防衛職員が連日のコメンテーターの異様
2022年4月30日
ロシアのウクライン侵略の報道で、連日連夜、防衛研究所のスタッフがテレビ番組に登場するのを見て、「ジャーナリズムの一環に食い込んてしまったようで、やりすぎではないか」と、思ってきました。国家・国家機関とメディアは適度の距離を置いた存在でならなければならないのです。
防衛研の存在は知る人は知っていても、私を含め、多くの人々は「そんな研究所があったのか、しかも防衛省の一組織とは」でしょう。防衛省側に「この際、防衛研の存在を売り込みたい」という明確な方針がなければ、国家公務員が専属コメンテーターのように連日、メディアへに登場できるはずはありません。明確な方針か、さもなければ、上司の了解が必要な対外活動です。
ウクライナ情勢、ロシア包囲網の現状、推移、展望は国民、経済社会の最大の関心事です。防衛研の情報取集活動と分析は不可欠な任務です。日本には大小の研究所があっても、ウクライナ戦争に特化した情報を提供できるところはまずないでしょう。ですからメディア、特にテレビにとってありがたい存在なのです。
防衛研の前身は1952年設立の保安庁研修所で、1985年に防衛庁防衛研に改組されまたしから、今年が創設60周年です。防衛省のための安全保障政策のシンクタンクであると同時に、自衛隊の幹部養成のための教育機関です。「所管防衛省、組織形態は防衛省施設機関」であり、2010年に閣議決定された中期防衛計画整備計画では「防衛研究所の研究、教育期機能を充実させることを図る」ことになりました。
つまり名前が研究所であっても、防衛庁そのもの、国家そのものです。そこの職員が連日、テレビのコメンテーターとして「送りこまれている」か「組み込まれている」ことに、メディアも問題意識を持つべきだと思うのです。メディアが知らぬ間に「国家の論理」に歩調を合わせる結果を招くことになりはしないか。
ロシア、ウクライナ情勢を軍事的な側面を含めてリアルタイムで解説できる人は、日本の場合、民間シンクタンク、大学教授などにまずいないでしょう。橋下徹氏のいう「ウクライナの全面降伏」「ウクライナ人の国外退避」は、ウクライナの悲惨な歴史、現在のウクライナの強靭な抵抗力も知らない素人発言です。テレビの「ショー」だからといって、許されないし、その後のウクライナの善戦には目を見張ります。
そのため、NHKは連日、防衛研政策研究部長の兵頭慎治氏に常任解説者のようにテレビ出演で戦況を語らせてきました。テレビ朝日の報道ステーションでも兵頭氏は登場し、ほかも合わせると、防衛研の山添氏、高橋氏がコメンテーターとなっていました。研究スタッフが85人しかいないのに、テレビに異様な露出を続けていたら本業がおろそかにならないだろうか。
もっとも防衛研も、入手している情報は恐らく、米欧の政府・国防部署からの情報が主でしょう。中国、台湾、朝鮮半島問題ともなれば、自前の直接情報は当然、持っている。それに対して、ロシア、ウクライナ情勢では欧米流の思惑が背景になった情報に日本が多大な影響を受けることになりかねないのです。現在は「民主主義国の結束」「一方的に悪いプーチン大統領」ですから、皆、疑いを持たないだけのことです。
欧米経由であっても、防衛研究のリアルタイムの戦況判断、将来の見通しを知ることには価値があります。防衛省側のそういう思いでしょう。そうであるのならば、毎日、防衛研のスタッフがメディアにブリーフィングをするのが正解です。それをホームページに掲載する道もある。その見解をメディアは防衛省発の情報として伝えればよいと思う。
英米系の情報にしても、当初は「首都キーフにあと○○キロに迫る」といったのが定番で、最近は「膠着状態は数週間から数か月かかる」に一変しています。戦況は刻一刻と変わるし、西側の支援も変わる。露軍の戦意も変わるし、露大統領自身が露軍の戦闘能力を見誤っていたことも分かる。仕方がないにしても、防衛研のコメテーターも見通しを相当、読み違えていたでしょう。
残念に思うのは、防衛研と一体化してしまったようなテレビ報道、メディア報道の是非についての議論が聞こえてこないこです。将来、中台、北朝鮮問題がきな臭くなってきたら、直近の情報を握っているのは防衛省、外務省ですから、これらについても、「政府とメディアの一体化」が進む道が開かれた。
日本の近隣諸国の政治、軍事情勢に対する国民社会の感じかた方は、ほぼ一つにまとまっているロシア・ウクライナ戦争とは全く違うものになる。NHKや民放は、国家・国家機関とメディアはどのよう関係であるべきかについて、メディア論を語る義務がある。テレビやメディアに国家関係者が常連のコメンテーターとして出演して、戦況分析などを語るようになるのだろうか。
ご意見に賛同いたします。
私も防衛研究所の幹部?がテレビに堂々と出演して持論を述べることに違和感を持っていました。
言ってはいけない部分もあるのではと思うのですが、割とオープンなのでそれもびっくりです。
彼らに頼り切りというのは、マスコミの姿勢にも問題ありですね。
冷静な専門家の方が分かりやすいことは良くわかる。
なので新聞記者には出番はありません。
ただ消え去るのみ。
「防衛省が防衛研の名前を売り込みたい(略)メディアへに登場できるはずは有りません。」という判断はどの様な情報や検討から出てきたのでしょうか?
真っ当に考えれば、メディアが専門性が高い内容を説明するために、適切な専門化に出演を依頼した。と考えられると思うのですがいかがでしょう。
防衛研究所のウェブサイトでは
http://www.nids.mod.go.jp/about_us/index.html
『知的基盤の強化として「国民の安全保障・危機管理に対する理解を促進するため、教育機関等における安全保障教育に取り組む」』メディアを通じた一般国民への知的基盤の強化。と捉えることもできますが、この捉え方も間違っているのでしょうか?
わたしは、こんな状況になったのは軍事研究を忌避してきた大学、ひいては左派知識人の罪もあるのではと主張したい。
軍事研究を長いこと許さないと大学から締め出してきたのは周知の事実。
ゆえにこういった事態が起きると政府、自衛隊系の研究者に頼らなければいけない状況になったのではと考えてしまう。
左派こそ軍事学を研究する必要もあるのではと思います。
でなければ、政府が軍事学の論理で何かを主張したときに、昔から繰り返されている「戦争反対」といエモーショナルな言葉を唱えるだけになってしまう。
だってどんなに目を背けても、軍事的問題は我々の周りから消えるわけではないのだから。