新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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G7サミットの黄昏

2014年06月11日 | 国際

 崩れた国際的枠組み

                    2014年6月11日

 

 ブリュッセルで6月上旬、開かれた主要7か国(G7)首脳会議は迫力に欠け、かつて世界経済、政治をリードした面影が感じられませんでした。ロシアの復帰は当分なく、中国はソッポを向き続けるでしょう。宣言文をまとめることより、国際的枠組みの再構築が重要な課題であるにもかかわらず、他国、他地域に対する非難に熱中しましたね。

 

 サミットの成果を論じる前に、サミット報道の記事を読み返していて、残念に思った点がいくつもあります。サミット体制の存在感のなさに真っ向から切り込むことを期待していたのに、まず目に入ったのが安倍首相へのゴマすり記事でした。読売新聞はまず2面の半分近くを使って「中国の脅威を欧州も共有、日本が強調」という見出しの記事で、「中国をけん制するという安倍首相の戦略が実を結んだ」、「首相が欧州歴訪でアジア情勢を丁寧に説明したことも功を奏した」、「ウクライナと東・南シナ海を、力による現状変更という共通点で結びつけ、首脳の関心を集めることに(首相は)成功した」と、首相を持ち上げています。

 

 この記者は首相番の政治記者なのでしょうか。「安倍首相はよくやった」と何度もほめています。読者はそんなことを知りたいのではないでしょう。読売は同じく2面に、隣りあわせの記事で欧州総局長が、書くべき方向が違うのではと思う不思議な解説記事を載せていました。「ボールはロシアに」という見出しで、「ロシア抜きの会議だった。議論はスムーズに進み、首脳宣言の発表は異例の早さ」、「日本は宣言に中国、北朝鮮をけん制する文言を盛り込むことに成功」と書き、さらに「ロシアという異分子がいない効用は大きかった」と、妙な分析です。

 

 異分子を取り込み、国際社会の一員に迎え入れ、「自由、民主主義、人権と法の支配の尊重」(宣言文)を共有できる国になってもらうことが必要なのです。ロシア、中国という異分子を排除していたら、国際秩序の安定はありません。ロシアに対しては「クリミアの不法な併合、ウクライナ東部を不安定化させている行動」を宣言文は批判しています。中国に対しては、名指しは避けながらも「東シナ海・南シナ海での緊張を深く懸念」と指摘しています。中国政府が記者会見で「かかわりのない国が争いに干渉しても解決の助けにならない」と反発したように、これだけのメンバーがサミットにそろいながら、批判という言論戦だけでは、パンチ力はありません。

 

 ロシアに対して、具体的に何をするのでしょうか。「制裁を強化するとともに、追加的措置を実施する用意がある」(宣言文)と力説してはみるものの、主要国側の足並みがそろっていません。オバマ大統領は国内の政治的事情から強硬派、独仏はロシアとの経済依存度が高く制裁強化に後ろ向き、といいます。フランスにいたっては強襲揚陸艦を計画通りロシアに輸出するそうです。こうした温度差をどう解消すべきかこそ首脳が話し合うべきなのに、そこが欠けています。

 

 世界経済については「成長と雇用の下支えは優先事項である。強固で持続可能かつ均衡ある成長を支えるため、さらなる取り組みを行う」と、宣言文はうたっています。実際はどうでしょうか。6月6日の朝刊1面には、サミットの記事と並んで「欧州がマイナス金利ー欧州中央銀行が初の措置」が報道されています。民間銀行が中央銀行に余っている資金を預けると、逆に金利をとられる異例中の異例の措置です。デフレ脱却のための大胆な措置とみるのか、そこまでしないと経済状況が好転しないほど実態は悪いのか。恐らく後者でしょう。

 

 朝日新聞は社説で「ロシアや中国との距離を狭め、世界を安定させる共通利益の価値観を広げる。その知恵を絞るサミットへと、再出発してもらいたい」と主張しています。「共通利益の価値観」というこなれていない表現はさておき、ではどう再出発すればいいのでしょうか。毎日新聞は「G7には今後、中ロを建設的な対話に引き込んでいく一層の努力が求められる」といいます。その通りです。そのためにどのような努力が必要なのでしょうか。そこが分らないからこそ先進主要国は困り果てているのです。

 

 思いつくままに、感想を述べますと、以下のようになります。

 

・世界は、孤立した大国(中ロ)を含め、いくつかのグループに分裂した状態が続く。まとまりのない国際社会となり、互いに中傷、非難しあう。

 

・先進主要国も、市場経済化とグローバリゼーションの行きすぎで傷ついている。民主主義は,決められない政治と財政危機を招く傾向を強めている。新興国を卒業することを期待されていたタイで民主主義が行き詰まり、軍部が実権を握った。中ロはそこを見て、強気にでている。

 

・日本、米国のゼロ金利に続き、欧州中銀が選択したマイナス金利は、主要国経済の劣化を示している。主要国経済はどこかが狂ってしまっている。世界経済に占める比率(GDP)は2000年の66%から最近は50%を割り、その分、影響力が落ちてきた。

 

・どこの国も個別的利益をますます優先する。中国はエネルギー不足がさらに深刻になり、海洋権益の拡大による原油の確保などに奔走する。ロシアは周辺地域に勢力圏を広げる衝動にかられている。欧米も個別の利害により、ロシアへの制裁で一致できない。

 

 ほかにもいろいろあるでしょう。先進主要国が共有していると胸を張る自由と民主主義、市場経済自身が病に蝕まれております。まず、みずからの病を克服し、やはりこれが最良、最強の国家モデルだと他国の指導者および他国民を納得させることがとにかく必要だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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