常念山脈
雲ひとつなく晴れわたった夕空である、槍ヶ岳の左肩を下った平坦部に建つ山荘に灯が点る。
こんな夕暮れの時 山小屋から下界はどう見えるのだろう。
以前 槍ヶ岳登攀の前夜この山荘に宿泊したことがある。
槍沢を息絶え絶えに登りつめて倒れこんだ山荘に、思いがけない天空浴場があった。
槍の山塊が、暗闇の中に更に黒くそそり立って、明日の登頂に恐怖を覚えたものである。
星が美しかった、シャッターを開放にしてリバーサルフィルムに光の軌跡を写したことは覚えている。
しかしながら下界を見た記憶がない。雲海に包まれていたのかも知れないし、見なかったのかもしれない。