26日の木曜日は午後休診を利用して、電気館で上記映画を観ました。
邦題は、”ブルーに生まれついて” とありますが、直訳すれば、”ブルーになるために生まれて”、チョッピリ気取って訳せば、”ブルーになるべく生まれて” でしょうか。
すぐに思い出してしまいましたが、私が中学生の頃、”野生のエルザ” なんていう映画があって、そのテーマソングが ”BORN FREE” でした。
さてチェット・ベイカーですが、1929年生まれのトランペット吹きで、歌手でもあります。
若くしてブレイクし、JAZZ界のジェームス・ディーンと呼ばれました。
しかし、酒と女とヘロインでボロボロになり、この映画にも出てきますが、前歯をすべて叩き折られてペットが吹けなくなります。
10年以上もJAZZ界から姿を消しますが、1970年代に復活してきます。
しかし孤独な青春を連想させるような独特のフレーズは輝きを失っていました。
このことについて村上春樹は次のように述べています。
ベイカーはジェームズ・ディーンに似ている。
顔立ちも似ているが、その存在のカリスマ性や破滅性もよく似ていた。
彼らは時代の一片を貪り食べ、得た滋養を世界に向かって気前よく、ほとんどひとつ残らずばらまいた。
しかしディーンとは違って、ベイカーはその時代を生きのびた。
ひどい言い方かもしれないが、それがチェット・ベイカーの悲劇でもあった。
もう少し村上春樹のベイカー評をアップします。
ベイカーの作り出す音楽には、この人の音色とフレーズでなくては伝えることのできない胸の疼きがあり、心象風景があった。
彼はそれをごく自然に空気として吸い込み、息吹として外に吐き出していくことができた。
そこには人為的に工(たく)まれたものはほとんどなかった。
あえて工むまでもなく、彼自身がそのまま「何か特別なもの」だったのだ。
しかし彼が「特別なもの」を維持できた期間は、決して長い物ではなかった。
輝きは夏の盛りの美しい夕暮れのように、いつしか闇に飲み込まれていった。
この、輝きは夏の盛りの・・・・・ の一文を、私はとても気に入って、毎年、夏の夕暮れ時には反芻するように思い出します。
さて、私が高校時代に買ってもらった世界ポピュラー音楽全集のJAZZ編にチェット・ベイカーの My funny Valentine が入っていました。
当初は女性ボーカルだと思いこんでしまいましたが、それほど中性的な声質なのです。
その曲はこのアルバムに収録されています。
私はこのCDを持っています。
もうすぐバレンタインデーです。
そこで、この曲の歌詞をアップして和訳してみます。
My funny Varentine, sweet comic Valentine, you make me smile with my heart.
Your looks are laughable, unphotographable, yet you’re my favorite work of art.
Is your figure less than Greek?
Is your mouth a little weak?
When you open it to speak, are you smart?
But don’t change a hair for me.
Stay little Valentine ,stay!
Each day is Valentine’s Day.
俺の可愛いバレンタインよ、甘くておかしなバレンタインよ、おまえは俺を心からニヤリとさせるぜ。
おまえのルックスは笑かせ物だし、写真にも耐えないが、それでも俺にとっては大好きな芸術作品なんだ。
おまえのスタイルはギリシャ彫刻に負けてねえか?
おまえはしゃべくりがぜんぜんダメだよな、ちゃんと利口なのか?
しかし俺のために髪型を変えたりするなよ。
そのままでいいんだバレンタイン、そのままで居てくれよ。
そうすれば毎日が、俺にとってはバレンタインデーなのさ。
さて70年代に復帰したベイカーですが、ヘロインを絶つことができませんでした。
そのことはアメリカでは合法的に生きていけないことを意味します。
ベイカーは法律の緩いヨーロッパを中心に音楽活動を続けます。
晩年の残念な写真をアップします。
ベイカーは58歳でオランダのホテルから転落死します。
部屋にはヘロインが残されていたそうです。
事故か、自殺か、殺人かは不明のようです。
しかし、部屋はホテルの2階だったので、自殺や他殺は考えにくいのではないでしょうか.....
さて、この映画の評価ですが、B級にとどまります。
ベイカーに憧れてない方は、観ても面白くないでしょう。