永六輔さんのことばに,「むずかしいことをやさしく,やさしいことを深く,深いことを面白く」というものがあります。過日,国の施設を見学したとき,久しぶりにこのことばが浮かんできました。
光を使って,原子レベルの構造や変化を分析しているという,このタイプとしては世界最高水準の性能を誇る施設。ここを,平均年齢75歳という高齢者がバスツアーで訪れるのに同行したのでした。事前にあったガイドさんの話では,とにかくむずかしいところ,以前は格調(?)高く一般の人は見学できなかったが,近頃は「どうぞ,どうぞ」と開放的な感じ,巨額を投じて運用していることに理解を求める方向に変わったらしい,そんな内容でした。
はじめに案内スタッフによるガイダンス。かつてテレビ番組で放映された同施設についての番を視聴しました。番組中の案内人は早口の著名人。案内人はなんとかおもしろく読み解こうとしていました。しかし,年配者が一度見ただけでは理解しにく内容だとみました。番組自体が一般視聴者に一方向から情報を提供するという体裁の報道特集だからです。
スタッフの話で妙な説明もありました。光を使う研究施設なので,光の説明がなされるとき,「太陽の光を受けて植物は,うーん,タンパク質を作っていますね」ということばが出て来て,そのまま修正されずに終わりました。スタッフは複数だったのに,誰一人として対応されませんでした。
ガイダンス後,引率者がわたしに「科学館にお勤めですから,すいすいわかるでしょう。わたしには皆目わかりません」とおっしゃったので,「よく似たものですよ」とお答えするほかありませんでした。わたしは半理解にも至りませんでしたから。質問コーナーはまったくなし。案内スタッフの立場を批評すれば,すでに「むずかしいことをやさしく」でつまずいているのです。おまけに,「〇〇だからね」「こんな研究施設なので,わかりづらいのが当たり前」の姿勢。これでは理解が進まないでしょう。そこには引き付ける工夫が見当たりません。ですから使命感もありません。
これまでにもここを訪ねた人から第一印象を聞いたことがあります。やはり,素人には難しかったという話でした。それと重なって,この段階でもう「これではな」という印象です。
番組視聴のあとは同施設の見学。通り一遍の,ただ見るだけというコースです。目の前にあるのは施設の,大掛かりな装置。口から出るのは「へー!」「ほーっ!」,そんな印象ばかり。
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わたしたちは科学の素人。解説に必要な,素人の目線に応じた具体的な仕掛けがまったくなし。どんな解説をすべきか,どんなガイドを配置するか,どんな展示をするか,それらがかたちとしてまったく見えてこないのです。感度のよいガイド,簡易な模擬装置,親しめる展示内容がほしい! 分子や原子を馴染みの深いものにたとえたらどんな小ささなのか,一回の実験で使う光エネルギーは一般家庭が消費する電力量の何倍程度のなのか,そんな“わかりやすさ”がまったくないのです。
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どんな人が訪ねて来るかわかりません。勉強したいと積極的に臨んだわけでもない人を相手にするのがほとんどではないでしょうか。むずかしいことがむずかしいまま。「どうせわからないだろうから」という思い込みがあるわけではないでしょうが,それならなんとか伝えたいという工夫があってほしいなと感じました。
帰途,ガイドさんいわく「三度目の見学でしたが,やっぱりわかりませんでした。皆さんはいかがでしたか」。高齢者ならなおのことでしょう。
終始,失礼ながら「これではな」といった感じでした。案内学の入口でつまずいているといった印象を受けたのです。これ,自分勝手な“ガッカリ”辛口批評です。企業が運営する同様,同等の施設なら,こんなことはないでしょう。企業努力と比べてサービス体質のちがいが際立ちます。やっぱり親方日の丸式なのかな。体質改善って,たいへんたいへん。
というわけで,冒頭の永さんのことばがぐぐっと輝いて迫ってきました。改善って思うほど簡単でなく,いうほど容易でない!