日向で雪遊び

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読参~「機動戦士ガンダム 一年戦争史」~ 第6回 アジアの戦場

2008年04月02日 | 読参小説(ガンダム 一年戦争史)
 俺の新しい相棒、か・・・。
 胸中で呟きながら黒光りするそれを見上げて、トウヤはオデッサでの出来事を振り返る。
 あのとき、この機体があれば・・・。
 オデッサでの戦闘。それは、トウヤにとって忘れようもない酷い有様だった。
 2線級の機体での無謀な任務。そのツケは、部隊員全てで持って払わされたのだ。今、自分がこうしていること自体、一種の奇跡と言っていいだろう。
 やや感傷的になる自分を笑うと、胸の内で改めてそれを見る。

―――MS-09 ドム―――
 ツィマッド社により新規に開発された、ジオンの重MS。
 熱核ホバージェットによる高機動性と、それを受けての重装甲を持つ強力な機体である。
 オデッサではそれなりの数が導入され、その性能に見合った戦果をあげている。
 この機体は、今までの功績が評価されてとのことらしい。少尉への昇進と合わせての、一種の勲章みたいなものか。
 いずれにせよ、長らく二線級であったザクから最新鋭機へ一足飛びに与えられた事は大きく、自然と気持ちも高揚する。

「・・・大した機体だ。こいつが安定供給されれば、戦線もかなり楽になるだろうに」
「いいなぁ・・・と、こほん。
 し、しかし、そうも言ってられませんよ。少尉もご存じのように、それだけコストがかかりますからね。ザクのパーツとかがもっと流用出来ればよいのですが・・・」

 与えられた機体をそう評価する中、傍らにいるパイロットのトーマ・ハーディン曹長は羨望の声をうっかり表し、次いで溜息交じりに肩をすくめる。この人懐っこい曹長は、アジア方面へと逃れる際に知り合い、撤退戦の際には何度も轡を並べている。その縁もあって部下として配属された。
 ジオンに余裕などあるはずもない。物量差は如何ともしがたく、それはMS開発の遠因でもある。
 先のオデッサの件もあり、確実にジオンは危険な状況に陥りつつあった。

「苦しいのは毎度のことですね。いい時なんてありません」

 面倒そうに呟く曹長。そんな彼にせめてもの希望を言うと、トウヤは兼ねてから気になっていたことを問う。

「今度はユーリ・ケラーネ少将が指揮を執るそうだ。オデッサの時より遥かに救いはある。
 ・・・ところで、頼んでおいた件はどうだ?」
「パイロット仲間とかに聞いたのですが、特にこれといったのは何もありませんでした。向こうさんも、色々としているのは見るんですがね」

 社交性の高いトーマをあてにしてみたが、予想通り上手くはいかないらしい。そうか、と呟くと、腕を組んで思案にふける。
 そんなトウヤを見て、トーマは不思議に思う。これだけ冗長な少尉が珍しいのだ。
 尤も、オデッサ撤退時よりかは遥かに口数は増しているのだが、それが自分の与えた影響だとは気づいていない。
 理由を知りたいという欲求が沸き上がる。それは人の性分として当然だろう。が、それは抑えた。恐らくは、教えてなどくれないだろうから。

(オデッサほどの戦線ならば或いはと思ったが・・・まあいい。戦っていれば、いずれ分かることだ・・・)

 少尉、黙考中。だが、そんなことはお構いなしに、曹長は時を告げる。

「少尉、そろそろ時間です。しかし、今回も楽には行きそうにないですね」
「楽な任務などあったか? これがジオンだ。出るぞ!」

●トリガー
 ガラクタと変えられたジムが崩れ落ち、すかさず次のMSへと銃口が向けられる。どうやらまだ新米らしい。ドムの機動性に戸惑い、ロクな回避行動もとれぬままにスクラップへと変貌する。
 高機動性を誇るドム、そして腕に信頼のある者のみで構成された高速小隊。無傷ではないにせよ、これまでに3小隊分ものMSを撃破していた。

「馬鹿だな、素人を動員とは。さて、もうしばらく粘るか?」
「それもいいわね。けどユキギリ少尉、そうも言ってられないわよ?」

 そう思った矢先、同じパイロットのシズネ少尉から通信が入る。どうやら敵の部隊がそれなりの数でこちらへと向かってきているらしい。
 
「流石に焦ったみたいね。戦力差が違うもの」
「藪はつついた。戻るぞ」
「ふふっ、蛇ではなくて鬼が来てるわね。だったら、鬼さんこちらってとこかしら?」
「ならば、手も鳴らしてやるのが礼儀だ」

 浅く笑うシズネ少尉。他の機体にも合図を送り、すぐに撤退行動を開始させた。
 トウヤは殿に廻ると、バズと90mmマシンガンを後方へと撃ち鳴らす。同時、追われる小魚のようにその場を引いていく。
 果たして、敵は追撃をかけてきた。銃弾の雨を降らせ、意気軒昂と襲いかかってくる。このまま、数の有利で圧倒するつもりなのだろう。
 この場所での仕事は済んだ。では、次の行動は?

(如何に上手く逃げるか・・・。ザクならきついが、それでもドムならば!)

 重MSの本領発揮どころだ。多少の損傷ならば分厚い装甲で許容範囲。そしてそこにドムの回避性能も加えれば、容易くはなくとも、不可能ではない。
 トウヤ本人は気づいていないが、彼はこの困難な任務を半ば楽しんでいた。

「そう、それでいい・・・そのまま、こい!!」

 森に近い位置へと逃げた3機のドム。そこで最前列のドムが発光弾を打ち上げた。
 一閃。数秒の間を置き、そして世界が変わった。

 突如、連邦部隊の周囲が吹き飛ぶ。凄まじい量の弾幕が襲ったのだ。それが「それなり」の数ならばまだしも、その量が違い過ぎた。「桁違い」なのだ。
 連邦の部隊は、これによって完全に混乱、瞬く間に撃破されていく。
 配置された伏兵からの交差射撃。それも、遠距離からの一斉砲火である。

「少尉、ご苦労様です! しかし、これじゃ訓練射撃と変わらないですよ!!」
「ああ、だろうな。そして、仕上げも頼む」
「了解! しっかりと料理してやりますよ!!」
「碌に食えそうにないがな」
「この場合は褒め言葉と受けとっておきます!!」

 陽気な声が心地いい。通信先のトーマは実に軽快だ。
 それはトーマだけではない。伏せられていたMSや砲兵部隊、それらがこれまで退いてきた鬱憤を躊躇うことなく吐き出していた。
 トウヤが胸中で呟いた「如何に上手く逃げるか」。
 それは、敵を引き付け、かつ、やられずにそれを誘導できるかということである。おびき寄せと見抜かれずに逃げ、また撃墜されてもならない。困難な任務だ。

「遮二無二、がむしゃら、無鉄砲・・・馬鹿だな」

 戦場における自分のことなどどこ吹く風。目の前の敵に対し、そう評する。
 しかし、悲しいかな、全てその結果である。
 鋼鉄と光弾の中、何機かが逃亡を図ろうとする。個々のパーツが塵と飛んで雨とかし、あちらこちらで火花を放つそれ。
 しかし、逃げることは許されない。既に伏兵から包囲の輪が出来つつある。最早できることと言えば、降伏の旗を上げるぐらいであった。

「さて、上手くいったな。トーマ、次の準備に入るぞ。件の嫌がらせだ。既にいくつかは済んでいるのだろう?」
「はい、少尉。その辺は滞りなく行われております。しかしまあ、これ・・・かなり性格が悪いというか・・・」

 作戦計画書を見返すトーマ曹長。それを見て、さも嫌そうな顔になる。
 何とも底意地の悪いと思える。提案者は恐らく相当のサディストだろう。

「立つ鳥、後を濁さずって言葉がありませんでしたっけ?」
「俺たちは人間なんでな。泥臭く濁ってて丁度いいんだよ」

 今回、用いられた戦い方。一つは囮を用い、主力の伏兵たちのもとへ誘い出して包囲殲滅する戦術、「釣り野伏せ」。
 日本における、遥か彼方の戦国期にて用いられた島津軍のお得意戦法である。
 そして目標を狙うのではなく、予め設定された地点を狙い、練度を不要とする射撃法。こちらはナチスドイツに対し、人材不足のソ連が編み出した戦術である。

 そしてそれらを駆使しての目的は2点。ひとつは敵にこちらが圧倒的戦力を持っていると錯覚させること。これにより、慎重に動かざるをえなくさせる。
 その合間に地雷の設置と撤退。これも一工夫あり、初めに多くの地雷を設置、次に偽物を。更に、そこから本物と偽物を交互に入れ、敵の兵器ではなく、精神を削らせる。
 これもまた、大幅な時間のロスを余儀なくさせる技術だ。

 つまるところ、トウヤ達のしていることは心理戦を織り交ぜた遅滞戦術である。
 これには、東アジアの湾岸港地帯、そこから船でのアメリカへの脱出や、宇宙港からの宇宙への脱出が最大目的とされている。
 既にアジア情勢が変えられないことは、物量の差から考えて明白であった。


●白いMS
 トウヤ達が戦っていたころ、当然他いくつもの戦場が存在していた。
 シンガポール方面からの連邦海軍による湾岸都市の奪取や、マドラス連邦軍基地からの追撃など、枚挙にいとまがない。
 これは、そんな戦場の一角である。

 聳え立つ木々。その中で、ユキはかつてない敵と対峙していた。機体性能もさることながら、それを扱う実力が確かにある。

「白い新型MS・・・!? くっ、強い!!」

―――RX-79[G] 陸戦型ガンダム―――
 RX-78ガンダムの余剰パーツを用いて作られた機体。
 陸戦に特化し、その性能は量産型の一線を遥かに超えている。紛れもない連邦の特別機である。
 敵は単機でありながら既に2機のザクを撃破、そして残るのは自分のグフだけ。背中に嫌な汗がにじんでくる。
 
「でも! それでも私は、ちゃんと帰るんだから!!」

 機体を整備する友人の顔が浮かんだ。
 歯を食いしばって前を見る。既に性能差は明らかであり、引けばその瞬間にやられる。
 ならばどうする? どうすれば打開できる?
 その答えはただ一つ。この上なく単純な解答。やるしかない。

(大尉、トウヤ、力を貸して!!)

 機体を横に飛ばして距離を取ると、90mmと左腕の75mmを連射。端から大したダメージになるとは思っていないし、敵の強固な装甲は既に承知している。やるならば、急所でも狙うしかない。
 だがそれは、この相手には至難の業である。

「たかが豆鉄砲。そんな玩具如きでこのガンダムは墜ちぬ!!」

 100mmマシンガンの牽制と、そして型シールドを弾避けに、こちらへと襲いくるそれ。
 装甲と機動力、何より腕に自信のある者の戦法。しかし、ユキも強引に距離を取る。木々が邪魔をして機体に負担がかかるが、今は忘れた。
 そして何度か逃げると素早く屈み、交互に放たれる90mmと75mm。
 煩わしい! 繰り返されるそれに相手のパイロットはそう判断したのだろう。こちらと同じく機体の負荷を無視し、一直線に飛び込んでくる。
 だが、それこそが狙いだった。
 突如、ガンダムの足元が爆発。これによってバランスを崩した。
 クラッカー。所謂、手りゅう弾だが、今回は相手の足元を狙った。相手からは見えない、無警戒だった下からの奇襲である。
 銃を交互にしたのも、機体を屈ませていたのも、弾を温存して銃弾を避け、粘るためではない。相手の動きを単調にさせ、こちらの意図を読ませない。そのための準備。
 そして何より、反撃の為にである。

「墜ちなさい!! 白いの!!」

 全速で近づき、振り下ろされるヒートロッド。しかし、ここで誤算が生じた。相手のリカバリーの早さである。
 胸部バルカン砲が吠え、脚部から取り出されたビームサーベルが木々の合間を奔る。
 並のパイロットならば、混乱によってまずやられていた状況。それをこの敵は乗り越えたのだ。

「大尉・・・トウ・・・ヤ・・・」

 腕が斬り裂かれて、至る所に銃痕が生まれる。そして無残にも崩れ落ちるグフ。 朦朧とする意識の中で、ユキは克明に記憶した。それを、確かに記憶した。右肩に記された、3本の交差した剣を。


 モノアイが光彩を失い、完全に倒れたグフを見下ろし、ジャン・ジャック・ジョンソン大尉は機体の足を進めた。
 厄介な相手ではあったが、あれだけ痛めつけたのだ。恐らくは生きてはいまい。これ以上は構うだけ時間の無駄だ。

「貧弱な機体で良くやったと言うべきか。だが、これくらいの損傷ならば問題あるまい」

 賞賛の言葉を口にすると、機体の足を前へと進めるジョンソン大尉。既に先程の戦闘など、彼は忘れ去さっていた。
 次の戦場へ。次の次の戦場へ。私がやらなくてはならないことは、山ほどあるのだ。 


 
―――次回、ジャブロー強襲―――



●今回の大雑把な結果
・ジオン
宇宙等から脱出するも、それなりの数がゲリラとして取り残される。
アプサラスⅡ並び、ギニアス直属の試験部隊の活躍。

・連邦
事実上のアジア奪還


今回の選択機体:MS-09ドム MS-07B グフ
当時の選択可能なジオンの機体(ただし、物によって、階級、記章などの制限あり)
・MS‐06J
・MS‐06S
・MS‐07B グフ
・MS‐07B-3 グフカスタム
・MS‐07H-8 グフ飛行試験型
・MS‐09  ドム
・MS‐09F/TROP ドム・トローペン
・アッガイ
・ズゴック
・ドップ



物凄く遅くなりました。第6回でございます。
今回、事実上の痛み分けで、引き分けということだそうです。
天秤は動かず、ジオン有利(機体の生産や兵数等に関係)とのこと。

でもって、とうとうトウヤが機体を乗り換え。
流石にザクだときついです。機体能力に限界があり過ぎるよ・・・。

さて、戦闘は混迷を極め、既に幾つかが史実とは異なる展開を見せております。
果たして、この先はどうなるのか? 更なる変化か? それとも、ただ単に史実をなぞるのか。

稚拙な文章で申し訳ありませんが、もしよろしければお付き合いくださいませ(ぺこり)

※尚、この回の結果は「ゲームギャザ 2000:9月号 vol.13(HOBBY JAPAN)」に収録されたものとなります。

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