横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

冠動脈肺動脈瘻

2018-06-28 13:12:28 | その他
冠動脈瘻ともいう、先天性心疾患の0.5%を占めるまれな疾患です。冠動脈から分岐する異常血管が肺動脈や、まれに右房や上大静脈に流入する短絡性疾患です。
これにより、冠動脈の血流がシャントに流れ込み、冠動脈の流量低下が起きて狭心症を起こしたり、また異常血管が瘤化して破裂の危険があったり、またこうした異常血管には感染性心内膜炎のリスクもあるといわれています。

無症状でも短絡量が心拍出量の3割を超える場合は手術適応と一般に言われているようです。

短絡量が少ない場合は、そのまま未治療で経過観察されていることも多いのですが、症状があったり、瘤化を認めた場合は手術適応となることがあります。


治療としてはカテーテル治療による閉鎖(コイリング)で対応可能なこともありますが、複雑なものは、外科的に切除する必要があります。
外科的切除では、人工心肺を使用せず心拍動下に異常血管を切除する報告もありますが、これだと不完全な切除となり再発の可能性もあるため、通常は人工心肺を使用して、肺動脈を開けて流入口を閉鎖することで完全な異常血管の閉鎖が可能となります。この場合、当院では心拍動下に人工心肺を使用して、肺動脈を切開する方法を行っています。そのほうが、異常血管から流入する部位を直接確認することが可能です。心停止下に行う施設もありますが、この時は心筋保護液を左右冠動脈から注入し異常血管から肺動脈の流入口に心筋保護液が流れ出ることを確認する必要があります。
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JADECOM循環器症例検討会

2018-06-26 18:16:17 | 心臓病の治療
https://blog.goo.ne.jp/admin/newentry#

循環器症例検討会2018が7月1日に開催されます。
地域医療振興協会で循環器診療している施設が日常診療で遭遇した経験などを持ち寄り検討し、また施設間交流する会合になっています。

横須賀市立うわまち病院からも日常診療の経験について報告する予定です。
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左心耳マネジメント

2018-06-26 06:06:11 | 心臓病の治療
 6月23日 左心耳マネジメント研究会に参加しました。左心耳マネジメントとは、心房細動を放置した場合約5%に発生すると言われる左房内血栓を予防するために、積極的に治療していくことを指します。その血栓の9割は左心耳内に発生するといわれています。
心房細動に抗凝固療法を行う事で、約5%に発生する脳梗塞は1-2%に減少するといわれています。しかしながら年1-3%の重大な出血性合併症が発生し、途中で服薬をやめてしまう、もしくは止めざるを得ない人も24%もいるといわれていますので、抗凝固療法だけでなく、心房細動全体を考慮した治療ストラテジーが重要です。
 
 心房細動の治療として、
①リズム制御 心房細動を洞調律に戻して維持すること;カテーテルアブレーション、メイズ手術、抗不整脈薬、カウンターショックなど
②心拍数制御 適正な心拍数に調整して心不全や意識消失発作などを予防する; β遮断薬、カルシウム拮抗薬による心拍数低下、ペースメーカーによる徐脈・心停止対応
③抗凝固療法 左房内血栓を予防する為、ワーファリンやXa阻害剤(DOAC:Direct Oral Anticoagulant)
④左心耳マネジメント 左心耳の閉鎖により血栓形成を予防すること; 経カテーテル的閉鎖、外科的閉鎖

この中で、左心耳マネジメントには、大きく経カテーテル的閉鎖と外科的閉鎖があります。

 経カテーテル的閉鎖では、現在 5機種ほど(Watchman、Lariat,Amuplatzer/Amulet,Warecrest, LAmbreなど)開発されていますが、前向き大規模試験が行われている商品はWatchmanといわれる、パラシュート型をした商品だけです。これは、左心耳の携帯によって、その形状を選択し、ステントグラフトのような網状の金属部分を左心耳の内部に固定し、その天井をシートで貼ったような、一見小さな東京ドームのような形態のデバイスです。これは大腿静脈経由から右房に到達し、心房中隔を穿刺して左房ないに入り、左心耳に経カテーテル的に留置するものです。Watchman留置後は45日間のワーファリン+アスピリン、その後の6か月間の二種類の抗血小板薬、その後は最終的にアスピリンのみの内服とするプロトコールになっています。この臨床研究では、Watchmanを留置した症例と、ワーファリンによる抗凝固療法を継続した77症例では、脳梗塞を発生する頻度が変わらなかったという結果でした。その一方で、Watchman留置群の方が、心血管死亡や出血性死亡が少なかったと報告されました。Watchman自体に血栓が付着する頻度は0.2%でした。現在、このWatchmanは国内で臨床治験が行われており、近々保険適応となるといわれています。ワーファリンやDOACの継続ができない患者様に関しては福音となります。また抗凝固療法のリスクや服薬のわずらわしさ、内服継続の長期的な費用を考慮して、内服が不要になるならばWatchmanを希望するという人も今後出てくる可能性もあります。

 外科的治療としては左心耳の切除もしくは閉鎖があります。左心耳の切除は文字通り、外科的に切除して、左心耳入口付近で縫合する方法です。他に自動吻合器を使用して切除する方法もあります。実際に左心耳が無くなるので有効な方法です。術後の心嚢液貯留の頻度がカテーテル治療に比較して高くなりますが、有効な方法です。これと同等なのが、Deviceを使用した閉鎖で、Atriclipという専用のクリップで挟んで閉鎖する方法です。自動吻合器で閉鎖する方法もあります。他に、内側から、もしくは外側から糸をかけて入口を縫縮・閉鎖する方法があります。

 左心耳の縫縮を行う事で、脳梗塞の発生頻度が17%から3.4%に減少するという報告もありますが、不完全な縫縮になっている症例が10.3~24%あるといわれており、不完全な縫縮部位には血栓形成を起こす頻度が7%といわれ、治療方法として確立しているとは言えません。これに対してAtriclipでは9不完全症例は有意に少なく、5-100%で完全に左心耳が閉鎖されています。

 今後はこうした左心耳マネジメントを考慮した治療方針が実際に普及していくものと思われますが、左心耳を閉鎖するのに、今後は9割はカテーテル治療、1割は外科的閉鎖が選択されると予想されています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも慢性心房細動の症例の開心術には同時に左心耳切除を行うことが多いのですが、オフポンプCABGなど心停止を伴わない手術ではAtriclipを使用した症例もあり、今後も積極的に左心耳マネジメントを推進していくことになると思います。
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大網充填術後の感染遺残・再感染

2018-06-25 06:44:14 | 心臓病の治療
 縦隔炎・胸骨骨髄炎後に感染が局所で再燃することがあります。大網は感染に強い組織なので、感染に弱い胸骨や縦隔内の感染に関しては強い味方です。最近は陰圧吸引療法(NPWT Negative Pressure Wound Therapy)が有力な武器になっており、特に補助人工心臓装着症例に起こる創部感染などでは、死亡率が多きく減少しているとも言われています。

 しかしながら、大網充填した後に感染が遺残、もしくは再燃してしまうことがあります。
 過去の経験では胸骨骨髄炎のレベルの感染では感染再発は見たことがありませんが、胸部大動脈瘤や大動脈解離の術後に人工血管感染を伴う縦隔炎に対して大網充填を行ったあとに感染が再燃してしまった症例を経験したことがあります。感染が再燃してしまった理由として、全周に大網を巻いていないので膿瘍のスペースが遺残してしまう、栄養状態が悪い、感染が制御されて無菌化する前に大網充填したことなどが関係していたと考えられます。大網充填術後に感染が再燃している頻度は非常に稀です。再燃した症例の菌種は、コリネバクテリウム、緑膿菌、MRSAです。
 それに対する対応として、再度大網を巻きなおす、再度ドレナージしてNPWTを再開する、などの外科的対処が可能なものは行うとして、それ以外はNPWTを装着して祈るくらいしかないかもしれません。長時間を要しましたが、治癒した症例はNPWTを月単位で長期間装着し、適合した抗菌薬を継続、NSTに積極的に関与してもらい栄養管理を行った症例です。
 よって、特に人工血管が入った症例で感染の再燃を予防するためには、最初に大網充填するタイミングが重要です。十分洗浄、ドレナージを行って複数回、創部の培養が陰性になってから大網充填を行う事が重要と最近では考えております。最初の培養が陰性であっても、弱毒菌が潜伏感染していることは否定できないため、複数回の培養陰性をタイミングの指標としています。
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僧帽弁再形成術

2018-06-21 05:59:22 | 弁膜症
僧帽弁再形成術の経験

【背景】僧帽弁逆流症に対する外科的治療の第一選択は僧帽弁形成術となっており、10年間再手術回避率は90%程度と言われている。しかし僧帽弁形成術後の再形成の報告は少なく、形成術後の再手術は僧帽弁置換術が大半を占めているのが現状である。
【目的】僧帽弁形成術後の逆流再発症例に対する再僧帽弁形成術成功症例について、その再形成を可能とした術中所見、および手技について検討する。
【方法】2005年から2018年の同一術者による僧帽弁形成術217例のうち、僧帽弁形成術後の再手術症例を抽出し、再手術時期、手術所見、再形成の手技を調査した。
【結果】形成術後の僧帽弁逆流再発の為、再手術を要した症例は7例あり(他病院もしくは他の術者が執刀した症例は3例)、再手術症例は全僧帽弁形成術の3%を占めていた。
初回手術から再手術までの期間は平均8か月(1~24ヶ月)で、術後3か月以内での再手術が7例中4例と半数を占めており、長い症例でも24ヶ月とすべて早期の再発症例であった。2008年の第一例目は、僧帽弁形成術後1ヶ月の再発で、突然のP2縫合部断裂により発生し緊急で、僧帽弁置換術とした。原因は補強に使用した人工弁輪が本来の形態と相違したため縫合部に過剰な負荷がかかったと考えられた。再縫合による再発の危険性を考慮して再形成を試みることなく人工弁置換とした。その後の6症例はすべて再形成が成功している。病変部位はすべて初回の手術部位に関連した病変で、前尖1例、後尖5例であった。逆流再発の原因は、人工腱索の牽引する方向が非生理的であったため変性が進行、感染組織の遺残による穿孔、弁尖縫合部の変性・延長、人工弁輪が外れたことによる弁輪の変形、人工腱索長が変化したことによる逸脱の再発、Foldingした組織が裂開と逆流の原因はすべて異なっており、それぞれの原因、病理に合わせた再形成が必要であった。再形成の方法は、人工腱索3例、切除+縫合1例、裂開部の直接縫合1例、自己心膜によるパッチ形成1例と、その病変に合わせた手技を要した。人工弁輪の再縫着は6例中5例で行った。再形成症例の平均の大動脈遮断時間は97分で、手術時間は319分で、遮断時間は初回手術とほぼ変わらないが、手術時間は癒着剥離など必要なため長い傾向にあった。2例が無輸血であった。在院死亡はなく、全例合併症なく退院し、その後の再発は現時点で認めていない。
【考察】僧帽弁後尖の再形成は人工腱索や切除+縫合、弁輪の縫縮など多様な手技を加えることが可能であるため再形成は成功率が高いと考えられる。また、人工腱索による弁形成後は、初回手術前の解剖の状態に戻してから形成することが可能なため、再形成が成功する要因は大きいと考えられる。【結語】僧帽弁形成の再手術で再度形成を成功させるには、逆流再発の原因の正確な分析と、その病変に合わせた手技の適応が重要である。

(10月に行われる日本胸部外科学会総会で採用され発表する講演抄録)
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CFD=Computed Fluid Dynamics

2018-06-20 06:12:36 | その他
最新の画像解析技術の発達は目覚ましいもので、実際のMRIや造影CTの画像から、血管内の血流解析を行うことで、血管のどの部分の壁に負担がかかっているか、などを個別の患者様で知ることができます。たとえば、解離性大動脈瘤の大動脈の中で、やはり偽腔の壁に負担がかかっている部位がこの解析で判明したとすると、この部分が将来的に拡大して、破裂の危険が高くなるということが予測できます。大動脈瘤や大動脈解離において、将来破裂や拡大のリスクを正確にしることができれば、無駄な手術や検査も省略できますし、何といっても患者さんが安心して日常生活を送ることもできるし、また手術のタイミングも検討できることになります。現在は研究段階ではありますが、これが日常診療レベルで、電子カルテの中で簡単に解析できるまでに一般化すれば、さらに手術における置換部位の決定などにも応用でき、より確実な治療にも将来つながっていくものと思われます。
 血流を扱う循環器診療においては将来期待の大きい分野と思います。
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須賀市立うわまち病院心臓血管外科における弁膜症手術の現状と周術期不整脈管理

2018-06-18 19:07:33 | 弁膜症
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科における2017年の手術件数は383件で、うち心臓胸部大血管手術(いわゆる開心術)は133件であった。そのうち弁膜症は74件と、開心術に占める割合は半数以上で、今後高齢化が進むにつれてますます増加していくことが予想されている。
 こうした背景で、より手術侵襲を小さくし、早期の回復が期待できる低侵襲心臓手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)が注目されるようになってきた。2018年4月より右小開胸の内視鏡補助下弁膜症手術は保険の加算を認められるようになり、今後盛んになると考えられる。当院においても、僧帽弁形成術、大動脈弁置換術などを8cmほどの右小開胸で行うMICS手術を神奈川県内でも最も早く導入し、術後約1週間での退院を可能にしている。MICSの利点として胸骨正中切開しないため縦隔炎が起こる可能性が著しく低い、回復が早い、術後の呼吸不全になりにくい、等があげられるが、一方、不利な点として、長い特殊で高額な手術器具を必要とする、操作が煩雑かつ難しい、視野の死角が出来やすく出血部位を同定しにくい、片肺換気を要するなどがあげられるため、適応するには慎重な検討が必要である。現時点ではリスクの低く、手技的に確実に手術が可能な症例を選んで適応している。
 また、心房細動において出血などの影響で抗凝固療法が出来ない症例に対して、左心耳の切除をすることで、左心耳内に血栓形成することを予防する手術も、専用のデバイスを用いて5分ほどで安全に行うことが出来る方法も症例によっては適応としている。
 弁膜症に加えて、左小開胸による冠動脈バイパス手術も2017年から開始され、複数のバイパスを作成したり、循環器内科のカテーテル治療との組み合わせ(ハイブリッド手術)によってより低侵襲な人工心肺非使用冠動脈バイパス術、いわゆるオフポンプバイパスも導入し、症例が増加傾向である。
 周術期管理においては、心拍数80以上の頻脈が心血管イベントや心筋のダメージに影響するとの報告があり、積極的に心拍数を低下させる手段として短時間作動型のベータ遮断薬の有用性が指摘されている。
 こうした新しい治療、低侵襲な治療をより積極的に導入することで、今後弁膜症を含む心不全のパンデミックに対応していくことが望まれる。

(第二回 三浦半島Cardiovascular Seminar 講演要旨)
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低侵襲心臓手術・透析患者の弁膜症

2018-06-17 11:35:06 | 弁膜症
第2回 三浦半島Cardiovascular Seminarが6月15日 行われました。約50名の参加者があり、最新治療の講演と活発な討論が行われました。

Session1では、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科で行われている低侵襲心臓手術(僧帽弁形成、大動脈弁置換、冠動脈バイパス術)に加えて、ニューデバイスによる心房細動に対する左心耳閉鎖術が紹介されました。僧帽弁形成では8cmほどの右小開胸で逸脱した僧帽弁後尖を切除・縫合した修復した症例と、前尖の広範な逸脱に対して人工腱索4対をループテクニックで作成した症例を提示。術後も約1週間で退院している経過が報告されました。

Sesseion2では、自治医科大学心臓血管外科の川人教授から、透析患者の弁膜症手術の成績がここ25年で著しく改善し、その詳細な治療の工夫などを講演されました。透析患者様の場合は、追い込まれてから手術を受ける場合が多く、特に緊急手術が手術死亡率を押し上げる原因となっているため、透析をしていない一般の患者様と同じ適応で手術時期を逸しないことが成績を改善することに重要とのことでした。また栄養状態が悪い症例が多いことも成績が悪い原因となっているため、普段からの栄養指標を参考にした方針・手術時期を決定することも重要です。血清アルブミン値とリンパ球数が栄養指標で重要です。手術中の管理でも、短時間で手術を終了すること、術後に出血させないように細心の注意で止血操作をすること、Fast Track麻酔で早期に人工呼吸器から離脱して早期回復を図ることなどが重要とのことでした。
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急性大動脈解離の治療の進歩

2018-06-13 19:55:09 | 大動脈疾患
急性大動脈解離は心臓血管外科領域における緊急手術の代表格である。突然発症する大動脈疾患で、即座に診断して治療方針を決定し、外科治療が必要な場合は最も早く治療開始出来るよう病院連携することが救命を左右する。その中で、演者が経験した最近20年間における急性大動脈治療の進歩について概説する。

【大動脈解離治療の流れ】多くは突然発症する胸背部痛であるが、臓器虚血症状が前面に現れることある。CTで確定診断し、上行大動脈に解離を有するStanford A型は緊急手術、B型は保存的治療で、直ちに治療方針を決定る必要がある。手術は、主に人工血管置換による破裂部位置換とエントリーの切除である。臓器虚血症状がある場合は、バイパスや開窓術などのオプションを検討。

【診断・治療の進歩】強く実感するのは、迅速な診断が可能になったことである。特に関西淡路大地震の後、全国の研修指定病院に救急部が設置され、救急医療の普及したことで、急性大動脈症候群が疑われる機会が増え、CTへのアクセスが改善した。手術手技の進歩として、人工血管や止血剤の進歩が手術時間の短縮に寄与している。弓部大動脈置換術においては、商業ベースのオープンステントの登場により下行大動脈の真腔拡大がより期待でき、また脊髄虚血による対麻痺の発生を低下させる手技も検討されている。心尖部や上行大動脈送血など新しい人工心肺の送血方法が考案され、より安全かつ確実、かつ短時間でアクセス可能な送血部位が可能なっている。下行大動脈の解離では、ステントグラフトによる真腔の拡大やエントリーの閉鎖が有効な症例も増えてきた。臓器虚血障害が課題として残るが、早期診断が、早期治療を可能としており、救命率が改善していくと考えられる。

【結語】急性大動脈解離の治療成績は、この20年で大幅に改善し、手術死亡率も平均20%から、現在は10%ほどに世界でもトップクラスの成績となっているが、これには、医療全体のレベルアップにより、早期の診断と、より早期の手術介入が可能となってきたことが大きい。手術・治療の技術革新も治療成績に寄与してきたと考えられる。

(JADECOM学術集会 講演要旨 2018年9月8日 海運ビル)
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セカンドオピニオン

2018-06-12 19:36:19 | その他
セカンドオピニオンとは、他のひとの意見も聞いてみる、という意味です。特に医療に関しては、医師の診断や治療、または考え方なども一人一人、もしくは施設ごとに違うため、患者としてその診断や治療で本当にいいのか、納得できない場合は他の医者の意見を聞いてみる、という事で、セカンドオピニオンを希望されることも少なくありません。

しかしながら、セカンドオピニオンという言葉を医者も、患者もどちらも履き違えて誤ってつかっていることもあります。筆者としては、今までセカンドオピニオンという目的で紹介状を持参された患者様には、それまでの主治医の診断、治療が正しいか、他にもこうした治療もあるとかの意見を伝えて、基本的に主治医に返事を持たせて返すとこを基本としていました。しかしながら、患者さまが、たとえば都会の有名病院の有名医師の意見も聞きたいというので、セカンドオピニオン希望ということを紹介状に記載して紹介してるのに、こちらにはsecondオピニオンとしての返事もなく、ただ手術が必要だからということで説得してその病院で手術をして返して寄越す、しかも僧帽弁形成可能と思われる症例なのに弁置換の結果になるなど、必ずしも質のいい手術をうけていなかったりと不満の残ることもあります。

セカンドオピニオンとは、治療依頼ではなく、文字通り意見を聞く、という目的の言葉であるはずです。しっかりそうした対応をしている施設ももちろんありますが、やはりセカンドオピニオンとして最初は対応して、主治医にいちど差し戻した上で治療方針を決めるのがスジではないでしょうか。

心臓血管患者における患者獲得競争は熾烈なものがあるのは事実で、それによって施設の生き残っていけるかどうかが決まるのも事実ですが、患者の獲得のためには仁義なき戦いをする、これでは、ドラマで面白おかしくシナリオをかかれているのと、さほど差がない病院のレベルの低さを露呈していることになり、医師としての品位や社会的地位を低めてしまうだけだとおもいます。

横須賀市立うわまち病院ではセカンドオピニオンを頂いた場合は、その患者様の目線で患者様の最もメリットのある治療法を選択できるように意見し、主治医にお返しすることを基本とします。より多くのセカンドオピニオンを依頼いただけるような施設になるように今後も努力していきたいものです。
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心房細動からの脳梗塞を予防する②=左心耳の閉鎖・切除

2018-06-10 08:46:20 | 不整脈
心房細動によって心房内に血栓を形成し、その血栓が脳血管に流れ着くことによって脳梗塞を発症させること、心原性脳塞栓症ともいいます。
心房内に血栓ができる場合、9割は左心耳にできています。左心房は袋状の空間に、左心耳といういわゆる心臓の耳のような形の部分が加わって構成されています。手術中に観察できる左心耳は左心室の頭側、主肺動脈の左側に外側からは見えますが、一方、左房内からは僧帽弁口の頭側で、左側の肺静脈口との間に入口が見えます。

左心耳に血栓ができなくすることが、心内血栓の予防に大きく貢献します。

②心房内に血栓ができないようにする治療が、心房細動を治す①に加えて、重要な治療となります。

一つは、抗凝固療法によって血液が固まらないようにすることで、心房内の血栓形成を予防します。注射剤としてはヘパリンがありますが、内服薬としては、代表的なのはワーファリンや、Xa阻害剤などによる抗凝固療法です。抗血小板薬を併用することで効果が追加されます。抗凝固療法には、一方で出血のリスクがあります。ワーファリンには種々の薬物相互作用があるので、食事の制限があったり、他の薬剤との飲み合わせの問題もありますし、Xa阻害剤(最近はNOAC、DOACといわれています)はワーファリンと効果が同じで、より早期に効くし、毎回の採血でのPT(プロトロンビン時間)検査が不要の為、近年普及してきているのではありますが、まだ後発品がないため、お値段がワーファリンの約100倍と高価です。患者様によっては、こうした薬剤が使えない人も少なからずいます。

抗凝固療法ができない患者様には、左心耳を閉鎖または切除することが予防に有効と言われ、その効果は抗凝固療法と変わらないという報告もあります。左心耳を閉鎖することで、薬物を内服が必要なくなる、とまで言えるかどうかはまだ情報が不十分かもしれませんが、今後エビデンスが蓄積されれば一生内服する薬物治療から解放される可能性があります。
 左心耳を閉鎖する方法として、、経カテーテルに左心耳内に傘状のデバイスを挿入留置して塞いでしまう方法(ウォッチマン = Boston Scientific社)があります。左心耳の形に合わせて、サイズ・形態を選択します。他には外科的に閉鎖、もしくは切除する方法。多くはメイズ手術や僧房弁手術と同時に、外側から左心耳を切除する、もしくは左房内から左心耳の入り口を糸で縫合して閉鎖する方法です。
 今後注目される方法として、左心耳を外側から専用のクリップのような装置で挟んで、そのクリップを留置して閉鎖する方法で、この方法ですと、心停止下で行う必要がない為、人工心肺非使用のバイパス手術時に併用したり、左小開胸、内視鏡補助下で人工心肺非使用下に行うことも出来ます。残念ながらまだ保険償還がとれないので、自費診療にするか、もしくは病院の持ち出しとして使用されていますが、今後保険償還が取れる、もしくは新たな術式として保険で認められる方向にあるといわれ、そうなると爆発的に手術を受ける患者様が増加する可能性があります。特にインテリジェンスの高い患者様には、その予防効果が注目され、希望者が多いと聞いています。まだ関東地方でも左心耳閉鎖のみを行っている施設は少ないですが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、適応のある患者様では今後積極的に左心耳の閉鎖術を行っていく方針とする予定です。
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心房細動からの脳梗塞を予防する①

2018-06-09 11:26:42 | 不整脈
 心房細動は、不整脈の中で最も多く遭遇する不整脈ですが、左心房の中に血栓を形成し、それがはがれおちたものが血流にのって、脳血管に流れると脳塞栓、多臓器に流れた場合もその臓器ごとの塞栓症状を引き起こします。下肢動脈には下肢の急性動脈閉塞、腸管では腸管虚血、いずれも命にかかわる重大でかつ突然前触れなく発症する病気です。
 その意味で、無症状の心房細動でも、血栓形成を抑制して、突然の重病を予防していく必要があります。

① 心房細動そのものを治療する
 弁膜症に関係して心房細動を呈している場合は弁膜症の手術が必要です。弁形成や弁置換術が前提になります。また心不全を呈している場合は、心不全の原因にそった治療が必要になります。
 弁膜症がない、心房細動ではカテーテルアブレーションというカテーテル治療が有効な場合があります。これは心房壁の一部を経カテーテル的に電気的に焼灼したり冷凍凝固する方法です。有効率7割・
 また、メイズ手術といって、開心術として心房をあけて、心房壁の一部を同様に電気的に焼灼したり冷凍凝固することで心房細動を治す治療もあります。こちらも有効率は約7割といわれています。
 心房細動が両側の肺静脈が起源になっていることがあるので、最近は両側の肺静脈を胸腔鏡下に焼灼する肺静脈隔離術を行う施設もまだ少ないですが始まっています。

発作性心房細動の場合は、抗不整脈薬で心房細動が予防できれば、それが一番簡便な方法のひとつです。ベータ遮断薬やいくつかの抗不整脈を内服、または発作時に注射することは古典的な治療ですが、発作性心房細動には一時的に効果が期待できます。心拍同期したカウンターショック(心臓への直流通電)も術後などの発作性心房細動では、洞調律に復帰させるのに時々行われます。

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第2回三浦半島Cardiovascular Seminar

2018-06-08 00:31:04 | 心臓病の治療
第2回三浦半島Cardiovascular Seminar

日時:平成30年6月15日(金) 19時30分より
場所:セントラルホテル 5階サファイア
神奈川県横須賀市若松町2-8 :046-827-1111

プログラム

■Opening Remarks 19:30~19:35
横須賀市立うわまち病院 循環器内科 部長 岩澤 孝昌 先生
■session1 19:35~20:05
座長 横須賀市立うわまち病院 循環器内科 部長 岩澤 孝昌 先生
「当院における弁膜症手術と頻脈性不整脈治療について」
横須賀市立うわまち病院
心臓血管外科 部長 安達 晃一 先生
■session2 20:05~21:05
座長 横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長 安達 晃一 先生
「透析患者と心臓弁膜症」
自治医科大学附属病院 心臓血管外科部門
教授) 川人 宏次 先生

■Closing Remarks 21:05~21:10
横須賀市立市民病院 副院長 奥田 純 先生


今年のCardiovascular Seminarも、弁膜症の治療に焦点をあてた講演会のプログラムといたしました。うわまち病院の心臓胸部大血管手術の半数以上を弁膜症手術が占めており、大きなウエイトを占めています。うわまち病院に透析センターが開設され、徐々に透析患者様の手術症例も散見されるようになってきました。今回は、自治医科大学心臓血管外科教授の川人先生をお招きしての講演会を企画しました。
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第38回 日本静脈学会総会が横須賀で開催されます!

2018-06-07 14:06:53 | その他
 第38回 日本静脈学会総会が平成30年6月14~15日横須賀市で開催されます。

http://ech.co.jp/jsp38/

 会場の横須賀市汐入にある、メルキュールホテル、横須賀芸術劇場は、横須賀のシンボル的な場所であり最も横須賀らしい場所の一つです。
 横須賀共済病院心臓血管外科でも下肢静脈瘤に対するレーザー治療は年間100件以上実施しており、三浦半島において最も件数の多い施設の一つになっておりますが、静脈疾患に対する学会では更に新しい知見の得て、今後ますます積極的に静脈疾患に対する治療に邁進する一つの機会になると思います。

 学会にはたくさんの参加者が集まりますので、街の活性化にも大きく貢献するものと期待されます。休みの日には観光客が多い横須賀の街ではありますが、この周辺を案内しますと・・・

 目の前には横須賀湾が広がり、そこからは米軍基地と海上自衛隊の基地が一望でき、多くの軍艦をみることができます。ちょうど今は、自衛隊最大の護衛艦「いずも」が帰港しております。原子力空母ロナルド・レーガンは不在でした。他に、イージス艦やそうりゅう型潜水艦などミリオタでなくとも十分たのしめます。さらに、横須賀湾を巡って案内する、横須賀軍港めぐりは特におすすめです。
 また軍港を背景に飲むスターバックスのコーヒーは横須賀の癒やしポイントの一つです。二階テラスのソファが特におすすめです。

 三笠公園まであるくと、戦艦三笠を展示してあります。日本のよき時代、大和魂を奮い立たされること間違いなしです。

 周辺にはどぶ板通りがあり、昭和的なアメリカンの雰囲気を味わえます。
 また汐入の通りには、特に昭和を意識したお好み焼き居酒屋など、懐かしいレトロ感覚を楽しめます。
 どぶ板を歩いて横須賀中央まで来ると、また昭和の場末感漂う、飲み屋街=若松マーケットがあります。ここの名物カクテルが、「横須賀ブラジャー」です。ブランデーとジンジャーエールのカクテルです。
 横須賀の名物としては、一つは横須賀ネイビーバーガーでしょうか。米軍基地前のハニービーにはいつも行列が出来ますが、高カロリーでアメリカンな飲食をしたい人にはお勧めです。他には日本のカレー発症の地でもある横須賀にはカリー屋さんやインド料理のお店も多くあります。オリジナルなレシピの海軍カレーと、艦艇ごとに特色のある海自カレー、食べ比べてみるのもいいと思います。

 どぶ板通りから中央駅のほうまで歩くと、いろいろなお店があり、ここが横須賀のメインストリートになります。中央駅を右折して、平坂を10分ほど上っていくと横須賀市立うわまち病院心臓血管外科があります。横須賀市立うわまち病院は、もとの陸軍病院であった歴史に紀元があるため、場所として守りやすいようなロケーションになっております。平坂をやすまず登れないようですと、NYHA Class IIの心不全と診断されます。
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急性心筋梗塞は感染症か?

2018-06-04 06:32:25 | 虚血性心疾患
 急性心筋梗塞などの動脈硬化疾患は感染症と関係があるのでは?と1990年代からいわれており、その中でもクラミジアという病原体が動脈硬化プラークから同定されたり、また心筋梗塞を起こした患者さんに有意にその抗体価が高いという根拠からその原因説が疑われてきました。しかし、予防的に抗生物質を内服することがその発症を少なくする効果は認められなかったことから、最近その説というか治療に関して感染症を念頭におく概念はすっかり下火のように見えます。クラミジア以外にも動脈硬化と関連する病原体もいくつか報告されているようです。心筋梗塞と感染との関係が疑われるもう一つの根拠として好感度CRPが心筋梗塞患者で有意に高いということもいわれておりましたが、こうした非特異的マーカーも最近はあまり話題には上がらなくなってきたように思います。
 感染も少しは関係あるかもしれませんが、それ以外のファクターのほうが影響がより大きいということなのでしょうね。LDLや高血圧、喫煙、糖尿病、ストレスなど、もっと大きな因子のほうを治療した方が明らかに予防効果が高いということだと思います。
 しかしながら、こうした疾患に関した関連因子は意外なところで影響してくることもあるとは思います。仮説のままで終わるのか、それが定着して治療にまで結びつくのかは時代をみないと結論が出せないことも多々ありますね。
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