2024年5月の連休明けに、2泊3日の日程で能登の被災地へ行くことができました。
ちょうどかねてから珠洲市と深い交流のあったロサンゼルスの友人が、仲間を集める機会をつくってくれたので、そこに合流させてもらうことにしました。
車に宿泊用のキャンプ道具一式と水だけを大量に積み込み、前回は海岸線選んで能登を走ったので、今回はできる限り内陸のルートを選んで珠洲市を目指しました。
すると、七尾市をすぎて能登半島の半ばあたりまでは、それほど酷い災害の現場は見ることなく、どこまでも美しい風景に見惚れながらドライブを楽しむことができました。
その風景は、ちょっと福島県の阿武隈山系の雰囲気に似た高い山のない丘陵地隊の合間に点在する田園風景で、ちょうど田植えのシーズンということもあり、実に穏やかに感じられる農村風景がどこまでも続いていました。
とりわけ感心させられたのは、どんな山奥に迷い込んでも住宅の屋根がほとんど黒瓦で統一されており、それが他所ではまず見ることのできない景観の統一感をなしていることでした。
てっきり私は地域で景観条例でもつくられて守られた姿なのかと思いましたが、地元の人に聞いたら、ここでは瓦と言えば黒いものだと昔から思っているだけで、他の選択肢はないからこうなっているだけなのだと聞きました。
それが、穴水町が近くなるあたりから、のと里山海道、能登自動車道などの高速を利用したこともあり、急に激しく崩れた道路を修復する箇所が次々と現れ、工事車両も慌ただしく走る姿を見るようになりました。
車のナビが古いので思わぬ山道に迷い込んだりしましたが、意外とそうした細い山道よりも山を切り開いてつくられた高速道路の方が激しく崩落したり地割れした場所が多数見られます。
それでも周辺の景色は、どこまでも美しい。
能登半島のこの穏やかな景色の奥行の深さ、これは日本列島の中でもそうあるものではないとつくづく感じました。
それらの印象が一変したのは、珠洲市に入ってからのことです。
珠洲市に到着したのは夕方。その日の宿泊予定の山小屋から晩飯の食材買出しの指令を受け、珠洲市内でスーパーを探して海側の裏道に入った途端に、被災から5ヶ月も経っているのにどうしてこんな姿なのかと驚くような、未だに手付かずの崩壊した家屋が次々と現れました。倒壊した家屋が、道路の半分を塞いだままのところろもあります。
そして、何よりも異様に感じたのは、高速道路では修復の工事車両が多数見られたのに比べると、この市街地の倒壊家屋はどこも、震災・津波のあった1月1日直後の姿とほとんど変わっていない状態があまりに多く見えたのに加えて、工事車両もほとんど見られない妙に静まり返った姿であることです。
この静けさは、一体なんなのだろうか。
東日本大震災後の東北の復興の姿とは、なにかずいぶん違うように思えてなりません。
その理由は、二日目に宿泊したシェアハウスのオーナーさんから聞いて知ることができました。
珠洲市の人口は、ピーク時には3万8千人くらいあったそうですが、今回の震災にあう前の段階で、1万数千人にまで激減していたそうです。
全国どこの自治体でも、人口減少問題は共通のことですが、ここの減少スピードは並のものではありません。
その結果、1万人くらいまで減ってしまった地域に、1万戸ほどの住宅があるのが珠洲市の実態だというのです。
こうした住宅の数に対する世帯数は、5,490世帯
つまり、放置された倒壊家屋の多くは、震災前の時点で住人のいない空き家が圧倒的に多かったということです。
地元の落合聖子さんがまとめた数字(「能登半島地震と原発」『創 2024年7月号』)によると、
珠洲市 現人口 1万1910人(本州で2番目に小さい市)
全壊家屋 5329戸
大・中規模半壊(事実上の取り壊し)1534戸
半壊(治せても簡単ではない)2281戸
準半壊・一部損壊(なんとか治せる)6031戸
世帯数5,490戸に対する被害家屋数の多さが異常です。もちろん、世帯数と家屋数が同じではないにしても、被害家屋数の合計が世帯数を大幅に上回っていることが際立っています。
日本中どこにでもあるような人口減少の姿は、この能登で復興がなかなか進まない現実の最も深い要因であると感じました。それと同時に、今の珠洲市や輪島市の姿が、この度の災害はあくまでも弱者を襲ったきっかけであって、そこで起きている現実は、日本中どこにでも起こりうる姿であることを確信しました。
そのような現実下では、上からのどのような復興計画が下りてきても、住民にはなかなか響かないものです。
もちろん、被災直後のインフラ復旧対策は緊急の対応が無条件に求められており、それらがまったく追いついていないことは別問題です。予算措置もボランティアの絶対数不足も早急に解決しなければならないことは言うまでもありません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます