☆ 日本人のジョーク
欧米人に比べて日本人はジョークが下手とはよく聞く話。別に下手でも悪くはないが、常にジョークを飛ばすほどの「心のゆとり」を持つことが大切で、英国では「ジョークは紳士のたしなみ」とされているほどだ。
とはいえ、自分だってジョークは苦手だし、そもそも「お笑い番組」の類は性に合わずいっさい観ないので偉そうなことは言えない(笑)。
そういう中、実にうまいジョークに出会ったので紹介してみよう。
昨年(2016)のノーベル賞受賞者「大隅教授」が母校「福岡高校」に凱旋され、「創立百周年記念式典」における講演後の祝賀会で同窓会長による「開会の辞」がこれ。
「大隅先生も朝早くからお疲れでしょう。先生がノーベル賞を受賞されるきっかけとなった酵母がいっぱいに入ったビールで早う乾杯しとうございますので手短に終わります。」(福中・福高同窓会「朝ぼらけ」通信より)
ちなみに、講演後に在校生による「質疑応答」の中で、「心のゆとり」に関しての質問があった。
質問「先生が研究を続ける中で、くじけそうになったり、諦めたくなったりしたときに、どのようにして立ち直りましたか。」
回答「研究はほとんどが失敗で、思い通りにいかないことの連続です。実験と失敗の蓄積の上に次の一手を考えている日々です。
成功への期待を高めすぎず、失敗の連続で何をやったらいいのか分からなくなることすらも楽しめる心の余裕を持てるといいな、と思いながら私は乗り越えてきたと思っています。
高校で習うことには必ず答えがありますが、皆さんがこの先チャレンジすることには解答がありません。世の中のほとんどの事には正解が少ないことを知って、自分が正解を見つけ出そうという精神で世界を見てほしいと思います。」
☆ ミステリー「湖の男」
このところとみに集中力が落ちてきて大好きなミステリーでも一気呵成に読むのに一苦労するようになったが、久しぶりに読みごたえのある本に出会い、睡眠不足になってしまった。
ネットにあったどなたかの書評を引用させていただこう。
「アイスランドの湖でロシア製の盗聴器がくくり付けられた白骨が見つかることから事件は始まる。捜査に当たるエーレンデュル達の話と並行して、ある男の回想が語られていく。
戦後、アイスランドから自らの信条に燃えて東独ライプツィヒへ留学した若者たちの共産主義への夢と挫折、絶望の物語である。
このパートが心に残る。白骨の人物を待ち続けた女性の発した「人はいつ待つのをやめるのかしら」の一言にエーレンデュルが共感したように、この物語はいなくなってしまった人を悼む思いが重低音の様にあって深い味わいを残していると思う。」
以上のとおりだが、作家も舞台も「アイスランド」なので日照時間が少なくてとても寒冷なお国柄のせいか、全編を通して暗くて陰鬱なムードが通奏低音のように流れており、謎解きの面白さよりも殺人の動機やそれに至っていく過程が個々の人生の襞をえぐるように展開されていくのが本書のポイント。
時代設定は第二次世界大戦直後の東西冷戦の接点だったアイスランドにおいてスパイが暗躍し軍事情報の収集にしのぎをけずっていた頃のお話。
警察の捜査の過程と同時並行で犯人と被害者の双方の過去が次第にあぶりだされていき、世間知らずの若者たちが共産主義思想に翻弄され、相互監視、密告と裏切りの中で離反していく様子が克明に描かれていく。
善人像と悪人像が微妙に交錯し、すんなり勧善懲悪とはいかないので読み終えても何だか割り切れず、読後感がずっと尾を引くがそれがむしろいいところなのだろう。たぐいまれな心理描写と言っていい。
これに限らず全般的に北欧のミステリーを読んでいるといつも感じるのだが、すべての登場人物が一癖も二癖もあり、屈折した心理状態のもとで単純には割り切れない人間関係の構築がベースになっている。
これに、捜査側の親子や夫婦の断絶、ドラッグなどの介在、そして奔放な性風俗などが絡んでくるのだから、いささか〝どぎつい”。
つくづく、温暖な気候のもと、穏やかな人情に満ち溢れた日本に生まれてよかったと思う今日この頃(笑)。