古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

浜田廣介『泣いた赤鬼』絵本も片付けます。

2013年05月12日 03時41分23秒 | 古希からの田舎暮らし 80歳から
 原作は漢字を使った童話です。童話作家・浜田廣介が、漢字を使わないようにして自分自身で書き直した『ひろすけ童話』をそのまま載せます。まだぼくも生れる前の、1933年に書かれた童話ですが、もしよかったら読んでみてください。

          ないた あかおに

 どこの やまか、わかりません。 その やまの がけの ところに、 おうちが 一けん たっていました。だれが、 そこに いましたか。 あかおにが すんで いました。 まだ わかい げんきな おにが、 ひとりで そこに すんでいました。
 げんきな おにでも、その おには、あばれものでは ありません。 いえ、あべこべに、きもちの やさしい、しんせつもので ありました。
 あかおには、まいにち ひとりで、おもって いました。
「わたしは、おにに うまれたが、にんげんたちとも、なかよく くらして いきたいな。 ふもとの むらの ひとたちと、ともだち なかまに なりたいな」
 ある日、また そう かんがえて がまんが できなく なりました。そこで、いそいで いたを けずって、そのいたに じを かきました。

 こころの やさしい おにの うちです。 どなたでも おいでください。おいしい おかしも ございます。おちゃも、わかして ございます。  あかおに

 そう かいて たてふだに して、 おうちの まえに たてました。
 つぎの 日に、 むらの きこりが とおりかかって、じを よみました。
「めずらしいなあ。おにの たてふだ。 だれでも おいでと かいて ある。 それに、おちゃ、おいしい おかし。はて、どうも。」
 ふしぎそうに くびを まげ まげ、 きこりは、やまの ほそみちを、とことこ おりて いきました。
すると、とちゅうで、なかまの きこりに あいました。
「いましがた、ふしぎな ものを みて きたよ。きみょうな たてふだ。」
 そう いって、わけを はなして、さきの きこりは、もう一ど、あしを かえして、あとの きこりと、おにの おうちの まえに きました。
「そら、ごらん。この たてふだを。」
 あとの きこりも、かなの じは、よく よめました。よんで みました。
「なるほど、おにの じ。ふでに ちからが、はいって いるよ」
「それに、まじめな きもちが わかる。じを ていねいに かいて いる。」
「ほんきなんだな。」
「はいって、みよう。」
 さきの きこりは、そう いって、とぐちの ほうへ、めを むけました。けれども、そばから、あとの きこりが、いいました。
「まて、そう せくな。その まえに、とぐちを ちょっと のぞいて みよう。」
 ふたりは、そっと、とぐちの そばに ちかよりました。
 おうちの なかで、あかおには、みみを すまして きいて いました。とぐちを のぞいて、それから ふたりが、『はい、こんにちは。』そう いって、はいって くるかと おもわれました。
「なんだか、ひっそり して いるぞ。」
「きみが わるいな。」
「さては、まじめに みせかけて、うまく だまして。」
「とって くう つもりらしいぞ。」
「あぶない。あぶない。おにだもの」
 こう いわれると、あかおには、すっかり はらが たちました。
 へやから、ぬっと、まっかな かおを つきだして、おおごえ だして いいました。
「だれが、だまして くう ものか。」
「そら、でた。おにが。」
「たいへん、にげろ。つかまるな。」
 ふたりの きこりは、どたばたと かけだしました。
 おには、いそいで とびだして、
「おうい、おまち。ちょっと おまち。」と、なんども こえを かけました。
 よびとめる こえを きいても、ふたりは、あしを とめません。 どんどんと さかを くだって、むこうに いって しまいました。
 あかおには、もう くやしくて なりません。 なみだを いっぱい めに ためて、 たてふだに めをむけました。
「ええ、こんな もの、こわして しまえ。」
 やさしい おにでも わかい あかおに、たんきを おこして しまいました。たてふだを ちからまかせに ひきぬきました。ふだの きのえを ぽきん ぽきんと おりました。たいらな いたを、ふみつけました。
 いたは、ぱりっと われました。
 すると、そこに ひょっこりと、なかまの おにが、やって きました。なかよしの ともだち、あおおに。つめの さきから、あしの うらまで あおい おに。その あおおには、とおい ふかい おくやまの、いわの おうちを ぬけだして、その 日の ひくい あまぐもに のって、 きたので ありました。
「たまに、あそびに きて みると、ぷんぷん おこって いるんだな。きみらしくも ない。どうしたの。」うらめしそうな めつきを みせて、あかおには、ともだちおにに いいました。
「ごめんよ。これには、わけが ある。きいて おくれよ、その わけを。」
 そう へんじを して あかおには、じぶんの おもって いる ことを、しょうじきに うちあけました。
「なんだい、そうか。にんげんたちと、いったり きたり したいのか。」
 あおおには、かんがえこんで いましたが、 あとを つづけて いいました。
「では、こう しよう。ぼくが、これから、ふもとの むらに、おりて いく。そして、どこかで、わざと うんとこ あばれよう。」
「じょうだん いうな」
 あかおには、まじめがお して いいました。
「まあ、きくが よい。あばれて いると、きみが きて、 ぼくの あたまを、ぽかぽか なぐる。そう すれば、にんげんたちは きみを みて、きっと ほめるに ちがいない。もう、そうなれば しめたもの。あんしん しきって、みんなが あそびに やって くる。ね、そうだろう。」
「なるほど、そうなる。だが、それじゃ、きみに わるいよ。すまないよ。」
「なにを いう。ともだちの なかでは ないか。さあ、では でかける。あとから、きっと くるんだよ。」あおおには、さかを くだって とっとっと ふもとの むらに いきました。
 ぽつん ぽつんと わらやねの おうちが たって みえました。 むらの はずれの、ちいさい おうち。そこに いるのは、おじいさんと おばあさん。
 あおおには、そこの とぐちに とびこんで、めを ひからせて たちました。
 びっくり ぎょうてん、おじいさんと おばあさんとは、すぐに、はだしで にげだしました。
 ふたりを ちゃんと にがして おいて、あおおには、つぎには、そこらに あるものを、てあたりしだいに なげました。とを たたいたり、かべを けったり、とんだり はねたり、さかだちしたり、やりながら、はやく ともだち あかおにが くると よいが、と まって いました。
 まもなく、わかい あかおにが、こちらを むいて かけて きました。いきを はあはあ させながら、すぐ そばにきて、あかおには、わっと どなって いいました。 
「やい、この やろう。」
 あおおにの かたを つかまえ、こぶしを あげて あかおには、ともだちおにの あたまを こつんと
うちました。けれども つよくは うちません。
「だめだよ、それじゃ。もっと ぽかぽか なぐるのさ。」
 あおおにが、ちいさな こえで いいました。
 あかおには、そこで ぽかぽか なぐった ように みせかけて、ちいさな こえで いいました。
「もう いい。はやく にげたまえ。」
 あおおには、がってん しました。にげるとき、わざとよろける ふりを しました。すると、そばの ふとい はしらに、ひたいを ごつんと あてました。
「いたたっ、いたい。」
 ひたいを おさえて、あおおには、ほんとの こえを だしました。 
「あおくん、まて まて。みて あげる。」
 にげて いく おに。おいかける おに。
 おにどもが、むらに きたのを ききつけて、 おとなも こどもも、わいわい いって あつまりました。ものの かげから、みんなは じっと、おにと おにとを みて いました。
「なんと かんしん、 りっぱな おにだよ。あの あかおには。ほかの おにとは、まるきり ちがう。」
「そうとも、あんなに らんぼうおにを なぐったぞ。」
「いい おに、いい おに。 あそびに いこう。」
 そう はなしを して、ひとたちは、おにの おうちへ いきました。
 おきゃくを むかえて、あかおには、おおよろこびで ありました。おにの おかしを、たくさん つくって だしました。あじの よい おちゃを のませて やりました。
 たいくつな ときなど、 いまは ありません。おきゃくたちと はなしを しあって、おもしろいやら、おかしいやら、あかおには、まいにち にこにこして いました。
 けれども、なんにち たちましたか。
 ある ばんの こと、 あかおには、まくらに あたまを のせかけて、ふっと、ともだち、あおおにに きが つきました。
「そうだよ。あおくん。あれから、ちっとも やって こない。どう したのかしら。あの とき、ひたいを ぶっつけたが、まさか わるくて、ねこんで いるんじゃ あるまいな。」
 そう かんがえて、あかおには、しんぱいに なって きました。
 つぎの日、よあけに あかおには、はんしを だして、じを かきました。

 きょうは 一にち るすに なります。あしたは います。 むらの みなさま  あかおに

 そう かいて、とぐちに はって、あかおには、やまの そばから たちのぼる、よあけの くもに とびのりました。
 くもと いっしょに、あかおには、かぜに ふかれて はこばれて、 やま また やまの おくふかい、たにの ところに いきました。たにの けわしい がけはたに、いわの おうちが、たって いました。
 あおおにの うち。いしの だんを ふんで のぼって、あかおには、おうちの とぐち、ひさしの したにたちました。
 ひさしの はしから、つめたい つゆが たれおちて、 とぐちの そばの ささの はを ぬらして いました。ささの やぶから、やまゆりが、しろい おおきな はなを さかせて たっていました。
 とぐちは しまって あきません。
「おうい、いるかい。」
 よびながら、ふと きが つくと、おもい との うえの ところに、かみが 一まい はられて いました。
「おや おや、なにか かいて ある。」
 めを ちかよせて、よんでみました。

 あかおにくん。
 にんげんたちと なかよく まじめに つきあって、いつも たのしく くらしなさい。
 ぼくは、しばらく、きみと おわかれ。この やまを でて ゆく ことに きめました。 きみと ぼくと、いったり きたり して いては、にんげんたちは、きに なって、おちつかないかも しれません。そう かんがえて、たびに でる ことに しました。
 ながい たび、とおい たび、けれども、ぼくは、どこに いようと、きみを おもって いるでしょう。きみの だいじな しあわせを いつも いのって いるでしょう。
 さようなら、きみ、 からだを だいじに して ください。
               どこまでも きみの ともだち  あおおに

 あかおには、だまって それを よみました。 三ども 四ども よみました。
「ああ、あおくん、きみは そんなに ぼくを おもって くれるのか」
 いわの とに、 りょうてを あてて、あかおには、かおを おしつけ、たらたらと なみだを ながして
なきました。      (お わ り)

 昭和47年・偕成社発行の『ないた あかおに』の絵本は、うちの子らに毎晩読み聞かせ、孫たちも読んでもらってやすみました。いま屋根裏の本を片付けています。いらない本や子どもの本とともに、この絵本も処分します。
   


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