新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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乱射でも命中する自動小銃は禁止困難

2018年02月24日 | 国際

通じない日本人の感覚

2018年2月24日

 米フロリダ州の高校で銃乱射事件が起き、生徒ら17人が犠牲となりました。日本のメディアの報道を見ていますと、「痛ましい」、「銃規制が必要だ」と、いつも常識的です。「それにしてもなぜ」と、不思議に思う点を見逃しています。


 日本のメディアが米国の事件を報道する場合、米国のメディアを下敷きにして、なぞるように書いていることでしょう。米国人にとって当然のことは、彼らはわざわざ書きません。ですから、米国メディアをなぞっていると、重要な点が日本向けの報道から抜け落ちることなります。


 約3億丁の銃が米国人によって所有され、発砲事件の犠牲者は学校に限っても2010年以降、290人が犠牲になり、ことしだけでも18件だそうです。学校以外でも乱射事件は多発し、主に連射式の銃(半ないし全自動小銃)が凶器になっています。


 ピストルはともかく、自動小銃の規制を強化できれば、犠牲者を大幅に少なくすることできるはずです。「戦場であるまいし、それがなできないのか」が日本人の常識的な見方です。全米ライフル協会が極めて強い政治力を持ち、巨額の政治献金で議員を抑えているからだと、そこまでは解説します。


 米国勤務が長かった日本人の知人の話を紹介しましょう。女性秘書がバッグにピストルを携帯しており、銃社会を肌で感じた経験を持ちます。「それはね、ピストルは至近距離でないと、弾が当たらない。自動小銃なら、遠くから乱射しても命中するから」。犯人からみても、反撃する側からみても、自動小銃が必要で、規制強化が容易に進まないというのです。


ピストルは命中率が悪い


 確かに、銃撃事件の現場からのニュース映像では、警官でもピストルを使う場合、両腕を目いっぱい伸ばして、構えているのをよく見ます。そうでもしないと、弾が当たらないのでしょう。素人にとっても、やはり連射式です。猟で使う散弾銃みたいなものです。


 自動小銃も、全自動式は一般人が持つことは禁止され、半自動(弾装填だけ自動化)までしか認められていません。それにも関わらず、おかしなことに、半自動を全自動にできる部品が自由に買えるといいますから、妙な規制です。


 知人は続けます。「米国人は人里離れた田舎や郊外に、ぽつんと、一軒家を持って住むことが好きだ。しかも日本のような雨戸はない。銃を持った強盗に襲われた場合、応戦して身を守るには自動小銃がどうしても必要になる」。なるほど。


 そうした住環境が背景にあるとなると、銃規制は容易でなくなります。日本の場合、何かあれば110番して、パトカーや警官にすぐきてもらうことできます。日本社会の感覚で米国の銃社会を批判すると、的が外れます。


「教師に銃を」の背景


 トランプ大統領は無事だった学生、親をホワイトハウスに招きました。慰める一方で「乱射事件を防ぐには、教師も銃を持てるようすべきだ」と、発言しました。「ひどい発言だ。無神経、飛躍した思い付きだ」と、日本人なら思うことでしょう。


 これは、銃を売りたいライフル協会の持論であり、支配下にいる議員が事件の度に同調する発言をするそうです。「犯人の火力を圧倒するだけの火力を学校側も持つべきだ」と。危険と背中合わせの社会だからこそ、でてくる発言です。実際にイスラエルではそうしているようです。


 イスラエルは国民皆兵が原則で、教師も国防軍に従軍した経験を持ち、特定の教師が武装し、訓練を積んでいる。トランプ氏の頭にそのことがあるのでしょうか。もっとも、イスラエル側は「われわれはテロリストと戦っている。特殊な地政学的、軍事的必要性に迫られてやっている。米国と次元が違う」と、反論はするそうです。


 今回の事件で、犯人が3階の窓を割って、避難する生徒を撃とうしたら、窓が防弾ガラスになっており、割れなかったといいます。「自分のことは自分で守れ」という精神が徹底しているのでしょう。日本の学校の窓ガラスの感覚と全く違います。


 最後に、米国憲法です。修正第2条に「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって、必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利を冒してはならない」とあります。憲法が銃の所有権を尊重していると解釈されています。

 この条項が念頭に置いていたのは、昔の「先込めの火打ち式の銃」との解説を目にしました。その条項を生かし、現代の攻撃的な連射式銃の所有、携帯まで対象範囲を広げているのというのです。憲法解釈の拡大です。「解釈改憲」が批判される日本とは違います。







 

 



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