科学的根拠を欠いた自賛と自虐
2020年6月29日
新型コロナウイルスの累計感染者数が世界で1000万人を超え、死者は50万人に達しました。100年に一度あるかないかの歴史的な大異変とみて、いろんな分野の著名な識者たちがコロナ危機を論じています。日本は「コロナ対策の優等生」、その逆の「危機管理意識の落第生」と様々です。
日本を含むアジアは欧米と比べ、感染者数、死者数は圧倒的に少ない。ネット論壇では、その謎について「コロナ系ウイルスに対する抗体が多い」「アジアでは結核罹患者が多く、そうした国はコロナ死が桁違いに少ない」「BCG接種などによって免疫機能が強い」など、医学的、免疫学的アプローチから謎を解く指摘が登場しています。
こうしたコロナウイルスに関する認識を欠いたまま、多くの論陣が張られています。コロナ特集を組んだ月刊文春7月号を読んでいて、見当違いの論考が多いことに驚きました。まず藤原正彦氏(作家、数学者)は「日本人の品格だけが日本を守る。感染者減は民度の高さの勝利だ」と。
「日本人が世界一清潔な国民であることに異論の余地がないと、考古学者のシュリーマンが書いた(1600年に来日)。日本人は今でも図抜けて世界一です」「清潔を重んずる土壌もあり、コロナ禍で、日本は被害を最小限に抑えこみそうだ」「日本が強権を用いず、中国とも欧米とも違う民度の高さで抑え込んだ。世界史的意義のあることだ」。日本優等生論の典型です。
そうなのでしょうか。日本ばかりでなく、韓国、マレーシア、タイ、台湾、ベトナムなど、アジアには感染が拡大していない国が多い。共通する免疫学的な要因があるに違いない。日本と比べて、清潔とはいえない国、民度も高くない国もあります。それどう説明するのでしょうか。
歴史学者の磯田道史氏は「世界一の衛生観念の源流/感染症の日本史」という論考を寄稿しました。「新型コロナ第一波は、政府の対応というより現場の忍耐と、国民の高い衛生観念で、かろうじて乗り切った。国民が世界一優秀な衛生行動で政府の経験不足を補った」。これも科学的な根拠を欠いた日本優等生論です。
衛生観念、衛生行動が日本並みでないのに、コロナ死が一桁の国もあり、日本以上に抑制されている。「日本だけを眺めていてはいけない。感染が広がらなかった国には共通性が存在する」など、ネット論壇に登場する指摘は、目にはいらなかったようです。
ノンフィクション作家の柳田邦男氏は「この国の危機管理を問う」と題して、ドイツのコッホ研究所が12年にまとめた「リスク分析報告書」を詳しく紹介しています。「国策の課題研究として、異常な雪解け大洪水と新型ウイルス感染症のパンデミック(爆発的拡大)の二つをあげた」「危機的な事態には始まりがある。専門家が素早く察知して、為政者に進言する」。
「日本で欠落している危機管理の絶対条件だ。政府と医学・医療界が協力して、未知のウイルス侵入に対する体制整備を進めた」と。つまりドイツと比べ、日本の危機管理はなっていないと批判するのです。コロナ死は独7000人、仏2万5千人、伊2万9千人などのデータを紹介し、「ドイツの致死率は格段に低い」とも。
欧州内部で比較すると、そうなのでしょう。ドイツに比べ、日本もアジア各国も、感染症に対する危機管理がなっていないに、桁違いにコロナ死は少ない。ベトナムの死者数はゼロです。日本ダメ論ではなく、アジアのデータも並べてみると、どのような論点が存在するのか示してほしかった。
元朝日新聞主筆だった船橋洋一氏は「強い社会が決する国々の攻防/新世界地政学特別編」と題して「全ての国が手を携えて共通の敵に立ち向かう時である。しかし、米中対立は激化し、戦後冷戦の第二幕なのではないか」と。「今回、痛感させられたことは、日本がいかに弱く、また脆いかいうことである」と、これも日本ダメ論でしょう。
「国民の生命と生存権を脅かす国家的な危機なのに、政府は国民への速やかな支援を効果的に行えない。日本の人口千人当たりの医師数はドイツの半分、G7では最小」と、厳しい指摘です。日本にはそのような弱点が存在するにしても、今回のコロナ危機に際しての論考なら的が外れています。
専門家会議の尾身茂・副座長は「日本のコロナ死が少ないのは、確かな医療制度、初期のクラスター潰し、国民の衛生意識の高さ」と、記者会見で説明しています。国際比較すると、そういう状況ではない国でもアジアではコロナ死が少ない。よく検証して、今後の感染症対策に生かしてほしい。
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