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都知事選、「原発否定」の否定の意味

2014年02月10日 | 政治

 後世の評価を予想する

                    2014年2月10日

 

 今回の都知事選はめったにないほど話題性に満ちておりました。二人の元首相が連携したこと、原発の是非が争点になったこと、選挙の争点を一点に絞るべきか否かといったことなど、話題性はたくさんありました。選挙結果の解説、分析は書きつくされているように思いますので、わたしのブログでは、10、20年後にはどう位置づけされているのかを考えてみました。

 

 とくに新聞メディアが真っ二つに分れ、連日、取っ組み合いの論争、キャンペーンを繰り広げました。世論調査が出そろうにつれ、選挙の帰趨が予想できたため、熱気がしぼみ始め、投票日は大雪ということもあって、投票率は過去3番目の低さという結果になりました。そういう意味では拍子抜けしましたね。結末は世論調査の通りになったにせよ、「おおっ」思ったとのは、想像以上の大差で舛添氏が勝ち、元首相連合が3位という悲惨な結果になったことでしょう。さらに、有権者の選択は賢明でさめていて、メディア、識者の事前の懸念と大きな落差があったことも意外でした。

 

 結果は劇的な変化が起きたとはいえない選挙でした。後世にはどのような評価を受けているでしょうか。歴史家や政治学者がどのように書くでしょうか。わたしは「3つの否定」ではないかと思います。「原発否定の否定」、「選挙におけるシングル・イシュー(単一の争点)化の否定」、「二人の元首相連合の否定」の3つです。この3つの否定は不可分に結びついており、いわば三位一体です。有権者が三位一体の否定を選択をしたということです。そういう意味では都知事選の歴史において、特筆すべき意義深い選挙だった思います。

 

 まず「原発否定の否定」です。原発については「即時原発ゼロ」、「原発ゼロ」、「脱原発依存」、「原発依存度の引き下げ」、「安全な原発推進」などいろいろな言い方がなされました。候補者によっては意図的にあいまいな表現を使ったため、具体的にどのような原発政策を目指しているのか、よく分らないところがありました。「即時ゼロ」は原子力規制委員会が安全だとした原発の再稼動も認めない、ですね。これははっきりしています。「原発ゼロ」はどうでしょうか。再稼動を求めながら、廃炉基準を守り、期限切れを迎えた原発からなくし、最後はゼロにするの意味もこめているのでしょうか。

 

 「脱原発依存」「原発依存度の引き下げ」は再稼動は認める、廃炉基準は守る、自然再生エネルギーを拡充していく、なのでしょう。どの程度の依存度まで引き下げるのかが最大の問題なのに、それには触れていません。地元住民の反対が強く原発の新増設は難しいでしょうから、原発依存度は必然的に下がっていきます。「脱」というのは、最後は「ゼロ」にするのか、依存度の必然的低下を意味するのか分りません。「安全な原発推進」は、再稼動のことなのか、安全な原発を開発するということなのか、はっきりしません。はっきりさせよといっても、将来のことはよく分らないし、原発の扱いや総合エネルギー政策は国の権限なので、都の意思ではどうにもなりません。

 

 有権者はそれらのことを感覚的に理解し、「再稼動も認めず、原発をゼロにしてしまうのは無理」、「自然再生エネルギーを拡充して原発にどんどん代替していくのも無理」、「今の経済社会のレベルを落とさずに、維持していくには安全性を確認しながら原発をできるだけ長く使っていくしかない」という結論を出したのでしょう。現実的な判断だったと思います。「原発ゼロ」派の宇都宮、細川氏の得票を合わせても舛添氏の210万票に届きませんでした。原発容認派の田母神氏は61万票も獲得しています。

 

 ふたつ目の「シングル・イシュー型選挙の否定」によっても、細川・小泉連合は無惨な負け方をしました。有権者は社会福祉、医療、景気、雇用、防災など多様な政策、争点を求めていることがはっきりしました。細川氏は途中から多様な政策を並べ、選挙戦術を変えましたね。今後の地方選挙では、この影響は大きく、原発立地県などを除けば、国の政策に属するテーマを最大の争点に仕立てることは難しくなりましょう。

 

 話題性がたっぷりだったのが、「元首相連合の否定」です。話題性があったものの、選挙戦では空振りに終わりました。政治ショーとしては面白いということにすぎず票に結びつかない、2人とも過去の人である、自民党総裁だった小泉氏と民主党が協力できるはずがない、細川氏と民主党の接点も弱い、連合東京は舛添支持にまわったなど、いいところがありませんでした。政治は風であり、安倍政権の風に対抗できなかったという点もありましょう。

 

 気の毒なのは、元首相連合に過大な期待をかけた反原発派です。2人が組めば、台風の目になると思ったことでしょう。「原発ゼロ」の宇都宮氏との一本化の動きもあったようです。元自民党、非共産党政権のトップだった人と共産党を組ませようとすること自体が夢想でしたね。

 

 反原発派が受けるであろうショックについては、すでに1月11日付け「都知事選と原発」、2月2日付け「細川氏は敗北する」で書きました。抜群の人気がまだ続いていると考えて、細川・小泉連合に入れ込んだのは戦略の間違いでしたね。

 

 勝った舛添氏はこれからが大変です。再生可能エネルギーが公約通りに拡充できるか疑問です。また、任期中に原発関係の事故が海外を含め、起きないとは断言できません。中国、インドをはじめ、原発が世界中に拡散しており、「それみたことか」とならないことを願っています。

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