横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心房中隔欠損症による心不全

2022-04-30 00:24:17 | 心臓病の治療
 心房中隔欠損症は、心房中隔に穴が出生時に遺残してしまったために、左心房から右心房に血流の短絡があり、肺血流が増加し肺高血圧になると同時に、右心系が拡大し三尖弁逆流が発生する病態。左心系としては、大動脈へ拍出される血液が減少する、右室と左室のバランスが変化して僧帽弁逆流が起こるなどの変化があります。中隔欠損の大きさが大きければ、新生児期や幼少期に肺高血圧症が悪化して心不全になる可能性もありますが、多くは無症状のまま大人になり、老人になってから高血圧や動脈硬化などの加齢変化が加わって心不全になって救急搬送されてくる、というパターンを多く診ます。年齢としては80歳以上になってから心不全になるという印象です。
 大人になるまで無症状だから心配ない、というのではなく、80歳以上になってから心不全になると重症化もしやすくなるので、やはり、心不全兆候があるようなら早めの手術をしておくという考え方を推奨します。その意味で、今症状がないから放置、という内科医が多いのが現実のなか、定期的にフォローアップするのも心臓外科医の仕事と思っています。無症状の心房中隔欠損症でも徐々に心不全兆候が出てきてタイミングを逸することなく治療することが肝要と考えます。
 現在はカテーテル治療で閉鎖できたり、いわゆるMICS=小開胸で行う低侵襲手術も可能な時代ですので、ひとえに心臓の手術なんか、と思わず、気軽に相談してもらいたいものです。
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DNAR=治療放棄する医者と戦う

2022-04-30 00:09:54 | 心臓病の治療
 DNAR=Do Not Resuscitate 蘇生しない=救命しない=治療放棄
 外科医は病気を治すのに対して、内科医は病気を治す医者もいますが、多くは病気を診るのが役割のようです。病気を診る、というのは、治すのとは全然違うようです。診察して、診断するのが主で、診断して病態を把握した時点で仕事の半分以上終わっていると思っている内科医が多いようです。患者の期待する「治療」とは診断がついて病態把握してから、始まるのに、治療を始める前に治療を放棄してDNARの同意を取得しようとする内科医のいかに多いのには驚きます。そうした内科医は治療に失敗した際に責任を負わされたくない、という一心から積極的にDNARの同意を家族から取ろうとします。また、診ているうちに病態が悪化してくると、すぐにDNARの同意を取ろうとします。高齢という理由だけで治療を放棄してもいい、なんて一般の人は考えないですし、たとえ治らなくとも痛みや苦しみを緩和してあげるのも治療の一つです。痛みや苦痛を取るような治療すらしないことを、BSC=Best Supportive Careと呼ぶ人もいますが、これは患者に対するBest Supportではなく、何も治療したくない医者に対するBest Supportだとしか聞こえません。医師免許が不要な仕事しかしない医者に運悪くあたってしまわないようにしたいものですが、心臓血管外科の積極的な診療をしていると、常にこうした「治療放棄」の医者と戦うことになる現状は年々ひどくなっているように思えてなりません。患者さん、およびそのご親族にはこうした医者の治療放棄に関する説得に押し負けることなく、治療希望をしっかり伝えてできる治療を受ける権利を主張していいと思います。そのために救急車を読んだり、病院を受診したりしているのですから。
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なぜLIQS手術は普及しないのか

2022-04-28 16:50:54 | 心臓病の治療
 

 Less Invasive Quick Openstenting(LIQS)手術は、遠位弓部大動脈瘤に対して、低体温循環停止下に大動脈弓部を切開してオープンステントを挿入し、近位側の人工血管部分を大動脈内側に縫着して瘤を閉鎖する術式である。これにより、オープンステント部分より近位側を弓部置換する必要がなく、低侵襲・短時間に手術可能となる。しかしこの術式の実施施設は少なく、弓部大動脈置換が実施されているのが一般的である。
 LIQSが行なわれない理由として、
①循環停止中の脳血流遮断時間が長くなった場合の脳ダメージのリスク
②視野不良な大動脈内部での人工血管縫着の手技、人工血管を縫着する縫合糸の針穴からの出血リスク
③ブラインド操作での食道や期間の損傷
④エア抜きが不十分になるリスク
⑤先進的なTEVARを実施している施設では、弓部のTEVAR対象となっている
 等が考えられます。

 安全性の高い応用手技としては、
①左鎖骨下動脈を閉鎖し、上行大動脈に吻合した人工血管で左腋窩動脈に再建することで、より近位側にオープンステントを挿入できます
②大動脈切開を長軸方向へ延長することで大動脈内部の充分な観察をしながらの手技が可能となります。
③弓部分枝の選択的脳灌流を併用することで手技に時間的余裕が出来ます。
④左腋窩動脈へ血行再建する人工血管からエア抜きができます。

 より低侵襲な方法として、胸骨部分切開アプローチでも上記の応用により、安全、確実なLIQSが可能となり、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では積極的にこの術式を採用しています。
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放射線療法による皮膚障害のある患者に対する側方開胸アプローチによる心臓手術の有用性

2022-04-28 16:47:27 | 心臓病の治療
 乳がん術後の放射線療法によって発生する皮膚障害は、その後の心臓手術創の治癒障害を引き起こし、長年にわたる創トラブルの原因となります。
 放射線皮膚障害が起きている部位を避けたアプローチによる心臓手術によって術後の創トラブルの予防できます。
 以前は胸骨部分切開などで極力放射線照射部位から離したアプローチをしていたが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、MICS(側方小開胸アプローチによる心臓手術)導入により、放射線皮膚障害およびその瘢痕を避けた手術が可能となった。内胸動脈を使用したCABGは出来ない可能性が高く、グラフトの事前検討が必要です。
 既に横須賀市立うわまち病院では、放射線照射によって胸骨骨髄炎を起こした既往のある患者さんのMICSによる大動脈弁置換術や、冠動脈バイパス術(MICS-CABG)を実施しており合併症なく退院されております。
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DOBUITA English

2022-04-25 17:36:08 | 心臓病の治療
 現在横須賀市立うわまち病院心臓血管外科をローテーションしている初期研修医が米海軍病院との合同カンファレンスで、心臓血管外科で手術を支援した後腹膜腫瘍の症例を呈示しました。人工心肺を使用して、下大静脈に浸潤した腫瘍を切除した際の大量出血をサッカーで吸引し、送血管から酸素化して返血する回路を確立し、安全に切除した症例でした。この症例のプレゼンテーションを、流暢な英語で説明していたので、どこか海外で生活していたのか、と後日聞いたところ、横須賀出身でドブイタ通りでガイジンから英語を学んだ、とのことでした。まさに、ドブイタイングリッシュです!初期研修医1年目でありながら何度も胸部外科学会の地方会で発表し、優秀演題にも選ばれ、また、来月は血管外科学会総会でも発表予定であり、将来有望なドブイタ心臓血管外科医になってくれることでしょう。
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労作時呼吸困難、それ心不全?

2022-04-20 08:24:39 | 心臓病の治療
 労作時息切れを自覚することは、一番に心不全や肺疾患、腎不全による溢水など循環、呼吸に関連する疾患を疑います。
 しかしながら、種々の検査でこうした疾患が否定された場合は、それ以外の機能性の病態も可能性があります。誰でも坂道をダッシュで駆け上がると息切れを感じるように、その人の心肺機能の問題で息切れを自覚している場合もあります。たいしたことのない程度の労作で症状出現する場合の原因としては、体重が多いことも考えられます。やはり大きな重荷を背負って坂道を昇るのには誰でも息切れが出そうですが、通常よりもBMIが大きい場合は減量も必要な治療に入ってくると思います。なかなか外来治療で減量に成功する患者さんが少ないのも事実です。
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乳がんに対する放射線治療後の心臓手術

2022-04-19 08:42:06 | 心臓病の治療
 放射線治療した皮膚の治癒機能は低下してしまうため、乳がんに対して放射線治療を行ったあとに、心臓手術が必要になった場合、治療部位を皮膚切開するとなかなか手術創が治癒しないというリスクがあります。実際の患者さんでは、他の術者が行った手術で、やはり7年以上も皮膚の潰瘍が治癒していない症例を診察したことがあります。
 筆者としては極力、放射線が当たった部位を避けて皮膚切開することで、術後の創トラブルを予防しています。数年前、現在の形のMICS(小切開アプローチによる低侵襲心臓手術)が確立していない時点では、胸骨部分切開によるアプローチを採用し、しかも皮膚切開を放射線治療部位と対側の側方にずらして皮膚切開することで術後の創トラブルを予防した症例がありました。
 現在は完全に側方小開胸アプローチの手術が確立したので、大動脈弁置換術に対して腋窩切開によるアプローチで予防した症例、また、左側方開胸で冠動脈バイパス術(MICS-CABG)を行うことで予防した症例を経験しています。
 冠動脈バイパス術で注意が必要なのは、放射線治療によって内胸動脈にも影響を受け、内膜肥厚などの変化があり、CABGのグラフトとして適切でない可能性がある、ということです。この場合は他のグラフトを考慮する必要があります。筆者の経験でも2例ほど放射線治療後の左内胸動脈を採取したことがありますが、いずれも周囲組織と癒着しており、1例は使用でき、その後も開存が維持されましたが、1例は採取時の血流が不良で使用を断念しました。
 それほど多く遭遇することは1外科医としてはありませんが、乳がんの患者人口はそれなりに今後も維持されると考えられますので、術後の創トラブルや内胸動脈の使用に関してはその都度検討する必要があります。
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神奈川ペイのポイント付与終了

2022-04-17 18:39:42 | 心臓病の治療
 新型コロナウィルスパンデミックに対する経済対策の一環で、神奈川県が行っている神奈川ペイは、ポイント付与期間が今月の2022年4月末まで延長されましたが、ポイント付与総額が70億円に達した時点でポイント付与終了となります。とうとう、The day has come!4月15日でポイント付与が終了してしまいました。一人あたり最大3万円分のポイント付与上限がありますが、筆者は16000ポイントほどしか還元されておらず、使い切る感じにはなりませんでした。後半になり、駆け込みで対象店舗に名乗りを上げるところが増えたので急速に利用者が増加したものと思います。夏にまたポイント付与を再開するとの話もあるようなので、それを待ち遠しく待つことにします。

 しかしながら、筆者は可能な限りポイ活しておりますが、レジで並んでいるときに他のお客さんを見ている限り、世の中の人はあまり利用している人は少ないように思います。
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僧帽弁置換術後の左房破裂?

2022-04-17 18:31:07 | 心臓病の治療
 僧帽弁置換術後の合併症として、左室破裂は致命率の高い、心臓外科医が最も遭遇したくない合併症の一つではありますが、同じような手術操作で左房破裂が起きることがある、と聞いたことがあります。
 筆者は今まで左室破裂は数例経験しましたが、残念ながらというか、幸運なことに、相談された左房破裂は今まで経験しておりません。僧帽弁置換における運針で左房が破裂する可能性が本当にあるのかどうかも確信はありません。犬においては手術操作ではなく自然に僧帽弁閉鎖不全症の症例で発生することはあるようですが、人間では一般的ではないようです。
 僧帽弁手術の運針で僧帽弁輪に糸かけをして人工弁を縫着する際に、左房壁にかかっている針孔の部分で裂けた場合は左房破裂のような現象はありうるかもしれませんが、通常僧帽弁後尖側には冠動脈回旋枝が走行しており、それを超えて左房壁の外まで針をかけるとこうことが本当にありうるか、疑問です。やはり左室破裂を起こして、それがまるで左房から出血するように見えた、と考えると納得いくようにも思います。
 左房破裂の経験がある人がいたら是非そのへん教えていただきたいです。
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妊婦の深部静脈血栓症

2022-04-04 22:38:52 | 心臓病の治療
 妊婦さんに深部静脈血栓症が発症した場合の対応として、産科のドクターに相談したところ、基本的に入院治療となり、お産まで抗凝固療法を継続するとのことです。同時に抗リン脂質抗体症候群など血栓性素因がないかを精査するそうです。ネットの検索では、胎盤を通過しない低分子ヘパリンを使用するとの記載もあり、その場合は外来通院管理しながら自己注射も可能かと思われましたが、横須賀市立うわまち病院では基本的に即入院治療とのことでした。妊婦のDVTに関しては産婦人科医でも対応に詳しくない人も少なくないようでしたので、今回学んだことを記載しました。
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