横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

大動脈瘤手術における人工血管の切り方・3DCTで出来映えのよい大動脈瘤手術

2019-02-27 19:38:34 | 心臓病の治療
 意外に誰も教えてくれない手術のテクニックとして、大動脈瘤手術において人工血管の吻合の形態についてはほとんど誰も細かいことを言っているのを聞いたことがありません。
 しかしながらその切り方、吻合の仕方によって出来映え、最終的にはその後の予後も関係してくると思います。

 出来映えの悪い血管吻合は、吻合した患者さん側の血管壁に無用なストレスがかかって、仮性動脈瘤を形成したり、残存部分が拡大して再手術が必要になったりする可能性があります。特に大動脈解離において、時々他の執刀医が手術した患者さんのCTなどを見ることがあるのですが、出来映えが悪いと思われるものが散見されます。以前は筆者が執刀した症例では、同様の出来映えの悪い症例が初期のころはありますが、手術のクオリティを追求するようになってから、この10年間ほど、出来映え良く、それだけでなく、結果が良い形態を目指して改善を重ねてきました。
 
 特に差を感じるのは、急性大動脈解離において上行大動脈置換術や弓部大動脈置換術において、その中枢側の吻合形態によって、その後の予後が変わってくると実感することです。

出来映えの悪い症例では、

① 小弯側と大弯側の比率が悪く、多いのは大弯側が小さく小弯側が相対的に距離が長いために、大弯側の中枢側吻合の患者血管壁に無用なストレスがかかり、術中の出血や、術後の仮性動脈瘤、将来的なバルサルバ洞の拡大が来る症例。また、残念なのは特に人工血管の小弯側に皺が寄ってしまう、または屈曲してしまう症例。こうした屈曲が溶血や局所的な血栓形成の原因となることがあります。

② 人工血管の長さが適切な長さよりも短いために中枢側、末梢側ともに吻合部にストレスがかかり、人工血管の中枢、末梢ともに拡大傾向を示す症例。これが進行すると、人工血管を圧迫して、更に人工血管が短くなり、屈曲してしまう症例も中には散見されます。これも吻合部の仮性瘤の原因になると思われます。

③ 人工血管の切断面を、昔S字状にはさみで切って吻合するように指導されたことがあったのですが、これだと中間の直線部分の角度、位置によって吻合の形態が規定され、Sの形態にする意味が全くないにも関わらず、Sにしてしまったが故に上記①②の弱点を露呈してしまっている症例

 昔はそんなこと、考えたこともなく、また教わったこともなく手術をしていましたが、上記の欠点を克服するために現在行っている工夫は

① 大弯側が小弯側に比較して短くならないように、人工血管を切離する角度を基本45度にしてまっすぐ切ること。切ったあとの角度が45度になるように、また少し外に膨らむような弧を描くように、決して内側に弧を描くことのないような切離面となるように注意してはさみで切っています。急いで不注意に切ってしまうと、内側に弧を描くように切ってしまったり、角度がより鈍角になってしまうことがあります。

この原則から外れたために、術中の出血が多くなったり、術後の形態が悪くなったり、また遠隔期に吻合部のトラブルの原因となったりすることがあるため、現在では確信をもって後輩医師に指導しています。
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全身麻酔後、唾が飲めない = 術後の嚥下障害

2019-02-24 05:13:28 | その他
 全身麻酔後の嚥下障害、これは気管内挿管の刺激による喉頭部の浮腫などが原因している可能性があります。特に高齢者で起こりやすいのは、水分摂取の時に、喉頭がタイミングよく閉鎖しないために起こる気道内への誤嚥です。また、声帯の可動制限・閉鎖の異常による嗄声(かすれ声になること)などが起こることがあります。こうした状態は一時的なので、数日から数週間以内に自然に軽快することが多い状態です。

 稀に外側延髄の脳梗塞によって反回神経麻痺や咽頭喉頭の運動障害が発生して同様の症状が出現することがあり、症状が遷延した場合は、脳MRIなどで評価し脳外科医や神経内科医への相談が必要なことがあります。

 気管内挿管が長期間に及んだ場合は特にこうした嚥下障害などは発生しやすいので、人工呼吸器から離脱後の飲水、嚥下が正常に行われているかをチェックするために、横須賀市立うわまち病院ICUでは、耳鼻科およびST(Speech Therapist)に依頼して、嚥下機能評価を行い、それに合格してから飲水を開始しています。不安のある患者さんの場合は、STの監視下で水分、食物の摂取をしてもらいます。

 特に誤嚥の危険がある患者さんには、水分にとろみをつける成分を追加しています。とろみをつけることで、嚥下される瞬間に移動する水分の速度が低下し、喉頭の閉鎖が間に合わないために起こる誤嚥を予防します。

 全身麻酔の後には、気道の繊毛機能の低下、肺活量の低下などが起こるため、喀痰の喀出障害を起こしていることが多く、肺炎、痰詰まりによる窒息などが起きやすい状態でもあります。誤嚥、肺炎、痰詰まりを回避するために、危険性の高い患者さんには、気管支鏡による採痰、ミニトラック(喉頭から穿刺して気道に留置する細いカテーテル)、気管切開などを積極的に行っています。

 術後の早期回復には栄養の補給が非常に重要です。嚥下に問題があるために、経口摂取が問題がある場合は、胃管を通じた経管栄養を早期に開始します。最近の傾向では、特に早期から十分な経腸栄養を開始することが、術後の感染予防、創傷治癒に役立つといわれています。胃管そのものが、嚥下に悪影響を呈する場合は、稀ですが、一時的に胃瘻を内視鏡的に作成して栄養管理する場合もあります。
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腹部大動脈瘤術後で下肢の浮腫は出るの?

2019-02-23 19:46:15 | 大動脈疾患
腹部大動脈瘤術後で下肢の浮腫は出るの?

こんな疑問で検索をして、このブログに行きついた方がいらっしゃるようなので、お答えします。
基本的に腹部大動脈瘤の術後(人工血管置換術)では、その手術による理由で下肢の浮腫は出現しません。どちらかというと、術直後は血管内脱水に陥りやすく、補液を多くして血中の水分不足を補う術後管理が必要です。

もし、浮腫が出現するとしたら、その理由としては

①腎不全や心不全、体液の過剰により、体重が著しく増加して、その表れとして浮腫が出現している可能性
  これだと、術後数日から1~2週間で術前の体重にもどるので、それとともに浮腫は軽快します。
  もし心不全や腎不全が遷延すると、その病状によっては浮腫は持続します。
  特に高度の蛋白尿を伴う腎機能障害で、低タンパク血症を呈すると特に浮腫が出やすくなります。
  体液貯留による浮腫だと、下肢浮腫の他に、胸水、腹水貯留などが体重の増加とともにみられる可能性があります。

  まれですが、この手術で尿管を損傷する危険性があり、その場合は、水腎症とともに腎障害が出現する可能性があり、また腎動脈の術中操作によっても腎不全を呈する可能性があります。

②骨盤内操作により骨盤内リンパ節、リンパ管の損傷が合った場合
  また、鼠蹊部の操作によって、リンパ流が障害された場合

③術後のリハビリテーションがすすまず、長期臥床状態になった場合
  血流のうっ滞に伴う浮腫が出現する可能性があります

④食事摂取不良による低タンパク血症

などが考えられると思います。

  
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医療におけるチャレンジングスピリット

2019-02-23 08:40:16 | 心臓病の治療
 後輩医師から今まで実施していない手術術式の導入についての相談を受けました。具体的には、昨年から保険適応とされた右小開胸の弁膜症手術です。
 小開胸手術自体はアプローチが違うだけで、実際に弁置換だったり、弁形成だったり、その弁の修復の方法は従来となんら変わることはありません。人工心肺装置にしても、送血、脱血、大動脈遮断、心筋保護、どれも同じです。違うのは皮膚切開部位、それに伴う見える角度、深さ、ワーキングスペースの大きさなどです。アプローチが違っても慣れた方法と同じクオリティで安全・確実に治療できるのであれば、アプローチを変えることは、その手術の応用にすぎません。
 いろいろとそろえる道具が必要だったりしますが、実はその道具だったり、内視鏡下に行う手技だったりとか、そういうところに抵抗感を感じて、新しい手技を実施するのに躊躇してしまう傾向、これはだれでもあることで、筆者もそう感じたことが何度もあります。
 最初は他施設に見学に行ったり、経験なる医師に指導に来てもらったり、道具を借りたり、など、けっこう億劫にも思える前準備があったりします。誰でも最初はそうです。最初はその壁を越えていくしか次のステップにはいけません。
 安全・確実にできると確信が持てるようになったら、それを標準術式として導入する、執刀医のマインドをそのようにリセットすることが重要です。これはある意味、新しい治療法を導入していくというチャレンジングスピリットであり、このスピリットなくては、医療も衰退します。
 億劫に思っている段階では、その新しい方法を実施しないで済む理由を何となく探すような気持ちもありましたが、基本的に新しい術式を標準の方法として考え、それができない、リスクがあるかどうかを考えるという、思考回路の変更が必要です。そうすることで、思考回路の整理も進み、新たな段階にステップアップできるように思います。
 要は、失敗なく、安全、確実にできるかどうか、ということにかかっています。特に低侵襲手術といわれているように、低侵襲=短時間に確実に、できるということが大前提です。新しい技術とはいっても、長時間かかったり、出血が多くなったり、弁の修復が不十分になってしまうのでは実施する意味がありません。その意味で、確実に成功する症例を適応にする、ということが重要です。

 当たり前のような内容を記載してしまいましたが、実際に執刀を責任をもって行うということは、こうしたマインドが意外に重要である、ということを、年齢を重ねるたびに思う、今日この頃です。
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足のむくみの鑑別診断:どんな検査をするか?

2019-02-22 07:14:10 | 心臓病の治療
 足のむくみ、実際は医療機関を受診しなくても非常に多い病態です。

 程度はいろいろですが、軽いものは、長時間立ち仕事をしていて夕方になると軽く浮腫む程度の人が最も多いのではないでしょうか。横になって休むと軽快するのは生理的な浮腫みとしていいと思います。

 長時間立っていなくて、動かない姿勢で長時間足を下垂していることも浮腫みの原因となります。日常的に遭遇するのは高齢者で一日中ソファなどに座ってほとんどトイレ以外動かないでいる人の下腿が浮腫んでいる状態です。

 しかし、この長時間立位が続いて慢性的になってしまう人がいます。これは、静脈弁に負担がかかり続けたことによる弁不全(静脈弁の破壊)が起こってしまった場合です。こうなると病的な浮腫みといえます。
 この弁不全に関しては、特に表在系の大伏在静脈に関しては超音波検査で簡単に外来で検査できます。深部静脈に関してもある程度推察できますが、他の疾患の除外診断として最後に残るものになるかもしれません。深部静脈の弁不全の場合は、多くの場合、静脈が特に筋肉内で非常に拡張しているのが特徴と思いますが、深部静脈本幹で逆流が認められれば証明されます。

 上記のように、足のむくみの原因部位の一つとして静脈のうっ滞があります。静脈による血液、水分のドレナージが悪いと組織のむくみが起こります。他の静脈系の異常として有名なのは深部静脈血栓症です。これも、エコノミークラス症候群とも言われるように、長時間足を動かないでいるために、静脈内の血液がうっ滞して凝固し、静脈を閉塞させてしまう病態です。この静脈内に出来た血栓が、足を動かして立ち上がったり歩いた刺激で移動し、肺の動脈まで達して閉塞させてしまう病気が肺塞栓症です。長時間のフライトでの椅子に座っている姿勢の間に血栓ができ、着陸後、飛行機から降りて歩いているときに突然胸痛、呼吸困難、場合によっては心停止に至る怖い病気です。この静脈血栓も超音波検査で診断します。また造影CTで、血栓の位置、範囲などがより正確に診断できますし、肺塞栓を起こしているかも同時に診断できます。
 静脈血栓では、比較的急性期であれば、採血検査で、血栓ができる際に血中に検出されるD-ダイマーやFDP(Fibrinogen Degeneration Product)いずれも、血栓が形成されたり、形成された血栓が溶解されたときに発生する物質によっても推定されます。これらの物質は慢性の器質化した血栓の場合は検出されなくなるのであくまでも参考程度です。これらの血栓関連物質は、他に壁在血栓を有する大動脈瘤や大動脈解離などの動脈血栓が多い病態や、感染や悪性腫瘍などに伴う播種性血管内凝固でも異常値が検出されるので、これらとの鑑別が必要です。

 静脈の弁不全、血栓形成以外に、体液量が増加する病態でも足が浮腫みます。この場合は足だけでなく、全身が浮腫むので、他に眼瞼浮腫や、胸水や腹水の貯留、そして肺水腫による呼吸困難などが発生します。この原因として心不全や腎不全、肝硬変などの低タンパク血症でも発生します。この鑑別の検査として、心エコーや採血検査による肝機能、腎機能、血中蛋白の評価が必要です。胸水や肺水腫は、胸部単純レントゲンでも検出できますし、この場合は通常、心臓の陰影が拡大しています。CTでもこれらはより詳細に評価可能です。
 特殊な病態として三尖弁閉鎖不全症による静脈系の血流うっ滞があります。他の心機能は問題ないのに、三尖弁のみ、重度の逆流がある場合は、息切れ、胸水貯留などは認めず、静脈うっ滞の所見のみが存在します。重度になると、心拍出量が低下しているために、通常の心不全同様、労作時の息切れが出現します。

 他に、リンパ流のうっ滞による局所的な浮腫みもあります。機械的にリンパ管が途絶して流れが悪くなる病態としては、人工関節置換術後や鼠蹊部の手術後、骨折後などのほかに、膝に非常に強いサポーターを巻いた後、骨盤内の手術後(直腸がんや婦人科系の手術)などがあります。骨盤内腫瘍によるリンパ管、静脈系の圧迫や、リンパ管炎やリンパ節炎、リンパ腫に伴う事もあります。放射線照射を骨盤内に行った後、などもこれにあたります。これらは超音波検査でリンパ管の拡張を検出することにより診断します。特殊な検査としてリンパ管造影がありますが、現在はあまり一般的ではありません。

 これらの鑑別診断の為に、心臓超音波検査、下肢静脈超音波検査、CT、採血、胸部レントゲンなどをひととおり行って全身の評価を行う必要があります。どの診療科に行けばいいのかわからない、という患者さんも多いようですが、これらのむくみの診断は、全身の評価に普段から精通している心臓血管外科外来を紹介されたり、循環器科を紹介されたりすることが多く、うわまち病院でも血管外科外来が担当することが多い病態です。

 
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くだもの肝硬変

2019-02-21 09:32:38 | 心臓病の治療
 くだものは体に良い、と信じて必ず食後にはフルーツをとるという人が特に高齢者の世代に多いのは日常診療で実感することです。
さまざまなビタミンや、ポロフェノールなどの抗酸化物質など、病気を予防する成分が入っているのは事実ですが、特に最近のフルーツは、質の向上によって、より糖分を多く含む「あま~い」ものが多くなっています。甘いものへの渇望は、昔貧しかった時代から豊かな時代への移行期に必ず通過する文化的な家庭です。特に戦後の食糧難を経験した世代の方には、フルーツは豊かさの症状の一つでしょう。

 果糖は二糖類で、分解されるのに少し時間がかかるので、血糖値が上がりにくく体に良い、と言われた時代もありましたが、最近は、当分の過剰摂取にはかわりなく、果糖は直接肝臓で代謝されるので、より肝臓への負担が大きくなり、脂肪肝から肝硬変へと進行することもあるのだそうです。

 消化器の専門のドクターから「最近はくだもの肝硬変」と呼ばれている、と昨日医師会の集まりではじめて聞いて驚きました。確かに糖尿病の患者さんで、果物を過剰に摂取している人はよく遭遇します。しかも、そういう患者さん達は必ず口をそろえて「果物はからだにいいんでしょ!」って言ってなかなか考えを改めようとはしません。消化器のドクター曰く、こうした果物への欲求やあこがれは、貧しい時代から豊かな時代への移行期に形成された価値観、と説明を頂きました。体重を減らしたい人は、まず、果物を止めることからはじめるのが効果的かもしれません。

 何事も適量がいいのではないか、と思います。
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ニューキノロン系抗生物質が大動脈解離の既往のある患者さんに慎重投与に

2019-02-20 23:29:22 | 心臓病の治療
2019年1月の添付文書改訂によってニューキノロン系抗生物質が大動脈解離の既往のある患者さんに慎重投与になるようです。
ニューキノロン系抗生物質は最も使用頻度の多い合成抗菌薬の一つです。広範囲(Broad Spectol)の菌種に有効で、抗菌力が強い為、かなり高頻度で使用されています。
 しかしながら、このニューキノロン系抗生物質が大動脈瘤や大動脈解離と関係あるという事で慎重投与になるようです。術後の創部感染などで比較的使用されることが多い薬だけに臨床現場に影響が大きいと思います。


2015年の論文:Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinoloneによると、


 フルオロキノロン(ニューキノロン)系抗菌薬の服用者では、大動脈瘤と大動脈解離のリスクが約2倍になることが、台湾で実施されたネステッド(コホート内)症例対象研究で明らかになった。国立台湾大学醫学院付設醫院のChien-Chang Lee氏らが、JAMA Internal Medicine誌電子版へ2015年10月5日に報告した。

 ニューキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン(商品名シプロキサン他)が広く投与されるようになり、コラーゲンの異常に起因すると考えられる、腱断裂を含む腱障害と網膜剥離の報告が増えている。その背景として、ニューキノロン系抗菌薬にコラーゲン分解の促進作用やコラーゲンの成熟架橋の阻害作用があることが指摘されていた。

 著者らは、コラーゲンが、大動脈壁の細胞外マトリクスを構成する主要な成分であることに着目。ニューキノロン系抗菌薬により、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクが上昇する恐れがあると考えて、台湾の全民健康保険研究データベース(National Health Insurance Research Database:NHIRD)を用いた症例対象研究を行った。

 まず、NHIRDから、2000年1月から2011年12月までに、初回の大動脈瘤または大動脈解離を発症し入院した1477人(症例群)を抽出。症例1人につき100人ずつ、性別と年齢などがマッチする人を抽出し、対照群(計14万7700人)とした。次に、症例群と対照群について、ニューキノロン系抗菌薬の調剤歴を調べ、大動脈瘤と大動脈解離を発症するリスクとの関連を分析した。

 ニューキノロン系抗菌薬の使用時期については、イベント発生前の60日間に調剤歴がある場合は「現在使用」、31~365日間に調剤歴があれば「過去使用」、イベント発生前1年間に3日分以上の調剤歴がある場合は「過去1年使用」と定義した。

 症例群1477人中850人が大動脈瘤、662人が大動脈解離を発症しており、35人は両方を併発していた。対照群と比べ症例群では、心血管疾患を有する患者の割合が高く、Charlson併存疾患指数が高く、心血管疾患に対する治療薬を使用している患者の割合も高かった。

 傾向スコアで調整して率比を求めたところ、ニューキノロン系抗菌薬の現在使用は、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクを2.43倍に上昇さることが判明(率比2.43、95%信頼区間1.83-3.22)。傾向スコアマッチングも行うと率比は1.75(1.11-2.74)になったが、引き続き有意なリスク上昇が見られた。

 過去使用も同様にリスク上昇に関係していた。調整率比は1.48(1.18-1.86)だったが、傾向スコアマッチングを行うと両群の差は有意ではなくなった(1.19、0.85-1.66)。過去1年間のいずれかの時期の使用の場合には、調整率比は1.74(1.44-2.09)で、傾向スコアマッチングを行っても1.37(1.04-1.78)と有意な差となった。

 ニューキノロン系抗菌薬の調剤日数とイベントリスクの間にも、有意な関係が見られた。調剤日数が3日未満だった人を参照群とすると、3~14日群の傾向スコア調整率比は1.60(1.10-2.52)、14日超群では1.81(0.91-3.17)となった。

 今回得られた結果について、著者らは「ニューキノロン系抗菌薬の使用は、まれではあるが死亡リスクが高い大動脈瘤と大動脈解離の発生に関係していた」と総括。症例対照研究であるため、この関係が因果関係であることは示されていないが、大動脈瘤や大動脈解離のリスクの高い患者に対するニューキノロン系抗菌薬の処方には注意が必要だと警鐘を鳴らしている。

 原題は「Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinolone」、概要は、JAMA Intern Med誌のWebサイトで閲覧できる。
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/jama/201510/544327.html
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マルファン症候群かどうか =まずはCT検査を

2019-02-19 14:39:01 | 心臓病の治療
 大動脈解離や大動脈瘤の原因となる遺伝的疾患、マルファン症候群は、常染色体優性遺伝の形式で、親から子へ50%の確立で遺伝すると言われています。最近は、その原因となる遺伝子も最低2つは同定されており、遺伝子検査によって診断がつきますが、症候群というように、いくつかの特徴的な身体的所見があります。高身長、側彎症、高口蓋、親指が異常に長い(Thumb sign)など、手足、体が長いという外見上の特徴があります。

 これらの外見上の特徴は、日本人にしてみれば、いわゆるモデル体型の人、ともいえるので、印象としては「モテる」人が多い印象があります。

 マルファン症候群で問題になるのは、心・血管系の異常がきやすい、水晶体脱臼が起きやすいという内臓・身体機能上の問題が高率に発生し、そのために寿命が短くなる可能性があることです。心血管系の異常としては、大動脈解離、大動脈瘤、大動脈弁輪拡張症、大動脈弁逆流、僧帽弁逆流などで、特に突然発症し突然死の原因となる大動脈解離はもっとも注意しなければならないことです。

 その患者さんがマルファン症候群であるかどうかは、外見上の特徴を備えていることもありますが、最も得意度が高い(確実性が高い)項目は、仙骨部硬膜拡張と言われているようです。この硬膜拡張症は、CTで簡単に診断できますので、遺伝子検査をする前に、まずは、CTで大動脈の拡張、大動脈瘤がないかどうかをチェックすると同時に確認するのが理にかなっていると思います。心拡大がある場合は、心エコーも一緒に行うと良いでしょう。こうしたCT,心エコー検査は循環器科を掲げる施設であれば、どこでもすぐに検査可能です。もしそれらに特徴的な異常がなければ、一安心ともいえると思います。
 最近、知り合いがマルファン症候群かと疑われている、という人に相談されて、まずはCT検査を受けることをお勧めしました。

 また、大動脈解離の術後の患者さんで、しばしばマルファン症候群を疑われている患者さんがいます。家族歴があれば、マルファン症候群である可能性は高いと思いますが、体系的に似ていてもこの硬膜拡張症がなく、おそらくマルファン症候群ではないでしょう、と結論しました。

 こしたことが相談できる医療機関は少ないので、気になる方は一度専門医に相談して頂ければと思います。
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家族性高コレステロール血症

2019-02-17 23:34:01 | 心臓病の治療
 遺伝的にLDLコレステロールが高いために動脈硬化が若年にも関わらず急速に進行して長くは生きられない人たちが国内にも相当するいます。残念ながら高コレステロール血症は痛くもかゆくもなく、まったくの無症状の為、予防的な治療も積極的には行われていないのが実情です。
 検診で高脂血症をしてきされても、必ずしも治療に繋がっていないことが多く、医療機関に受診しても、対応する医師が知識不足、またはしっかり予防治療を施すほどのモチベーションにかけていることが非常に多い為、有効な治療が行われていないことが多いと思います。

 本日診察した患者さん、50代でLDLがスタチン内服下で200mg/dlを超えており、父親が三十代で急性心筋梗塞で死亡しています。これに対して、エミゼチブ10mgしか処方されておらず、これでは通院治療している意味がありません。この患者さん、心エコーでは問題ありません。無症状ですが、50代で突然死する悲劇を生まないためにはしっかり予防治療を施すのが医師の使命です。兄弟、子供がいる場合は、それら血縁者も検査・治療を行う必要があります。

 でもそうした患者さんやその親族ををしっかりスクリーニング、予防治療をしてくれる医師が常にどこにでもいるとは限らないので、結局自分の外来に紹介して、管理することになります。
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下肢壊疽に感染を合併した場合の血流状態

2019-02-16 13:00:05 | 心臓病の治療
 おもに糖尿病で起こる、下肢の壊疽は、足の指の先端から、毛細血管レベルの血流障害から発生します。その上流の動脈に、動脈硬化によって狭窄が生じて血流不全に陥っている場合もありますが、純粋に壊疽だけだと、末梢レベルまでの血流は保たれていて、たとえば、血管造影した場合は、造影上は正常であることも少なくありません。問題は、血管造影で造影可能な範囲を超えて、より末梢レベルで循環不全が起こっています。この組織の還流障害、虚血を、循環器内科の医師は、Subangiographycal Ischemia = 血管造影範囲外の虚血、と読んだりしています。

 こうした壊疽に感染を合併すると、感染によってたくさんのサイトカインが発生して炎症を起こし、熱感を伴って皮膚が紅潮・浮腫状になって、組織の血流も増加します。体側の下肢に比較して、血管造影や造影CTを撮影した場合、明らかに血流が増加していることがあります。

 毛細血管レベルでは虚血なので、足全体では血流増加、このような不思議な病態を経験することがあります。

 しかし、こうした治療はしっかり感染を制御することに重点をおく必要があり、感染の沈静化→炎症の軽減→血流増加の改善→虚血領域の評価→下肢切断の順番のプロセスが必要なことが多いです。この病態では、血管外科というよりも、形成外科が治療の主役になります。
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腹部大動脈瘤手術中の止血不能症例・大動脈瘤スクリーニング検査の重要性

2019-02-15 00:52:24 | 心臓病の治療

腹部手術で止血できず死亡

2019/02/14 11:11 朝日新聞
http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e8%85%b9%e9%83%a8%e6%89%8b%e8%a1%93%e3%81%a7%e6%ad%a2%e8%a1%80%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%81%9a%e6%ad%bb%e4%ba%a1%e3%80%81%e9%81%ba%e6%97%8f%e3%81%ab%ef%bc%93%ef%bc%96%ef%bc%98%ef%bc%90%e4%b8%87%e5%86%86-%e5%ae%ae%e5%b4%8e/ar-BBTz3fJ?ocid=ientp

 2016年、腹部大動脈の手術を受けた60代の男性が直後に出血性ショックで死亡したことについて、病院側の過失を認め、遺族に約3680万円を支払うことで和解すると発表した。
 腹部大動脈を人工血管に置き換える手術中、別の血管から出血があった。医師は止血処置をしたが、出血場所がわからないまま手術を終え、約8時間後、男性は死亡した。病院は院内協議などで「止血処置対応に過失があった」とし、損害賠償を求める遺族との和解が決まった。

とのニュースを拝見しました。別のネットニュースでは

大動脈と癒着していた別の血管が裂けて大量に出血し、翌日、死亡しました。手術をしていた医師は出血を止めようとしましたが、どこから血が出ているのかわからなかったということです。出血で見づらくなる前に正面から腹部を切開し直せば、出血箇所を見つけられた可能性があったのに、そうした処置が遅れたことに過失があったとしています。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/miyazaki/20190214/5060002703.html



との記事を読みました。手術結果に関しての和解事例のようです。

 腹部大動脈瘤は、破裂した状態での救命率は低く、一度凝固系が破綻した場合は、破裂した大動脈瘤壁のみならず、あらゆる部位から出血が起こり、止血困難に陥ることが少なくありません。一般には破裂した状態で手術した場合の救命率は半分と言われています。救命できない症例は、報道記事のようなが含まれているものと思われます。しかし、これは過失なのか、といわれると、決して過失とは言えないのではないか、と思います。外科医の技術が稚拙だった場合は、確かにスキルの良い外科医が止血できるところを止血できずに救命できない可能性もあるとは思いますが、本当に「出血場所がわからない出血に対して止血できなかった」というならば、外科医としては、本来出血部位がわからない出血を止血できるはずはありません。出血部位を同定できて初めて止血は可能となります。もしくは自然に止血されることを期待するしかありません。
 その手術時の状況がわからないので、正しいコメントとは言えませんが、ネットニュースの記事によると、正中からのアプローチではなく、後腹膜アプローチでの手術だっとのかもしれません。後腹膜からのアプローチが破裂症例でも有効との報告をむかし見たことがありますが、大動脈の中枢の遮断が難しいこともあるのは事実です。大動脈と癒着していた別の血管とは、おそらく左腎静脈と思われます。左腎静脈は下大静脈と直接連結するので、この静脈やその分枝から出血した場合は、止血が非常に難しくなりますが、破裂症例の場合はこの静脈及び分枝が血腫に埋没して見えにくくなり、大動脈遮断の際に損傷される可能性は十分にあります。破裂していない待期症例の場合は、慎重に分枝や静脈を同定しながら安全確保を優先して手術を遂行しますが、破裂していて、心臓が止まりそうなショック状態の場合は、大動脈遮断を優先する必要があります。正中切開のほうが、大動脈瘤の上部へ到達できるまでの時間が明らかに短いと思いますが、その動脈瘤の形状や部位、血腫の位置などから経験ある外科医が判断して手術したのであれば、このリスクは許容されてしかるべきではないか、とも思います。もし、損傷した血管が奇形など特殊なものであれば、特に破裂症例では事前検査が不十分になるので、避けられないものだった可能性もあります。筆者がごく最近経験した腹部大動脈瘤破裂症例では、事前の造影CTを撮影する余裕がなく急いで手術室に入室したので、十分な検討できないままの手術となりましたが、こうした事例は少なくありません。

 もし、過失と認めるのであれば、全く経験のない術者であった、とか、心臓血管外科医や血管外科医ではない医師が執刀した、ということでしょうか。基本的に過失、とは、左右間違いや、禁忌薬品の投与、薬物の用量間違いなど明らかに誤りが指摘出るものに対しいうことが多く、救命しようして努力した結果が悪かったことを過失とは通常は言いません。それなのに、腹部大動脈瘤の手術料が50万円ほどなのに対して、結果が悪かったことに対する和解金がその70倍以上とは、かなりの法外なレバレッジで、ビットコインの上昇やFXなみです。入院費用を無料にする、としても300~500万円ほどです。故意に殺害したのでなければ、遺失損益も考慮した金額として理解できますが、50%の救命率しかない緊急手術の結果が悪かったことに対して、この和解金が妥当とは到底思えません。妥当とするならば、もともとの医療費をアメリカなみに現在の10倍にする必要があります。大動脈瘤がこの患者さんに発生したこと自体、そして破裂したこと自体にも病院の責任を負わされている、と認めたということになります。このような判例を作ってしまうこと自体に社会的な問題がありますが、自治体病院や国立病院などは容易に受け入れる傾向にあるのも事実で、裁判の判例でも決して納得のできる判例ばかりではないのも事実です。医療者の努力と犠牲によって成り立っている日本の医療システムを根本から崩壊させる判断である可能性があります。残念ながら、医療安全の名のもとに、医療が委縮してしまって、その影響で、救える患者さんの命も、救えないようなシステムを医療者自体が構築してしまうことは、最近の傾向として少なくありません。日ごろ、こうした診療に従事している、そしてこの仕事に自分の人生をかけている医師としては看過できる事例ではありません。

 一家の大黒柱を失ったご遺族の悲しみは想像を絶するものがあり、失った命が金額で解決されることはありませんが、そもそも、腹部大動脈瘤が発生して破裂する前に治療できれば、この悲劇は生まれずに済んだ可能性があります。この年代の男性の腹部大動脈瘤はほとんどの症例が喫煙者であり、高血圧や高脂血症など明らかなリスクファクターをお持ちです。事前にスクリーニング検査をして、動脈瘤を発見できていれば、予定手術の死亡率は0.5%以下ですから、リスクのある患者さんには、かならずスクリーニング検査を受けてほしいと思います。少なくとも筆者が診療している患者さんはすべて、このような悲劇が生まれないように、基本的に全例スクリーニング検査しています。

 大動脈瘤の有無については、外来での検査で簡単に調べられますので、気軽に受診して検査を受けてほしいと思います。以前も記載したように腹部大動脈瘤破裂の症例はほぼ、事前に大動脈瘤の存在を知らなかった人です。もし診断されていながら、手術をうけずに、もしくは手術前に破裂していたならそれは自己責任です。残念ながら、こうしたスクリーニング検査の意義について、無知、もしくは理解していない医師も少なくありませんので、その場合はいつでも相談してもらいたいです。
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肺高血圧を伴う低酸素血症に対するNO(一酸化窒素)吸入療法

2019-02-15 00:22:53 | 心臓病の治療
 NO=一酸化窒素は、血管平滑筋に作用してCyclic GMTを介して血管平滑筋を弛緩させ、血管拡張を起こす作用があるといわれています。NO吸入療法の場合、肺胞に到達したNOは、肺胞に存在する肺血管を拡張させることにより、肺動脈圧を低下させ、肺血流を改善します。もし、無気肺があったりすると、肺胞にこのNOが無気肺部分に到達できないため、酸素交換が実際に行われる、開いている肺胞にのみ到達し、ガス交換が行われている肺胞の血管がより拡張して、酸素化高率がより改善します。肺血流と換気の不均衡をこの作用によって改善=VQミスマッチの改善作用によって、より低酸素血症が改善されます。
 肺塞栓症においても、肺胞レベルの肺血管が拡張して、肺高血圧が低下して、酸素化能の改善も期待できることから、NO吸入療法の適応は理論上納得のいくところですが、病態の首座が、肺血管の閉塞によるため、最終的にはこの肺動脈血栓を除去するか溶解するかで器質的閉塞を解除しない限り有効な治療手段とならない可能性があります。あくまでも肺塞栓症に対するNO吸入療法は補助的な治療といえます。

 心臓血管外科領域では、大動脈解離に伴うSIRSによる急性肺障害による呼吸不全に対して効果がある、と経験されることがあります。今回の心臓血管外科学会のランチョンセミナーでも、NO吸入療法に関する講義がありましたが、実際のところ、効果が認められる症例と、認められない症例があります。大動脈解離時に発生する炎症性サイトカインが肺胞組織を攻撃して肺の間質浮腫を起こし、または肺胞への浸出液を増加させて、微小な無気肺を発生させることが病態の首座と考えられますが、この微小無気肺の蓄積が起こす低酸素血症に対して限定的な効果があるとも言えますが、どの症例に効果がありどの症例に効果がないか、というのはもう少し症例の蓄積が必要です。この炎症に対する治療として、以前は炎症性サイトカインの発生を防止するエラセターゼ阻害薬であるシベレスタット(エラスポール®)の効果が期待されていたことがありましたが、こちらも効果としては限定的でした。急性大動脈解離による急性肺障害の報告は少ないらしく、筆者が以前投稿した論文がこのランチョンセミナーに使用されたスライドの中に引用されていたのをみて、懐かしく思いました。
 この領域の治療、まだまだ課題が多いといえます。

 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、NO吸入療法は県内でも一般病院としては最も早い段階で導入しており、重症の低酸素血症を呈する心臓術後症例には積極的に使用していますが、効果がみられる症例とみられない症例があるのを臨床的に感じております。稀なメトホルミン血症以外、ほとんど副作用がないことが、比較的安心して使用できる特徴でもあります。
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病診連携

2019-02-13 23:59:19 | 心臓病の治療
今年度の病診連携の会が本日開催されました。うわまち病院に日頃患者さんをご紹介 頂いている診療所や病院の、ドクターをお呼びしての懇親会です。そのなかで、各診療科や病院の紹介をします。

心臓血管外科からは、最近は小開胸の手術がふえており、全体の心臓胸部大血管手術の三分の一に達しており、今後も増加する傾向であること、神奈川県ではおそらく二番目に多く、冠動脈バイパスにおいては、現時点で県内で唯一の治療施設となっています。

しかしながら、手術創の写真を提示した際に、「創が小さいのは理解出来るが、そうであればもっと形成外科などとも協力して、その小さい創をより綺麗に修復した方がいいのではないか?」とのコメントも頂きました。術後早期の創ばかりをおもに提示したために、そのように見えたかもしれませんが、そうしたコメントを真摯に受け止め、より綺麗に創が治癒するようにもより一層努めたいと思います。それと、プレゼンテーション用に、外来で創部を観察した際に写真を撮らせていただいたりしておりますが、より長期間経過した創も写真におさめてプレゼンテーション用にストックする必要があると感じました。
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腹部大動脈瘤破裂の症例は、動脈瘤の存在に気づいていない

2019-02-10 10:52:47 | 心臓病の治療
 腹部大動脈瘤破裂で搬送されてくる患者さんのほとんどは、もともと大動脈瘤がおなかの中にあることを気づいていません。もともと破裂しなければ症状はありませんから、見つかった人は人間ドックや他の検査目的にCTや超音波検査をした際に偶然見つかることがほとんどです。また、整形外科で脊椎のMRIを撮影した際に、偶然見つかり紹介されてくることもあります。自分で気づく人は希です。特に太っている人は、おなかの脂肪によるクッションのため、自覚しにくいです。痩せている人の中では、まれに、腹部に拍動性の腫瘤を自覚して医療機関を受診するひともいます。おなかの中に心臓がある、って受診した患者さんも過去にいました。痩せている人の中には、腹部大動脈瘤ではなくとも、正常径の大動脈を拍動性腫瘤として自覚することもあります。

 大動脈瘤手術はあくまでも破裂の予防手術ですが、これは大動脈瘤が存在することを認知してはじめて、治療につながるものです。超音波やCTで簡単に存在診断はできるので、50歳以上の人は2~3年に一回はCTを撮影するべきと考えます。またこうした検査によって肺癌や膵臓癌など早期発見しか根治できる方法がない疾患を見つけることも可能となります。
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横須賀市立うわまち病院の働きやすさ

2019-02-07 18:10:14 | 心臓病の治療
 心臓血管外科は病院のあらゆる診療科と連携して、重症の患者さんを病院の総合力をもって治療する診療科です。
 外科医の腕前もさることながら、その外科医だけの力だけでなく、その総合力が戦力です。これは、その国の軍隊が、一人の屈強な兵士だったり、一機の戦闘機の戦闘力だったり、強力な空母や潜水艦を持つということも重要ですが、それを運用・統合する軍全体の組織力、補給力など総合的な国力が影響することと似ています。

 うわまち病院は医師として働くのに、非常に働きやすい病院です。ごらんのように本館の建造物は、老朽化していますが、うわまち病院には100名以上の常勤医師がいて、救急部の専属のスタッフが8名いて24時間体制で救急車の受け入れを行い、循環器内科も専属スタッフが8名もいて心臓血管外科への手術症例の供給源となっています。特に車の両輪の一方ともいえる、循環器内科はハートチームを形成しつつも、同じ自治医科大学出身者が過半数を占め、また大学時代に一緒に勉強した同級生どおしがそろっていたりと、医師の疎通もツーカーです。合計28の診療科がありますが、その各診療科との連携のなかで、心臓血管外科の患者さんもやりとりや相談できる環境が整っています。
 特に2009年に心臓血管外科を開設したときには、麻酔科を気心が知れた同じ派遣元から一緒に赴任し、2017年からは集中治療医も専属で同じ自治医大から派遣され、心臓血管外科としては、強力な味方にバックアップされています。
 感染症制御の認定医資格(ICD=Infection Control Doctor)も6名以上が保持しており、NST(Nutrition Support Team)のための資格保持者も複数常駐しており、入院医療の質の担保もされています。過去に派遣された総合病院や大学病院では、こうしたICDやNSTが不在のため、心臓血管外科の診療の傍らに兼務しなければならなかったことが多かったのが、うわまち病院ではそうしたスタッフが複数、専門家としているために心臓血管外科の診療のみに専念できる環境が整っています。 そうした病院の環境が、専門診療科としての新しいチャレンジを可能にしていると思います。
 その意味で、この働きやすい環境のもと、2019年もより低侵襲で良好な成績を目指して、チャレンジングスピリットを忘れず、従事していく所存です。
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