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NHK会長の失言に驚く

2014年01月26日 | 政治

    立場をわきまえよ

                       2014年1月26日

 今朝の新聞をみて驚きました。籾井勝人NHK会長の記者会見の問題発言です。それも注目される就任会見での発言です。従軍慰安婦、韓国の補償要求、秘密保護法、首相の靖国参拝など、すぐにでも国際問題化しそうな機微に触れるテーマについてズバズバ答えています。もっともだなあという部分はあります。全体の印象は、なんとまあ不用意な発言を次々にしてしまったのだろうということです。日韓関係がまたこじれる原因にならなければいいのですがね。

 

 NHKの会長は、自分の発言が公共放送のトップの発言として伝えられれば、海外、国外にどのような影響、波紋が広がるかを常に意識していなければなりません。記者の側はできるだけ本音を引き出し、大きな記事にしようと必死であり、発言する側はそのことも踏まえて受け答えしなければなりません。個人としてどう思おうと、NHK会長という立場で返答していいことと、返答しないで素通りしたほうがよいことがあることを、念頭に置いておかなければなりません。

 

 驚いたのは新聞メディアの反応、記事の扱い方の違いもそうです。朝日新聞は一面中央に3段見出し、4段組みで目立つ記事です。3面は紙面の5分の3ほど割いて「中立・公平性、疑問の声」「閣僚 ありえない失言に怒り」というバカでかい記事です。第二社会面をみると、「会見の主なやり取り」として、一問一答を細かく紹介しています。与党にも困惑が広がっていくことは予想されます。もともと朝日新聞はNHKとは犬猿の中ですし、安倍政権の失点を狙ってきました。国際問題化させようという意図がありそうですね。国会が始まることですし、受信料問題も絡み、新会長の発言は簡単に幕引きできないでしょう。毎日も厳しく批判しており、「政治的中立性を疑われかねない不用意な発言を繰り返し、トップとしての資質も問われる」とかみついています。

 

 朝日と対照的なのが読売新聞で、2面の一番下の段で一段見出し「籾井会長、放送法を順守」の小さな扱いです。従軍慰安婦のくだりもあっさりしています。失言報道報道を大々的に扱うと、国際的な波紋を広げ、国益に反することになりかねないとの編集方針ですね。失言報道には冷静に対応するのはいいにせよ、なんの問題もないのか、かなり物足りない内容ですね。日経は7面で「放送センター、建て替え前倒しも」を見出しにとり、淡々とした扱いです。

 

 なんとも言いがたいのは、産経新聞で、「新会長が韓国批判、慰安婦問題は解決済みを蒸し返し」と紹介しています。歴史的経緯からすると、この指摘は適切で、日韓基本条約で国際的に解決済みは正しい認識であり、新会長の発言には間違いはありません。産経はそのことを強く主張してきたので、よくいってくれた、という思いなのでしょう。ただ、NHK会長としの発言として適切かどうかは別の次元の問題です。

 

 新会長の発言のうち、「国際放送では日本の立場を主張していく」「番組に対して会長自身の考えを反映させるという思いはない。放送法に基づいて判断していく」などは、その通りで、異論ありません。

 

 問題だと思うのはまず、「従軍慰安婦は韓国だけにあったと思っているのか。戦争地域にはどこでもあった。ヨーロッパではどこでもあった。韓国は日本だけが強制連行したみたいなことを言うからややこしくなる」です。かなりの部分が歴史的事実として正しい指摘だとしても、歴史家や評論家が発言するならともかく、公共放送のトップがこの時期にこんなことをいうのは、相当に個性的ですね。「従軍慰安婦はどこでもあった」も、どこでもあたっからといって日本も含めて許されるわけはありません。「今のモラルでは悪いことになっている」との下りも、歴史に対する反省が感じられません。

 

 「日韓条約で解決済みのことをなぜ蒸し返すのか」も、外相など交渉の当事者が言うならともかく、報道、言論機関の経営トップがそんなことをいうべきではありません。日韓関係を感情的にこじらすだけです。首相の靖国参拝問題は、聞く記者も就任会見となんの関係があって聞くのか不思議でならない反面、新会長の「総理の信念でいかれたということで・・・」は余計な発言です。特定秘密保護法では「(国会を)通っちゃたんでいってもしょうがない。政府が必要だというのだから、様子を見るしかない」などはセンスを疑わせる発言で、「言論、報道の自由を侵害しないように今、諮問会議などで議論が進んでいますよね」と、受け流しておけばいいのです。

 

 籾井さんというひとは、豪放で、ざっくばらんで、はっきりものをいうのが好きなのでしょう。大手商社の副社長、その後、ITサービス大手の社長を経験した方です。大きな組織をエネルギッシュに引っ張っていくのが得意なのでしょう。ジャーナリズム、それも公共放送のトップとしての勉強はこれからなのでしょう。しかも、巨大な組織、機関の効率的な運用、運営を期待されて、会長に起用されたのであって、言論、報道の面での貢献を望まれているのではないのです。そこを勘違いして余計な発言をし、無用な摩擦を起さないようにすることが必要です。

 

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