「柚月裕子」(ゆずき ゆうこ)さんの本ってどうしてこんなに面白いんだろうというのが読書後の率直な感想である。
登場人物の心理描写が優れていてリアリティがあり、ぐいぐいと読者を引っ張るストーリーの展開力もあって、これが女流作家の作品とはちょっと信じ難い。
傑作「盤上の向日葵」を、しばしオーディオを忘れて一気に読み耽ってしまった(笑)。
ストーリーの概略を紹介しよう。ミステリーなのでもし読む気になった方は事前知識が入らない方がいいかもしれない。
「諏訪で父親にひどい虐待を受けて育った上条桂介。可哀そうに母親は精神に異常をきたして早死にしてしまう。なぜ異常をきたしたのか、後半で次第に明らかにされていくが、これが本書の核心部分となる。
しかし、頭が良く、将棋に天賦の才があった桂介はふとした出会いから近所に住む親切な元教師で将棋好きの唐沢に徹底的に鍛えられる。
子供のいない唐沢は桂介を我が子のように可愛がり養子になってくれることを望むが桂介はかたくなに断る。
東大に入った桂介は、社会に出て起業し大儲けするとアッサリ引退して将棋のプロを目指す。
そこで賭け将棋しかしない東明という勝負師と運命的な出会いをする。その後東明は山中で刺し傷がある死体で発見される。時価数百万円もする名駒[菊水月]を抱いて。
名駒を手掛かりに事件の真相を解明しようとする刑事二人と桂介の心理とが交互に描かれていき、その接点が交差したときに桂介の悲惨な出生の秘密が暴かれる。
この刑事二人の人物像が素晴らしい。片や上司の言うことを聞かない腕利きの一匹狼の無頼派、片や将棋のプロを目指すも挫折して刑事になった若者の間の心理的葛藤も興味深い。
生まれてくる子は親を選べないという現実のもとに、結末が何とも物悲しいが、将棋を知らなくてもこの作品は十分堪能できる。」
ちなみに、本書は「2018年第15回本屋大賞第2位」です。芥川賞や直木賞と違って読者の側に寄り添ってくれる「本屋大賞」ですから面白さにかけては「お墨付き」です。
ミステリーファンの方には機会があればぜひご一読をお薦めしたいところですね。