MICS: 低侵襲心臓手術と言われ、最近話題になっていますが、今年春の保険の改定で、加算手技料が認められるようになるようです。僧帽弁形成や大動脈弁置換術を右小開胸で内視鏡補助下に行った場合は、手技料の加算が認められます。横須賀市立うわまち病院でもMICS用の開胸器、手術機械などを購入する費用が、この加算によって補われる形になるので、より積極的にこうした手術が今後推進されていくものと思われます。
たしかにMICSで僧帽弁形成術を行った患者さんや、冠動脈バイパス術を行った患者さんは、今までの術後約2週間の入院期間が明らかに短縮されて、約1週間で退院していくことが多くなっております。政府としては手技料を認めることで、在院期間が短縮される方がはるかに医療費が縮小されることになり、医療費の削減に寄与することになるという目論見と思います。
たしかにMICSで僧帽弁形成術を行った患者さんや、冠動脈バイパス術を行った患者さんは、今までの術後約2週間の入院期間が明らかに短縮されて、約1週間で退院していくことが多くなっております。政府としては手技料を認めることで、在院期間が短縮される方がはるかに医療費が縮小されることになり、医療費の削減に寄与することになるという目論見と思います。
大動脈弁狭窄症に対して、通常の大動脈弁置換術が困難な場合に考慮する手術方法。経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI:Trans-Catheter Aortic Valve Implantation)が普及するようになってから、その方法の手術を行うことは非常に少なくなりましたが、TAVIが困難な場合は検討する意味があります。
Apico ⇒ Apex 心尖部
Aortic ⇒ Aorta 大動脈
Conduit ⇒ Composite Graft 人工弁を含む人工血管による導管
で、文字通り、心尖部から人工弁を介在させた人工血管を大動脈に導く手術です。Apico-Aortic Bypassともいいます。
心尖部に人工血管を縫着し、人工弁は主にフリースタイル弁などの生体弁を間に入れて、人工血管の遠位側は主に下行大動脈に吻合します。これによって、心室からの出口が大動脈弁以外にConduitの部分も広がるので、圧の逃げる口が出来ることで左心室の負担を軽減します。以前経験した症例では、冠動脈バイパス術後の症例で、左開胸で心室細動下に行いました。術後の本来の大動脈弁を通過する血流と、Conduitを通過する血流がほぼ半々になり心不全が軽快しました。この手術は心室細動下や心拍動下でも可能です。
適応になるのは、上行大動脈の性状が悪い、冠動脈バイパス術後でグラフトが開存しているなど、正中切開で上行大動脈を操作することが困難な症例です。逆に、左開胸・分離肺換気が困難な症例ではできません。TAVIが困難な症例としては、Shaggy Aorta Syndrome、二尖弁、透析患者などがあり、この中で正中切開の弁置換が困難な場合は検討の価値があると思います。
手術手技としては補助人工心臓の脱血管を心尖部に縫着する手技と似ているので、補助人工心臓の経験のある外科医には比較的導入しやすいと思います。
Apico ⇒ Apex 心尖部
Aortic ⇒ Aorta 大動脈
Conduit ⇒ Composite Graft 人工弁を含む人工血管による導管
で、文字通り、心尖部から人工弁を介在させた人工血管を大動脈に導く手術です。Apico-Aortic Bypassともいいます。
心尖部に人工血管を縫着し、人工弁は主にフリースタイル弁などの生体弁を間に入れて、人工血管の遠位側は主に下行大動脈に吻合します。これによって、心室からの出口が大動脈弁以外にConduitの部分も広がるので、圧の逃げる口が出来ることで左心室の負担を軽減します。以前経験した症例では、冠動脈バイパス術後の症例で、左開胸で心室細動下に行いました。術後の本来の大動脈弁を通過する血流と、Conduitを通過する血流がほぼ半々になり心不全が軽快しました。この手術は心室細動下や心拍動下でも可能です。
適応になるのは、上行大動脈の性状が悪い、冠動脈バイパス術後でグラフトが開存しているなど、正中切開で上行大動脈を操作することが困難な症例です。逆に、左開胸・分離肺換気が困難な症例ではできません。TAVIが困難な症例としては、Shaggy Aorta Syndrome、二尖弁、透析患者などがあり、この中で正中切開の弁置換が困難な場合は検討の価値があると思います。
手術手技としては補助人工心臓の脱血管を心尖部に縫着する手技と似ているので、補助人工心臓の経験のある外科医には比較的導入しやすいと思います。
心不全の病態は、心臓が送り出す血液の量が足りなくなってしまうことでおこるいろいろな機能不全です。
一分間に心臓は約5リットルの血液を大動脈に送るといわれています。一回拍出量が80mlで一分間に60回の心拍数があるとすると、80×60=4800ml すなわち、毎分約5リットルです。
心臓の収縮により、一回は左室内の血液を、大動脈弁を通過して大動脈に送り出しても、すぐに大動脈弁逆流のように心臓に戻ってしまうと、その逆流した量はマイナスになります。また、僧帽弁逆流では、左心室から大動脈に向かう血液と、左房に逆流する血液があるので、逆流分がマイナスになります。他に、もし動脈管開存やバルサルバ洞動脈瘤破裂、動静脈瘻のように、右心系や左室内などに短絡してしまう血液があると、これもマイナスになります。こうした構造異常の場合は、外科手術の治療効果が非常に期待できる疾患です。
血液の流れる経路が正常でも、心臓の筋肉の動きが悪くなり、それによって左心室の血液を送り出せない状態もあります。これは心臓の筋肉そのものの病気で、虚血性心疾患による心筋の血流障害であれば冠動脈バイパス術などで血流を増やすことで心筋収縮の改善を期待できますが、拡張型心筋症やその他の心筋疾患のように、心筋細胞そのものの異常の場合は、なかなか外科治療では効果は期待できません。
この場合は、心臓そのものを交換する心臓移植や、機械によって心臓の機能を補助する補助人工心臓や各種の機械的循環補助装置が必要です。最新の研究では、骨格筋の細胞をシート状に培養して、心臓表面に張り付けることで心筋の収縮力を改善させる治療が注目され、虚血性心疾患が原因の場合は保険で認められ、一部の患者さんに対する治療が始まっています。近い将来、今話題のiPS細胞を使った心筋シートを臨床に使う日も近いといわれています。
こうした高額な先端治療をする前に、基礎的な治療としては、心機能を改善し生命予後(寿命)を延長する効果が証明されている薬剤もあります。
過去にはいわゆる強心剤といって、交感神経などを刺激して心筋収縮力をあげさせて心機能を改善する薬剤が主に使われていましたが、15年ほど前から、実はこの強心剤治療は寿命の延長効果どころか、寿命を短くするとも言われるようになり、逆に、交感神経の刺激を抑制して心臓を休ませる治療のほうが寿命が延長できるということがわかってきました。それ以来、広く心不全に使用されるようになったのが、β受容体拮抗薬、いわゆるベータブロッカーです。
ほかに心臓や血管に対する毒性の強い生理活性物質として、アキギオテンシンIIというホルモンがあります。血管を収縮させて、血圧を上昇させることで心臓の収縮時の負担を増加させる作用がありますが、このアンキオテンシンIIを生成させない、もしくは受容体を拮抗するACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬、またアンギオテンシンIIが刺激してアルドステロンを分泌させ、アルドステロンが体内に液体を貯留させることで心臓の負担を増加させることを阻害する抗アルドステロン薬、これも心不全の予後改善に有効と言われています。これらの基礎治療薬を組み合わせて長期使用することで、少しずつでも長期の成績を改善しようとする管理が、ここ10年ほどで一般化したと思います。
短期的には利尿剤も心臓の負担を軽減するという意味で効果がある処方です。
まとめますと、心不全の薬物治療は
①β受容体拮抗薬
②アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬
③抗アルドステロン薬
④その他の利尿薬
などがあります。
一分間に心臓は約5リットルの血液を大動脈に送るといわれています。一回拍出量が80mlで一分間に60回の心拍数があるとすると、80×60=4800ml すなわち、毎分約5リットルです。
心臓の収縮により、一回は左室内の血液を、大動脈弁を通過して大動脈に送り出しても、すぐに大動脈弁逆流のように心臓に戻ってしまうと、その逆流した量はマイナスになります。また、僧帽弁逆流では、左心室から大動脈に向かう血液と、左房に逆流する血液があるので、逆流分がマイナスになります。他に、もし動脈管開存やバルサルバ洞動脈瘤破裂、動静脈瘻のように、右心系や左室内などに短絡してしまう血液があると、これもマイナスになります。こうした構造異常の場合は、外科手術の治療効果が非常に期待できる疾患です。
血液の流れる経路が正常でも、心臓の筋肉の動きが悪くなり、それによって左心室の血液を送り出せない状態もあります。これは心臓の筋肉そのものの病気で、虚血性心疾患による心筋の血流障害であれば冠動脈バイパス術などで血流を増やすことで心筋収縮の改善を期待できますが、拡張型心筋症やその他の心筋疾患のように、心筋細胞そのものの異常の場合は、なかなか外科治療では効果は期待できません。
この場合は、心臓そのものを交換する心臓移植や、機械によって心臓の機能を補助する補助人工心臓や各種の機械的循環補助装置が必要です。最新の研究では、骨格筋の細胞をシート状に培養して、心臓表面に張り付けることで心筋の収縮力を改善させる治療が注目され、虚血性心疾患が原因の場合は保険で認められ、一部の患者さんに対する治療が始まっています。近い将来、今話題のiPS細胞を使った心筋シートを臨床に使う日も近いといわれています。
こうした高額な先端治療をする前に、基礎的な治療としては、心機能を改善し生命予後(寿命)を延長する効果が証明されている薬剤もあります。
過去にはいわゆる強心剤といって、交感神経などを刺激して心筋収縮力をあげさせて心機能を改善する薬剤が主に使われていましたが、15年ほど前から、実はこの強心剤治療は寿命の延長効果どころか、寿命を短くするとも言われるようになり、逆に、交感神経の刺激を抑制して心臓を休ませる治療のほうが寿命が延長できるということがわかってきました。それ以来、広く心不全に使用されるようになったのが、β受容体拮抗薬、いわゆるベータブロッカーです。
ほかに心臓や血管に対する毒性の強い生理活性物質として、アキギオテンシンIIというホルモンがあります。血管を収縮させて、血圧を上昇させることで心臓の収縮時の負担を増加させる作用がありますが、このアンキオテンシンIIを生成させない、もしくは受容体を拮抗するACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬、またアンギオテンシンIIが刺激してアルドステロンを分泌させ、アルドステロンが体内に液体を貯留させることで心臓の負担を増加させることを阻害する抗アルドステロン薬、これも心不全の予後改善に有効と言われています。これらの基礎治療薬を組み合わせて長期使用することで、少しずつでも長期の成績を改善しようとする管理が、ここ10年ほどで一般化したと思います。
短期的には利尿剤も心臓の負担を軽減するという意味で効果がある処方です。
まとめますと、心不全の薬物治療は
①β受容体拮抗薬
②アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬
③抗アルドステロン薬
④その他の利尿薬
などがあります。
成人の先天性心疾患で最も多いといわれているのが、二尖弁です。大動脈弁は通常3枚の羽根、3尖で構成されますが、それが二枚の羽根でできているのです。2尖しかないと、十分に収縮期に大動脈弁が開放されず、弁尖に収縮のたびに過剰な負担がかかるため、早期に硬化して大動脈弁狭窄症になりやすいといわれています。また大動脈弁逆流も起こりやすい為、通常より若い年齢で大動脈弁置換術を受ける頻度が高くなります。
まだ大動脈弁は左室と大動脈では、大動脈の組織の延長の性格が強い為、大動脈の疾患と関連することもあります。特に二尖弁の患者さんは、上行大動脈の拡大が起こりやすく、その場合、将来大動脈解離を発症しやすいと言われています。大動脈が4cm以上に拡大している場合は、大動脈の人工血管置換術を追加するのが一般的です。
大動脈弁は左心室と大動脈の間の逆流防止弁で、これが固くなってうまく開放できなくなると、大動脈の圧と、左心室の圧の間に収縮期の圧格差が出来、左室内圧が異常に高くなって、左室信金への負担が増えることが大動脈弁狭窄症の病態と言われています。
血圧=大動脈圧が例えば120mmHgの時に、圧格差が60mmHgあったとすると、左室内圧は120+60=180mmHgとなっている、ということになります。心筋への負担が増えることで、左心室の筋肉が肥大し、左室内腔が狭くなり(中心性肥大)、拡張障害も同時に起こります。心筋内圧が上昇すると、冠動脈から心筋内への血流も流れにくくなり、また心筋重量の増加とともに心筋細胞数も増加しているため、冠血流の需要が増加し、心筋細胞の虚血が起こりやすくなります。こうして心筋への負荷が増えることが持続的に起こり、左室の収縮不全に進行していきます。左室の収縮不全が起こる(左室駆出率が低下する)と、左室から大動脈へ血液を送り出す力も低下し、大動脈弁と左室の間の圧格差が末期には低下していくことになります。
心筋障害が進行した大動脈弁狭窄症は、心停止下の手術の時も、心筋保護液が心筋細胞に行き渡らない可能性が高くなり、また、冠血流再開後の心筋の回復も不十分になりやすくなります。術中に危険な不整脈が持続したり、人工心肺から離脱できなくなる低拍出症候群(LOS:Low Output Syndrome)になりやすくなります。すなわち、手術の危険性が増加するため、そこまで進行しないうちの手術な望まれます。
まだ大動脈弁は左室と大動脈では、大動脈の組織の延長の性格が強い為、大動脈の疾患と関連することもあります。特に二尖弁の患者さんは、上行大動脈の拡大が起こりやすく、その場合、将来大動脈解離を発症しやすいと言われています。大動脈が4cm以上に拡大している場合は、大動脈の人工血管置換術を追加するのが一般的です。
大動脈弁は左心室と大動脈の間の逆流防止弁で、これが固くなってうまく開放できなくなると、大動脈の圧と、左心室の圧の間に収縮期の圧格差が出来、左室内圧が異常に高くなって、左室信金への負担が増えることが大動脈弁狭窄症の病態と言われています。
血圧=大動脈圧が例えば120mmHgの時に、圧格差が60mmHgあったとすると、左室内圧は120+60=180mmHgとなっている、ということになります。心筋への負担が増えることで、左心室の筋肉が肥大し、左室内腔が狭くなり(中心性肥大)、拡張障害も同時に起こります。心筋内圧が上昇すると、冠動脈から心筋内への血流も流れにくくなり、また心筋重量の増加とともに心筋細胞数も増加しているため、冠血流の需要が増加し、心筋細胞の虚血が起こりやすくなります。こうして心筋への負荷が増えることが持続的に起こり、左室の収縮不全に進行していきます。左室の収縮不全が起こる(左室駆出率が低下する)と、左室から大動脈へ血液を送り出す力も低下し、大動脈弁と左室の間の圧格差が末期には低下していくことになります。
心筋障害が進行した大動脈弁狭窄症は、心停止下の手術の時も、心筋保護液が心筋細胞に行き渡らない可能性が高くなり、また、冠血流再開後の心筋の回復も不十分になりやすくなります。術中に危険な不整脈が持続したり、人工心肺から離脱できなくなる低拍出症候群(LOS:Low Output Syndrome)になりやすくなります。すなわち、手術の危険性が増加するため、そこまで進行しないうちの手術な望まれます。
三重総合文化センターで本日まで開催されている日本心臓血管外科学会総会に参加しました。会長要望演題で僧帽弁形成術の再手術のセッションに参加しました。自治医大さいたま医療センターでは過去十年で400例ほどの僧帽弁形成術を行った症例のうち、十年の再手術回避率は95.7パーセントで、初回に他施設で手術した症例を含めて、弁形成後に再手術を行った症例は16例あり、そのうち半数の七例は最初から弁置換、残りの7例は再弁形成を試みましたが、弁形成が成功したのは4例でした。
近年は僧帽弁形成術のレベルも向上してきているので、僧帽弁形成術後の再手術でも、再度弁形成が成功する症例が増えてきていると思います。とはいえ、僧帽弁形成術後の僧帽弁逆流再発自体が少ない為、ハイボリュームセンターとはいってもまだまだ経験が少ない、というのが現状のようです。横須賀市立うわまち病院でも、過去一年に3例の僧帽弁形成術後の再手術を担当しましたが、3例とも再形成に成功しています。
近年は僧帽弁形成術のレベルも向上してきているので、僧帽弁形成術後の再手術でも、再度弁形成が成功する症例が増えてきていると思います。とはいえ、僧帽弁形成術後の僧帽弁逆流再発自体が少ない為、ハイボリュームセンターとはいってもまだまだ経験が少ない、というのが現状のようです。横須賀市立うわまち病院でも、過去一年に3例の僧帽弁形成術後の再手術を担当しましたが、3例とも再形成に成功しています。
人工弁置換術においては、ここ10年近く、機械弁から生体弁にシフトするようになり、海外においても、日本国内においてもその使用頻度が逆転している、と言われています。アメリカ心臓病協会のガイドラインでも65歳以上の人工弁置換には生体弁が推奨と言われています。2005年くらいまでは、機械弁が圧倒的に多く、7割以上が機械弁の時代もありましたが、2007年くらいに逆転し、7割以上が現在は生体弁を使用されています。
ガイドラインでは65歳以上とされていたのが、2017年の改定で、50~70歳は患者さんの選択も含めて検討したうえで選択することを推奨しているために、その周辺の年齢の患者さんの場合は、機械弁と生体弁、どちらにしますか?と説明をした上で選択してもらうことも多いと思います。実際は決められないので、どちらがいいですか?と聞かれることも少なくありません。しかし、最近は生体弁の性能が向上している、とも言われているので、生体弁を推奨することが増えています。
生体弁は牛心膜弁とブタ大動脈弁の二種類があります。牛心膜弁はステント(骨格部分)の内側に心膜を貼り付けた(マウントした)タイプ、ステントの外側に心膜を巻き付けた外巻き弁、ステントのない柔らかいステントレス弁があります。ブタ弁はブタの大動脈弁を取り出してステントの内部に貼り付けた形態をしています。ステント(金属製の骨組み)があると、その部分の容積の関係で、弁口面積が小さくなるので、ステントレス弁が一番弁口面積が大きく、その次に外巻き弁、で、最後に最も汎用されている、内部にマウントした弁となります。内部にマウントした弁が最初に開発され、その後に、弁口面積をより大きくするためにステントレス弁や外巻き弁が開発されてきました。というわけで、人工弁の性能を表すものとして、弁口面積が大きいほうが性能が良いと言っても過言ではありません。特に大動脈弁置換術では、狭い大動脈弁輪に縫着する人工弁は、より弁口面積が大きいものを入れた方が、圧格差が小さくなり、左室心筋の負担(後負荷)が小さくなり心不全の治療として効果が大きくなります。内部にマウントした弁でも、細部にわたる改良で、より弁口面積が大きいものが開発されてきております。機械弁と生体弁では、機械弁のほうが一般に弁口面積が大きくとれます。
また近年生体弁がより多く使用されてきた理由の一つは、患者さんが高齢化してきて65歳以上の方が増加したことが一番の要因です。以前調査したところ、前任地である自治医科大学附属さいたま医療センターで2005年に大動脈弁狭窄症で手術した患者さんの平均年齢が65歳であったのに対し、10年後の2015年の平均年齢が75歳と、たったの10年で10歳も増加しています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科での心臓胸部大血管手術を2017年に受けた患者さんの1/3が80歳以上であることを考えると、高齢化は更に進んでいるといえます。最近は90歳以上で弁膜症手術を受ける患者さんも当院では散見されます。
次に、生体弁が使用される頻度が増加した理由として、その性能が向上したことが認知されるようになったことです。弁口面積が改良されて大きくなった以上に、長持ちする生体弁に改良されて来たここ数年の流れがあります。特に石灰化防止処理がされたから、そのDurability(耐用年数)はそれまでの10年から20年ちかくに延長されています。弁によっては20年の再手術回避率が90%以上と言われているので、最近は20年持ちます、と説明することが主流だと思います。55歳から65歳までに大動脈弁置換術を生体弁で受けた患者さんが、生きている間に再手術が必要になる可能性が約3割、65歳から75歳だと1割、75歳以上だとほぼゼロに近くなると言われています。
同じ生体弁でも、どの人工弁を使用するかは殆ど外科医の裁量に任されているのが現実ですが、通常は患者さんの弁輪の形態などから判断して、最も適切と思われるものを使用します。
ガイドラインでは65歳以上とされていたのが、2017年の改定で、50~70歳は患者さんの選択も含めて検討したうえで選択することを推奨しているために、その周辺の年齢の患者さんの場合は、機械弁と生体弁、どちらにしますか?と説明をした上で選択してもらうことも多いと思います。実際は決められないので、どちらがいいですか?と聞かれることも少なくありません。しかし、最近は生体弁の性能が向上している、とも言われているので、生体弁を推奨することが増えています。
生体弁は牛心膜弁とブタ大動脈弁の二種類があります。牛心膜弁はステント(骨格部分)の内側に心膜を貼り付けた(マウントした)タイプ、ステントの外側に心膜を巻き付けた外巻き弁、ステントのない柔らかいステントレス弁があります。ブタ弁はブタの大動脈弁を取り出してステントの内部に貼り付けた形態をしています。ステント(金属製の骨組み)があると、その部分の容積の関係で、弁口面積が小さくなるので、ステントレス弁が一番弁口面積が大きく、その次に外巻き弁、で、最後に最も汎用されている、内部にマウントした弁となります。内部にマウントした弁が最初に開発され、その後に、弁口面積をより大きくするためにステントレス弁や外巻き弁が開発されてきました。というわけで、人工弁の性能を表すものとして、弁口面積が大きいほうが性能が良いと言っても過言ではありません。特に大動脈弁置換術では、狭い大動脈弁輪に縫着する人工弁は、より弁口面積が大きいものを入れた方が、圧格差が小さくなり、左室心筋の負担(後負荷)が小さくなり心不全の治療として効果が大きくなります。内部にマウントした弁でも、細部にわたる改良で、より弁口面積が大きいものが開発されてきております。機械弁と生体弁では、機械弁のほうが一般に弁口面積が大きくとれます。
また近年生体弁がより多く使用されてきた理由の一つは、患者さんが高齢化してきて65歳以上の方が増加したことが一番の要因です。以前調査したところ、前任地である自治医科大学附属さいたま医療センターで2005年に大動脈弁狭窄症で手術した患者さんの平均年齢が65歳であったのに対し、10年後の2015年の平均年齢が75歳と、たったの10年で10歳も増加しています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科での心臓胸部大血管手術を2017年に受けた患者さんの1/3が80歳以上であることを考えると、高齢化は更に進んでいるといえます。最近は90歳以上で弁膜症手術を受ける患者さんも当院では散見されます。
次に、生体弁が使用される頻度が増加した理由として、その性能が向上したことが認知されるようになったことです。弁口面積が改良されて大きくなった以上に、長持ちする生体弁に改良されて来たここ数年の流れがあります。特に石灰化防止処理がされたから、そのDurability(耐用年数)はそれまでの10年から20年ちかくに延長されています。弁によっては20年の再手術回避率が90%以上と言われているので、最近は20年持ちます、と説明することが主流だと思います。55歳から65歳までに大動脈弁置換術を生体弁で受けた患者さんが、生きている間に再手術が必要になる可能性が約3割、65歳から75歳だと1割、75歳以上だとほぼゼロに近くなると言われています。
同じ生体弁でも、どの人工弁を使用するかは殆ど外科医の裁量に任されているのが現実ですが、通常は患者さんの弁輪の形態などから判断して、最も適切と思われるものを使用します。
弁膜症手術で最も多い手術の一つは人工弁置換です。大動脈弁狭窄症や僧房弁狭窄症などは、人工弁置換が基本的に人工弁置換の対象となり、特に近年増加している大動脈弁狭窄症は、人工弁置換の最も多い適応疾患です。
人工弁には機械弁と生体弁があります。
機械弁はパイロライトカーボンという、炭素素材、いわゆる鉛筆の芯のような炭のもとになるような素材を17000℃の窯で三日間焼き固めたような素材です。これを産業ロボットがハウスという羽を入れて固定する素材と、二枚の羽に削って、それを鉄粉処理で磨いてできます。アメリカのミネソタ州にあるセントジュードメディカル社の工場を見学したことがありましたが、本当にまさに精密な工場で、最終工程は、アジア人のおばちゃんが手縫いでカフを付けたりしていました。オートメーション化可能な部分が多い為か、おそらく生産コストは生体弁よりも安価らしく、購入に関して生体弁よりも値引き額が一般に大きく、保険償還価格も生体弁よりも若干お安く設定されています。
人工弁の初期モデルはラムネのガラス玉が上下するような形のボール弁というものから、一枚の羽が傾斜する一葉弁の時代があり、1970年代から現在の二枚羽の形態になっています。もともとの大動脈弁は三枚の羽(弁尖)でできており、これに真似て、三枚羽の人工弁が研究され学会発表などで聞いたこともありますが、最近は三枚羽の人工弁の実用化は難しいようで、現在の二枚羽が究極の形と言われています。機械弁ではセントジュードメディカル(SJM)弁が世界でも国内でも最も多く使用されており、他にATS弁、Sorin社製のSlimline、On X弁などが国内では使用されています。SJM弁も、ATS弁も最近は他企業に買収され、歴史ある人工弁の名称も今後変わっていってしまう可能性があります。
機械弁の特徴として、耐久性が優れている反面、血栓が付きやすいので一生涯、ワーファリンという抗凝固薬を内服し続ける必要があります。抗血小板薬であるアスピリンと併用するのが今は一般的で、ガイドラインでも推奨されています。機械弁の対象は、65歳未満の比較的若年の患者さんや妊娠を希望する若い女性(機械弁が入っている女性は原則ワーファリン禁忌と言われていますが、実際には服薬の調整など行って妊娠・出産に成功した事例もあるそうです)。若い時に移植された患者さんでは数十年、機械弁を使用して元気にしている人もたくさんいます。定期的に病院でワーファリンの至適内服量を決めるために凝固検査(PT-INR:プロトロンビン時間)を測定する血液検査が必要です。INR値が2-3を目安に内服量を調整しますが食べたものや体調によって数値が変化するため、変動が大きい患者さんでは、比較的頻繁に検査する必要がありますが、数値が安定している患者さんでは2~3か月に一回の検査の人もいます。ワーファリンはビタミンKをブロックすることで抗凝固作用を発揮するため、ビタミンKの豊富な納豆やクロレラ、青汁などは摂取できません。第X因子阻害剤など新しい抗凝固薬が近年開発され、ワーファリンに代わる薬剤として期待されましたが、ワーファリンのほうがまだ優れているという理由で未だ代替薬はありません。
現在人工弁置換を受ける患者さんの年齢が、社会の高齢化に伴ってどんどん上昇しているため、機械弁が使用される頻度が著しく減少しています。2007年くらいまでは、生体弁と機械弁では、機械弁の使用頻度が高く、一般に7割は機械弁と言われてきましたが、その頃から生体弁の使用頻度が逆転して増加しています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、心臓の手術を受ける患者さんの1/3が80歳以上となっており、機械弁の使用頻度は1割にまで減少しています。
特に2017年のアメリカの弁膜症ガイドラインで、より生体弁の推奨年齢が広がり、50歳未満は機械弁、50~70歳は患者さんのチョイスも含めた検討、70歳以上は生体弁の推奨となりました。これにより50歳でも生体弁を希望すれば、とくに躊躇することなく生体弁を移植するケースが増えると考えられます。最近は、TAVI(経カテーテル的大動脈弁位生体弁移植術)が進化し、生体弁の中に新しい弁をカテーテル的に移植も可能となってきました。生体弁が壊れても、新しい弁を再開胸せずに移植が可能となり、より生体弁を選択されるチャンスが増えています。また、抗石灰化処理や新しい心膜処理の方法によって生体弁の寿命も20年以上に延長が期待されており、時代は生体弁の時代となっています。
人工弁には機械弁と生体弁があります。
機械弁はパイロライトカーボンという、炭素素材、いわゆる鉛筆の芯のような炭のもとになるような素材を17000℃の窯で三日間焼き固めたような素材です。これを産業ロボットがハウスという羽を入れて固定する素材と、二枚の羽に削って、それを鉄粉処理で磨いてできます。アメリカのミネソタ州にあるセントジュードメディカル社の工場を見学したことがありましたが、本当にまさに精密な工場で、最終工程は、アジア人のおばちゃんが手縫いでカフを付けたりしていました。オートメーション化可能な部分が多い為か、おそらく生産コストは生体弁よりも安価らしく、購入に関して生体弁よりも値引き額が一般に大きく、保険償還価格も生体弁よりも若干お安く設定されています。
人工弁の初期モデルはラムネのガラス玉が上下するような形のボール弁というものから、一枚の羽が傾斜する一葉弁の時代があり、1970年代から現在の二枚羽の形態になっています。もともとの大動脈弁は三枚の羽(弁尖)でできており、これに真似て、三枚羽の人工弁が研究され学会発表などで聞いたこともありますが、最近は三枚羽の人工弁の実用化は難しいようで、現在の二枚羽が究極の形と言われています。機械弁ではセントジュードメディカル(SJM)弁が世界でも国内でも最も多く使用されており、他にATS弁、Sorin社製のSlimline、On X弁などが国内では使用されています。SJM弁も、ATS弁も最近は他企業に買収され、歴史ある人工弁の名称も今後変わっていってしまう可能性があります。
機械弁の特徴として、耐久性が優れている反面、血栓が付きやすいので一生涯、ワーファリンという抗凝固薬を内服し続ける必要があります。抗血小板薬であるアスピリンと併用するのが今は一般的で、ガイドラインでも推奨されています。機械弁の対象は、65歳未満の比較的若年の患者さんや妊娠を希望する若い女性(機械弁が入っている女性は原則ワーファリン禁忌と言われていますが、実際には服薬の調整など行って妊娠・出産に成功した事例もあるそうです)。若い時に移植された患者さんでは数十年、機械弁を使用して元気にしている人もたくさんいます。定期的に病院でワーファリンの至適内服量を決めるために凝固検査(PT-INR:プロトロンビン時間)を測定する血液検査が必要です。INR値が2-3を目安に内服量を調整しますが食べたものや体調によって数値が変化するため、変動が大きい患者さんでは、比較的頻繁に検査する必要がありますが、数値が安定している患者さんでは2~3か月に一回の検査の人もいます。ワーファリンはビタミンKをブロックすることで抗凝固作用を発揮するため、ビタミンKの豊富な納豆やクロレラ、青汁などは摂取できません。第X因子阻害剤など新しい抗凝固薬が近年開発され、ワーファリンに代わる薬剤として期待されましたが、ワーファリンのほうがまだ優れているという理由で未だ代替薬はありません。
現在人工弁置換を受ける患者さんの年齢が、社会の高齢化に伴ってどんどん上昇しているため、機械弁が使用される頻度が著しく減少しています。2007年くらいまでは、生体弁と機械弁では、機械弁の使用頻度が高く、一般に7割は機械弁と言われてきましたが、その頃から生体弁の使用頻度が逆転して増加しています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、心臓の手術を受ける患者さんの1/3が80歳以上となっており、機械弁の使用頻度は1割にまで減少しています。
特に2017年のアメリカの弁膜症ガイドラインで、より生体弁の推奨年齢が広がり、50歳未満は機械弁、50~70歳は患者さんのチョイスも含めた検討、70歳以上は生体弁の推奨となりました。これにより50歳でも生体弁を希望すれば、とくに躊躇することなく生体弁を移植するケースが増えると考えられます。最近は、TAVI(経カテーテル的大動脈弁位生体弁移植術)が進化し、生体弁の中に新しい弁をカテーテル的に移植も可能となってきました。生体弁が壊れても、新しい弁を再開胸せずに移植が可能となり、より生体弁を選択されるチャンスが増えています。また、抗石灰化処理や新しい心膜処理の方法によって生体弁の寿命も20年以上に延長が期待されており、時代は生体弁の時代となっています。
急性大動脈解離の治療 臓器虚血への対応
腸管虚血
急性大動脈解離における腸管虚血は重篤で死亡率が高い
発生頻度 A型1.5-5.8% B型 1.0-7.4%
メカニズム
① 偽腔の圧迫による真腔狭窄
② 腹部分枝への解離の進展による分枝の真腔の狭窄
③ 非閉塞性腸管虚血(NOMI:Non Occlusive Mesenteric Ischemia)
臨床所見
① 腹痛
② 腸管壊死に伴う全身への影響
③ 敗血症および血管内脱水による循環不全
診断
発症時から腹痛や下血を発生している場合は診断が容易であるが、意識障害を合併していたり、術後の未覚醒や人工呼吸管理中の状態では診断が困難な症例が多い。腸管壊死に至る前に診断することが救命につながるため、腸管虚血を痛がった場合は迅速かつ積極的に検査・治療を進めていく必要がある。
もっとも重要な検査所見は造影CTである。たとえ腎機能障害を合併していても、造影剤を使用して腸管虚血を診断することが優先される。腸管虚血を呈する急性大動脈解離のCT所見は、上腸間膜動脈および腹腔動脈が分岐するレベルでの解離した大動脈の真腔狭窄、これらの動脈への解離の進展、および造影途絶所見である。また、腸間膜内の動脈の造影所見の有無や腸管壁の造影効果も参考になる。虚血に陥った腸管は麻痺性イレウスによって内腔が拡張したり、壁やケルクリングが浮腫を起こすことによって肥厚する所見を呈する。また腹水の出現なども同時に見られることが多い。大動脈解離の血行動態は刻々と変化することが多いため、病態によっては繰り返し造影CTを行い比較する。
腸管虚血に陥った症例では、乳酸アシドーシスが腸管壊死に陥る前から呈することが多いため、乳酸のモニタリングが重要である。動脈血液ガス所見のBase ExessやpH値も同時に比較して乳酸アシドーシスが進行した場合は迅速な対応が必要である。腸管壊死に陥った場合は、CKやLHD、GOTもなどの血清生化学検査値も上昇してくるが、この段階ではもはや救命できる時期を逸している可能性がある。
腹部エコーは腹腔の観察にはリアルタイムに繰り返し検査できるため有用であるが、腸管虚血の症例では、腹腔内ガスが多く観察が困難な症例が多い。検査の再現性に乏しい欠点があるが、腸管壁の浮腫やSMA血流の低下などが参考になる。経験的には上腸間膜動脈の血流速度を測定し、50cm/s以下(通常は1m/s程度)の症例は腸管虚血に陥っている可能性がある。
CTが発達した今日では、腸管虚血を疑う大動脈解離の症例に対して血管造影を行うことは稀であるが、NOMI(非閉塞性腸管虚血)を疑う症例では、腸管壁の造影効果の血管拡張薬の動注による改善所見によって診断する必要がある。これによって診断された場合は、カテーテルを上腸間膜動脈等に留置して、血管拡張薬の持続動注療法に移行する。
試験開腹が必要な症例もある。実際に腸管が壊死に陥っている場合は診断が容易であるが、色調が悪いという程度の変化しか見られない症例もある。こうした症例はその後、壊死にまで進行することもあるため、腹腔内圧が上昇して臓器障害が進行する、いわゆるAbdominal Compartment Syndromeの制御もかね、かつ繰り返し腸管壁を観察できるように閉腹せずにおくことも考慮する。
腸管虚血に陥ると、容易に腸管壁の細菌バリアが破綻してBacterial Translocationから敗血症に至るため循環が不安定であったり、炎症所見の高値、発熱など見られる場合は早めに血液培養をとっておく必要がある。
腸管浮腫による循環血液量の減少も血行動態が不安定になる一因なため、適切な血行動態のモニタリングも管理には必要である。
腸管虚血の診断:
CTでの腸管壁造影所見、上腸間膜動脈および腹腔動脈の造影所見
腹部エコーでの上腸間膜動脈血流の検出および血流速度測定
試験開腹での腸管の観察
乳酸アシドーシスの観察
生化学検査所見 CK LDH GOT WBC上昇
治療
① 大動脈解離のプライマリーエントリーの閉鎖(Central Operation)
② ステントグラフト留置による真腔の拡大
③ 開窓術による真腔血流の増加
④ 分枝へのバイパスまたは血管内治療
⑤ 薬物治療(パパベリンやプロスタグランジンE1など血管拡張薬の選択的持続動注)
⑥ 腸切除・人工肛門造設
⑦ 腹腔内の減圧
詳細は 大動脈解離診断と治療のStandardより(筆者が執筆担当部分)
NOMI:
血管病変による急性大動脈解離による腸管虚血は主に、真腔狭窄、解離の分枝内への進展など画像所見によって判別もしくは予測可能なことがおおいのですが、いわゆる非閉塞性腸管虚血(NOMI)の場合は、画像所見ですぐに診断することは困難なため、これは腹痛、ラクテートの上昇がみられた時には、まず優先的に疑って対処する必要があります。上記症状が疑われた場合はまず、腹痛の発症機序の検索が必要ですが、NOMIが疑われた場合は、造影CTで小腸や結腸の造影の染まり方を検討し、造影むらがある、部分的に染まりが悪い場所がある場合は、直ちに腹部血管造影を行います。造影で末梢の染まりが悪い、門脈の造影が遅延するなどの所見の場合は、試験的に血管拡張薬(パパベリンやプロスタグランジン製剤)を選択的に動注し、それによって造影所見が改善するかを確認します。造影所見が改善すれば、NOMIと診断され、持続動注療法を開始します。また診断が確定できない、という場合も、疑った場合は持続動注療法にうつことが多いです。
先日経験した症例は幸い、動注療法で腹痛が軽快し、麻痺性イレウスにはなりましたが、アシドーシスに至る前に改善し、救命できました。
高齢、腎機能低下、術中の過大侵襲などが原因と引き金になります。高齢者の患者さんを手術した場合は、あらかじめ念頭に術後管理を行う事が早期発見早期治療につながると思います。
腸管虚血
急性大動脈解離における腸管虚血は重篤で死亡率が高い
発生頻度 A型1.5-5.8% B型 1.0-7.4%
メカニズム
① 偽腔の圧迫による真腔狭窄
② 腹部分枝への解離の進展による分枝の真腔の狭窄
③ 非閉塞性腸管虚血(NOMI:Non Occlusive Mesenteric Ischemia)
臨床所見
① 腹痛
② 腸管壊死に伴う全身への影響
③ 敗血症および血管内脱水による循環不全
診断
発症時から腹痛や下血を発生している場合は診断が容易であるが、意識障害を合併していたり、術後の未覚醒や人工呼吸管理中の状態では診断が困難な症例が多い。腸管壊死に至る前に診断することが救命につながるため、腸管虚血を痛がった場合は迅速かつ積極的に検査・治療を進めていく必要がある。
もっとも重要な検査所見は造影CTである。たとえ腎機能障害を合併していても、造影剤を使用して腸管虚血を診断することが優先される。腸管虚血を呈する急性大動脈解離のCT所見は、上腸間膜動脈および腹腔動脈が分岐するレベルでの解離した大動脈の真腔狭窄、これらの動脈への解離の進展、および造影途絶所見である。また、腸間膜内の動脈の造影所見の有無や腸管壁の造影効果も参考になる。虚血に陥った腸管は麻痺性イレウスによって内腔が拡張したり、壁やケルクリングが浮腫を起こすことによって肥厚する所見を呈する。また腹水の出現なども同時に見られることが多い。大動脈解離の血行動態は刻々と変化することが多いため、病態によっては繰り返し造影CTを行い比較する。
腸管虚血に陥った症例では、乳酸アシドーシスが腸管壊死に陥る前から呈することが多いため、乳酸のモニタリングが重要である。動脈血液ガス所見のBase ExessやpH値も同時に比較して乳酸アシドーシスが進行した場合は迅速な対応が必要である。腸管壊死に陥った場合は、CKやLHD、GOTもなどの血清生化学検査値も上昇してくるが、この段階ではもはや救命できる時期を逸している可能性がある。
腹部エコーは腹腔の観察にはリアルタイムに繰り返し検査できるため有用であるが、腸管虚血の症例では、腹腔内ガスが多く観察が困難な症例が多い。検査の再現性に乏しい欠点があるが、腸管壁の浮腫やSMA血流の低下などが参考になる。経験的には上腸間膜動脈の血流速度を測定し、50cm/s以下(通常は1m/s程度)の症例は腸管虚血に陥っている可能性がある。
CTが発達した今日では、腸管虚血を疑う大動脈解離の症例に対して血管造影を行うことは稀であるが、NOMI(非閉塞性腸管虚血)を疑う症例では、腸管壁の造影効果の血管拡張薬の動注による改善所見によって診断する必要がある。これによって診断された場合は、カテーテルを上腸間膜動脈等に留置して、血管拡張薬の持続動注療法に移行する。
試験開腹が必要な症例もある。実際に腸管が壊死に陥っている場合は診断が容易であるが、色調が悪いという程度の変化しか見られない症例もある。こうした症例はその後、壊死にまで進行することもあるため、腹腔内圧が上昇して臓器障害が進行する、いわゆるAbdominal Compartment Syndromeの制御もかね、かつ繰り返し腸管壁を観察できるように閉腹せずにおくことも考慮する。
腸管虚血に陥ると、容易に腸管壁の細菌バリアが破綻してBacterial Translocationから敗血症に至るため循環が不安定であったり、炎症所見の高値、発熱など見られる場合は早めに血液培養をとっておく必要がある。
腸管浮腫による循環血液量の減少も血行動態が不安定になる一因なため、適切な血行動態のモニタリングも管理には必要である。
腸管虚血の診断:
CTでの腸管壁造影所見、上腸間膜動脈および腹腔動脈の造影所見
腹部エコーでの上腸間膜動脈血流の検出および血流速度測定
試験開腹での腸管の観察
乳酸アシドーシスの観察
生化学検査所見 CK LDH GOT WBC上昇
治療
① 大動脈解離のプライマリーエントリーの閉鎖(Central Operation)
② ステントグラフト留置による真腔の拡大
③ 開窓術による真腔血流の増加
④ 分枝へのバイパスまたは血管内治療
⑤ 薬物治療(パパベリンやプロスタグランジンE1など血管拡張薬の選択的持続動注)
⑥ 腸切除・人工肛門造設
⑦ 腹腔内の減圧
詳細は 大動脈解離診断と治療のStandardより(筆者が執筆担当部分)
NOMI:
血管病変による急性大動脈解離による腸管虚血は主に、真腔狭窄、解離の分枝内への進展など画像所見によって判別もしくは予測可能なことがおおいのですが、いわゆる非閉塞性腸管虚血(NOMI)の場合は、画像所見ですぐに診断することは困難なため、これは腹痛、ラクテートの上昇がみられた時には、まず優先的に疑って対処する必要があります。上記症状が疑われた場合はまず、腹痛の発症機序の検索が必要ですが、NOMIが疑われた場合は、造影CTで小腸や結腸の造影の染まり方を検討し、造影むらがある、部分的に染まりが悪い場所がある場合は、直ちに腹部血管造影を行います。造影で末梢の染まりが悪い、門脈の造影が遅延するなどの所見の場合は、試験的に血管拡張薬(パパベリンやプロスタグランジン製剤)を選択的に動注し、それによって造影所見が改善するかを確認します。造影所見が改善すれば、NOMIと診断され、持続動注療法を開始します。また診断が確定できない、という場合も、疑った場合は持続動注療法にうつことが多いです。
先日経験した症例は幸い、動注療法で腹痛が軽快し、麻痺性イレウスにはなりましたが、アシドーシスに至る前に改善し、救命できました。
高齢、腎機能低下、術中の過大侵襲などが原因と引き金になります。高齢者の患者さんを手術した場合は、あらかじめ念頭に術後管理を行う事が早期発見早期治療につながると思います。
大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が硬化して可動性が低下し、心臓の収縮期にうまく開かなくなるために心不全や不整脈を呈する病気です。大動脈弁の硬化の原因として、加齢、脂質異常、高血圧、腎障害、先天性の二尖弁などがあります。昨今の高齢者の急速な増加とともに、この病気も急速に増加しています。高齢化社旗とともに増加する疾患の代表といえます。
大動脈弁狭窄症は一度発症すると、自然に治ったり、薬で治ったりすることはありません。
症状が出現してから死亡するまでの時間が短い疾患と言われています。
学生の頃、教科書に書いていたのは、胸痛や意識消失が起こるようになってからは2年以内に半分が死亡する、心不全で搬送された場合はおおむね寿命は一年以内と言われています。2年以内に半分以上が命を落とす疾患としては、進行性の肺がん、膵臓癌、Stage IVの大腸癌や乳がんなどがあり、このいわゆる末期癌と匹敵する病気といえます。
これら末期癌と大きく違うのは、大動脈弁狭窄症は手術で治癒させることが出来る病気であることです。
基本的には人工弁置換をすることで、早期に治療できれば、その後の寿命は正常の人と同じになることも可能です。心筋障害が進行してから手術した場合は、心筋の回復が十分期待できないこともあり、また手術そのもののリスクも上昇してしまうため、手術適応と判断された場合は早めに治療した方が良いといえます。
最近の心臓手術は成績も向上していることもあり、より早期に手術して良好な結果を享受する、という考え方が一般的になっています。
大動脈弁狭窄症は一度発症すると、自然に治ったり、薬で治ったりすることはありません。
症状が出現してから死亡するまでの時間が短い疾患と言われています。
学生の頃、教科書に書いていたのは、胸痛や意識消失が起こるようになってからは2年以内に半分が死亡する、心不全で搬送された場合はおおむね寿命は一年以内と言われています。2年以内に半分以上が命を落とす疾患としては、進行性の肺がん、膵臓癌、Stage IVの大腸癌や乳がんなどがあり、このいわゆる末期癌と匹敵する病気といえます。
これら末期癌と大きく違うのは、大動脈弁狭窄症は手術で治癒させることが出来る病気であることです。
基本的には人工弁置換をすることで、早期に治療できれば、その後の寿命は正常の人と同じになることも可能です。心筋障害が進行してから手術した場合は、心筋の回復が十分期待できないこともあり、また手術そのもののリスクも上昇してしまうため、手術適応と判断された場合は早めに治療した方が良いといえます。
最近の心臓手術は成績も向上していることもあり、より早期に手術して良好な結果を享受する、という考え方が一般的になっています。
冠動脈バイパス術は、冠動脈の狭窄部位の遠位側に、新しい道筋を作り、心筋への血流量を増加させる手術です。約1~3mmの細い血管を顕微鏡を見ながら吻合する手術なので、細かい作業となりますが、残念ながら他の血管のように人工血管はいまだ有用なものはないため、自分の血管(自家血管)を使用する必要があります。使用する血管は、静脈よりも動脈が開存率が良く、特に内胸動脈が最も長期的に信頼できる血管といえます。左右の内胸動脈の他に、動脈グラフトとしては橈骨動脈、右胃大網動脈も使用します。特殊な例として、当関連施設では、左胃動脈を使用した冠動脈バイパス術も経験しており、術後の胃潰瘍発生の可能性は高くなりますが、有効な血管といえます。
2000年以後は人工心肺を使用しないで、心拍動下に吻合するオフポンプCABG(CABG=Coronary Artery Bypass Grafting:冠動脈バイパス術)が主流となってきました。特に日本国内においては既に7割のCABGがオフポンプで行われていると学会が集計しています。欧米を含む海外でのオフポンプの実績が3割と言われている現状を考慮すると、日本が冠動脈バイパス術において世界で最も先進国といっていいと思います。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科および当院の関連施設(自治医科大学附属さいたま医療センター、横浜市立みなと赤十字病院、練馬光が丘病院、さいたま赤十字病院、春日部中央総合病院等)では、冠動脈バイパス術におけるオフポンプCABGの割合は99%で、基本術式としています。
最近の新しい手術方法として、低侵襲冠動脈バイパス術(MICS-CABG; Minimally Invasive Cardiac Surgery)が今後話題になってくるのではないかと思われます。今までも左開胸での左内胸動脈ー左冠動脈前下行枝(LITA-LAD)をMID-CAB(Minimally Incvasive Direct CABG)と呼び、1枝のCABGには行われてきましたが、更にそれをすすめて複数のバイパス作成を左小開胸で行う方法が確立されつつあります。左開胸で、大伏在静脈を上行大動脈に吻合する、左開胸から両側内胸動脈を剥離して採取、吻合する、上腹部切開で右胃大網動脈を横隔膜越しに右冠動脈領域に吻合する、こうした方法を採用することで、胸骨正中切開をしないでも冠動脈バイパス術が可能となれば、特に腎不全や糖尿病患者等、術後縦隔炎のリスクがある患者様には非常に大きなメリットがあるものと思われます。また左開胸によるオフポンプCABGは心臓の脱転をほとんどする必要が無いため、安定した循環動態での血管吻合が可能であり、低左心機能の症例にも有効と考えられます。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも左小開胸の複数枝冠動脈バイパス術を行っており、また上腹部正中切開による冠動脈バイパス術(Trans-Abdominal MID-CAB)も行っております。将来的にはロボットの使用によるグラフト採取や血管吻合もコストの問題が解決できれば一般化していく可能性もあります。
2000年以後は人工心肺を使用しないで、心拍動下に吻合するオフポンプCABG(CABG=Coronary Artery Bypass Grafting:冠動脈バイパス術)が主流となってきました。特に日本国内においては既に7割のCABGがオフポンプで行われていると学会が集計しています。欧米を含む海外でのオフポンプの実績が3割と言われている現状を考慮すると、日本が冠動脈バイパス術において世界で最も先進国といっていいと思います。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科および当院の関連施設(自治医科大学附属さいたま医療センター、横浜市立みなと赤十字病院、練馬光が丘病院、さいたま赤十字病院、春日部中央総合病院等)では、冠動脈バイパス術におけるオフポンプCABGの割合は99%で、基本術式としています。
最近の新しい手術方法として、低侵襲冠動脈バイパス術(MICS-CABG; Minimally Invasive Cardiac Surgery)が今後話題になってくるのではないかと思われます。今までも左開胸での左内胸動脈ー左冠動脈前下行枝(LITA-LAD)をMID-CAB(Minimally Incvasive Direct CABG)と呼び、1枝のCABGには行われてきましたが、更にそれをすすめて複数のバイパス作成を左小開胸で行う方法が確立されつつあります。左開胸で、大伏在静脈を上行大動脈に吻合する、左開胸から両側内胸動脈を剥離して採取、吻合する、上腹部切開で右胃大網動脈を横隔膜越しに右冠動脈領域に吻合する、こうした方法を採用することで、胸骨正中切開をしないでも冠動脈バイパス術が可能となれば、特に腎不全や糖尿病患者等、術後縦隔炎のリスクがある患者様には非常に大きなメリットがあるものと思われます。また左開胸によるオフポンプCABGは心臓の脱転をほとんどする必要が無いため、安定した循環動態での血管吻合が可能であり、低左心機能の症例にも有効と考えられます。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも左小開胸の複数枝冠動脈バイパス術を行っており、また上腹部正中切開による冠動脈バイパス術(Trans-Abdominal MID-CAB)も行っております。将来的にはロボットの使用によるグラフト採取や血管吻合もコストの問題が解決できれば一般化していく可能性もあります。
2月17日 横須賀医師会で心不全パンデミック講演会が開催されます。主に医師会員向けのセミナーですが、そこでは、今、爆発的に増加している心不全患者さんを今後どうしていくか、を考えるための講演会です。循環器内科、小児心臓専門医、心臓血管外科等から心不全治療の最近の話題提供と今後の課題などについて情報提供し日常診療に役立てようという企画です。
心臓血管外科からは、心不全の最新の外科治療という内容でお話させていただきます。心臓血管外科の診療の約半数の手術は心不全に対する治療であり、大きな柱として、虚血性心疾患の外科治療(冠動脈バイパス術、左室形成術、心筋梗塞合併症手術)、弁膜症手術、あと数は少ないですが、先天性心疾患の手術治療があり、現在の問題および今後の課題として、外科治療では救うことが難しい難治性心不全に対してどう対処していくか、という問題があります。
虚血性心疾患の最新の外科治療として21世紀に入ってからは、日本では人工心肺を使用しないオフポンプCABGが主流となり、人工心肺を使用しない低侵襲さと、コスト削減により手術成績も含め大きく社会貢献してきたといえます。最新の手術方法として、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、まだ国内では実施施設がきわめて少ない左小開胸の冠動脈バイパス術も実施しており、胸骨正中切開をしないので、縦隔炎のリスクが少なく、より早期の社会復帰が可能な方法を対象患者さんによっては採用しています。
また弁膜症の外科治療の中心は人工弁置換と自己弁温存した弁形成術です。特に僧帽弁形成術は弁置換に比較して長期の生存が有意に高いとも報告されており、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも基本的に僧帽弁逆流症にはほとんどの症例で弁形成術で対処しています。最新の方法として、右小開胸での僧帽弁形成術も実施しており、早期の社会復帰が可能となっています。
これからの課題として、難治性の心不全においては心臓移植しか治療法がないという患者様もたくさんいらっしゃいます。法改正によって移植数が増加していますが、それでも移植の申請数が圧倒的に上回っており、平均の移植待機期間が3年半から4年もかかると言われています。この間は、多くの患者様は補助人工心臓を装着して心不全管理しながら待つことになります。補助人工心臓は最近はすべて外国製のものが採用されるようになりましたが、成績が良好になったことから、心臓移植を前提としない装着、いわゆるDestination Therapy(DT)にも注目されるようになってきました。アメリカでは既に10年以上補助人工心臓を装着して生存している患者様もいて、保険の適応にもなっています。現在では年間1000例以上のDT導入患者がいるそうで、日本でも近々導入されていくと思われます。
心臓血管外科からは、心不全の最新の外科治療という内容でお話させていただきます。心臓血管外科の診療の約半数の手術は心不全に対する治療であり、大きな柱として、虚血性心疾患の外科治療(冠動脈バイパス術、左室形成術、心筋梗塞合併症手術)、弁膜症手術、あと数は少ないですが、先天性心疾患の手術治療があり、現在の問題および今後の課題として、外科治療では救うことが難しい難治性心不全に対してどう対処していくか、という問題があります。
虚血性心疾患の最新の外科治療として21世紀に入ってからは、日本では人工心肺を使用しないオフポンプCABGが主流となり、人工心肺を使用しない低侵襲さと、コスト削減により手術成績も含め大きく社会貢献してきたといえます。最新の手術方法として、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、まだ国内では実施施設がきわめて少ない左小開胸の冠動脈バイパス術も実施しており、胸骨正中切開をしないので、縦隔炎のリスクが少なく、より早期の社会復帰が可能な方法を対象患者さんによっては採用しています。
また弁膜症の外科治療の中心は人工弁置換と自己弁温存した弁形成術です。特に僧帽弁形成術は弁置換に比較して長期の生存が有意に高いとも報告されており、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも基本的に僧帽弁逆流症にはほとんどの症例で弁形成術で対処しています。最新の方法として、右小開胸での僧帽弁形成術も実施しており、早期の社会復帰が可能となっています。
これからの課題として、難治性の心不全においては心臓移植しか治療法がないという患者様もたくさんいらっしゃいます。法改正によって移植数が増加していますが、それでも移植の申請数が圧倒的に上回っており、平均の移植待機期間が3年半から4年もかかると言われています。この間は、多くの患者様は補助人工心臓を装着して心不全管理しながら待つことになります。補助人工心臓は最近はすべて外国製のものが採用されるようになりましたが、成績が良好になったことから、心臓移植を前提としない装着、いわゆるDestination Therapy(DT)にも注目されるようになってきました。アメリカでは既に10年以上補助人工心臓を装着して生存している患者様もいて、保険の適応にもなっています。現在では年間1000例以上のDT導入患者がいるそうで、日本でも近々導入されていくと思われます。
僧帽弁再形成術の経験につき、発表しました。僧帽弁形成術は現在は僧帽弁逆流症に対する手術では、弁置換よりも優先的に行われています。自己弁を温存して、形成し、逆流を停止させる術式の方が、人工弁置換よりも術後の遠隔成績(遠隔死亡)が良好と報告されています。しかしながら僧帽弁形成術後、年間1%前後の再治療が必要な僧帽弁逆流の再発が一般にみられると言われており、その際の追加治療で再度弁形成するのか、それとも人工弁置換するのかが議論になるところです。
横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、基本的に僧帽弁形成術を第一選択にしており、演者は、過去10年間で200例あまりの僧帽弁形成術を執刀しており、その中の2%に再発が診られました。執刀していない症例も含めると、7例の再手術症例を経験しており、うち6例(85%)で僧帽弁再形成術が成功しています。
セミナーでは、僧帽弁形成における人工腱索の設置方法について、また再発予防するための手術手技等についても話し合われました。
横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、基本的に僧帽弁形成術を第一選択にしており、演者は、過去10年間で200例あまりの僧帽弁形成術を執刀しており、その中の2%に再発が診られました。執刀していない症例も含めると、7例の再手術症例を経験しており、うち6例(85%)で僧帽弁再形成術が成功しています。
セミナーでは、僧帽弁形成における人工腱索の設置方法について、また再発予防するための手術手技等についても話し合われました。
毎年更新される病院紹介の本です。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、成人の心臓血管疾患の外科治療を担当しています。胸部や腹部の大動脈疾患の手術治療は特に得意とする分野です。特に急性大動脈解離は緊急手術が必要な場合、一刻を争う状態で、より治療に慣れた施設で治療を受けることが、救命には重要です。最近は技術の進歩もあり、手術成績もかなり向上してきましたが、まだ施設間に差があるのも事実と思われます。横須賀・三浦・逗子・葉山・鎌倉および横浜市南部地域において、より多くの患者様を救うべく日々努力しています。