2007年3月に惜しくも亡くなった作家の城山三郎さん。(享年79歳)。その城山さんが書いた「落日燃ゆ」(1974年刊、毎日出版文化賞、吉川英治文学賞)は昭和の激動期を「自ら計らわず生きた」悲劇の宰相広田弘毅の生涯を描いた傑作だった。読後、とても感銘を受けたことをよく覚えている。
「嬉しうて、そして・・・」(2007年8月18日、文芸春秋社刊)はその城山さんの足跡を克明にたどった最新の遺稿集である。
いろんな雑誌に掲載されたコラム風の感想を一つにまとめたもので本書の構成は次のとおり。
Ⅰ 私の履歴書
Ⅱ 政治とは
Ⅲ 経営とは
Ⅳ 人間とは
あとがき(井上紀子)⇔城山氏の次女
年譜
初出一覧
感心したのは「あとがき」(295頁~301頁)での井上紀子さんの筆致で、さすがに作家の娘さんである。城山さんが亡くなる直前の姿を通じて見事なまでにその人となりを表現しており、この数頁だけでこの本を読む価値ありと思わせてくれた。
「人に対する尽きることのない好奇心」「読者を僕の宝と称していたこと」「昔から、これが好きでねえ、何度も読んでいるんだよと持ってきたのが”ダブリン市民”(ジェームス・ジョイス)」など、興味は尽きない。
年譜(302~314頁)がまた実に詳しい。城山三郎とはペンネームで本名は杉浦英一。小学校の時から優等生で作文が得意だったこと。膨大な著作の中で創作活動のピークは40代~50代だったことがよく伺われる。
最後に、城山さんはいい言葉に出会うとメモをとったそうで、Ⅳ「人間とは」(201頁~207頁)の中からそのいくつかを紹介。
「担雪埋井」(たんせつまいせい)
人の努力というものは、井戸の中へ雪を放り込んで埋めるようなものだ。そんなものをいくら運んでも溶けてしまって、井戸はちっとも埋まりません。人生というのはそういう姿をしたものです。
「和気、勇気、根気」
サラリーマンの心得は、みんなと仲良くして、勇気をもってことにあたり、しかも根気が必要。やはり最後は根気です。夏目漱石の有名な言葉があります。「人は才能の前には頭を下げないが、根気の前には頭を下げる」。
※この漱石の言葉は、自分も好きでよく覚えている。新人作家に激励の手紙を送った中の1節で、この新人作家が誰だったか今となってははっきり憶い出せない。たしか、芥川龍之介だったと思うのだが・・・。
「三風五雨」
人生を10としたら、3日は風が吹いて、5日は雨、晴れの日はせいぜい2日ぐらい。人生なんてのは風が吹き荒れて当たり前、雨が降って当然、そう思っていれば辛い辛いと嘆くことはない。いいことばかりではない、それが人生というものです。