新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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涙だけでは終わらない人質テロ事件

2015年02月02日 | 国際

  日本を直撃する中東の動乱      

                      2015年2月2日

 

  過激派「イスラム国」による日本人人質事件は、不幸な結末を迎えてしまいました。今回のできごとは親族が流した悲しみの涙だけでは終わりそうにありません。日本にとって重要な問題は、動揺する中東情勢はこの先どうなるのか、それは日本にどのような影響をもたらすかでしょう。「テロを憎み、テロに屈しない」、「イスラム国対策で結束する」ということばかりでは片付かない根の深い問題があります。

 

 イスラム国を壊滅させるには、数年はかかるといわれます。さらに壊滅させても、新たな過激派組織が台頭するので、欧米による壊滅作戦は長期戦が必至のようです。中東、アフリカの各地で過激派が拠点を築き、対立あるいは協調して、イスラム国をならって勢力や領土の拡張をしていると、伝えられます。過激派が全面的に各所で戦争を仕掛けようとしているとみる専門家もおります。そうだとしたら、有志連合による空爆だけでは足りず、相当な規模、期間の対決、というより戦争を覚悟しなければならなくなります。

 

    自衛隊への拒絶反応をなくせ

 

 事件を教訓に「テロ対策を強化する」から始まり、「在外公館の警備に自衛隊を配備する」、「将来は邦人を救出するために自衛隊を活用する法整備を行う」など、いくつもの対策が検討されていくでしょう。イラクの各国大使館は軍隊が守っているのに、日本はそうしていないのは、「危険なところには自衛隊を派遣しない」、「海外派兵につながるという過剰反応が起きる」という政治判断のためとされています。日本人は人道的な事件には十分に敏感です。「ではどうするのか」となると、「ああでもない、こうでもない」という道に逃げ込むのが得意ですね。

 

 「テロには絶対に屈しない」と首相がこぶしを上げ、多くの国民が「そうだ。そうだ」と叫んでも、実態はこの程度なのです。今後、「安倍政権は海外派兵の道をひらくきっかけにしようとしている」と、すぐに反対がおきることでしょう。こうした日本国内の問題よりもっと深刻なのは、中東における破綻国家の存在です。過激派は破綻国家に勢力をのばし、武器を奪い、支配領域を広げています。

 

    破綻国家に巣くう

 

 イスラム専門家の池内恵氏は「2011年以降に相次いだ各国政権の崩壊や動揺は、イスラム国に活動の場を開いた」といいます。「2010年ころからアラブ諸国で政権が相次いで崩壊すると予想し、2020年までに世界規模のカリフ制(預言者ムハンマドの代理人)イスラム国家を樹立する」ことを構想してきた、とも指摘します。

 

 米ブッシュ政権のイラク攻撃でフセイン政権が倒れて国家が崩壊、内戦が始まり、イスラム国の前身の過激派が組織されました。シリアでは反政府政権をイスラム国が攻撃し、中央政府がイスラム国から石油を買うなど、中東の勢力図は複雑に入り乱れています。エジプトでもリビアでも、近代国家的な統治はなく、混乱に乗じて、過激派が伸張し、各地にイスラム国の兄弟が誕生している状態です。身内に対しても虐殺を繰り返しています。「テロを許さない」と叫んでも通じないのは、戦国時代の武士に「暴力、武力をふるうな」と、説教するようなものです。

 

 「イスラム国がアラブ民族の統一国家の樹立、イスラム教徒による帝国の復活をもたらすことはないだろう」、「むしろさらなる分裂を誘い、第一次大戦直後に起きた戦乱の再発をもたらす可能性がある」。これがぶっそうな池内氏の予想です。イスラム国を壊滅しても、混乱は終わらないのですね。中東の動乱は封じ込めがまず不可能でしょう。

 

    中東に対する高い石油依存度

 

 日本経済は、このように脆弱な中東にエネルギー資源の多くを依存しています。原発が全面的に止まり、火力発電が急増し、燃料の石油、天然ガスの中東依存度はまた、40年前の石油危機並みのレベルに戻ってしまいました。産業経済の血液はエネルギーであり、それが残虐なテロを平気でやってのける連中が巣くう中東に多くを依存しているのです。テロへの備えも、エネルギーへの備えも必要なんですね。

 

 最後に。殺害された湯川遥菜さんの父親(74)が、湯川さん救出のためにシリア入りをしたという後藤健二さんの家族に向け、「申し訳ありません」と記者に述べ、何度もわびたとの記事を読みました。湯川さんは武器を持ってシリア入りしたとの情報もあります。不可解な行動の湯川さんを、フリー・ジャーナリストの後藤さんがなぜ救いにいったのか。後藤さんはおとりにひっかかったのか。相手が残虐な過激派だけに、用心が甘かったのではないか、善意が通じると錯覚したのではないかと、惜しまれてなりません。涙の物語ばかりでなく、その解明がほしいところです。

 

 

 

 



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