真夜中からこんばんは、へちま細太郎です。
土曜日に藤川先生が本宅に帰って行き、そこでご隠居さまとご家老さまから強引に結婚を決められたそうだ。
「で、返事したの?」
広之おにいちゃんが、ヤクルトを一気飲みしながらきいた。
なんでも、学校にヤクルトのおばさんが売りにくるんだそうで、まとめ買いをして持ってきてくれたんだ。
「するかよ~」
と、藤川先生は頭を抱えている。
「ふつう常識があったら、あんな結婚相手を連れてくるか~」
気が狂いそうだと、ぶつぶつ言っている。
「おりゃあ、おとなのおんなが好きなんだ~」
「はい?」
ちろっと藤川先生がぼくを見た。
「いや、そうだ、絶対にそうだ。俺より、おまえの方が結婚相手にふさわしい」
「何言ってんの?」
ひろゆきお兄ちゃんは、2本目のヤクルトを飲んで、
「今夜は勝つかなあ~、出れなかったらかわいそうだし、かといって落合のことを考えたらなあ」
と、関係ないことを言っている。
「そんなに飲んだら腹壊すぞ。明日になったら下痢っぴ~だ」
「いいんだ、ペンピだから」
おとうさんと広之お兄ちゃんは、藤川先生の見合いなんてどうせすぐないことになってしまう、と思って深刻に考えていない。とりあってもいない。
だけど、藤川先生の顔は今にも死にそうな表情をしている。
「藤川先生、ぼくは女なんかどうでもいいよ、嫌いだよ」
ぼくがすねていうと、
「気持ちはわからなくもない」
と、広之おにいちゃんがゆーすけ先生から何かきいてきたのか、3本目に手を出している。
「だったら、ちょうどいい、そんな浮気性の女なんかほっておいて、近藤家にふさわしい気の強い女を紹介してやる。で、結婚しろ、結婚して俺の養子になれ」
「何言ってんの、ぼくまだ結婚できる年じゃないよ」
「いいんだ、相手だって、まだ結婚できる年齢じゃないから」
「え~つ」
「なんだ、どういうことだ?」
「おまえ、いつからロリコンになったんだ」
と、おとうさんたちもようやく話にのってきた。
藤川先生は、目の下にクマができて、尋常そうでない。
「あ~、胃が痛い、俺は人生終わった、ガキ相手に結婚生活できるか」
「だから、誰なんだよ」
広之お兄ちゃんは、親友の危機に隠居じじいぶっ殺してもかまわんぞの勢いで、藤川先生の肩をゆすった。
そんな様子を見て、ぼくはなんだか嫌な予感がした。なぜか、どうしてだか野茂の顔が浮かんだ。
で、
「まさかと思うけど、相手って野茂?」
と、顔を覗き込んだとたん、
「あんなの女じゃねえええええ」
と、叫びだし気絶してしまった。
「…」
ぼくは、唖然として藤川先生を見下ろした。じじい二人が髪の毛のない頭を寄せ合って何をたくらんでいるかと思えば…。
「野茂って、おまえの同級生のあれか?」
おとうさんが、哀れむような視線を藤川先生に向けた。
「おまえの同級生って、まだ15だろうがあ~」
広之お兄ちゃん、顔がムンクの叫びだよ。
ぼくはなんとなく予感がしていた。野茂は、藤川先生にぴったりなんじゃないかってね。でも、それはあくまでも藤川先生が大学出たてならの話だけどさ。
ふうん、野茂がねえ。。。あいつ、結婚話が出るような女だったんだ。
へえ。。。