ある男がいた。
とても心がけが悪く、盗みや脅しで日々を暮らしていた。
そんな男なのだが、一人の男の子と一緒だった。
男の子は乱暴な保護者の性格を全て理解しており、心を痛めながらも他に方法がなく、自らは決して悪事に手を貸さないではいたが男の日銭でパンを食べていた。
そこに親切な人物が現れる。
汚れきった姿をしている男の子の澄んだ瞳に究極の善を見出し憐れんで、男に人の道を説き改心させようと苦心する。
だが、男の荒んだ心の中にはほんのちょっとの良心も生まれてこない。
親切な人は男の子を引き取る決心をして、
男の留守のうちに自分の家に連れてくる。家には男の子と同じくらいの年頃の子供がいた。
暖かく整った部屋の柔らかなベッドで、おそらく生まれて初めてきれいに洗濯された白い肌触りの良いパジャマを着せてもらって男の子は眠った。
翌朝、男の子を取り返しに怒鳴りながら男がやってきた。
親切な人は、先ず健康を取り戻すまで子供を預からせてくれ、そして、あなたがまっとうに働けるように自分が手を尽くすから改心してくれと説得する。
男にそんな言葉は何の意味も無く、喚き立てて男の子を奪い返そうとするが、親切な人はなんとか男を追い出す。
男はどこかで一杯酒を飲んでからもう一度来てやると考える。
善意の人の家で、男の子は口で言い表せないほど嬉しかった。
これは夢ではないかしらと何度も目をパチクリしてみた。
男の子の寝かされている部屋にはもうひとりの男の子もいた。
ふたりはとてもよく似ていてすぐに仲良しになった。
ところが、男の子はふとある考えに心を奪われる。
自分の存在こそがあの男を乱暴にさせているような気がしたのだ。
テーブルの上に果物とナイフが置いてあった。
男の子は突然ナイフを掴んで自分の首に強く当てた。
その時、雷に打たれたように乱暴な男の心に良心が蘇った。
直ぐには自分の心が理解できず、混乱して訳の分からないことを叫びながら男は善意の人の家にやって来る。
扉を突き破り男の子の部屋に飛び込んできた男は、まだ荒々しくはあるが男の子に語りかける。
「アマリリスだ、アマリリスに帰ろう、俺はもうお前に酷いことはしない、アマリリスに帰ろう、帰るんだ!」
そう言って男の子の体を揺する。
アマリリスとは、二人の寝ぐらの愛称らしい。
男の中の善なるものの記憶がそこに埋もれているのだろう。
男の子は微笑みを浮かべて少し顔を上げたが動かない。
もう一人の男の子が
「もうその子は動けないよ。」
と、つぶやく。
そこに、外出していた親切な人が帰ってきた。
目の前で起きていることを理解して
「私の話を何故聞いてくれなかったのだ!」
と天を仰いで叫んだ。
ぐったりと肩を落としている男の子の顔は真っ白で瞳だけが輝いている。
そこで目が覚めた。
私も泣いていた。