わたしの知り合いのなかに「尾瀬の寅さん」こと原坊というニックネームの知人がいます。
このところ他の友人と話をしていると、なにかとこの彼の最近の生き方がすばらしいという話題になります。
この寅さん、文字どおりフーテンの寅さんのモノマネを特技としているのですが、全国にたくさんいる「ニセ寅」のなかでも、彼ほど寅さんの風貌だけでなく、生き方まで似ている人物はいないのではないかと私たちは思っています。
彼がそこまで至るきっかけは寅さんのモノマネであったかもしれませんが、彼が寅さんを演じることで自然につながっていった人の輪と、そのつながりで彼自身が気づいていたひととのかかわり、
これがとてもすばらしいのです。
特定の団体に所属して行うボランティアなどとは異なり、彼が出会うひとりひとりの出逢いを通じて、まさに寅さん流にその輪が広がっていくのです。
このことは、私のみた印象よりも、
寅さんのブログ(尾瀬の寅さん)
を是非みていただきたいのですが、
その旅先での出会いの足取りをみると、まさにそれは北は北海道から南は九州まで、フーテンの寅顔負けの旅を続けている姿がわかります。
なぜ、彼はそのように日本中を旅することができるのか。
そこには、現代の寅さんが実際になりたつだけの理由があるのです。
彼は、定職を持っていません。
このことが、様々な厳しい現実を彼につきつけてくることがあります。
「定職をもたないようなものに、うちの娘を嫁にやるわけにはいかん!」
とかね。
きっと他にも彼が口にはださない、つらいことはいろいろあることも想像されます。
でも、彼は生活にはそれほど困っていません。
なぜなら彼には、お金が必要になったら、とりあえず必要なだけ稼いでくる仕事のつてはあるのです。
もとは彼の家の家業からはじまっていることと思われますが、建設作業などの現場仕事でそれなりの経験を持っているので、各地からただの作業員としてではなく、現場を仕切れる貴重な人材として仕事の依頼がくるのです。
そうした仕事で、もし彼がその気になって働けば、時に1年間暮らしていけるくらいのお金は十分稼ぐことが出来るらしいのです。
しばらくブログの更新がなくて大人しいなと思ったら、千葉あたりの現場でしっかり稼いでいたりするのです。
はじめ彼に出会ったころは、わたしは特別問題がるわけではないので、彼も早く定職をもったほうが良いのではないかと思っていました。
ところが、彼が全国を旅しながら、すばらしいボランティア活動などをしている姿を見ると、この全国を旅してまわる自由な時間は、定職についてしまったらとてもすることはできない。今のかたちでこそ可能な生活であることを知りました。
本来、わたしたちの発想であれば、個人で会社を設立して、寅さんの個人事業としてそれらすべての活動を行ったほうが、社会的信用も税制上もずっと有利になるので、それをすすめたいところですが、そこはあくまでも彼は「フーテンの寅」。
それをやっちまったらおしめぇ~よ。
個人では太刀打ちしがたい厳しい現実あふれるこの日本のなかですが、こうやったらビジネスはずっとうまくいくなどというノウハウとはまったく縁のない領域で、彼には是非生き抜いてもらいたいのです。
映画のなかで、寅さんの恩師である散歩先生は、非人間的エリートを糾弾している次のようなくだりがあります。
「お前のような馬鹿はいくらしかってもしかり足りん。
・・・ただ、しかしだ、
俺が我慢ならんことは、お前なんかよりも少しばかり頭が良いばかりに、お前なんかの何倍もの悪いことをしている奴がウジャウジャいることだ・・・・
こいつは許せん、実に許せん馬鹿共だ、寅。」
現実の寅さんは、映画のキャラよりもずっと、おだやかな容貌でありながらものごとの本質は見抜く力のある頭のキレる人なのですが、そんな面は見せずに寅さんのキャラを日頃からずっと演じてくれています。
そんな彼を、わたしたち友人は、いつも応援してやりたいと思っているのですが、
かといって、経済的に自立する力のある彼に援助できることとはなにがあるでしょうか。
このように、ブログなどで彼のすばらしさをどんどん宣伝することくらいしかできません。
でもそれだけでは、せっかくの彼の魅力が、一見不安定な彼の生活を自信にまでたかめるにはちょっと足りない気がします。
そこで思いついたことがひとつあります。
寅さんが、旅先ですばらしい女性に出会ったり、
恋したり、案の定ふられたりするたびに、
これぞ寅さん!と
映画のマドンナの名前をとって
リリイ賞とか歴代マドンナの勲章を与えてやってはどうでしょうか。
失恋の回数を重ねることこそ、
君の勲章であるのだと(笑)
他の彼のあるファンは、
「寅さんを結婚させない会」などという大胆な意見も出していました。
といって歴代のマドンナもリリイ以外の役名はまったく思い出せないので、
人気順に吉永小百合賞、浅丘ルリ子賞、十朱幸代賞、太地喜和子賞、竹下景子賞、八千草薫賞、栗原小巻賞、松坂慶子賞、大原麗子賞と順番をつけておいて、
失恋の回数を重ねるたびに吉永小百合に近づいていけるというのは、どうでしょうか。
これなら、やる気(?)も起きる?
てなわけで、
みなさん、是非、寅さんのマドンナ勲章に参加、ご支援ください。
あとで書く機会もあるかと思いますが、わたしがこうした応援をしたいもうひとつの理由として、現代の「賃労働」という働き方は今世紀になって急速に普及した特殊なと労働形態であるということを、これから様々なテーマで考えていきたいと思っているからでもあります。
人生80年の時代、週休二日制の8時間労働で、20代から60代まで働いたら終わりというのは、自然と社会の生命の再生産の原則の合致しにくいのではないかと思うのです。
今の賃労働を軸に考えると働き方の幅は限られてしまいますが、本来、ひとりの人間が個人として社会の役にたって生涯働いていける姿というのは、もっと多様なスタイルが可能であるべきで、むしろ本来の生活者という視点にたつと、特定の能力だけを売るような賃労働というのは、社会の基本システムとしてはむしろ無理が多いとすら考えているからです。
そんなことも含めて、私にとって寅さんの生き方は、
尊敬すべき貴重な存在であるので、なんとか応援したいと思わずにはいられないのです。