2013年の5月2日にアップした、" 医者に殺されない47の心得 " の著者である近藤誠先生の最新刊です。
定期的な健康診断は受けるなという、これまでの意見に変わりはないのですが、
今回は各論にも踏み込んでこられましたので、私見も交えて、いくつか紹介します。
日本では70歳以上の2人に1人が降圧剤を服用しているのだそうです。
昭和の時代にWHOが定めた高血圧の診断基準は、上が160、下が95でした。
しかし、2000年に日本高血圧学会が、上が140、下が90と定めた影響で患者数は倍増しました。
それに伴い、高血圧薬の市場規模は1900年代に5000億円であったのが、現在では1兆円に倍増しています。
薬品メーカーは頻繁に勉強会なるものを一流ホテルで催します。
開業医のもとには、事前に担当者が、参加を促しに来院し、タクシー券を置いていきます。
勉強会の講師は遠方の大学の先生が、いわゆる、 " アゴアシ付き " で招かれ、数十万円のギャラが支払われます。
その講師を招いた熊大の教授が座長を務め、10万単位のギャラをゲットします。
勉強会自体は2時間くらいで終わるのですが、その後、 " 意見交換会 " と称して隣室に豪華なバイキングが用意されます。
勉強会の内容は、降圧剤を使用することによって、脳血管イベントの発生を数十%減らしたというデータの発表がメインです。
ただ、この数字は、以前にもアップしましたが、データ解釈の一面に過ぎないのです。
例えば、内服を一年間続けて正常血圧を維持した1000人のグループと、内服無しの一般的な1000人のグループを比較したとします。
その結果、脳血管イベントが、内服グループから6名、内服なしグループから10名発生したとします。
この時、メーカーは、 " この薬を内服することによって脳血管イベントを40%も減らした。 " と発表するのです。
実際に利益を享受できたのは、内服を続けた1000人のうちの4名に過ぎないのです。
さらに、内服を続けたにもかかわらず、6名は発症しているのです。
この結果を冒頭のように、イベント発生を40%も減らしたと表現するのは、確信犯的な詐欺だと思います。
私が研修医の頃には、" 年寄りの高血圧には手を出すな。 " と指導されていました。
年寄りは動脈硬化が進んでいるので、血圧を上げてやらないと、血液が末梢血管に入っていかないからからです。
メーカーがどんな数字を出そうと、この考え方がまっとうの様に思えます。
以後、私は、血圧に関しては患者さん達にユルユルな立場を貫いてきました。
昔の基準で十分だと考えたし、80歳以上の患者さんの高血圧は基本的には目をつぶりました。
次はコレステロールを下げる薬がやり玉に上がっています。
昭和の終わりごろに、日本の三共薬品がメバロチンという新薬を開発しました。
肝臓でコレステロールが合成されるのを阻害する薬で、爆発的にヒットして、三共は本社ビルを建て直し、" メバロチン御殿 " と呼ばれました。
そして、その頃までの総コレステロールの正常値は230までだったのですが、どういう訳か220以下に訂正されました。
基準値が10厳しくなれば、患者は倍増するはずです。
当時はコレステロールが動脈硬化の元凶のようにみなされていました。
たしかに、動脈硬化を起こした血管を解剖してみると、血管壁にコレステロールがへばりつき、それがマクロファージに捕食され、その死骸が糊状になって、
業界用語でいうアテローム硬化を起こしていたからです。
しかし、アテローム硬化の発端は、糖尿病や高血圧で血管が損傷することにありました。
その損傷した傷口にコレステロールが滑り込むことで物語がスタートするのです。
もともと、コレステロールは損傷した血管を修復しようとして滑り込むのです。
そのことが裏目に出た場合にアテローム硬化を起こしますが、修復がうまくいくケースも多々あることが予想されています。
さて、コレステロールを下げる薬はメバロチンを追いかけるようにして似たような薬がゾロゾロと発売されました。
どれも肝臓でのコレステロールの生合成をブロックする薬で、まとめて、" スタチン " と呼ばれました。
当初からスタチンには横紋筋融解症という副作用の危険性が指摘されていました。
処方された患者さんが、力が入らないと訴えてきた時には、真っ先にスタチンの副作用を疑わねばなりません。
さらに最近ではスタチンが糖尿病を発生させ、癌になるリスクを高めるとも指摘されています。
現在アメリカでは総コレステロールが検査項目からはずされています。
特に、更年期を過ぎた女性では400を超えていても治療の対象にはなりません。
LDLコレステロールとは比重の低いコレステロール、肝臓から組織へと運ばれていくコレステロールですが、日本では悪玉コレステロールと呼ばれます。
日本でのLDLの上限は140くらいまでですが、アメリカでは190です。
中性脂肪は日本では150以下とされていますがアメリカでは900です。
日本でも世界の流れには逆らえず、総コレステロール値で高脂血症を云々することは無くなりました。
しかし30年近くにわたって、総コレステロールを基準に延々とスタチンを売り続けてきた製薬会社は、一言も謝りません。
そして、素早く話を悪玉コレステロールにすり替えて、厳しい正常値を設定し、薬を売り続けようとしているのです。
私自身は、以前にアップしたベンゾジアゼピン ( 安定剤、睡眠導入剤 ) 撲滅に加えて、スタチン撲滅も目指しています。