大動脈弁に感染性心内膜炎を発症し進行すると弁輪にまで感染が波及し弁輪部膿瘍を形成する場合があります。多くは僧帽弁との共通弁輪=Aorto-Mitral Curtainに膿瘍を形成し、僧帽弁前尖を破壊したり、左心房に異常なシャントを形成したりする場合があります。ここまでくると通常の大動脈弁置換を行っても感染部位を除去できず高率に感染の再燃が起きてしまい、救命することは困難です。感染性心内膜炎の手術の基本は感染部位を除去、掻把する必要があり、この病態に対する究極奥義はやはりManouguian手術です。
Manouguian手術手術はもともと弁輪拡大術式の一つで、Aorto-Mitral Curtainに向かって弁輪を切離し、人工血管や牛心膜、自己心膜などで弁輪を補強した分が弁輪拡大される術式です。この弁輪を切離する部位の感染の弁輪部膿瘍を形成していることが多いので、弁輪部膿瘍を切除したあとの再建が感染性心内膜炎にも応用できるというものです。オリジナルの術式は僧帽弁置換を伴いませんが、感染性心内膜炎の場合は感染巣を完全に除去するために切開切離するために僧帽弁置換が必要になることが多くなります。
僧帽弁前尖を完全に切除するとともに、切開線を大動脈切開線を無冠洞を超えて左房上壁に切り込み、左房上壁から大動脈切開部を船形に切った人工血管でパッチ形成閉鎖すると同時にこの人工血管の中央部の帯状のTransitional Zoneに僧帽弁輪、大動脈弁輪を置くもので、この二つの弁輪の間に5-6mmのTransitional Zoneを置くことで二つの人工弁の弁輪の干渉を防ぎます。このTransitional Zoneの固定部位がしっかり自己組織に固定されることが出血を予防することで非常に重要で、ここがこの手術の肝です。しっかり縫合して出血を予防するために糸掛け、結紮の順番も重要です。
なかなかイメージがつかないという人も多いのですが、実際の手術イラストを自分で描いてみて初めて理解できる場合も多いので、術前や、手術を実際に見たり行った後にイメージを考えながらイラストを描いてみることがおすすめです。
筆者は昨日の他病院での緊急手術のお手伝いで参加した症例で4例目です。前任地自治医科大学附属さいたま医療センターでは1万例の心臓手術の中で3例しかなく、その3例とも手術に入った心臓外科医は筆者しかおりません。一例は自分で執刀し、忘れられない手術の一つです。幸い全症例が救命されました。20年の心臓外科人生で4例の遭遇なので5年に一度の割合でしか遭遇しない手術かもしれませんが、外科医によっては一生に一度しか見ない、もしくは一度も遭遇しない手術かもしれません。その意味で、この手術が心臓外科医にとっては「究極奥義」なのです。