読み違えた争点
2014年2月13日
舛添氏の圧勝に終わった都知事選は、当初、新聞メディアが予想したシナリオとは相当に違った展開になりました。とくに反原発路線を走ってきた朝日、毎日新聞は序盤戦から掲げてきた社論との大きなずれに戸惑った様子で、選挙結果の論評は苦し紛れのつじつま合わせに苦労していたように見受けられました。
原発容認派の新聞を含め、結論を先に申しましょう。特に意図したわけではなかったのに、社説の主見出しはほとんどが原発関連でした。原発は最大で単一はおろか、大きな争点にならなかったものの、じつは原発が選挙選の影の主役であったのかもしれません。
その意味はなんでしょうか。原発は複雑で単純に結論をだせる問題ではないということです。簡単に「ゼロ」と割り切ることもできません。容認する場合でも、再稼動の有無、安全性の向上、汚染や放射性廃棄物の処理など、否定する場合でも、代替エネルギーの確保の難しさ、貿易赤字の増大、社会生活のレベルの維持、電力料金の引き上げなど多様な問題が噴出します。だからこそ選挙戦単一の争点にしてはいけなかったのだと思います。
本題にもどります。最も困ったのは毎日新聞でしょう。序盤の1月15日の社説で、「原発即時ゼロ」を唱える細川・小泉連合が参戦したことを受け、「知事選の構図が大きく動いた」、「国政の大きなテーマである原発問題も主要な争点として徹底議論を」、「強力な発信力を持つ小泉氏との元首相連合が与える影響は小さくあるまい」と書きました。わたしも相当な激戦になると予感しましたし、政界にいる人たち、反原発派ほどそうだったでしょう。それがまったく違った展開になり、元首相連合は共産党推薦の候補にも負け3位で終わりましたね。
告示を受けた1月23日の社説は「首都でこそ原発論議を」、「とりわけ注目されるのは、原発政策を徹底議論する場が設けられたことだ」、「エネルギー政策を国任せにしておくことはおかしい」と、反原発論を後押ししました。もっとも「原発だけが争点ではないことも指摘したい」として、高齢化対策、防災、五輪問題にも触れてはおります。すでにこの時点で原発に対する有権者の関心は4,5位程度にすぎなかったようですね。
開票結果を受けた社説で、執筆者は頭を抱え込んだことでしょう。結果と主張の開きをいかに少なく感じさせるかで、いかにも苦しそうな説明をして見せます。「この論戦を脱原発依存に向けた国民的議論を深める契機としたい」と冒頭にいいます。主張は主張ですから自由であるものの有権者の投票行動と異なる主張です。「舛添氏も脱原発依存だった。細川、宇都宮氏の得票を合わせると、再稼動への信任がえられたとはいえない」と、いかにも舛添氏も原発に懐疑的だとの印象を与える書き方をしました。舛添氏は脱原発依存といっております。これは恐らく再稼動は認めつつ、徐々に原発依存度を下げていくという意味であり、宇都宮、細川氏の主張と大きな違いがありますね。
朝日新聞も反原発の主張を繰り返してきており、都知事選で原発容認派に痛撃が加えられることを内心、期待したことでしょう。1月15日の社説で「原発が大きな争点となる」と冒頭に書きました。自社の主張として「争点にすべきだ」と書いておけばともかく、いかにもそのような展開になるような表現でしたから、誤報みたいな感じになってしまいました。ただし、「原発にイエスかノーの、一色に染め上げ、スローガンの争いにすることには賛成できない」と指摘し、シングル・イシュー(単一争点型)選挙には反対しております。告示に合わせた1月23日には「問われるのは脱原発の具体的な道筋だ」、「舛添氏も段階的な原発依存脱却を説く」などとし、毎日より巧妙な主張にやや軌道修正しましたね。
開票結果を受けた社説では、少子高齢化、安心して暮らせる東京などに「都民の大きな関心があった」と、一転して見所を変えてしまいました。原発では「都民は原発問題一本の単純化には乗らなかった。しかし、原発頼みから卒業という考え方は広く共有された」と、これも手のこんだ書き方です。
驚いたのは2月10日の紙面つくりです。2面の3分の2が、「ワンイシュー空転、原発なじまず、薄れた新鮮味(小泉氏のこと)」などの記事で埋まりました。3面は「政権、再稼動に弾み」、社会面トップは「堅実第一、舛添氏、自公に接近」の見出しで紙面を編集し、これがこれまでの朝日新聞なのかという印象でした。
朝日、毎日路線を批判してきた読売新聞の2月10日の社説は「無責任な原発ゼロは信任されず。国政にかかわる問題を首長選で争うことには無理があった」と指摘しました。産経も「脱原発ムードの敗北だ」とし、両紙とも自社の主張にそった結果になったことを受けた書き方をしています。
興味深い共通点は、反原発派はもちろん、原発容認派の新聞でも、掲載したほとんどの社説の見出しに原発問題が踊ったことでした。これは冒頭に申し上げました。今後、メディアに期待するのは、有権者の意識とメディア関係者の意識の開きが大きかったことの分析です。さらにかなり右寄りと思われる田母神氏が若い世代の関心、それもネット上の支持を集めたことの解析です。あっけない幕切れにしては、研究の余地のおおい都知事選でした。
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