2014年1月29日
NHKの新会長の就任記者会見における不用意な発言は毎度、おなじみの展開になっています。国内でのメディアの報道で大騒ぎになり、それが中韓などの諸国に伝わって反発を買い、国内で騒ぎが増幅されるという流れです。特にアジアにおける歴史認識をめぐる問題でなんど繰り返されてきたことでしょうか。
アジアに限らず、世界はますます情報戦争の時代に入っています。国際世論を味方につけることが必要なのに、日本はその自覚が足りないようです。相手国はそこにつけ込んで来ます。すでにブログ「NHK新会長の発言に驚く」(1月26日付け)で書いたことを基本に、社説を読み比べてみました。
毎日新聞は「公共放送の信頼失った」という見出しで「新会長は不見識な発言を繰り返した。その資質が疑問視され、進退を問われてもおかしくない」と早々に辞職を勧告しています。東京新聞は「公共放送の信頼を損ねたのなら、退場願うしかあるまい」と過激です。このような主張は「失言辞職」型に分類されます。失敗があったのだからとにかく首をとろうというのです。
政治家の失言、企業の不祥事で、よく登場する辞職要求です。今回の場合は、ちょっと気が早すぎませんか。中国、韓国を喜ばすだけです。不用意な発言を連発したにせよ、安っぽい要求です。わたしは新会長を弁護しているのではありません。もう少し会長職をやってもらってから判断すべき話でしょう。ただし、このひとは大手商社で海外経験を積んだ割には、国際感覚が乏しいように思われます。ジャーナリズムとは何かもあまり勉強しないまま、公共放送のトップについてしまったのは、本人の不幸でもありましょう。これから苦労されることと思いますよ。
常識でなら、会長就任後の初会見ともなれば、補佐する事務当局が想定問答集を作り、どういう質問にはどう答えるか、事前にリハーサルを重ねるのに、今回はそれをやっていなかったのでしょうか。不思議でなりません。発言された内容は私的な席でよく話されている本人の本音であり、失言ではないのでしょうね。であるがこそ、事前の準備が必要なのです。どうしたことでしょうか。事務当局にも情報戦の時代という認識が足りなかったのですかね。
朝日新聞は慰安婦問題に火をつけた歴史的な発端が自社にあることを知っているせいでしょうか、見出しは「あまりにも不安な船出」と抑制気味です。読売新聞の解説コラムによりますと、「日本軍が慰安所の設置や、慰安婦の募集を監督、統制していた」、「朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した」などど、歴史的事実にはないことを、朝日新聞が1992年に報道したことがきっかけで政治問題化したと書いています。事実検証を伴わない報道が歴史認識を迷走させるきっかけを作ったことは確かでしょう。
その読売新聞は今回の問題を社説では取り上げていません。通常の記事においても、第一報は二面で一段見出しの目立たない扱いでした。2日目は4面に6段相当の扱いで「政府は不問」との見出しで「初めての会見で、会長としての発言と個人の意見の整理がついていなかった」との官房長官の擁護発言を紹介しています。3日目の29日付け朝刊では「新会長が謝罪」とし、「浜田NHK経営委員長が公共放送のトップとしての立場を軽んじたと、厳しく注意した」と伝えています。読売の編集紙面より、身内の経営委員長の発言のほうがきついという妙な展開です。NHKに視聴者から3000件の意見(6割が批判)が寄せられたとも書いており、軽く扱えない問題であることは間違いありません。読売の編集方針に迷いが感じられます。
産経新聞は社説ではなく、産経抄というコラムに「籾井氏の発言のどこがけしからんのか、さっぱりわからない」「慰安婦の問題については、おっしゃる通りである」と、これまた過激です。会長発言の客観的事実の評価、NHK会長として発言していいことと、発言してはいけないことの区別が分っていないコラムになっています。恐らく分っていても、分らないふりをするのが産経らしいところでしょう。国内にはこれを読んで溜飲を下げる読者はいても、情報戦争を勝ち抜ける主張ではありません。
朝日、毎日などの主張で疑問に思うのは、会長の編集権の問題です。「海外向け放送で政府見解の発信強化に意欲を見せた」「報道や制作の現場がトップの意向をそんたくし、萎縮してしまう懸念が否定できない」などと問題視していることです。情報の国際戦争の時代に、海外向け放送では、国としての基本的な考え方をきちんと伝えるのは当然でしょう。「報道の現場が・・・」といっても、報道の基本的な方向性、考え方を固めるのは会長の責務でしょう。すべてを現場任せというわけには行かないでしょう。個別の番組に会長がいちいち口をはさむことは物理的にも考えられないにせよ、報道の大きな流れが正しい方向に向かっているのかどうかをみていることは必要です。
安倍首相の靖国参拝といい、日中間に武力衝突の懸念があることを連想させるような首相発言といい、国際世論を味方にどうつけていくかという感覚が鈍すぎるように思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます