横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

2021年はMICS-CABG元年

2021-12-02 08:40:29 | 虚血性心疾患
 2021年は新型コロナウィルスパンデミックの影響で学会活動が低迷していたのが開け、冠動脈外科学会から現地開催の学会がはじまり、MICS-CABGに関連するセッションも開かれるようになってきました。まさにMICS-CABG元年とも言える一年ではないでしょうか。これから一部のエキスパートが行なっていたMICS-CABGが一般の医療機関でも行なわれるかどうかの岐路になる一年のように思います。そうした中で、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科も可能な症例はMICS-CABGを積極的に採用していきたいと考えております。
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LITA-LADから始めるMICS-CABG

2021-10-27 20:39:01 | 虚血性心疾患
 12月4日にMICS-CABGのウェビナーがあり、この中で、横須賀市立うわまち病院での経験をお話する機会を与えられました。題名は、LITA-LADから始めるMICS-CABG、です。
 左小開胸アプローチからの冠動脈バイパス術は、左内胸動脈(LITA)を剥離、採取して、左前下行枝(LAD)に吻合する、このLITA-LAD吻合が基本となります。特にLITAを採取することが手術におけるもっとも重要なキーです。LADへの吻合自体は左開胸では脱転をほとんどしないため安定した視野での吻合操作が可能で、正中アプローチよりもやりやすい場合も少なくありません。LITAをいかに損傷なく確実に採取するかにかかっています。
 そしてこのLITAーLAD吻合がうまくいって初めて多枝MICS-CABGが現実のものとなります。
 ウェビナーでは、MICS-CABGを始めるにあたって最も重要なLITAーLADを基本に、それが確立してから、徐々に応用編である多枝バイパスなどへ発展させていく過程、工夫についてお話させていただく予定です。
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Redo MICS-CABG②:RCA領域への再血行再建

2021-07-31 04:58:46 | 虚血性心疾患
 Redo CABG(再CABG=冠動脈バイパス術後の狭心症再発に対する再CABG)を右冠動脈に血行再建必要な患者さんについて、今日の症例ですが、他の施設の症例について電話で相談されました。画像などを拝見した訳ではないので、最適な手術方法がどういったものなのか、正確には返答できませんでしたが、実行可能なアプローチを採用するということが重要なのは間違いなく、開存する既存のクラフトを損傷しないアプローチがやはり最重要です。

 もし、ターゲットの右冠動脈がCTO(完全閉塞)で還流域の広い血管ならin situ(中枢吻合が不要)で使用出来る右胃大網動脈は最適なクラフト(バイパスに使用する血管)です。お電話ではあまり良く考えず、横隔膜越しの難しい吻合しか想定しませんでしたが、もし、#2(右冠動脈本幹で右房壁に沿って走行する部分)へ吻合でいいのなら、当施設なら第5肋間の小開腹で右開胸し、右胃大網動脈を右胸腔内に誘導し、心臓を剥離することなくバイパス出来るこのアプローチを採用します。もし、4AV(房室枝:回旋枝領域に近い部位)への吻合なら第5か第6の左開胸でアプローチします。いずれも、側方開胸なら、視野が悪い場合、肋骨弓を切って創を大きくすれば簡単に末梢吻合が可能になります。4PD(後下行枝:心臓可壁の中心部)に吻合の場合は横隔膜越しに吻合することは難しい場合が多いのですが、最初に覗いてみて難しければ肋骨弓を切って左開胸に創を延長すれば露出、吻合が簡単になります。正中アプローチよりは遥かに安全で合理的なアプローチです。右胃大網動脈が使えない場合は#2への吻合なら右内胸動脈を右小開胸で採取して使うというオプションがあるのと、長く採取した大伏在静脈を左右どちらかの腋窩動脈に中枢吻合して側方開胸から行うのがベストな方法です。

 側方アプローチ、開腹アプローチが困難な場合は、正中アプローチしか選択肢はなく、この場合は人工心肺を装着して、オンポンプビーティングで、ボリュームを引いて再開胸することが、心臓が虚脱された状態で剥離することが出来るので、グラフト損傷を避ける最良の方法です。もし正中アプローチとする場合でもRGEAが使えれば、上行大動脈を触る必要がないので、それが最良のグラフトとなります。
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Redo MICS-CABG①

2021-07-31 04:37:24 | 虚血性心疾患
 Redo CABG(再CABG)は冠動脈バイパス術後のグラフト(バイパス血管)閉塞や新規病変のために狭心症再発や新たな心筋梗塞の危険のある患者さんに検討しなければならない難易度のきわめて高い手術です。もしRedo CABGをする必要なくカテーテル治療で血行再建できるのであれば、通常間違いなくカテーテル治療を選択するでしょう。しかしながら、カテーテル治療できないしょうれいであれば、このRedo CABGを検討せざるを得ない症例も存在します。
 CABG術後に再開胸して心臓手術を行う際は、開存するバイパス血管(グラフト)の損傷の危険性があり、この損傷は致命的なダメージにありうるため、いかにグラフト損傷を避けるかということが課題になります。本年1月29日のブログに記載した内容:https://blog.goo.ne.jp/gregoirechick/e/6a1ee9fc4ff0c6d783268642178db6bb
では、CABG術後のCABG以外の再手術(CABG以外)の話を記載しましたが、再CABGはさらに難易度が高くなる可能性があります。

 Redo CABGにおいても既存の開存するグラフトを損傷しないで吻合することは最重要で、次に再バイパスにはどのグラフトを採用するか、中枢吻合をどうするか、という問題があります。

 先日、当院で経験した症例では、20年前に他の施設で2本の大伏在静脈を使用して、上行大動脈から右冠動脈#3、および左前下行枝#7に血行再建されてあり、その後の狭心症再発症例で、対角枝と回旋枝#14-1(PL-1:Posterolateral branch)が責任血管である症例に対して、左第5肋間アプローチでこの2か所に再バイパス追加し狭心症を治療した経験があります。80代なかばの患者さんでしたので、小開胸アプローチで手術することで回復が非常に早く術後1週間で退院可能となりました。この場合のグラフトは左内胸動脈と下肢の大伏在静脈を使用し、左内胸動脈はIn situグラフト(中枢側はもともと鎖骨下動脈につながっているので中枢即吻合不要)で、大伏在静脈は長めに採取して左腋窩動脈に吻合して第2肋間から胸腔内に誘導しました。長めに採取することで心臓の可壁までカバー可能でした。対角枝、回旋枝領域のRedo CABGには左開胸アプローチが非常に有用で、特に中枢側吻合を上行大動脈にする必要がないことでグラフト損傷のリスクをゼロにすることが可能です。
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冠動脈外科学会で勉強したMICS-CABGのコツ

2021-07-30 07:00:49 | 虚血性心疾患
① MICS-CABG 胸骨から心膜を剥離すると心臓の重みで背側に心臓が落ちて視野が改善
② Octopus NUVOで心臓を押し下げてRITA採取の視野を確保
③ Octopus NUVOにかわるリトラクターを胸壁貫通で使用して視野確保可能
④ Y-Compositeは左第2肋間の小開胸創から引き出して胸壁外で作成
⑤ Octopus NUVOで肺動脈を吸引してけん引すると上行大動脈の視野、操作性が改善
⑥ CPB装着を躊躇せずにMICS-CABGを完遂する
⑦ FA-FVを確保してCPB装着をスムースにできるようにしておく
⑧ 脱転はLIMA Suture使用
⑨ 心膜を大きく切ると心臓の脱転が容易になり視野、操作性が完成
⑩ NT-SVGであればLITAとのY-Compositeも可能
⑪ NT-SVGが今後の主流・常識に HarmonicでHarvest

実際に学んだこと①③⑨で両側内胸動脈を採取してみましたが、実際に今までよりも快適にグラフト採取が可能でした。今後は両側内胸動脈が増えていきそうです。
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冠疾患学会2021

2021-07-23 09:10:17 | 虚血性心疾患


昨年は冠動脈外科学会、冠疾患学会ともに新型コロナウィルスパンデミックの影響で開催されませんでした。どちら学会もランチョンセミナーや企業講演を一昨年に依頼されたこともあり、筆者にとっては思い入れのある学会とも言えますが、今年はどちらの学会も開催されます。

冠動脈外科学会ではテクニカルセッションでのライブでの発表を依頼されましたが、冠疾患学会2021ではシンポジウムに応募してみようと思います。
早速演題登録したところ、10041の登録番号!41番目ということなのでしょうか。一週間、演題募集期間が延長したとはいえ、大丈夫でしょうか。他の学会も現在は応募者が集まらなくて困っているようで、今年の秋に友人が主催する在宅医療関係の学会でも参加者が集まらなくて困っているとの相談を受けたばかりです。
会場は大阪ですが、ハイブリッド開催ですので、コロナウィルスが心配な人でもオンラインでの発表も可能と思います。

できるだけ学会、盛り上がってほしいものです。
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MICS-CABGがこれから普及するか

2021-07-20 04:03:13 | 虚血性心疾患
 今回の第26回日本冠動脈外科学会では、前回の金沢で行われた学会ではほとんど見られなかったMICS-CABGのセッションが初めて多く取り上げられました。テクニカルセッションで2セッション、モーニングセミナー、招聘講演でも取り上げられ、具体的な手技面での議論が多く行われたことは、ようやくこれから普及していくという予兆のように思われました。多枝血行再建にするか、PCIとのHybridにするかも議論に値することですが、小開胸アプローチでの手術は、手術症例を紹介してくれる循環器内科医にとっては紹介のハードルを大きく下げることになり、心臓血管外科手術症例数を増やしていくためには今後必要になってくる術式と考えます。学会でも多く取り上げられるようになっていることは、今後その必要性が認識されてきた、ということの証拠であり、この流れは今後も続くものと思われます。今回の学会のテクニカルセッションでも、横須賀市立うわまち病院で行っている、左内胸動脈の次のグラフトを上行大動脈への中枢吻合した静脈グラフトとすることで多枝血行再建するMICS-CABGをより普及に貢献するという内容の発表をテクニカルセッションで行いました。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、今後も可能な症例は積極的に左小開胸でのMICS-CABGを採用していく予定です。

 上の世代でMID-CAB創世記に苦労した先輩の心臓血管外科医は、MICS-CABGには懐疑的だそうです。やはり正中切開との比較で吻合やグラフトデザインの面で劣るということが理由と思われます。しかしながら、側方小開胸でも正中切開と同等のクオリティの吻合デザインができる症例もあり、そうした症例を適応としていくことで普及していくものと考えます。とはいえ、積極的にMICS-CABGを採用しても当横須賀市立うわまち病院の現状3~4割の実施率をみても全体の3~4割程度となることがMAXかもしれません。
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第26回日本冠動脈外科学会演題絶賛募集中

2021-03-28 06:04:40 | 虚血性心疾患
 今年の日本冠動脈外科学会は山口県で行われます。毎年、魅力ある地方都市で行われることが多いこの学会は個人的にはニッチな部分につて議論が行われることが多いので好きなのですが、この新型コロナウィルスパンデミックの影響で昨年は開かれませんでした。同じような学会で冠疾患学会というのもあるので、今後一緒になるとか、同時開催とかいう案も出ている、心臓血管外科領域としては若干マイナーなイメージの学会でもあります。
 学会くらいしか大手を振って旅行できる機会がない心臓血管外科医にとっては、こうした地方で行われる学会は年間スケジュールにおける楽しみな日程でもあります。特に、山口県は筆者も今まで訪れたことがなく、主幹する山口大学にはかつて苦楽を共にして一緒に働いた昔の仲間もいるので、とても楽しみにしています。昨年の東京での血管外科学会、京都での心臓血管外科学会、そして今年の名古屋での血管外科学会と、オンライン学会への変更によって非常に学会してしまいましたので、是非山口の冠動脈外科学会は是非現地で開催してほしいです。ハイブリッド開催にすれば、参加人数も増える可能性もあるし、また、現地に集まる人も少なくてすむのではないでしょうか。

 この第26回日本冠動脈外科学会、現在演題募集を締め切りを3月31日まで延長しての絶賛募集中です。締め切り2日前ですが、さきほど5時半にMICS-CABGに関連する演題応募をしました。締め切り二日前ですが、演題登録番号が10054でした。演題応募54人目ということでしょうか?山口は明治の偉人をたくさん輩出した日本の歴史を大きく変えるきっかけになった土地です。あと二日、たくさんの人が演題を応募してくれて活気ある学会になってほしいと心から願っています。
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左小開胸アプローチからの冠動脈バイパス術、何枝まで可能?

2021-01-21 22:44:30 | 虚血性心疾患
 左小開胸アプローチからの冠動脈バイパス術、MICS-CABGは左内胸動脈を左前下行枝に吻合する1枝バイパス=MID-CABを基本に、それ以外の血行再建を追加して行うことで正中切開よりもかなり低侵襲で早期の回復、少ない合併症が期待できます。
 通常、左第5肋間アプローチから心臓に到達しますが、この10cm以下の視野から左内胸動脈を採取し、上行大動脈に静脈グラフトを吻合することから始まります。抹消側吻合は、Tentacles Neoを使用することで心臓を脱転し、視野の確保、ポジショナーによる安定した吻合フィールドの確保さえできれば基本的に血行再建は何か所でも可能です。
 筆者は最大5枝までの血行再建を経験しています。前下行枝、対角枝、高側壁枝、鈍角枝、後側壁枝、房室枝、後下行枝のどれに対しても吻合可能です。
 低左心機能の症例ほど多くの吻合が必要ですが、低左心機能の症例は脱転して視野確保が難しくなることが多く、IABPや場合によってはPCPSなど人工心肺の補助が必要になります。それでも、確実、安全な吻合をするための努力、手間は惜しむべきではありません。
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左小開胸アプローチによる両側内胸動脈を使用した心拍動下冠動脈バイパス術

2020-09-10 17:40:17 | 虚血性心疾患
 冠動脈バイパス術における低侵襲治療としては、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では左小開胸アプローチによる心拍動下冠動脈バイパス術を積極的に採用しており、この4年間で70例あまりの冠動脈バイパス術のうちの1/3の患者さんで左小開胸アプローチを採用しています。左前下行枝への1枝バイパスが左小開胸アプローチの約半数を占めますが、残りの半数は両側内胸動脈や大伏在静脈、右胃大網動脈を使用しての対角枝、回旋枝、右冠動脈領域への血行再建の組み合わせで最大3枝まで実施しています。
 この低侵襲心臓手術、なかなか普及しておらず、関東地方で実施している施設は数カ所しかないようですが、その理由として手技が難しくて難易度が高いため、無理してやろうとする心臓血管外科が少ないからと思います。1枝のみの再建であれば、ふだん正中切開アプローチで冠動脈バイパス術をオフポンプで行っている外科医であれば、左内胸動脈さえ採取できれば難しくはありませんので、経験のある外科医も多く、実際に筆者も他施設に技術指導に出かける機会も多いのですが、多枝バイパスを左小開胸アプローチで積極的にやろうという外科医には殆どあうことはなく、ほんの一握りだけだと思います。
 外科医をこのMICS-CABGから躊躇させる最も大きな理由は右内胸動脈の採取と上行大動脈への大伏在静脈中枢側吻合です。末梢側の吻合手技事態は普段の正中切開アプローチとそのなに代わりませんが、このグラフトの採取などは格段に難易度が上がります。この難易度の高い手技にチャレンジしていくという、挑戦を続けるスピリットが必要です。
 横須賀市立うわまち病院に赴任してからは小開胸手術を積極的に採用するなど新しい手術手技に一つ一つ挑戦してきましたが、このMICS-CABGは特に難易度の高いチャレンジといえます。
 不確定要素のあるこの手術では、右内胸動脈が使用出来なかったり、上行大動脈への中枢側吻合が出来ない場合の代替案を常に容易しておくという外科医としての引き出しの多さも必要になります。
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冠動脈病変のプラーク退縮と冠動脈バイパスの開存

2020-07-15 23:46:20 | 虚血性心疾患
 冠動脈バイパス術におけるグラフト(バイパス血管)の開存率は、長期的にはやはり内胸動脈が最も優れており、その他の下腿の静脈や右胃大網動脈、橈骨動脈などはほぼ同等とも言われています。これは全く同じ条件下で比較した場合はそうなのかもしれません。しかしながらこれは外科医のグラフト選択には有用であっても、リアルワールドでの開存率はグラフトの種類以上に、圧と血流の関係が大きく左右する場合もあります。すなわち狭窄度の強い病変血管にバイパスした方が流量が得られ、その血流量が多い方が長期の開存が期待できます。また、バイパスした血管の還流域が大きい方が大きな流量が得られ、これもまた長期開存が期待できる状態と言えます。

 さて、昨年から供血性心疾患の二次予防(冠動脈ステント挿入後や冠動脈バイパス術後の再発予防)のガイドラインが改訂され、より強力にLDL低下治療を実施されることが多くなり、実際に冠動脈プラークの退縮(リグレッション = Regression)が発生することが期待されています。冠動脈バイパス術後のTarget血管もこれによりプラークの退縮がおきた場合、Native(本来の血管)の血流が増えてバイパス血管が閉塞することが懸念されます。何例か冠動脈バイパス術後のグラフト閉塞または狭小化した症例で、冠動脈プラークのリグレッションが原因と思われる症例を最近数例証明しました。
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MICS-CABGに適した冠動脈病変は

2020-01-12 08:51:58 | 虚血性心疾患
 左小開胸や上腹部の小開腹で行う冠動脈バイパス術=低侵襲冠動脈バイパス術(MICS-CABG=Minimally Invasive Cardiac Surgery-Coronary Artery Bypass Grafting)は小開胸から限られた視野で行う手術であるため、低侵襲であり、縦隔炎など創部感染のリスクが無く、回復の速い手術術式といえますが、全ての症例で適応できる訳ではありません。
 この限られた視野の中では吻合可能な部位は限られているため、同じ前下行枝への吻合でも心尖部よりは吻合しにくいとか、微妙にスタビライザーの固定できる位置にも制限があります。これは4PDや回旋枝への吻合も同様です。

 よって、MICS-CABGに適した冠動脈病変とは
① どの部位での吻合でも長期開存が期待できる、末梢が太く性状良好な枝
② CTO、かつ開存部分の灌流域が広い病変
です。

逆にMICS-CABGに適さない病変とは、その逆で
① Diffuseに動脈硬化が高度で、吻合ポイントが制限される症例
② 灌流域の狭い病変
③ 心拡大の著しい症例(狭い胸腔の中で心臓が視野を占拠してワーキングスペースが小さくなり、またITA採取が困難となる)
④ 肥満症例(同上)
⑤ 上行大動脈の性状が悪い症例(中枢側吻合を上行大動脈におく場合)

症例の選択には確実に有効なバイパスがデキルと確信できる症例を選択する必要があります。
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MICS-CABGにおける右冠動脈領域への吻合

2019-12-18 15:36:03 | 虚血性心疾患
 小開胸または上位腹部正中切開による右冠動脈領域(4PD:後下行枝)への血行再建は、実際はスタビライザーを設置して吻合可能な場所は限られています。どうしても4PDの付け根は吻合しにくいので中央部やそれより末梢に吻合することが多くなります。

 4PD末梢の細い部分にしか吻合できないためにその部分への血行再建はあきらめてその症例は左小開胸から左内胸動脈(LITA)ー左前下行枝(LAD)の吻合だけ行って術後にRCA(右冠動脈)領域へPCI(カテーテル治療)を循環器内科にしていただいた症例もあります。実際に血行再建した症例は、全ての症例が完全閉塞病変(CTO)で末梢の性状が良好で分枝の先端に比較的近い部分において血行再建しても有効なバイパスとなると考えられる症例を選択しています。狭窄が甘い症例や吻合する位置を選ばないといけない症例はやはり正中切開で視野の良好なバイパスが望ましいと思います。また、LADに関しても基本的にCTO症例に対してLITA-LADを実施しています(CTO症例で基本的に依頼されています)。CTOでも末梢のRun-Offが悪い症例や、石灰化が著しくLAD先端にしか吻合する箇所がなさそうな症例など、吻合部位を検討、検索する必要がある症例は正中切開でアプローチしています。
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日本冠疾患学会学術集会ランチョンセミナー:左小開胸の心拍動下冠動脈バイパス術の経験

2019-12-15 04:16:58 | 虚血性心疾患
 日本冠疾患学会学術集会に参加させていただきました。今回は岡山が会場で、倉敷中央病院の小宮先生が会長でした。

 14日のランチョンセミナーの講演を依頼され、左小開胸の冠動脈バイパス術の経験についてお話しさせていただきました。この日は同時に4つのランチョンセミナーが企画されていましたが、他の3つは主に内科系の演題であったためか、著名な先生方もたくさん来ていただき、100名分用意されていた会場はほぼ満席でした。最終日で聴講者が少なかったらどうしようかとの不安がありましたが、それだけで今回のランチョンセミナーは成功だったと思います。
 視野が確保できないときのレスキュー方法などについてもお話しさせていただき、まだ実施していない施設のドクターからも、そうした方法もあるならやってみたい、とコメントいただくなど、反響がありました。循環器内科のドクターで聴講された方からは、県内で左開胸でやってくれる医師がいないので困っている、との話もお聞きしました。
 また下壁への吻合位置がかなり末梢ではないか?との質問も頂きましたが、実際に見える位置、吻合可能な位置は狭いワーキングスペースでは限られており、選んでこの位置に吻合するというよりは、ここしか吻合できないという位置に吻合しているので、血行再建する対象は、それでも十分長期開存可能なCTO病変など症例を選ぶべきであろうと思われます。
 TERUMO社製のスタビライザーの最新型のものはシャフトが細いのが特徴ですが、これも狭いワーキングスペースに使用するのに役立ちます。こちらのスタビライザーは先端部分のみがDisposableなので、発売されているスタビライザーの中で最も安価で、しかも性能が良いのが特徴です。横須賀市立うわまち病院は、このスタビライザーの国内でも最も多く使用している施設の一つのようですが、特に医療費の増大が指摘されている現代においては外科医もコスト意識をもって、性能のみならずコストも重視していく必要があります。

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左開胸の冠動脈バイパス術

2019-12-09 21:43:16 | 虚血性心疾患
https://blog.goo.ne.jp/admin/newentry/#

左小開胸の冠動脈バイパス術は低侵襲で合併症の少ない術式として、今後広まっていく可能性があります。特にカテーテル治療との組み合わせで完全血行再建を完成するのであれば十分な意味があります。海外のデータでは、ハイブリッド治療だと輸血率やICU滞在時間が有意に短くなる一方、医療費が増加するとの報告があります。

しかしながら左小開胸では視野不良で吻合が困難または無理、という症例もあります。この時のレスキュー手段としては皮膚切開を上腹部に延長して肋骨弓を離断して創を拡大するとすべての冠血行再建を容易に行うことができるようになります。創部は大きくなりますが、胸骨を離断するわけではないので、左小開胸と同等の手術侵襲での手術が可能です。縦隔炎や胸骨隨縁が起こることもありません。創の大きさにこだわるのでなければ、低侵襲冠動脈バイパス術の一形態として有効な治療法といえます。
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