こんにちは、担任の久保田です、数学担当してます。
今日の昼休み、職員室でメシ食ってたら、
「だから、家に帰るとふとんの周りが血だらけで、寝ている弟ものどに短剣が刺さっている…」
という声が聞こえてきた。
どこの殺人現場の話だよ~と、顔をあげたら目の前に唇をトマトだらけにした金本先生がいた。
って、あんた、いい年してナニやってんだよ、と怖くて口にできないから心の中で思ってみる。
どうやら、ナポリタンを食べていたらしい。
「」
で、件の会話がまた聞こえてきた。
「…短剣を抜けば血があふれてくるだろ?抜かないでおけば多少助かるかもしれない。そこで喜助は『医者を呼んでくる』と弟に言って聞かせるんだけど、弟は『医者が来たって何になる』っていうんだよ」
喜助?
ん?
「高瀬舟ですね。安楽死問題かあ」
社会の鳥谷がくそまじめな顔をして、倫理の教科書をめくる。
「なんだよ、ホラーじゃねえのかよ」
この声はたかのりだ。
慌てて振り返ると、頭をかきながらたかのりが、入試問題と思しきプリントをぶんまわしていた。
「おめえ、ちゃんと読んでねえだろ!!」
「読めえねえよ、マジで旧の仮名遣いなんて。森鴎外、なんてことしてくれてんだよ、医者やってろ~」
鳥谷が机に突っ伏し、金本先生はケチャップまみれのすぱげってーを口にくわえた状態で、たかのりをあっけにとられて凝視する。
「あ~、ホラーだホラー」
たかのりは、金本先生を指さして大声で叫びやがった。
職員室中の視線が、監督に集中してしまった。
「おまえ、入試より、卒業の方が心配だな」
現代文の上本が、ため息をついた。
たかのりはぺろっと舌を出したが、オレは半分情けなく思った。
「オレ、高瀬舟をサスペンスと勘違いした…」
読んでないのは、オレも同じだあ。。