社会人は3月20日(木曜:春分の日)からうまく利用すれば四連休になるが、丁度その辺は仕事が忙しくて休みが取れないとのことで、1週間前倒しして娘が大阪から帰省してきた。
一番喜ぶのは入院中の91歳になる母だが、自分にとっても家の中の空気が若干華やぐようでやはりたまにはいいと思う。
今回は娘が一緒に持ち帰った本2冊についての話。
1冊目は「人間は仕事で磨かれる」(2008.2.10、丹羽宇一郎著、文春文庫刊)。
2005年2月に単行本が出版され大反響を呼んだ本で、このたび装いも新たに文庫本になってつい最近出版されたもの。
現役時代、安易な流れに身を任せがちだった自分には実に耳が痛くなる表題。しかし、これはまさしく「正論だな~」と反省の気持ちをこめて今の自分なら気楽かつ客観的に言える(笑)。
著者の丹羽宇一朗さんはかなり前から注目している人物で、自分が知る限りでは現代の経営者(OBも含めて)の中では最高の資質を持った方だろうと勝手に思い込んでいる。
伊藤忠商事(株)の社長、会長(現任)を歴任されたが、経営手腕もさることながらまったく私利私欲のない方(と思うが)で、社長を辞めればどうせ「ただのおじさん」なのだからと在任中から地下鉄通勤、愛車はずっとカローラだという。
ひとつの些細な局面だろうが、一事が万事で一流企業の社長にとってこういうことはなかなかできない。よほど修練を積まれた方なのだろう。第二臨調(臨時行政調査会)時代の土光敏夫さんを髣髴(ほうふつ)とさせる人物だ。
書いてある内容もいい。通常こういう本は自慢話めいて嫌気がさすものだが一切感じられない、本心から出たものを装飾せずに素直に書いてあるからだろう。
先日のBSデジタルで日経がスポンサーになっている番組「カンブリア宮殿」(3月6日BSジャパン)でもゲストとして出演され自分の哲学を堂々と披瀝されていた。たまたまHDDに録画していたが古武士然とした風貌としゃべり方にますます魅せられた。
現在、政府の「経済財政諮問会議」の委員をされているが、こういう人が先頭に立って旗を振ってくれると日本ももっと良くなるのだが・・・。今の政治家たちは丹羽さんに見習うことが沢山あるはず。
とにかく娘が企業人としてこういう本を自発的に読んで「仕事と真剣勝負」をして磨かれるのは大変望ましいこと。どうやらダメオヤジの背中を見て育ったのでいい反面教師になったらしい。
続いて2冊目は「東大で教えた社会人学」(2008.2.10、草間俊介、畑村洋太郎、文春文庫刊)。
本書は東大工学部機械系学科で実際に行われた講座をまとめたもので、人が実社会の中で生きていくために必要な基礎知識を講義形式でまとめたいわゆる「社会人学」のテキストブック。
その背景には技術者が社会に出たときに自分の専門領域(生産、研究開発など)にとらわれる傾向があるので、社会の全体像を捉える視点、たとえば人の動き、組織の動き、経済の動きなどを把握する人材の育成ひいては(技術系でも)社長になれる人材の育成を主眼としている。
構成は次のとおり。
第一章 働くことの意味と就職
第二章 会社というもの
第三章 サラリーマンとして生きる
第四章 転職と起業
第五章 個人として生きる
第六章 人生の後半に備える
講師の草間俊介氏は同学部のOBなのに商社マンとして活躍した変り種だが実社会には精通した人物。もうひとりの畑村洋太郎氏はこのブログでも以前紹介したがあの「失敗学」の権威だ。
ざっと目を通したが、意外にも歯切れのよいストレートな書きっぷりに驚いた。
たとえば、第三章の「工学部出身会社員の人生時系列(P124~)」で、
25歳 → 評価の開始だが、東大を出ても2~3割は出世レースから落ちこぼれる
28歳 → リーダーの修行期間に入り30~35歳にはコース選定がなされる。
35歳 → 社内でのコース選定が終了している。自分が特急コースか、急行、準
急、鈍行なのか見極める。急行や準急なら転職も考えなければならな
い。転職の最終電車の段階だが、ここで判断を誤ると取り返しがつかな
い。なお、鈍行の場合はそのまま会社にしがみついたほうがいい。
以下、この調子で40、45、49、56、60歳と続いていく。
まず、学生相手の本音の講義なのがいい。35歳までに会社人生に勝負がつくというのは組織に違いはあるが実際に自分も身を持って体験したのでこれは間違いない。(もちろん特急コースではなかった!)
組織の人事当局は間違ってもこういう親切(?)なことは言わない。なぜなら、特急コースはごくわずかの一握りの人間だけで大半は急行以下なので、ヤル気を失わせるとマズイし組織全体にとって結局は損失につながるから口が裂けてもこういうことを公には絶対に言わない。
なお、「急行や準急コースのときは転職を視野に入れろ」とは、さすがに東大のプライドをチラリと見る思いがした。また、鈍行コースの場合の会社居座りの提言にはびっくりしたが、本人にしてみるとまことに親切なアドバイスだろう。会社にとってはいい迷惑だが・・・。
以上のとおり、会社に入る前にこういう本音の話を教えてくれるとはさすがに東大は恵まれているが、既に実社会に入っていても現実的に対応できる知識が十分含まれている内容なのでこれは社会人として読んでおいても損はしない本。
以上の2冊は、たとえば身内や知り合いがこの4月から新たに就職する際には格好の贈り物になる本だと思った。