隼人君のことである。
遺失か盗難か迷ったけれど、遺失にした。
顛末はかくのごとし。
家からJR広丘駅まで自転車で走り、電車に乗る、これが隼人君の通学スタイルである。
その日、ライフワークのムササビ研究をまとめる必要から、バックにいれたパソコンと研究ノートを自転車の前籠に入れて駅に向かった。
背中に大きなリュックを背負っていたという。
駅の駐輪場に自転車を入れ、パソコンバックをそのまま残して電車に乗ってしまった。
途中で気づき、引き返したけれど、自転車の前籠にバッグはなかった。
先生のアドバイスで、急遽地元新聞二紙に探し物広告を掲載していただいた。
実は、私がこの不幸な出来事を知ったのは、新聞広告を見た知人からの電話問合わせよってである。
広告「ムササビ研究ノートを見かけた方は、どうかお知らせください、私にとってかけがえのない大切なものなのです」
事件から10日余が経過したが進展はない。
バッグを持ち帰った人が新聞を読んだとしたら、多分迷っていると思う。
「実は私が」と名乗り出ることを望んでいるわけではない、数年間の昼夜に及ぶ研究過程を記録した、4冊のノートが戻ることが切実な願いなのである。