実務的に先送りはもう無理
2019年4月21日
10月1日に消費税を10%に引き上げることは消費税法で確定しています。何を思ったか萩生田・自民党幹事長代理が先送りをちらつかせました。「日銀短観(景気予測)によっては、景気を腰折れさせるわけにはいかない」という発言です。この時期にきての発言は、流通現場を混乱させていることでしょう。
こんな発言は、百害あって一利なし。実務的に10%実施は、もう動かしようがない時期にきており、予定通りにやるしかない。なんでこのタイミングで妙な発言をしたか。参院選の対策が出遅れている野党のゆさぶりをかけ、浮足立たせる。狙いはそこでも発言の罪は重い。
首相の側近の発言ですし、「これまで二度も延期した。ひょっとしてまたあり得る」と受け取った業界関係者は少なくないはずです。政府が10月に向け、準備体制を整えるよう急げとはっぱをかけている最中に、首相側近による延期説で疑心暗鬼に陥り、流通現場では本当に準備が遅れてしまうかもしれない。
もう10月以降の契約がスタート
財政に詳しい土居丈朗・慶大教授が実務的な面から「4月に入ってしまうと、10月1日の10%引き上げをもうずらせない」と、昨年末、指摘しているのを思いだしました。「商品の授受が10月以降になる契約であっても、契約を結ぶ場合、4月以降は新税率(10%)を適用しなければならない」と。
もう4月に入っていますから、10月以降に受け渡す約束の商品に税率10%を適用しているのもがすでにあるはずです。かりに新税率を延期したら、元の8%に戻す作業が必要で、作業は膨大です。土居教授はこんなことも指摘しています。「住宅の請負工事や、予約販売する書籍、通信販売などは、実施までに6か月を切っていると、新税率(10%)を適用しなければならない」。税務上のルールです。
新税率による契約がどんどん、進む。新税率を先送りしたいのなら「政府は3月末までに、新税率を延期する手続き(消費税法の改正)を完了していなければいけない」というのです。その期限はすでに過ぎていますから、10月実施を先送りするなら、年度途中の予算修正が必要になります。
新年度予算には消費税アップによる増収5・6兆円、消費増税対策費(軽税率、教育費無償化)2-3兆円、ポイント制による負担軽減などを含みますから、予算修正は面倒な作業です。一方、赤字国債を増発して穴埋めし、歳出は予算案通りにしておくと、財政再建のための消費増税が財政悪化策に化ける。
財務省は当然、そのからくりを知っています。麻生財務相が「萩生田さんが日銀短観を口にするのをこれまで聞いたことがない」と、小ばかにした発言をしました。そこまでいうのなら、土居教授のいう「10月実施の先送りはすでに手遅れ」と、説明してあげるべきでした。
安倍首相はどこまで知っているか。土居教授は知っているはずとの見方です。「過去2回、消費増税を先送りしている。いずれも新税率の実施予定日の6か月以上前に、表明している」といいます。新税率を先送りするには、6か月以上前には決めておくことが必要だからです。
過去2回は6か月前には決定
「15年10月の実施予定←14年11月に延期表明」、「17年4月の実施予定←16年6月に延期表明」です。いずれも6か月以上前に延期を表明しています。今回は「19年10月の実施予定」ですから、「3月末までに方針を決めておかなければならなかった」ということになるのです。
萩生田氏がその辺りの事情を熟知した上で発言したのか、熟知しないまま野党をけん制するために、うっかり発言をしたのか、分かりません。三村・商工会議所会頭は「理解できない発言だ」と憤慨しています。商工会議所は消費税の影響が大きい中小企業中心の組織ですから、現場は大混乱でしょう。
今朝の新聞(20日)を読むと、「コンビニ大手が統一対応/飲食料の値札は8%(軽減税率)と表示/店内飲食時の10%は不表示」の記事が掲載されています。政府が業界の対応を急がせているのです。そんな時期に差し掛かっている最中の不規則発言です。業界は怒り心頭でしょう。
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