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異次元緩和が支える予算の実像

2015年01月15日 | 経済

  国と日銀の奇妙なキャッチボール

                      2015年1月15日

 

 2015年度の予算案が決まり、安倍政権は「経済再生と財政再建の両立を目指した」と、いっています。引き続き巨額の国債を発行し、その大半を日銀が実質的に引き受けるという綱渡りの予算編成が続いています。少し前進がみられたとされる財政再建の中身をみますと、本当にそうなのかなと思うところがあります。予算の実像をよく解剖してみるべきでしょう。

 

 表に出てこないのが財務省と日銀のおカネのやり取りです。国は日銀に国債の利子を払う。日銀は利益処分として、その相当な部分を日銀納付金として国庫に戻す。民間に支払った利子は国庫に返ってこないのに対し、日銀からは戻ってくるのです。支払った利子費用は、日銀納付金という税外収入でかなり相殺される計算になります。要するに、利払い費が大きくならないように、国庫と日銀がキャッチボールをしているのです。ここに大きなカラクリがあります。

 

 13年4月の異次元金融緩和、昨年10月追加緩和で、日銀が財務省から買った長期国債の残高は昨年末で360兆円、今年の年末に440兆円にのぼる予定です。これからも毎年80兆円ずつ買い増すことにしています。16年の年末には、国債発行残高のなんと半分を日銀が持つことになります。さらに、このままのペースが続きますと、数年先には国債の全量を日銀が持ってしまう異常な状況になります。その時は、国債の利払い費は全額、日銀に支払われます。

 

    日銀に払った利子が国庫に戻る

 

 国債の利子の支払いは来年度は約10兆円で、予算案の国債費の費目に計上されています。国債の4割以上が日銀保有ですから、利子もその4割とすると、約4兆円が利子として日銀に支払われます。決算が終わると、日銀は自ら利益のなかから、その多くを日銀納付金として、国庫に戻し、国家予算の税外収入の項目に計上されます。来年度の税外収入は約5兆円で、その相当な部分が日銀からの納付金でしょう。

 

 単純化すると、財務省が国債を発行して、その利子を日銀に支払い、次に日銀が納付金として、相当な部分を国庫に戻しているということになります。どこか妙ですね。極端にいえば、財務省がいくら国債を発行しようとも、そのコストは差し引きすると、いくらでもないということになります。とにかく国債費が実質的に大きな負担になってこないので、財政節度を守らせる圧力にならないのです。

 

 国債(10年物)の金利は最近、0.3%で、過去最低の水準です。異次元の金融緩和でゼロ金利の状態に近く、財務省は国債費の負担が少なくて助かっています。それでも過去に発行した国債の金利はそれなりに高く、その結果、約10兆円の利払い費になっているのです。超低金利で国債が新規に発行されるたびに、低い利子に変わります。一方で毎年3,40兆円も発行残高がふえていきますので、利払い費は結局、10兆円の水準が続いています。

 

 異次元緩和はデフレからの脱却が最大の目的になっています。ゼロに近い金利で民間が資金を調達できれば、株や資産価格が上がり、儲かった人は景気がよくなったと思うでしょう。ゼロ金利の資金を設備投資や企業買収の資金に使えば、経済全体を好循環に導くきっかけになります。さまざまな効果があるにせよ、もっとも即効性があったのは、財政支援でしょうね。ここに異次元緩和の大きな狙いがあるとするエコノミストの声が最近、よく聞かれるようになりました。

 

    ただで済む経済政策はない

 

 問題は、ただで済む経済政策はないということです。その費用、コストは今は表面化していないということにすぎません。将来、計算通りに景気が好転して、物価が上がり、金利も上がるときに、コストが始めて表面に現れてきます。金利が2%になると、利払い費は今の倍の20兆円、4%になると、40兆円にのぼるという試算をするエコノミストがいます。こうなると、いくら消費税をあげても、社会保障費にまわすどころか、財政そのものが破綻しかねないと、かれらは警告します。

 

 財政状況は危ういバランスの上にあるということでしょうか。歳出の抑制と税収入の拡充で、とにかく国債の増加に歯止めをかけつつ、その間、マネー市場が反乱を起さないように、細心の注意を払いつつ、財政と金融の舵取りを進めるということでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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