首相を酷評した東大名誉教授
2019年11月18日
月刊文芸春秋の最新号(12月号)がなかなか充実しています。力作をそろえたラインナップです。7月号は「大ニュースで誤報を次々」でした。「33年ぶりに衆参同日選挙」「欧州勢による日産統合」という大きなテーマで、誤報同然の記事を掲載し、恥をかきました。今回は健闘しています。
オーラル・ヒストリー(口述歴史)の第一人者である御厨貴・東大名誉教授が対談で、相当、辛口の安倍首相論を展開しています。「安倍政権は桂園時代に似ている」というタイトルがついています。「桂園時代」とは、明治の首相だった桂太郎と西園寺公望のことで、在任期間が約8年と約4年でした。安倍首相は間もなく桂を抜き、桂園時代に似た長期政権になってきたという意味です。
期間はともかく「安倍政権とは何か。目立った業績がないのに、なぜこんなに長く続いたのか」と、御厨氏は論点を遠慮なく明示しています。答は「これといったこと=リスクを伴うことをやらないから続いている」です。右翼雑誌が真っ向から否定してきそうですね。政治記者の記事とも違います。
憲法改正に本気ではない
「安倍政権の至上課題は本当に、憲法改正なのか。口ではそういっても、本気で考えているようには思えない。最初はやるかやらないかも曖昧で、96条(憲法改正の手続き、国民投票)だけ変えればいいと、いってみたり、9条に一項(自衛隊の公認)を加えればいいと、いってみたり」
「安倍さん自身が、憲法改正一つに絞ったら、危ない、政権はもたないと、感じているでしょう」「しかも最後に国民投票という高いハードルがある。国民投票にかけたら、他の人よりましと、支持してきた層は離れてしまう」と、バッサリです。首相の本気度を遠慮なく突くところがいい。
オーラル・ヒストリーの経験が豊富で、しかも政治の表裏に通じている御厨氏です。その人の手にかかると、新聞・テレビが伝えるのとは違った政治家像が描写されています。もっとも「こんなに長くやっているのに、後継者もいない。安倍の後も安倍」との予想をしています。
皇室関係の有識者懇の座長代理も務めた同氏は「上皇や皇室と安倍政権との間に、ある種の緊張関係にあるのは事実でしょう。このままでは、この政権は退位問題で何もしてくれないと、思っていたようだ」とも指摘します。われわれが持っていた漠然とした印象が裏付けられる感じです。
ノンフィクション作家の保坂正康氏も「憲法改正/後藤田正晴の警告が聞こえる」を寄稿しています。「安倍首相は2020年の改正憲法施行を、繰り返し主張しています。首相は全く歴史の教訓から学ぼうとしていない。自衛隊を軍として明記したい考えなのだろう」と遠慮していません。
「軍はとは何かを理解しているのだろうか。軍となれば、軍法を制定しなければならない。軍内法規における罰則規定はどうするのか。軍法規の知識もなしに、憲法改正論議を進めるは笑止千万」と、これまた手厳しい。
在韓米軍の撤退は本気
作家の麻生幾氏は「韓国は米国に切り捨てられる/在韓米軍撤退へ」と、書いています。過激団体の大使公邸乱入事件をきっかけに「米国は韓国を完全に見限った」「韓国国民による襲撃、威嚇を予想し、ハリス大使と家族の韓国からの離脱計画の修正を図っている」と指摘しています。
「11月23日、韓国が破棄を決めた日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の期限を迎える」「その日は、在韓米軍撤退の最終期限である(決断の意味)」と。麻生氏は「米国・インド太平洋軍の関係者」が情報源だと記しています。これには、右翼雑誌も歓迎でしょう。もっとも麻生氏の記事は、実際とは、ずれることも多く、23日を待つてみるしかありません。
NHKのOBである池上彰氏の「スクープを潰されたNHK/現場の無念」も読ませます。日本郵政による18万件の不正勧誘をスクープしたのに、圧力がかかって続報を断念した経緯が克明に執筆されています。報道現場の委縮が目立ち、日本の報道の自由が揺らいでいます。それを裏書きしてみせました。やはり権力者には、報道の自由は邪魔ものなのだと。
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