「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「余命わずか」の宣告

2013年03月12日 | オーディオ談義

「余命わずか」の宣告といっても、自分の命ではなくて真空管の寿命の話である。

中には「よし、こいつは余命わずかなのか。しめしめ、これで目の上の”たんこぶ”が無くなるぞ~」と、喜んだ方がいるかもしれない(笑)。

昨年の7月に奈良のMさんから整備(電解コンデンサーなどの交換)していただいた真空管アンプ「WE300Bシングル」(モノ×2台)だが、その時に「片方のWE300B真空管がもう寿命のようです。「ゲッター」も非常に薄くなっています。余命わずかといったところでしょう。」との無情な宣告をいただいた。

 「ゲッター」というのは真空管内のガラス面に張り付いている鏡面状の灰銀色をしたもので、その働きはガス分子と反応・結合して壁面に吸着させ、空間から除去するものでガス分子をゲット(捕獲)するという働きから出た言葉。これが薄くなったり白くなったりすると管内の真空度が保てなくなるので寿命となる。

                            

お金のことを持ち出すのはけっして本意ではないが、ショックの大きさを知っていただくためにあえて記載すると、いまから50年以上も前に製造されたWE300B(オールド)は、今では1本でたしか10万円以上するはず。痛いッ、懐が!

また、それ以上に大困りなのが程度のいいものが非常に手に入りにくいこと。

オークションという手もあるが写真からではとても程度の判断が難しいので、こういう貴重な真空管ばかりは見ず知らずの方から求めるのはまさに「蛮勇」という言葉がふさわしいだろう。

それなりの信頼のおけるルートを通じて購入するのがベストだが、そのルートといっても生身の人間が介在しているわけで、日頃あまりお付き合いがないのに困ったときだけ三拝九拝するのもちょっとカッコ悪い。

たかがオーディオのために大切なプライドまで捨てていいのか!(笑)。

もちろんWE300Bの類似品として、中国製をはじめ沢山の安価な近代管が出回っているもののすべて聴いたわけではないが、手持ちの種類の違う2ぺアでは明らかに「艶めいた響き」の面でどうしても不満が出てくる。やはりオリジナルにはそれだけの値打ちがあるのはたしかである。

そういうわけで、いろいろ考えだすと気が重くなるので、出来るだけ日頃から思考の範囲外に置くようにしているが、先日、心臓がドキッとするようなことが起こったのでその経緯を記してみよう。

前述したように昨年の8月以降、「余命わずか」を常に念頭に置きつつ毎日愛用しながら、早いものでおよそ8か月が経過した。

改めて、長寿命との定評があるこの真空管の驚異の粘り腰に感心しながら、おそらくMさんからアンプの整備時に真空管に負担をかけないように適正なプレート電圧の設定などの見直しをきちんとしていただいた効果なのだろうと感謝していたものの、事件は先週の3月7日(木)に起こった。

午前中、運動ジムに出かけるまでに時間に余裕があったので音楽でも聴いていこうかとスイッチを入れた途端に、右チャンネルのスピーカーからガサゴソと大きめの雑音が出てきた。

「何じゃこりゃ?」

真っ先に浮かんだのは「ついに寿命が来たか!」という絶望感。右チャンネルの300Bは、丁度「余命わずか」と指摘された方の該当物件である。しかし、まあ、ここは冷静に、冷静に。

念のためこの300Bを左チャンネルと入れ替えてみると、やはり右チャンネルから同じように雑音がする。ということは、出力管の故障ではなかった。ああ、良かったあ!高価な300Bのご臨終に立ち会わなくて済んだのでまずはひと安心。

次の疑いは「AXIOM80」ユニットの故障。「繊細さが売り」だが壊れやすいことでも定評があり、低音域への過大入力は細心の注意を払っているので”まさか”。

そこで、こういうときのために今年の正月早々「300円」で購入したSPユニットの出番である。

             

SPコードを繋ぎかえて試聴してみると、やはりこのSPからも雑音がするので「AXIOM80」の故障ではないことが分かって、これで二つ目のひと安心。

結局、犯人はアンプの初段管の「12AT7」だった。ミニチュア管で銘柄は「シーメンス」。ドイツ屈指の総合電機メーカーである。ちなみに、大学の工学部機械科を卒業した甥っ子によると工作機械を作る工作機械(マザーマシン)の工作精度ではいまだにドイツ製が幅を利かしているという。

この「12AT7」は長期間使用した覚えもないし、ドイツ製の真空管は丈夫という先入感があったので盲点を突かれた印象だが、やれやれ、一番安上りの故障で済んだのはまったく僥倖だった。

それにしても不測の事態が起きたときにいつも最悪のケースから順番に考えるクセがついた人間は、あまり心臓によろしくないのでおそらく長生きは無理だろうて(笑)。


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