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世襲議員が増え家業化する政界

2017年10月13日 | 政治

政治人材の新規参入に壁

2017年10月13日

 世論調査によると、衆院選で自公政権が300議席程度をとり、安泰のようです。希望の党の失速、再編野党の準備不足による出遅れなどが影響しているほか、自民党は世襲議員が多く地盤が安定し、宗教団体を持つ公明党は強固な組織票があります。特に自民党の世襲体質は、政治人材の参入を阻む不公正な慣行です。


 先日、自宅近くを散歩していましたら、希望の党の女性候補の宣伝カーが住宅地まで入り込み、「私は〇〇。助手席に乗っているのが候補の私です。よろしくお願いします」と、そればかり連呼していました。宣伝カーといっても極めて小さな軽自動車で、若い男性ハンドルを握り、2人以外には誰も乗っていません。


 ワゴン車のような大型の宣伝車の提供は上部団体からなく、政治資金も不足しているでしょうから、おカネを切り詰め、選挙事務所の応援部隊も極めて少人数なのでしょう。促成の新党ですから、候補者の知名度は低い。新聞の情勢分析には名前も登場しません。全国各地でも同じでしょう。これでは選挙を戦う以前に勝負あったです。


 一方、安泰を伝えられる自民党では、今回の選挙を区切りにして政界を引退するベテラン議員が多数、います。後継者は自分の長男、次男らで、安倍人気が続いているうちに、当選させておこうという計算でしょう。父親がまだ実力を持ち、息子の後ろに控え、譲渡(寄付)できる政治資金も豊富なうちに、という読みもあるでしょう。


 安倍首相の信頼が厚い高村副総裁(75、山口)は父親が衆議院議員、今回の後継者は46歳の長男です。3代目となるのでしょうか。首相が引き留めたにも関わらず、引退します。父が衆議院議員だった保岡・憲法改正推進本部長(78、元法相、鹿児島)は、はやり長男(44)に譲ります。


 金子・元国交相(74、岐阜)は父親が財務大臣で2代目、後を継ぐ長男(39)が当選すれば世襲3代目となります。平沼・元経産相(78、岡山)は養父が首相(麒一郎)で、今回、次男(37)が後継者になります。とにかく政権が長く続いた自民党には、世襲議員がたくさんおります。3代目がぞろぞろいます。世間はそれを名門の一族といって、誉め称えます。


 議員の世襲比率(父母、養父母、祖父母)は全議員で11%に上り、自民党だけとると、28%に達します。解散前の安倍内閣では、閣僚19人中8人が世襲でした。歴代首相となると、他党も含め10人中8人(安倍、鳩山、森、小渕、橋本ら)という異常な高さになります。


 憲法43条には「両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織する」とあります。44条には「人種、信条、社会的身分、門地などで差別してはならない」とあり、世襲の禁止はしていません。自民党の小泉進次郎、河野太郎氏(いずれも3代目)のように人気のある世襲議員がでたせいか、一時、高まった世襲批判は最近、あまり聞かれなくなってしまいました。


 世襲が増えていくと、政治家の家業化が進むことになり、外部からの清新な人材が参入しにくくなります。親などから引き継ぐ選挙地盤、知名度(いわゆる看板)、政治資金、秘書グループを持たない人材はゼロからスタートすることになります。宣伝カー、選挙事務所すら持たない新人は大きなハンディキャップを負い、どこかの団体、組織に抱えてもらう道を選ぶのでしょうね。


 米国の連邦議会では、世襲比率が5%と言われ、日本よりはるかに低率です。大統領選挙では、共和党の予備選で、名門ブッシュ一族のジェブ氏(前カリフォルニア州知事)が早々に撤退に追い込まれました。クリントン氏(クリントン元大統領の妻)も本選挙でトランプ氏に敗れました。国民の利害、社会構造が流動化しており、世襲を続けていると、社会の変化から取り残されるのでしょうか。


 最も大きな問題点は、親が集めた政治資金を息子らの政治団体に非課税で寄付できることです。今回の衆院選では、前原党首の判断で、分裂した民進党が残された政治資金から、多額の寄付を希望の党に対して行い、是非が問われました。


 政治団体間ならまだしも、息子ら個人に政治資金を寄付することは禁止し、新人候補が同等の立場で選挙に臨めるようにすることが重要だと思います。前回のブログで取り上げた首相の解散権の制限と合わせ、首相が乗り気の憲法改正に加えたら、これは名を歴史に残せますよ。

 



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