夕刻 忘年会会場に向うため松本城外堀に沿って片端通りを歩いていた。
遮るものがなく真っ向から襲いかかる寒風にたまらず、吹きさらしを逃れて路地に曲がる、強い風が家並みに遮られ、風圧から解放された体は急に軽くなり、ほっとする暖かさが戻ってくる。
狭い路地の一角に、古い格子戸から遠慮がちに明りが洩れてくる小さな居酒屋があった。
路地に曲がった時から、もしかしたらと期待する気持ちはあったのだけれど、現実に洩れこぼれる灯りを目の当たりにすると時間の秩序が崩れてしまった。
建てつけの悪い格子戸をあける、当時の作りのままの店内は何一つ変わってはいない、かすかに灯油の燃える匂いがする石油ストーブもそのままである。
カウンターの女将がびっくりしたように顔をあげた。