オリバー・ツイストを読んでいて、ふと昔の記憶が蘇った。
高校時代の夏休み、ひとりで寺の留守番をしていたら玄関に背の高い男の人がやってきた。
寺を訪れる人のお話を聞くのが寺の人間の勤めだ。
「腹が減って…」
と恥ずかしそうに言う。
こういうことは時々あることで、そういう場合に母のやる事を見てきていたから、
「おじさん、ちょっと待ってて下さいね」
と言って台所に走り、有り合わせのおかずとご飯でお弁当を作った。
それから自分のお小遣いから千円札を取り出しておじさんに渡した。
大男はぺこぺこしながらそれを受け取って門から出て行った
が、程なくして戻って来たのだ。
今度はふたりのお巡りさんに挟まれて…
「こいつが、お寺のお嬢さんにもらったと、言いよるんですが、本当ですか?」
「はい、お腹が減ってるっていわはるから…」
「お金もですか?」
「はい。」
お巡りさんは大男を小突きながら、
「お前、礼言うたんか?」
「へい…」
大したおかずが入ってもいない弁当箱を大事そうに両手で持っておじさんはぺこりとした。
「もう、寺に来たらあかんぞ!」
と、怒られながらお巡りさんに連れられてお寺の階段を降りて行った。
後で村の人から
「★★ちゃんがひとりで留守番してるのわかってるのに、怪しい男がお寺の階段上がって行くのが見えたから通報したんや」
と、聞いた。
暑い夏の昼下がり、本堂の縁側にそういった人が昼寝していたら私は冷やしたお茶を運んだ。
お寺に休みにくる浮浪者は怖くなかった。
鍵などかけたことがなかった。
ただひとつ、消火器詐欺には気をつけた。子供相手でも巧妙な手口でやってきた。二人組で演技をするのだ。
怒らせると怖いので騙されるふりしながら、親が帰るまで待って下さいと、お茶やお菓子を出す。
大概1~2時間も待たせたら諦めて帰っていく。
当時は押し売りというのもよく来たものだ。
母が丁寧に付き合って歯ブラシなど買っていたので、私は押し売り屋さんというお仕事なのだと思っていた。
風呂敷を広げるところなど、富山の置き薬屋さんとよく似ていたから。
危ないようで、何となくバランスが取れていたのではないのかなぁ。
今は違う。
私が家を出る頃から、だんだんと計画的組織的にお寺も狙われるようになった。
うちは貧乏寺だけれどね、阿弥陀さん盗まれたら大変だから、あちこちに鍵をかけて、SECOMも入ってる。