藤川だ。
今日は広之の合格祝い、と称してこ~いっちゃんを奥波地滋温泉まで拉致した。
俺の遠縁でもあるこの温泉には、じいさんやばあさんたちが来た時のために特別室の離れがあるが、俺はめったに使わない。 でも、ま、客室の眺めのいい部屋ぐらいは確保できる。
が、腹のおさまらない久保田は部屋よりも外でタイマンとばかりに、こ~いっちゃんを外へ連れ出した。
波地滋川の岩だらけの場所に立ち、川を背景に久保田は仁王立ちした。
先程から空模様が怪しくなってきて、効果バツグンだ。
「久保田、勘違いしてない?」
「う~ん」
けんちゃんと広之は眉間にシワを寄せて唸っていた。
「さあ~、白状しろっ」
「な、なんのことだっ」
こ~いっちゃんは、後ずさりしてよろめいた。
「俺は知ってるんだ」
「何をだよ」
ん?こ~いっちゃん身構えたぞ。
「とぼける気かあっいい加減白状したらどうだっ」
さっきから会話が進展しなくて、俺たちはその場に座って見物することにした。
「何、まだゲロしないって?」
浜中が岩をよじ登ってきた。
「久保田じゃあ無理だよな」
と、隣に座った浜中を加えて、俺たちは岩の上の二人を見上げた。
おっ、突然、空が光った。
「さあはけぇ、ネタは上がっている、状況証拠はすべて揃っているんだぁ」
「何だ?サスペンス劇場か?」
今度現れたのは、広之の学校の元高校球児小田島と細太郎の担任三田だ。
「何か面白そうだな」
と、いきなり雷がゴロゴロ。
「とぼけるなら言ってやる~、おまえ、園芸学部の浅田さんに手を出したなあ」
おっ、ついに核心に触れたか。で、こ~いっちゃんはというと…。
「何だ、そんなことか」
「そんなこととは何だあ」
俺たちは口を抑えて笑いをこらえるに必死だ。
「俺は浅田さんが好きなんだあ」
久保田、ここで怒鳴ってもしょうがないだろう。
「なあんだ」
はれ?こ~いっちゃん、意外な反応。
「なあんだって…」
と、雷が突然なり、ぽつぽつと雨粒が落ちてきたと思ったら土砂降りの雨だ。
「うわっ、いててて…」
俺たちはたまらんとばかりにホテルに駆け込んだ。
「あの二人は?」
「まだやってる」
部屋から川を見下ろして、俺たちは大笑いした。
「青春だねえ」
「若い若い」
というわけで、真相は不明なまま温泉にたっぷりとつかり、呆然としている久保田をほっといて、朝まで飲んだくれる予定さあ~。