血管などのカニュレーションを行い、そこから脱血するという方法もあります。

②PCPSまたは人工心肺 : 代替静脈経由右房脱血 ⇒ FA送血しながら分岐させたルートで腎動脈の還流を行う。

こうした方法をあらかじめ検討しておく必要があります。
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左心室の部位名称について

2019-03-26 07:46:07 | 心臓病の治療
左心室の位置の名称について
① 心尖部 心臓の先っぽに近い部分
② 心基部 房室弁輪に近い部分 心房より
③ そして、心尖部と心基部の間の部分を、心室中部、と呼ぶようです。

心基部に関しては、心エコーでいう、僧帽弁後尖の裏側あたりをイメージ的には示し、いわゆる高位後壁梗塞のときに壁運動異常を呈する部位という印象です。

心尖部は、たとえば、タコつぼ型心筋症のときには、心尖部付近の壁運動異常が起き、心基部側の収縮は良好、というようなときにも使用されます。
心尖部送血、心尖部脱血、TAVIの心尖部アプローチのときには、本当の心尖部よりも前壁より、第二対角枝と前下行枝の間の三角形の部分に操作します。また右室の心尖部は、パースメーカーの心室リードを留置する場所です。

こうした使い方のなかで、心室中部は、Mid-ventricular postionとも言われ、心エコーでいう、乳頭筋レベルの位置の表現と思われます。閉塞型肥大型心筋症では、左室中部の流出路狭窄(Mid ventricular obstruction)という表現をします。

ということで、本日のうわまち病院の心エコーカンファレンスで、心尖部と心基部の間の部分はなんというか、という議論になったので調べてみました。

ちなみに、横須賀中央にある「鳥良」という焼き鳥屋さんで「ハツモト」の照り焼きというメニューがあり、ハツモト=心基部という意味だと思います。焼き鳥のハツは、おそらく、心尖部と心室中部の部分を焼いたもので、ハツモトの部分は除去されていて、普段は食べられずに処分されているのかもしれません。
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TAVI(経カテーテル的大動脈弁設置術)における重篤な有害事象

2019-03-24 09:48:31 | 心臓病の治療
https://www.m3.com/clinical/news/621220?portalId=mailmag&mmp=EX190320&mc.l=411527136&eml=2dd15c4e2fc245777014c355a8441a39
TAVI用生体弁に重篤有害事象の注意喚起
PMDA、「弁輪破裂」など複数報告で適正使用依頼

 医薬品医療機器総合機構(PMDA)はこのほど、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)用の生体弁使用で重篤な有害事象が複数報告されているとして、適正使用を求める注意喚起を発した。報告されている有害事象は弁輪破裂や弁周囲逆流、アクセス血管破裂など。PMDAでは添付文書を確認の上、十分なリスク評価や総合的判断を行うよう求めている。
 TAVI用生体弁の使用については、製品の重要な基本的注意などで、破裂などの合併症が予測される弁輪の高度石灰化病変や狭小なアクセス血管に関する記載はあるが、重篤な有害事象の報告が後を絶たないという。
 弁輪破裂を来した事例では、自己弁輪径が大径と小径があるTAVI用生体弁の中間径だったため、大径サイズを選択。大径のTAVI用生体弁は問題なく留置されたが、デリバリーシステムを抜去した際に血圧低下と心タンポナーデ、大動脈基部などの解離が認められたことから、開胸術に移行した。
 別の事例では、無冠尖と左冠尖に石灰化を認める病変に対してTAVI用生体弁を留置したものの、無冠尖から弁周囲逆流が認められ、心不全が悪化したという。
 PMDAは、報告された有害事象は適切な術前診断などによって回避可能なケースもあるとして、TAVIを検討する際は治療に携るスタッフと複数で患者の危険因子を評価し、必要な準備をした上で、慎重な手技、もしくは他の治療法を選択するなど、総合的に判断するよう求めている。


とネットでのニュース記事。


 今後も、カテーテル治療による心臓手術は発展していくものと考えられますが、未だ利点と不利な点があったりするので治療法の選択にはいずれにしろ慎重になる必要があります。TAVIは心臓を停止させなくてすむ、開胸しなくて済む、という低侵襲性からますます頻度が増加するものと考えられますが、その問題点として、
①脳梗塞の頻度が高い(軽度のことが多い、と言われている)
②弁周囲逆流が残りやすい(軽度のことが多い)
③バルサルバ洞の破裂が起きたときには致命的になりやすい
④心尖部や大腿動脈周囲など、カテーテル挿入部位の出血のトラブルが発生する可能性がある
④留置した生体弁の耐用年数が短い
などがあげられており、今後、技術的進歩によって少しずつ解決していくものと思われます。
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横須賀市立うわまち病院心臓血管外科開設の意義

2019-03-23 01:06:27 | 心臓病の治療
 平成21年4月に開設する心臓血管外科について

 平成19年度のうわまち病院循環器内科の心臓カテーテル検査及び治療の症例数が約1,500件、心臓血管外科に該当する患者を他院へ転送した例は60件を超えていました。特に緊急症例の多くは湘南鎌倉総合病院へ転送していました。緊急手術が必要な患者を転送することは、患者に過大な負荷をかけることになり、横須賀・三浦半島地域の市民により迅速で安全な高度医療を提供すべく、この度の心臓血管外科の開設計画に至りました。
 
 横須賀市・三浦市には、横須賀共済病院が診療科を開設し、当時は常勤医が2名在籍しているのみで、他の地域では葉山町に葉山ハートセンター、横浜市南区や金沢区では横浜市立大学附属病院、神奈川循環器呼吸器病センター、横浜南共済病院、鎌倉市では湘南鎌倉病院が開設しているものの、この横須賀・三浦半島医療圏では心臓血管外科の医師不足は深刻な事態であると考えられました。日本の人口に占める年間の心臓血管外科対象患者は53.4万人を超え、横須賀市・三浦市の人口を47万人として換算した場合、年間患者数は約200人になります。
 横須賀共済病院では全ての患者を治療できず、葉山ハートセンターや横浜市立大学附属病院、湘南鎌倉総合病院は遠方である理由から、緊急を要する心疾患患者を内科的治療だけでなく、外科的に治療するためにも、当院が心臓血管外科を開設する意義は重要であると考えられました。

心臓血管外科を開設している近隣の医療機関
施設名 常勤医 直近の手術件数
横須賀共済病院 2名 50件 (H6~H19実績1,173件)
葉山ハートセンター 4名 279件 (H19年度実績300件)
横浜南共済病院 4名 (30~45件) (H19年度実績)、『病院の実力』ランク外
神奈川循環器呼吸器病センター 3名 68件 (H19年度実績200件)
横浜市立大学附属病院 4名 91件 (H19年度実績未公開)
湘南鎌倉病院 3名 136件 (H19年度実績180件)
※読売新聞『病院の実力(2008秋)』、( )内は各施設のホームページより

 こうした実情から心臓血管外科開設後10年が経過しております。やはり10年してようやく地域に根付いてきた実感が、特に開設当初に手術した患者さんとお会いするたびに湧いてきます。
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うわまちstyle2019 うわまち病院心臓血管外科の特徴・紹介

2019-03-21 10:06:52 | 心臓病の治療
横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科

 心臓血管外科は2009年に開設されて以来、横須賀を中心とする三浦半島地域の心臓血管外科診療の一翼を担ってきました。10年が経過し、地域の医療機関の皆様に支えられて、たくさんの紹介を頂き、これまで2000件以上の心臓血管外科手術(約1000件の心臓胸部大血管手術)を行ってまいりました。
心臓血管外科として、現在力を入れている項目として、
① 緊急症例に積極的に対応する
② 小開胸手術やステントグラフトなど低侵襲治療を積極的に行う
③ 心臓血管疾患の予防、早期発見の啓蒙
です。
心臓血管外科における緊急手術の代表は急性大動脈解離です。現在のスタッフ体制になってからの急性大動脈解離手術における救命率は3%ほどで、全国平均を大きく下回っています。これは10年前に比較して約半分の時間でおわるほど手術時間の短縮化が可能となっており、これは人工血管の改良や手術技術のノウハウの蓄積が関係しています。
低侵襲治療において、特に近年増加しているのは、右小開胸による弁膜症手術や、左小開胸による冠動脈バイパス術など、いわゆる低侵襲心臓手術が増加している点です。当院では2013年より導入し、現在では開心術の3割以上の症例に適応しており、神奈川県内では最も高い頻度と症例数を行う施設の一つとなっています。特に、右小開胸による大動脈弁置換術や、左小開胸による冠動脈バイパス術は未だ県内ではほとんど行われていませんが、術後の回復、合併症の少なさが明らかに従来の手術方法と異なるため、対応可能な患者さんには積極的に適応しています。
心臓血管疾患の予防、早期発見の為、積極的に大動脈疾患や心臓疾患などのスクリーニングを行い、特に大動脈疾患の家族歴のある患者さんには大動脈のスクリーニングを進めております。大動脈瘤や大動脈解離では、親や兄弟が発症している場合は、同じ病気にかかる確率が通常の3倍とも言われています。循環器疾患をお持ちの患者さんのスクリーニングだけでなく、家族歴のお持ちの方にも積極的にスクリーニングすることで突然発症し死亡率の極めて高い大動脈疾患の緊急手術を少しでも減らせれば、と願っています。
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セファゾリンの供給停止による心臓血管外科への影響と周術期感染対策

2019-03-21 06:23:27 | 心臓病の治療
 心臓血管外科における周術期感染対策として最も重要なターゲットは他の人工物を扱う診療科と同様に黄色ブドウ球菌です。この、黄色ブドウ球菌に対する抗菌力が最も強い薬剤と言われているのが、セファゾリンであり、毎日使用している非常に重要な薬剤です。この薬剤がいま、製造過程の異物混入の影響で供給制限が行われています。日常診療にとって非常に重要な問題ですが、横須賀市立うわまち病院ではいち早くこの対策を感染対策委員会で討議し、病院全体で対処していくことにしています。

 周術期感染対策をより一層強化すると同時に、代替薬としてはセフトリアキソンを採用することにしています。この代替薬は診療科ごとに変更しています。セフトリアキソンに変更することで投与回数の減少によるコメディカルの仕事を減らすことができる反面、より広い抗菌作用により、耐性菌増加の原因にならないか、という不安もあります。

 また、横須賀市立うわまち病院では手術患者全員の術前保菌検査として、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の鼻腔培養とVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の便培養検査を行っており、陽性者には周術期の抗生物質変更や、場合によっては個室隔離など対策を行っています。
 しかしながらこの抗菌薬の使用制限があっても周術期感染が増加することがないようにより一層の対策を行っていくことが必要です。
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第113回 医師国家試験合格率

2019-03-19 21:18:21 | 心臓病の治療
http://www.jichi.ac.jp/medicine/about/statistics.html


筆者の母校である自治医科大学は、今年の医師国家試験合格率が新卒100%で、既卒の1名は再度不合格だったようですが、合計99.2%の合格率で7年連続で日本一になったようです。医師国家試験合格率だけが全てではありませんが、過去の医師国家試験合格率で圧倒的に最も多く1位になっているのにはいろいろ理由があります。特に学生が優秀ということではなく、1位になるべくしてなっています。

皆さんの税金で勉強させてもらって医師の資格を頂いているので、もう少し認知度が高くなって欲しいです。
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非閉塞性腸管虚血

2019-03-17 13:10:35 | 心臓病の治療
腸管を栄養する動脈がスパスム(攣縮)を起こして腸管の血流障害がおこる重症の病態。原因不明ですが、心臓血管外科手術後に発生することがあり、一度発生すると死亡率が高い。透析患者など、特に動脈硬化が強い患者さんで起こりやすい。心臓手術後以外に特に誘因なく発生するともある。

自治医大さいたま医療センターでは、いち早くその対策に取り組んできており、ハイリスク患者の同定と、術中術後の予防、診断と対策などシステマッティックにマニュアルをつくって。対応してきました。

これによって疑い症例も早期に対策され、救命率が向上しています。

しかしながら、一度壊死した腸管からは、腸内細菌が血液中に容易に移行して敗血症、多臓器不全を呈するため、完全な対策が難しいのが現状です。

具体的には、NOMIbundleとして、
75才以上、腎機能障害、大動脈弁狭窄症に対して、

術中からプロスタグランジンの持続投与、早期の輸血、十分な循環血液量確保、不用意なカテコラミン使用を控える

などを行い、

術後は頻回にラクテートを測定し、上昇が見られた場合は造影CTと放射線科コンサルト、腹部血管造影、血管拡張薬の選択的持続動注、試験開腹などを積極的に行います。
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心臓外科医の往診・外科医の機動力

2019-03-16 07:22:08 | 心臓病の治療
主に紹介された患者さんを診療することが多い心臓血管外科ですが、専門医として相談された場合は、特に入院中などは積極的に往診しています。昨日も近隣の病院から、大動脈解離の患者さんの相談を受け、お話を聞く限り、保存的治療の可能性が高いと思われたため、まずは往診して患者さんの病態を把握し、患者さん、ご家族への説明、今後の治療方針などについてアドバイスしてきました。これにより、無駄な患者さんの移動などないようにしています。以前、大動脈解離を疑われて救急搬送されたのに、診断が違って長距離の不必要な移動をさせてしまった経験があります。CT画像を一瞥するだけなら、今は携帯電話で簡単に画像転送も出来ます。それですむ場合も少なくないのですが、実際に患者さんを診る必要がある場合は、移動可能な範囲で機動力を活かしてドクターの方が動くほうが効率的な場合も多々あります。こうした往診は大動脈疾患のことがほとんどです。

かつて、僻地の病院で積極的に訪問診療や救急の現場出動していた経験が身に付いているためかもしれませんが、地域の医療機関や患者さんとの結び付きを強めるためにも、こうした機動性は重要と思います。

しかしながら、最近は心臓血管外科医以外のドクターにも大動脈疾患や血管疾患の知識が普及してきて、診断や病態な把握が的確な事が多くなっていることも実感します。
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心臓外科医の往診・外科医の機動力

2019-03-16 07:07:16 | 心臓病の治療
主に紹介された患者さんを診療することが多い心臓血管外科ですが、専門医として相談された場合は、特に入院中などは積極的に往診しています。昨日も近隣の病院から、大動脈解離の患者さんの相談を受け、お話を聞く限り、保存的治療の可能性が高いと思われたため、まずは往診して患者さんの病態を把握し、無駄な患者さんの移動などないようにしています。以前、大動脈解離を疑われて救急搬送されたのに、診断が違って長距離の不必要な移動をさせてしまった経験があります。CT画像を一瞥するだけなら、今は携帯電話で簡単に画像転送も出来ます。それですむ場合も少なくないのですが、実際に患者さんを診る必要がある場合は、移動可能な範囲で機動力を活かしてドクターの方が動くほうが効率的な場合も多々あります。こうした往診は大動脈疾患のことがほとんどです。

かつて、僻地の病院で積極的に訪問診療や救急の現場出動していた経験が身に付いているためかもしれませんが、地域の医療機関や患者さんとの結び付きを強めるためにも、かうした機動性は重要た思います。
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