先日のブログ(4月24日)で、オッテルロー指揮の「アルルの女」をオークションで苦労して競り落としたことを披露させてもらったが、そのときに、ケーゲル指揮の「アルルの女」もスゴク評判がいいが既に廃盤で手に入り難いことを書いておいた。
厳密に言えば廃盤ではなくて供給が途絶えているため手に入らないのが実状。自分の場合HMVに注文したところ1ヶ月以上待たされた挙句、入手不可能とのことで予約を取り消されてしまった。(つい最近の4月の話)。
いずれにしても、そのケーゲル指揮の「アルルの女」がこれまた偶然にもオークションにかけられているのが分かった。教えてくれたのは仲間のMさん。
どれどれと、オークションの該当頁を開けてみた。
開始期日:4月19日、終了日時:4月26日、出品地域:三重県、開始価格:800円で現在の入札者1名、入札価格800円ということで何てことはない極めて平穏無事なスタートぶり。
「フッ、フッ、フ、これもいただき」と思わずにっこり。さっそく、終了日時の2日前の24日に問答無用とズバリ最高限度額5100円を設定していきなり勝負!しばらくして入札価格が840円と表示された。
翌日の25日も入札状況を見たところ入札者2人の840円のままで、どうやらこのまま推移しそうな雰囲気。
オークション終了日の26日(土)は、昼間運動しすぎてクタクタになり終了時刻の19時55分をまたず、すっかり安心しきって就寝。
翌日、午前4時ごろにゴソゴソと起きだしてさっそくメールを開いたところオークション落札の通知がきていた。さて、いくらで落ちたかしらんと見てみると何と価格が3130円にはね上がり、入札者は13名にも及んでいた。
みんな、この名盤の存在をよく知っていてひそかに狙っていたのだ!
落札当日までそ知らぬ顔をして「知らぬ顔の半兵衛」をきめこみ、終了直前にいっせいに勝負をかけてきたものとみえる。オークションにもいろんな駆け引きがあるもの。
まあ、とりあえず落札できてよかった。これで、オッテルローとケーゲルというほとんど入手不可能の名盤を相次いで手に入れることが出来た。ラッキー!
とにかく、あまり有名ではない指揮者の名盤を手に入れるには、今のところこれ以外に方法がない。
さて、このケーゲル指揮の「アルルの女」がどのくらいスゴイ名盤なのか専門家のご意見を紹介してみよう。
「クラシックは死なない」~あなたの知らない名盤~(2003年刊、青弓社)
本書は著者がCD店の店主として非常な音楽好きで朝から晩まで聴く中で1ヶ月に1~2枚これはと思う盤があるそうで、これらの盤をまとめて紹介した本である。
ざっと、ひととおり目を通したが音楽評論家や音楽専門誌とちがって業界や演奏家としがらみのなさそうな評価なのでおおむね信頼してよさそうな内容。
ケーゲル指揮の「アルルの女」については非常に熱気ある筆致(25頁~26頁)のもとに次のように書いてある。
1 このアルバムはCD店の店主となってから入手可能かどうかの問い合わせがもっとも多かったもの。
2 現在のケーゲル伝説をつくりあげた名演中の名演。聴くものを美と狂気の世界に引きずり込む恐るべき音楽
3 「クラシック名盤&裏名盤ガイド」にはこうある。
「冷え冷えとした透明感が南フランスの太陽を奪い、追い詰められた精神的不安から狂乱に至る主人公フレデリの悲劇を心憎いほど暗示する。続くメヌエットとパストラールの弦のグリッサンドには怨念が渦巻き、アダージョはマーラーのように長い美しすぎる演奏で、怖い」
4 今日のケーゲル人気の土台を築いた許光俊氏は「名指揮者120人のコレを聴け!」でこう書いている。
「弦や木管の奏でる旋律はもはやこの世の音楽とは思えない淡々とした風情、舞曲はブルックナー9番のスケルツォみたいに抽象的であり、遅い部分はマーラーのようだ。私はこんなにゾッとするような音楽をほかに知らない」、「アルルがこんなにうつろに、こんなに透明に、こんなに感覚的な刺激抜きで、こんなに裸型の精神のように響いたことはなかった」、「大芸術家が死の前に達した恐るべき境地としかいいようがない」。
そして最後にひと言。「忠告めくが、ケーゲル晩年の音楽を決して気分が落ち込んだり、失恋したりしたときに聴いてはならない。命の保障は出来かねる」
筆者註:以前にも述べたとおり、ケーゲルは旧東ドイツの熱心な社会主義者だったが「ベルリンの壁」崩壊後、ピストル自殺を遂げた。
いやはや、ちょっとオーバー気味だがさまざまな伝説に彩られた名盤である。
さて、落札したCD盤(輸入盤)が自宅に到着したのは、30日(水)の午後。このブログに間に合ってよかった。ぎりぎり滑り込みセーフ!
早速、試聴してみた。
☆ ビゼー作曲「アルルの女」第一組曲(19分)、第二組曲(18分)
指揮:ヘルベルト・ケーゲル(1920~1990)演奏:ドレスデン・フィルハーモニー
録音:1986年
やはり、これは聞きしにまさる名演だった。
歯切れのよい弦合奏とサキソフォンなどの管楽器のゆったりとした調べが、悲劇性を帯びた物語の展開と南フランスの牧歌的な雰囲気をうまく対比させている。
オッテルロー指揮の演奏に比べると、良し悪しは別として情感の表現の起伏が激しい印象。それも第一組曲よりも第二組曲の方が顕著に現れる。どうしようもなく暗く、しかもなんと切なくて淋しいこと・・・・。
この物語は主人公の飛び降り自殺でジ・エンドだが、このケーゲルの演奏では失恋自殺よりも世をはかなんでの厭世自殺みたいな感じで気が滅入ってくる。それほど演奏に感情がこもっている。
主人公フレデリの嫉妬に狂った情熱の熱気も欲しいところだが、この演奏は「アルルの女」の一つの解釈として十分成り立つというイヤでも納得させられる説得力を秘めている。
結局「ケーゲルの演奏を聴かずして”アルルの女”を語ることなかれ!」というのが自分の至った結論。
ケーゲル(アルルの女)