ホスピスケアの質を評価する指標の一つとして
最後の抗がん剤治療施行日と死亡日との期間があげられることがある
この期間が短いほど質が高い
つまり死ぬ間際まで癌化学療法をするのはよろしくない
という判断である
多くの場合その通りだと私も納得できるのだが
すべてに当てはまるかといえば
これもまたそうとも言えないのが医療の難しさ
例えば末期胃癌の方に化学療法を行う場合
代表的4剤系統を使用することになる
ある方法でダメなら別の方法にと変更して行き
この4剤を使い切ることが寿命の延長に繋がるとされている
ところが普通これらの薬を使い切ったあと
手段がなくなってしまうと
全身状態が悪化し化学療法どころではなくなる
多くの場合緩和ケアに移行することとなる
4剤を使ってしまい
そのすべてが効かなくなり
食事が全く通らなくなったNさん
もう積極的治療が難しくなってきており
年は越せない可能性が高いことをご主人に伝えた
そして最後に10年以上前から行われていた治療で
現在も治療として生き残っている
メソトレキセートと5-Fuを用いた治療を行うことを提案した
できることは何でもと免疫療法のことも考えているご主人はすぐに同意され
ご本人も同意された
体力が落ちてきている状況で
この治療が効かなければ
薬は単なる毒となり体を蝕む
ケアとすれば最悪のことをすることになる
ところが
1回の治療を行ったところで
翌週から全く食べ物が通らず食べなくても唾液や胃液をはいていたNさんが
吐かなくなり
数口だが食事を取ることができたのだ
間違いなく効いたのだ
そして苦しんでいた嘔気 嘔吐から開放されるという緩和治療ともなったのだ
この治療が全く効かなかったら
癌化学療法を行った最終日と死亡までとの期間は
一月もなかったかもしれない
それならやはり最悪の緩和ケアをしたことになる
さあ自分がその立場になったとき
私たちはケアとキュアのどちらに軸足を置くのだろうか