「読書」は「音楽&オーディオ」と並んで、ずっと続いている趣味。たっぷりとした時間をいいことにミステリーを中心にジャンルを問わず手当たり次第に読みまくっている。
ただし(本を)購入すると、置き場所に困るのでもっぱら図書館通い。もちろん、お金もないことだし~。
現在、県立図書館をはじめ周辺の3つの公立図書館から貸出限度いっぱいの5冊づつ借りているが、貸出期限が2週間となっているので1か月にするとおよそ40冊ほど読んでいる勘定になるが、そのうち5冊も当たればいい方。
行き当たりばったりでは気に入った本に出会う確率が低いので、新聞の新刊書紹介欄や新潮社、講談社、角川書店の書評誌(月刊)には必ず目を通して興味を持った本の表題をこまめにメモしてから(図書館に)出かけているがそれでも好みに合った本にはなかなか巡り会えない。
やはり人間は生まれも育ちも違うので好みは千差万別、プロの書評家が推薦するものでもめったに一致しないのが残念。この辺は音楽や音質の好みが各人でそれぞれ違うのとよく似ている。
いずれの本も初めから5分の1程度までは我慢して読むものの、フィーリングに合わないと思ったらすぐに見切りをつけて放り出すことにしている。面白くもない本を読み続けるほど退屈かつ時間が無駄なものはない。
ただし、江戸川乱歩賞受賞作品に限ってはこれまでの経験上、まず外れたことがないから感心する。
これまでの受賞作品の9割がたは読んでいると思うがいずれも水準を突き抜けた作品ばかりなので、図書館で未読の本を借りられたときは胸を弾ませて帰宅するなり真っ先に読んでいる。
「江戸川乱歩賞」(賞金1千万円)とはご承知のとおり新人推理作家の登竜門として1954年に創設されたもので5名の推理作家(審査員)によって厳しい審査が行われ、毎年1~2作が選定されている。
本年で57回目を迎えており、「東野 圭吾」氏をはじめ「池井戸 潤」氏など歴代の多くの受賞者たちがこの受賞を踏み台にして現在でも大活躍しており、日本のミステリー界に与えた影響は計り知れない。
第52回(平成18年)江戸川乱歩賞受賞作の「東京ダモイ」もその例にもれず実に面白かった。”寝食を忘れるほど”という形容を使っても過言ではないほど一気に読ませてもらった。
著者は「鏑木 蓮」(かぶらぎ れん)氏。「ダモイ」とはロシア語で「帰郷」という意味。
内容は戦後すぐのシベリア抑留兵の実態を描きつつ、強制収容所内で発生した不可解な殺人(電光一閃による斬首)の謎を60年後の現代から解き明かそうという壮大な構想。
これでもかと展開される俘虜収容所での人間の矜持の限界が試されるシーン(筆致)が秀逸。
シベリア抑留から戻って戦後の財界で活躍された方に「瀬島隆三」さん(1911~2007)がおられ、「不毛地帯」(山崎豊子著)の主人公のモデルとしても有名だが、陸大を首席で卒業したほどの逸材で、伊藤忠商事の会長をはじめ政府の要職を務められたものの、シベリア抑留時代については非常に口が重かったという。さすがに今さら思い出したくもない記憶に満ちているのだろう。
著者によると厳寒のシベリアで劣悪な栄養状態のもと強制労働させられた捕虜たちは60万人(うち死亡者は6万人)にも上るという。原爆被害にも匹敵するようなシベリア抑留問題を風化させてはならないという著者の意気込みが全編から伝わってくるのが何よりも印象に残る。
「まだ多くの抑留者が、人知れず冷たい地中に残されている。」という一文で本書は結ばれているが、ミステリーでもこうした骨太いテーマが全編を貫いていると、ズッシリとした重量感が伝わってきて読後もずっと尾を引いていく。
肝心の謎解きについては収容所内で作られた捕虜たちの「俳句」の意味が解き明かされることにより、ようやく真犯人と殺人の動機が白日の下にさらされるが、マイナス47度の厳寒の中で使用された凶器の意外性もなかなかのもの。
もちろんデヴュー作ともいえる長編なので60年の恩讐への緊迫感が今一つ伝わってこない点などやや気になるところがあるものの、まだ未読の方がおられたらぜひお薦めしたい本である。